一般人が元勇者パーティのベテラン戦士になったら 作:森野熊漢
(マジで日本語が通じたのか)
そんな思いをそっと胸に収め、ゴブリンと向き合う。
ゴブリン。RPGでは序盤に出てくることの多い魔物。派生系もいるものの、大半が序盤のみに出てくる印象。世間的には序盤といえばこいつかブルーで軟体なかの有名魔物と二部されると思っている。
さて、冷静にそんなことを考えてはみたものの、俺自身驚いている。まさかゴブリン…ひいては魔物という存在が実在していたことに。
『まず確認したい。この依頼は貴方たちの出したものか?』
言いながら、依頼者を見せる。何故か俺には読めて、ローゼル様には読めなかった件の代物である。
『あ…ああ! それ! 一体どこで!』
『どこでも何も、街のギルドに貼ってあったが』
『…そうか…。いや、いくら急いでるからと言ってアイツも危険なことを…』
どうやらゴブリンにとっても想定外なことがあったらしい。
『すまない、確かにそれは俺たちの出したものだ。わざわざ話を聞きにきてくれたのか』
『ああ、急ぎと書いてあったからな』
『話せるだけでなく、文字まで読めたのか…これは、もしかしてもしかするぞ』
期待したような表情で呟くゴブリン。
『よし、ここで話すのもなんだ、俺たちの住処に来てくれ』
「なんですって!? 行かないわよ!?」
ゴブリンが言ったことをローゼル様に伝えると、すごい反応をされた。
「昔から義兄さんがずれているとは思っていましたが、ここまでとは思いませんでした! わかっているんですか!? ゴブリンですよ!?」
「いや、話が通じるし大丈夫じゃないかと思うのだが……」
「その考えが危ないんです! 騙されているとは考えないんですか!」
「……そう言われてもなあ」
本当に困ってるからこそ、こんな依頼まで出してきたと思うんだよなあ。
「わかった、心配ならローゼルは残ってくれ。俺が行ってくる」
「何言ってるの!? それこそ危ないのよ!」
ええ……。どうしろというんだ。
「……義兄さんには、あのゴブリンについていかないという選択をする考えはないのね?」
「そうだな」
「……なら、私も行きます。義兄さんに何かあったら困りますから」
「すまんな」
「そう思うなら、気を抜かずにいてください」
「……すまん」
すごく不服そうだが、付いてきてくれるそうだ。ありがたい。
『そこの姉ちゃんはなんて?』
『ゴブリンの住処に付いていくなんて無警戒すぎるって怒られた』
『ハハハッ、違いない!』
『……言っておいてなんだが、気を悪くしたりしないのか?』
『まあ思うことがないと言えば噓にはなるな。だが、俺たちゴブリンの種族が人間にどう思われているのかなんてのはある程度知っているからな。仕方ないさ』
『自分たちの行いを正当化しないんだな』
『まあ実際、必要にかられてやってる奴もいるが……ゴブリンの中には好きでそういうことをする奴が多いのも事実だからな。俺は、ここの俺たちの仲間がそういうことをしてないと信じているが、人間がそれを信じるかどうかはまた別問題だしな』
『……そうか』
それって、人間にも当てはまることだよな。ゲームでも素材が欲しいから魔物を狩る、というものがあったりするが、やっていることは変わらないのではないだろうか。
『さて、行くか。その姉ちゃんも来るのか?』
『ああ。俺一人で行かせるのは心配らしい』
『ハハッ、まあ兄ちゃんは無警戒すぎるから心配されたんだろうな!まあ、兄ちゃんは強そうだから問題ないだろうがな! よし、行くか』
「義兄さん、行くのかしら?」
「ああ。ついて来いだと」
「ふーん。……ゴブリン、変な動きをしてみなさい。即座に丸焼きにしてやるから」
『……何て言ったんだ?』
『変な動きをしたら丸焼きにするんだと』
『怖いねえ。まあそのくらい警戒されるのが当たり前ではあるか!』
ハッハッハ!と大笑いしながら歩き出すゴブリンに続いて洞窟の階段を下りていく。
中は松明が等間隔で壁に設置されており、割と明るい。
見回す限りでは不意打ちできそうな物陰もなさそうだが、ローゼル様にばかり心配をかけさせるのも申し訳ないため、素人ながらに周囲に気を配っておく。
『そんなに見回したところで、あんたらを襲うような指示は出していないからな』
『いや、単にゴブリンがどんなところに住んでいるのかが珍しくてな』
