一般人が元勇者パーティのベテラン戦士になったら 作:森野熊漢
続けられるようにしたいけど思いつき次第。
『またお前はそうなのか』
そう何度言われてきたのだろうか。
何故俺がそう言われなければならないのかがわからない。
ただ、俺は自分のしたいことをやっているだけなのに。
性分として一つのことだけに集中してというのが難しくて、飽きっぽいというだけなのに。
それで誰かに迷惑を直接かけたというわけでもないのに。
勝手に人に期待しておいて、勝手に失望されて。
俺の生き方を、人間性を呆れたように否定してくるのか。
『もっと確固たる意志をもって取り組めよ』
意味がわからない。なんで興味が出たからという軽い理由でいろいろなことに手をだしてはいけないのか。
辞めるのだって自分が熱中できないからって理由で離れるだけなのに。
ちゃんと辞めるに際しても、急に辞めるのは流石に迷惑をかけるからと思って、きちんと余裕をもって伝えているのに。
どうして。
『お前みたいなフラフラしてるやつは碌なやつじゃない』
うるさい。
『お前には期待していたのに、がっかりだよ』
うるさい。うるさい。
『もっと一つのことに集中できる人間になれよ』
なんでそんなことを言われないといけないんだ。
『失望したよ』
何故勝手に期待されたからといって、俺がそれに応えることを当然だと思われてるんだ。
勝手に期待して、それに応えられなかったから、好き勝手に言って。
「……疲れた」
夜22時。今日で辞めたバイト先を後にする。
余裕をもって二か月前に辞めることを店長に伝えたら、その日以降毎日俺の人間性を否定してくるようになった。おそらく不安を煽って辞めないように心変わりさせるつもりだったのだろう。
まあ人格否定するような言葉をかけてくるだけのところに留まる理由なんてない。
「……やだなあ」
それでも傷つくものは傷つく。
周りからしたらフラフラしてるように見えるかもしれない。まあ現に俺はこれといったやりたいことも定まっていないし、フラフラしているというのは間違いではないのだが。
「……はぁ」
心身共に疲労困憊。自覚できるレベルである。
これまでもいくつかのバイトを辞めてきたが、今日が一番しんどい状態である。
だからだろうか。
いつもの道を歩いていたはずが、気づけば見知らぬところに出ていて。
慌てて元の道を戻ろうとして焦っていたからか、頭上からの飛来物に気づかず。
痛みと衝撃を最後に俺の意識は途絶えた。
「はっ!?」
目が覚めた。
すごく嫌な夢を見たような気がする。やっと辞める予定のバイトが最終日になって、嫌味を言われながらも働き終えて、帰り道に頭に物が落ちてきて死に至るやもしれない怪我をする、そんな夢。
まだ痛むような気がして、思わず手をやる。
「ってえ!?」
痛かった。膨らんでいるので瘤ができているのだろう。冷たさも感じたので、何やら冷やしてもらっていたのだろうか、枕元に氷袋があった。
そこで初めて周りに目を向けた。少し遅れてだが、このセリフは言ってみたかったので言ってみる。
「知らない天井だ」
わざわざ真上に向きなおしてまで言う徹底ぶりを誰か褒めてほしい。褒めてやろう、俺自身が。
「……どこかの病院……でもなさそうだよなあ」
病院特有のにおいだったり、他の人がいないとか、部屋自体が病院らしくない。いくつか俺の知っている病院情報でそう判断した。
あとベッドが無駄に豪華。掛け布団もガラの入ったオシャレなもので、正直高そうである。
部屋の内装もオシャレな感じで、これが一人用の部屋だとしたら随分豪華なものである。
あと窓から入る日光がオレンジ色に部屋を染め上げていた。もうすぐ夕方なのだろうか。
まあ普通なら重体になるような怪我だろうし、起きた時間がたまたまそうだったというだけだろう。
そんなことを考えながら辺りを見渡していると、ガチャ、とドアの開く音と共に、女性が入ってきた。
「ああ、気が付かれましたか」
「あ、はい、なん……!?」
なんだかほっとした表情をしている。この人が第一発見者なのだろうか。
しかし、その格好に俺は言葉を止めざるを得なかった。
なんで。なんでだ。なんでだい。
なんで三段活用が出てくるくらいには、なんでって気持ちである。
(なぜこのご時世において鎧なんてもの着てらっしゃるんですかこの人は!?)
病院でも、病院じゃなくても明らかにおかしいということを自覚してらっしゃるのだろうか。
「……どうかされました? 頭、痛みます?」
そんな俺の心境を知ってか知らずか。普通に近くの椅子に座り問いかけてくる女性。
いやなんでそんな普通に着慣れてる感じなんですか。
「あ、はい。瘤になってるみたいで」
「そうですか……。…………え?」
改めて恐る恐る触ってみるとやっぱり痛い。というかこんな瘤一つで済むような感じではなかったと思うんだが。
割と重量あったし、大きさもあったよなあ。なんで瘤で済んでるんだ。
「なんで瘤で済んでるんだ?」
「……頭を打ったから瘤ができたのでしょう?」
いやそうだけど。そうだけどそうじゃなくて。
「頭を打つとかそんなレベルじゃなくて、潰れて死んだと思ったんですけど」
「そんなレベルの事故でしたっけ……?」
明らかに俺の頭上から降ってきたものは、瘤で済めばラッキーとかではなく、瘤で済めば一生分の運を使い切るレベルであったんだが。
「さっきからどうしたんですか? 様子がおかしいですよ? 話し方もいつもと違いますし」
「……いつも?」
女性の言葉に思わず聞き返してしまう。いつもとはどういうことだろう。
「えと、初めまして、じゃ、ないん、ですか?」
「隊長、頭を打って混乱してるんですか? 私ですよ? 副隊長のエーミルです」
(いや誰ええええぇぇぇ!?)
日本人の名前以外の知り合いなんてほぼ覚えはないんですけど!?
あと隊長ってなんだよ!? 一般人に何求めてるんだよこの人!
「あ、ああ!エーミルさんね!はいはい!」
とりあえず知ってるふりをしてこの場を流す。大人の世界!
「やっぱり混乱されてるようですね。少し落ち着きましょうか?」
逆効果だった。むしろ可哀想な目で見られ始めた。なんで?
「えっと、エーミルさん?」
「はい、まずそれです」
ビシッとこちらに指をさしてきた。一体なんだ。
「隊長は隊長なんですから、まず私たちにそのような言葉遣いをしません」
「いや、そう言われましても。それにまず隊長ってなんですか」
「え……?」
パチパチと瞬きをするエーミルさん。実年齢は不明だが、見た感じ年上の彼女がするとすごく可愛い動きに見える。
しばらく見つめられた後、エーミルさんが口を開く。
「隊長、ご自分の名前、わかります?」
ええ……ここに運び込まれた時点で身元を洗われてないの?
少なくとも定期券やら持ってたからそのあたりは知られてると思ってたんだが。
そんなことをぼんやり考えながらも。
「太田 正平ですけど」
一応きちんと名乗っておく。もしかしたらこれをきっかけに家に連絡が入るかもしれないし。
そう思っていたのだが。
「えっ……本当に隊長じゃない!?」
ぽかんとするエーミルさん。
「ええ……?」
そして、ぽかんとされたことになんと反応を返していいかわからなくなるというカオスな状況が展開されただけだった。