罪を憎んで神を憎まず   作:楠木に住まう天使

4 / 6
かなり短いですが、話の流れ的にいったん切ります。


世界を知れども遊戯を知らず

 

 

 砂漠しかない虚圏には娯楽が乏しい。ネルたちにとって遊びとは無限追跡ごっごという名の鬼ごっこくらいであり、その日もネルは全力で鬼役から逃げていた。

 

 ただし普段と違う点があるとすれば、いつも鬼役を務めているペッシュ、ドンドチャッカ、バワバワも逃走者役を演じていることであり、それらを追いかけているのは白い死覇装に身を包んだ死神、アリエナシオンである。アリエナシオンは刺すような霊圧をネルたち向かって放出しており、ネルは目に涙を浮かべて逃走している。

 

 なぜこのように奇妙な状況に陥ったのか、話は数時間前までに遡る。

 

 

 

 

「…………強くなりたい、か」

 

「そうだ!私とドンドチャッカはネルを守るために、日々力を磨いているのだ。もしシオンの協力が得られるなら心強い!」

 

 大虚の群れを退けてから随分経ったある日、アリエナシオンはペッシュから相談を受けていた。彼らは、ネル、ドンドチャッカ、バワバワが無邪気に遊んでいるのを尻目に会話を続ける。

 

「シオンが我々とずっと一緒にいてくれればいいのだが、そういうわけにはいかないのだろう?」

 

 アリエナシオンの実力の高さは、もはや疑う余地すらない。願わくば、ネルの平穏をずっと近くで守って欲しい。そんな思いを抱くペッシュはしかし、それが叶わぬことにも薄々気づいている。

 

「…………ああ、私にはやらなければならないことがある」

 

 その言葉が返されるのもペッシュの予想通りだった。無表情だが、確かな覚悟をその目に燈すアリエナシオンに対して、その意志を曲げさせるのは容易ではないし、本意でもない。

 

「だからこそ、どうか!私達を強くする手伝いをしてくれ!」

 

 アリエナシオンが数え切れない程の虚を喰らい続けたことで今の力を得たことは、すでにペッシュ達は聞き及んでいた。これほどの力を得た上で、一体彼は何を成すのだろうか。虚圏の支配か、死神の殲滅か、或いは常人では考えつかない何かか。

 

 ペッシュ達の力を得たい理由は、ネルを守るというささやかなもの。それでも、その覚悟だけはアリエナシオンに負けていないと自負している。普段はおちゃらけた雰囲気のペッシュが真剣に頭を下げ、聞き届けてくれるようお願いをする。

 

「…………いいだろう」

 

 その空気に飲まれたか、或いは最初から否定するつもりがなかったのか、アリエナシオンは了承の意を示す。

 

「!!――――感謝する」

 

 アリエナシオンはペッシュの感謝にぎこちなく返し、腕を組んで思案する素振りを見せる。早速特訓のメニューを作ってくれているのだろうか、だとすればどんな内容だろうかと、ペッシュは少しドキドキしていた。

 

 アリエナシオンは腕組みしながら、ぼんやりと目の前の光景、無限追跡ごっこをしているネルたちの姿、を眺めている。

 

「…………まあ、まずは、ネルも含めて格上から逃げおおせられる技術を身に着けてもらうか」

 

 

 

 

 

 そうして地獄の鬼ごっこが始まってから数時間後、ネル、ドンドチャッカ、ペッシェ、バワバワは大の字で虚圏の白砂に寝転がり、ゼーハーと荒い息を繰り返していた。本番を想定し、霊圧で威嚇しながら追いかけられた彼女らは、肉体以上に精神が疲弊していた。

 

 ネルに至っては、顔が涙でぐしゃぐしゃに歪んでいる。相当に恐ろしい思いをしたのだろう。

 

「……中々悪くないな。流石は破面だ」

 

 それとは対照的に、涼しい顔で佇むアリエナシオン。彼はそう評価を下したが、聞いている者はいない。ネルたちは、息を整えるので精いっぱいだった。

 

 酸欠の脳で、なぜこのような事態になったのか、ぼんやりと考えるペッシェ。自分とドンドチャッカを強くなれるよう扱いてほしかったのに、なぜかネルが一番打ちのめされていた。流された自分にも非があるが、どうにも納得がいかない、という思いでペッシェがアリエナシオンの顔をジトリと見る。

 

 その顔に違和感を覚えた。酸素を取り込み、少しずつ働きだした脳で違和感の正体を探る。

 

――――何かがおかしい。普段と何かが違うのだ。目、はいつも通りか。……そうだ口の形が普段と違う、口角が上がっている。まるで笑顔を浮かべてるような…………。

 

「笑っているだと!あのシオンが!?」

 

「ほんとスか!?」

 

「本当でヤンスか!?」

 

 寝っ転がっていたネルとドンドチャッカだが、ペッシェの台詞で飛び起きた。二人はワクワクしながらアリエナシオンの顔を覗き見る。しかし、そこにはいつも通りの能面があった。

 

「って、いつも通りの無じゃないスか、ペッシェの嘘つき~」

 

「騙されたでヤンス~」

 

「ま、待て。私が見た時は本当に!」

 

 揶揄るネルとドンドチャッカに、弁明を続けるペッシェ。そのやり取りはアリエナシオンそっちのけで行われ、話のタネとなったアリエナシオンは、自分の顔を確かめるようにペタペタと触る。

 

 結局アリエナシオンの笑顔は、ペッシュの見間違いということで決着がつき、ペッシェとドンドチャッカの修業は別の形で行うことになった。

 

 

 




ネルを追いかけて泣かせて笑顔を浮かべた疑惑のオリ主…………。
弁明をさせていただくなら、オリ主が笑ったのは、五百年ぶりに誰かと鬼ごっこで遊べて楽しかったからであり、決して性格がSだからではないです。…………多分。
それと、これはこの話と関係ないですが、原作二十八巻の情報によると、ネルはドMらしいですね。

リアルの事情で二、三日程投稿できないと思います。

以下、伏字だらけの設定
オリ主は常に魂魄の状態であり、肉体は虚圏の地下深くに■■で■■している。
オリ主は当初、虚圏の王であり嘗ての虚夜宮の主、バラガン・ルイゼンバーンと関わりたくないという思いから、虚夜宮から相当離れた場所に生活圏を置いていた。ただし、戦ったら負けるという訳ではなく、寧ろ……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。