一般人が元勇者パーティのベテラン戦士になったら   作:森野熊漢

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当小説のジャンルを、悩みましたが変更しました。
今のところコメディ要素薄すぎるから仕方ないね。


バイトと人生辞めました。3

「ようやく来たのね、義兄《にい》さん」

 

鋭い声と共にそれ以上に鋭い視線をこちらに向けてきた女性。おそらくアレが俺の……じゃなくて、グラフさんの妹のローゼル様とやらだろう。

俺より身長は低く、肩くらいの高さだろうか。まあ俺の身長が成人男性平均くらいだから周りよりも少し小さいか。綺麗な銀髪をお持ちなんだが、俺の髪、つまりはグラフさんの髪が黒なわけで。

これは一体どういうことだってばよ。

ついでに何でエーミルさんは少し離れたところに立ってるの。もっと近くに来てよ。

 

「それにしても私が来てから随分待たせてくれたじゃない。何?嫌がらせ?」

 

それにしても美人である。顔は可愛いというよりは綺麗という言葉がしっくりくる美人さん。背丈はさっき確認した通りそこまで大きくはないが、出るところは出ているというかなんというか。

まあ、俺はエーミルさんのような可愛い顔立ちの方も好きなんですけどね!

 

と、まあこんな思考をしているのには理由があるわけで。

 

「私が何を言っても無視ってわけ? 偉そうに」

 

違います。あなたが言葉と共にバシバシ敵意をぶつけてきてるからどう返せばいいのかわからなくて困ってるんですよ。

 

なんてことは口に出せない。自分よりも年下の少女に気圧されているなんて恥ずかしいことこの上ないのだが、内心ガクブルなのはどうしようもないわけで。

少し離れたところにいたエーミルさんに視線で助けを求めると、察してくれたのか、こちらに来てくれた。

 

「ローゼル様、グラフ様は今まで仕事をされていたので遅れてしまいましたので、その辺で」

「……ふん」

 

一言言うだけでローゼル様の口の勢いを止めてくださった。ありがとうございますエーミルさん。

ただ、言葉での攻撃がなくなっただけで、射殺すような視線はやめてくれないのがすごく辛い。

耐えきれず、エーミルさんの傍に寄る。

 

「エーミルさん、これどういうことなんですか。なんで俺はこんな当たりがきついんですか」

「本性が漏れてます……! ローゼル様は隊長のことを嫌ってるので!」

「なんで!?」

 

嫌われている妹に罵倒されるためだけに呼び出されたってこと!?

 

「まあ理由はあるのですが……すみません、その話はまた時間のある時にでも」

「今知りたいんですが「何コソコソ話してるのよ」……無理そうですね」

「とりあえず、いつも決闘を申し込まれるので受けてください。移動の時にまた必要なことを話します」

 

聞かれてもまずいことを話しているから今は話せない悲しみを背負いながら、エーミルさんから離れる。

 

「さて、最後のお話は終わった? 今日こそ決着をつけるわよ、義兄さん」

「んんっ……まあ、そのために来たんだろうからな。エーミル、受けてしまっても予定は大丈夫そうか」

 

念のためにエーミルさんに確認を取る。俺が妹に付き合うことで仕事に滞りが発生したりしたら申し訳ないからなー。隊長だからそれはもう代わりなんてそうそういないだろうし。

 

「大丈夫ですね、一番急ぎのものでも午後から取り掛かれば間に合うものなので」

 

無慈悲。エーミルさんに俺の祈りは通じなかった。

 

「なら、さっさとやりましょ。今日こそは私が勝って認めさせるんだから」

 

そう言い残し、さっさと踵を返して歩いていくローゼル様の後姿を眺めながら。

 

「急な腹痛の予定が入ったから中止とかにならねえかなあ」

「無理ですね。諦めてください」

 

ふと呟いた独り言に無情な返答を返されてため息をついた。

 

 

 

朝に集合した広場がいつも決闘場として使われているらしく、ローゼル様は中心で仁王立ちしていた。

エーミルさんと話しながら広場にやってきた俺を迎えたのは、先ほどレベルの鋭さを持つローゼル様の視線と、訓練を中断させられたであろう兵士の声だった。

 

「ほら、さっさと来なさい」

「……わかった」

 

勿論、こんな状況下でもグラフさんを演じるのは忘れない。むしろグラフさんを演じることに集中することに必死になることでローゼル様の殺気を気づいてないようにしている。

ここに来るまでの間に、エーミルさんに案内された部屋で鎧兜を身に着け、剣と大盾を手にした状態である。一般の出の俺がいきなり使えるはずないのだが、そこはグラフさんの

 

「エーミル、合図して」

「わかりました。では、準備はいいですね」

(……え?)

 

え、準備できてないんだけど。

 

「はじめ!」

 

俺の様子をチラとも見ないで言うエーミルさんに絶望した。

しかし、そんなことを考える暇もなく、ローゼル様は動き始める。

それと同時に火の玉を三個こちらに飛ばしてきた。

それを俺は盾で受け止める。

 

問題はここだ。

俺の本心としては火の玉なんてものが飛んできた時点で全力で避けたいところである。

だが、どうやらグラフさんのスタイルが「全て受け止める」というものだったらしい。

なんで一般人には到底無理な戦闘スタイルを貫いているんですかねえ!