『まあ確かに、人間からしたらわざわざゴブリンの暮らしなんて気にしないか』
『ゴブリン族は人間の暮らしに興味があるのか?』
『そりゃあ、俺たちは俺たちで便利だと思うものは取り入れていきたいからなあ。人間の暮らしは、俺たちの暮らしにはなかったものが多くあったから、真似できるものは真似しているってところだな』
まあ、結局真似事でしかないんだがな!と松明をポンポンと叩きながら話すゴブリン。
なるほど、この松明もゴブリンが人間の暮らしから真似をしたのか。
しかし、文明を真似できるということは、ゴブリン独自の文化も出来ていそうだな。
『さて、ここだ』
しばらく歩いた後、開けたところへ着いた。
真ん中に少し大きめの焚火があり、近くに何匹かのゴブリンがいた。
……俺を案内してくれたゴブリンに比べると全体的に少し小さく見える。
『に、人間!?』
『なんでこんなところに……!?』
『待て、ボスが連れて来たってことは?』
何やらコソコソ話しているが、まさか俺に通じているとは思うまい。
『ボス、こいつらは一体何者で?』
『俺たちの依頼を受けてくれるっていう人間だ。俺たちが何もしなければ大丈夫だ』
『……ボスがそう言うなら』
『ああ、そうだ。ニケを呼んできてくれ』
ゴブリンもゴブリンで、俺たちが来たことに動揺しているらしい。
……そういや今誰かを呼ぶように言っていたが、ゴブリンにも、名前を呼び合う文化があったんだな。
『へい親分、一体何の用……なんで人間がここにいるんで!?』
『いや、お前に依頼を貼るよう頼んだ結果こうなっているわけだが』
『一体どういうことで!?』
『いや、人間の街の依頼書を貼るところにお前が貼ったんだろう……?』
『……ああ!? なるほどそういうことか!』
「落ち着かないわね……」
ローゼル様がきょろきょろしながらぼやく。
まあ、俺以外に言葉が通じないし、元々ゴブリンは敵という概念があるから仕方ないところではあるか。
「まあ、落ち着け。特に敵対するつもりはなさそうだからな」
「……それでもよ」
うーん、気を張りすぎと思うのも、俺に危機感がなさすぎるが故かもしれんな。
そう呟くと足を踏まれた。自覚しただけ偉いと思ってほしいのにこの仕打ちは酷い。
『すまん、待たせたな。こいつが依頼書を貼りに行ったニケだ』
『あんたらが俺たちの依頼を受けてくれたって本当か?』
『ああ、これだろ』
『えっ?』
依頼書を渡そうとすると、周囲から何故か目を向けられた。一体なんぞや。
『おい、人間が俺たちの言葉を使っているだと?』
『一体どういうことだ!?』
ああ、そういやそうだったな。他のゴブリンは知らないんだった。
『落ち着け、この人が俺たちの言葉を理解できたおかげで、今ここに来てもらえているんだから』
俺たちを案内してくれたゴブリン……もう長いし、周りから呼ばれているからボスでいいか。
ボスが周りをなだめてくれている。
そのおかげでどうやら俺たちを見る目も少しだが柔らかくなったようだ。
『なるほど、同族の言葉がわかる人間がいるのは驚きだったが……確かに心強いな』
『ああ、確か……ニケだったか。よろしく』
『……本当に通じてるんだな。やれやれ、驚きだぜ』
『ちなみに、こっちの姉ちゃんには通じていないようだからな』
『そうなのか……まあ、よろしく頼むぜ、姉ちゃん』
ニケが律義にローゼル様に頭を下げた。
「え、えっと?」と戸惑うローゼル様に彼らの言葉を伝えると、「その、ご丁寧にどうも……」と、お辞儀を返していた。
『さて、早速だが依頼の話に移らせてもらおうか』
しばらく交流(俺が他のゴブリンに絡まれていた)した後。
各々が適当に腰を下ろし、ボスの話に耳を傾ける。
『今回、前々から起きていたアンデットの襲撃に関してだが、以前ニケに依頼を出してもらった。来てもらえると思っていなかったが、奇跡的に言葉がわかる人間に来てもらうことが出来た!』
『おおおおおおぉぉぉっ!!!』
「な、なんなの!?」
ローゼル様が突然の雄たけびに驚いているが、まあ仕方ないね。
頭を撫でることで少し落ち着かせることにする。代償は俺のつま先へのダメージ。
痛い痛い。恥ずかしいからってそんなつま先だけを的確に踏み抜かないでくれ。
『では、今回の依頼を受けてくれた人間たちだ! こっちへ来てくれ!』
さて、作戦会議開始だ。
また違うのも投稿したいってなってるけど頑張りたいね。
モチベください。