一般人が元勇者パーティのベテラン戦士になったら   作:森野熊漢

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かなり日を開けて書いてたりしたので自分でも途中から話があってるかわからなくなってきた。


バイトと人生辞めました。4

「さあ、話してもらいましょうか、義兄さん」

 

一度外で解散し、グラフさんの普段着を身に着けた俺が自分の部屋に到着するなり、先に到着して座っていたローゼル様が立ち上がり詰め寄ってきた。

ちっか。明らかにパーソナルスペース狭いタイプの人の距離の詰め方だよこれ。

正直離れてほしい。綺麗な顔立ちが近くて落ち着かないのと、さっきまで怒った顔ばかりだったからいつこの至近距離で大声でキレだすのかとハラハラするから。

 

「……まあ、落ち着け」

 

しかし、ここで下手に突き放せないのが今の俺の立場である。騒いだら余計にボロが出る。

つまりローゼル様を落ち着かせているように見せて、実のところ自分に言い聞かせているということだ。

完璧だ。完璧すぎる……!これは俺の勝ちだ……!何に勝ったのかは知らんが……!

 

まあ、ローゼル様も「それもそうですね」と、少し身を引いてくれたから言った甲斐があったというもの。

俺の緊張度が三ポイントほど下がったからよかったというものだ。

エーミルさんに三人分の飲み物の用意を頼み、グラフさんの椅子に座る。

この部屋、個人用の部屋と聞いていたが、ソファがいくつかと真ん中にテーブルと、明らかに客が来ることを想定した内装をしており、自分自身の部屋との格差に、後にこっそり涙を流した。

待っている間、早く話せと言わんばかりのローゼル様を、「エーミルが来るまで待て」と諫めつつ、この話し合いをどう切り抜けるかを考えること、数分後。

 

「お茶をお持ちしました」

 

良いにおいを立てるお茶を各々の前に並べた後、俺の横に座りお茶をすするエーミルさんを見て、俺は思ったね。

エーミルさんに話の主導を任せて、後は野となれ山となれ作戦でよくね?と。

ローゼル様が何やらヒィヒィ言ってたのだがどうしたのだろうか。

 

「さて、待ちましたよ義兄さん。お茶も飲みました。話してください」

 

いや、飲み干せばいいってわけじゃないんですが? 一口で飲んだの? ヒィヒィ言ってたのって口の中に熱々の茶を放り込んだからか。大丈夫かこの人。

 

「エーミル、任せる」

「隊長……どこまで話していいかはこちらで判断してよろしいですか」

 

無言でうなずく。

俺が下手に言い繕うより、幾分かはマシだろう。

何せ、俺自身がどこまで話していいか線引きできていないのだから。

 

「ローゼル様、よろしいですか」

「ええ、お願いするわ」

 

さて、二人で話し込み始めたし、俺は俺で何をするかで困る。

え? 二人の会話を聞いておけ?

やだよ、女性同士の話の間に挟まってると文句言われるんだろ?

女二人に男一人混じっているというだけで叩かれるって、ネットの世界では常識になってるって俺は知っているんだ。

 

「え、ええ!?」

「更にはですね……」

 

何やらローゼル様が驚いていらっしゃるが、まあそうだよな。

兄であるグラフさんの人格が全く別人に変わっているなんて普通じゃありえないんだから。

ん? そういや色々ありすぎて考えられてなかったけど、俺はどうやって俺のいたところに帰ればいいんだ?

それに、俺がグラフさんに入っているってことは、俺自身の身体はどうなってる?

意識不明の状態なのか、もしくは……いや、そんなことが都合よくあるとは思えないが。

 

「に、義兄さん!」

 

しばらく思考に耽っていると、話が終わったのだろう。ローゼル様が勢いよく話しかけてきた。

その後ろには「やりました!」とばかりにキラッキラした笑顔のエーミルさん。

あの表情を見るに、伝えるべきことを伝え、伝える必要のない情報を隠せたというところだろうか。

 

「これからは柔軟な戦い方を意識していくようにするって本当ですか!?」

「エーミル!?」

 

思わずエーミルさんを二度見。変わらずとってもいい笑顔のままのエーミルさん。

よくよく見れば、顔は青ざめてるし、若干足は震えている。

なるほど、あの表情はどちらかというと、「もうどうにでもなーれ」的な感じのものだったか……!