 

「そう言われても、明らかにいつもの動きと違ってしまうとばれてしまいますからね……」

「それはもう仕方ないんじゃないですか。グラフさんが心変わりしたってことで良くないです?」

「それもありだとは思うのですが、今ではないと思うんですよね。それに団長が実は戦えないなんて知られたら騎士団の沽券にもかかわりますし」

 

事前の話をしたところ、俺にはよくわからないが、そういうことらしい。

どうやら俺がグラフさんでないことは、何か大きなきっかけを作ってからというのが理想とのこと。

そのきっかけというのがいつになるのかという疑問はエーミルさんの圧を感じる笑顔に黙殺されたのだが。

 

「なるほど」

 

盾で受け止めた火の玉から受けた衝撃。戦闘素人が受け止められるか心配していたが、やはり肉体が丈夫だからか、思った以上のものではなかった。

 

「……いつも以上に腹立つ!」

 

そして俺のつぶやきに何故か怒りのボルテージを上げられた。なんでだ。

火の玉を更に四個ほど飛ばした後、氷魔法を足元に放ってきた。

先ほどと同じように火は受け止めたものの、氷魔法は盾が間に合わず直撃。ダメージ自体は具足が防いでくれたため無いが、左足が凍り、地面に固定されてしまった。確信はないが、おそらく少し力を籠めればすぐに解放はできるだろう。

だが、隙はできる。

 

「……余裕ぶっこいてるからよ。でも容赦はしないから!」

 

移動しながら雷、風と属性を次々に変えてこちらに放ってくるが、何故か球状の魔法ばかりである。

足を急いで解放し、盾で全て対処ができた。

 

「あーもう、ムカつく!」

「なぜそんなに腹を立てているのかはわからんが、一度落ち着け」

「うっさい!」

 

あっれえ? とりあえず落ち着いてほしくて声を掛けたら余計にキレられたぞ?

グラフさんフィルターを通したことで煽りと受け取られたのだろうか。

 

「……にしてもどうしよう」

 

エーミルさんに言われたのは「攻撃を受け止める」という一点のみ。

攻撃は、俺がしたくないしなあ。剣は持ってきてるけど。

こんだけ攻撃されてるし、嫌われてるけど妹だし。俺自身は特に恨みはない……いや、わけもわからず決闘をさせられてるからそこは恨んでいい気がする。

気持ちはどこぞの暗黒騎士がパラディンになるための試練。まああっちは装備を整えて回復アイテムを潤沢にしておけば殴り倒せてしまうんだが、そういうことをするわけにはいかないし。

 

「どうしたものか……」

「考え事するなんて余裕ぶっこいてんじゃないわよ!」

 

短気すぎません!? こちとら穏便にこの場を切り抜けるための方法を考えてるだけなんだが!

 

「Fボール! Sボール!」

 

飛んできたのは火と雷。ファイアボールとサンダーボールってことか。

にしても、何故今になってわざわざ大声で宣言したのか。

疑問を持ちつつ受け止めている間に、いつの間にか放たれていた氷魔法で再び足元が凍らされていた。

急いで固められた足を地面から離している間にローゼル様がこちらにダッシュしてきた。

至近距離で魔法を放つつもりか? いや、それならそれで盾でなんとかできる。

なら、狙いは一体なんだ?

 

チラっと彼女の右手に握られていたものが見えた。

先ほど持っていた杖ではなく、それはなるほど。確かに魔道士の装備しているイメージはあるもの。

ただ、真正面から突っ込んでくるなら魔法以上に防げるものだが。

 

「……クイック!」

「!?」

 

瞬間、ローゼル様の姿が視界から消えた。

一瞬のことに混乱するものの、グラフさんのこれまでの戦闘経験で染みついた身体の動きだろうか。

考えるよりも先に後ろを振り向いた先に。

 

「くらえっ!」

「……!?」

 

それを首に向けて突いてきた。

それを俺は。

 

「うおっ!?」

「な!?」

 

全力で回避した。

あれを受け止めるなんて冗談じゃない。

 

「義兄さんが、避けた……?」

「避けるだろう。そんな致死武器を使われたらな」

 

ローゼル様の右手にある武器。

RPGでなら存在を知っているし、何なら稼ぎに使っていたこともある武器。

急所に当てることで一撃で敵を葬ることで有名なソレ。

 

「本当に毒針、か」

 

改めて確認のために呟いて、内心身震いした。

訓練という名目で殺しにかかられたんだが。

 

いややべえって!? 毒針だよ!?

リアルに人に向けるものじゃねえんだよなあ!? 

 

「本当に、義兄さんが……?」

 

ローゼル様が放心しながら何かつぶやいている。

……そういや全部受け止めるって方針なんだっけ。思わず避けたのはまずかったか。

恐る恐るエーミルさんに目を向けると、口に両手を当てて驚きのポーズをしていた。

はい、俺がやらかしたからですね。本当に申し訳ございません。

ギャラリーもざわめいているし、これは、うん。

早くもグラフさんじゃないというボロを出してしまった。

それにワンテンポ遅れて気づいた俺は、内心で大慌てが始まった。

なお、毒針で攻撃された時よりも現在の方が心の中が荒れ狂っている。

 

「ふむ、どうやらひとまず終わりで良いな。ローゼルさ……ローゼル、エーミル。場所を移そうか」

 

何とか表面と言葉は取り繕うことができ、そう声を上げることが出来た。

声や身体を振るわせることなく言い切ることが出来たことを誰か褒めてほしい。

 

 

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