というか、なんでこんなことになったのかを教えてほしい。

ローゼル様を少し待たせ、エーミルさんを部屋の外に連れ出す。

周りに人はいないので、キリキリ吐いてもらうことにする。

 

「すみません隊長、私もきちんと話をしたつもりだったのですが……」

「一体どういう伝わり方をしたんだ……」

「事故で頭を打ってから少し変わられたというように伝えたのですが……」

 

ふむ、まあいきなり別人になったというよりは説得力のある説明ではある。

 

「そうしたら、隊長がどのように変わられたのかということを聞かれましたので」

 

ふむ、まあ先ほどの口ぶりから察するに、隠すべきことはわかっているとは思うのだが。

 

「一つの戦い方に拘らなくなりましたと伝えたところ、大喜びされまして」

 

ふむふむ。

 

「これでようやく隊長の隊に入れると考えられているようです」

「……うん?」

 

むしろそれの何が悪いというのだろうか。

 

「これまでの隊長はクラスごとに部隊で分けるようにされていました」

「それは普通じゃないのか?」

「ええ、ですがそれは軍としての話。隊長は少人数での行動でもそれを認められなかったのです」

「……そうなのか」

 

ということは、つまりどういうことだ?

そんな疑問が顔に出てたのだろう。エーミルさんはこほんと一つ咳払い。

 

「戦士は戦士、魔道士は魔道士でしか組めなかったということです」

「いやそれ頭が固いとかいうどころかバカなだけでは!?」

 

補い合えよ! 足りないところを補うのがパーティ活動なんじゃないの!?

 

「隊長曰く、魔道士を守りながら戦うよりも、戦士たちで突貫したほうが早いだとか」

「いや言いたいことはわかるけど」

 

走っていける場所ならともかく、届かない位置だったり、敵に近づけないような場合はどうしたんだ。

 

「まあ隊長は敵に味方を投げつけることで遠距離、空中戦を制していましたし、遠距離からの攻撃は全て隊長自身が盾となっていましたから……」

「力量があるからこそできたんだろうけど、かなり無茶苦茶じゃないですか!?」

 

というか、話しぶりから投げられた味方はみんな無事だったような感じなんだけど。

矢とか魔法とか銃とかで負傷者や死者が出なかったのは完全に奇跡の類だろう。

まず人を投げつけるという発想もそうだが、実行できるあたりが人としておかしいと思うが、この世界では当たり前のことなのだろうか。

……いや、ないわ。エーミルさんの表情から、グラフさんだけがおかしいことがわかったわ。

 

まあ火力面では魔法職がいなくてもなんとかなっていたというのは理解した。

しかし、戦士タイプだけでは補えないものが一つある。

 

「回復は一体どうしてたんですか。まさか薬草だけでなんとかしてたんですかね」

「いえ、それはさすがに難しかったようですが……」

 

そら、やはり魔法職なくしてはいけないのよ。RPGのお約束。

 

「勇者様が回復役となることで全て事足りたとのことでした」

「勇者ってそういう役回りのためにいたんだっけ?」

 

RPGをやってきた中で俺の知ってる勇者は確かに回復魔法も使えるのが多かったけど、さすがに回復を一手に担わせるようなことはなかったんだが?

というか、勇者ってイメージでは、旅に出る使命を帯びる時までは、一般人として過ごしてきた人物がなるイメージがあるから、戦闘職のエキスパートに比べたら技量や身体能力に差は出ると思っているんだが……もしかして。

 

「勇者ってもしかして戦闘力的に一番低いから回復役に任命されたとか?」

「……ご名答です」

 

俺は顔も知らないが、勇者よ。この身体の主とその仲間が本当に申し訳ないことをした。

 

「まあ勇者様本人は戦闘狂とかではなかったですし、むしろ後方支援役で良かったと仰ってました」

「適材適所だったってことか」

 

その勇者が「俺は勇者だ活躍させろ邪魔するならパーティから追い出す」とかそんな思想持ちじゃなくてよかった。きちんと自分に最適なものを理解して行動できたのだから偉い。

 

「歩く薬草という異名がついたって喜んでましたね」

「本当にそれは喜んでいい異名なんですかね?」

 

正直悪口じゃないかと思ったけどそこまでは口にしないことにした。

 

「えと、まあ話を戻しまして、ローゼル様が隊長のパーティに入りたいと言っているというわけです」

「俺としては別に構わないんですけど、まずいんですか?」

 

正直な気持ちを伝えると、エーミルさんは困ったように眉尻を下げた。

 

「ええ、ローゼル様と隊長だけの問題ならよかったのですが、現在隊長はここの隊の長です」

「まあ、らしいですね」

「となると、急に制度を変えたというのは周りからすると違和感しかないわけです」

 

確かに。俺がグラフさんでないということに気づかれなかったとしても、何かしら不信感を生むのは免れないだろう。

それなら、ローゼル様を隊に入れない方向で進めるしかないわけだが。

 

「喜んでたって言ってましたからねえ……」

「ええ……誰もそんなことは一言も言ってはないのですが、私としても気持ちはわかるので……」

 

副隊長から見ても気持ちがわかる程度には、グラフさんは頑なだったのか、と改めて思う。

さてさて、どうすれば良いだろうか。

 

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