えっ、自分ステイゴールド産駒なんすか?   作:えびんす

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 ウッドストックは流されやすい。


ウッドストック、やらかす。

「ほーれいくぞウッド、ほい再生」

 

 

 

YEEEEEAAAAAHHHHH!!

 

音楽最高おおおおおおおお!!!

 

 

 

 

 

 

 

 ……はい、のっけからすみませんウッドストックです。

 

 

 最後のレースからまた数日経ちまして、年が明けました。とうとう2010年代ですよ。今年もよろしくお願いします。

 

 で、なんでいきなりテンション爆アゲでヘドバンかましてるかといいますとですね。

 

 

 

「うわ、本当にノリノリですね!?」

 

「すごいでしょう? コイツ本当に音楽大好きなんですよ」

 

 

 

 はい、ただいまテレビの取材を受けてるんですよね。どうも俺の「音楽聴かせたらヘドバンする」っていう奇行がメディアにも伝わったらしく、ローカルの放送局の取材のオファーが来たんですよ。

 

 いま俺の放牧エリアの外、柵の向こう側にテレビクルーと女性アナウンサーがいらっしゃる訳なんですけども。俺の行動に素で驚いたらしく、スタッフからも笑い声が聞こえてくる。

 

 なんだいなんだい、こっちは三度の飯より音楽が好きで好きでたまらないだけのただのお馬さんですよってに。

 

 あんたたち人間さんだって十人十色の個性があるわけなんだから、馬にだって色んな奴がいますよ? 音楽好きなぐらいで珍しくもなかろう。人語を喋るわけでもなし。

 

 

 まあ別に撮りたいんだったら撮ればいいんですけど。ええんか? こんなもん地上波に流して視聴率とれるんか? まあとれるでしょうね。前世の俺ならテレビの前で大爆笑してる自信あるわ。

 

 

「折角ですしおやつあげてみます?」

 

「え、いいんですか?」

 

「賢い子ですから。噛んだりはしませんよ」

 

 

 そうやね、指食っても美味しくないもの。

 

 

 冗談はさておいて、だ。おやつくれるのかい?

 

 

「じ、じゃあせっかくなので……」

 

「ハイこれ、人参スティックね。慣れてないのも分かりますから、いきなり動いたりはしないですよ」

 

「は、はい!」

 

 

 明るく返事を返して、慣れない手付きで人参を差し出すアナウンサーのお姉さん。やっぱり怖いのかちょっと手が震えている。

 

 いやこれアレかな? さっきのヘドバンで怖がらせた可能性が無きにしもあらずでは? でもこれ取材したいって言ったのそっちだから俺は悪くないぞよ。

 

 

 まあどうでもいいや、気持ちゆっくり首を動かして人参スティックに近付けて、唇で人参くわえて持っていくと。

 

 

「おお~…………人参あげれましたね」

 

「お客さんは不慣れなのが分かってるので、ゆっくり動いてたんですよ。僕があげるとこんな感じ」

 

 

 はい今度はいつもの早さで人参をパクッと。

 

 

「えっ、早い!?」

 

「これがいつものペースですねえ」

 

 

 テンポよく差し出される人参をひょいパクひょいパクと。

 

 

「本当に賢いんですね!」

 

「人懐っこいし優しい子ですよ。見学に来てくれる人にも愛想がいいですね」

 

「これでレースではすごく強いんですよね」

 

「いやー手前味噌になりますけど、コイツなら三冠も夢じゃないなって思ってますね」

 

 

 お、なんだいおっちゃん俺に三冠獲って欲しいのか? GⅠレース三冠欲しいのか! 三冠! いやしんぼめ! ってか。

 

 

 おっちゃんが喜ぶなら、俺頑張ってもぎ取ってくるぞ?

 

 

「三冠、獲ってきてくれるか?」

 

「ヒヒッ!(おう!)」

 

「おお~、お返事するんですねえ」

 

「コイツ多分人間の言葉分かってるっぽいんですよ。例えば……ウッド」

 

 

 おん? なんぞや?

 

 

 

 

「3+4は?」

 

 

 

 

 …………えっ、答えろと?

 

 

 え、えーと、まあ7ですよね? じゃあえーっと、どう伝えるかな……あ、脚で壁を軽く叩くか? コンコンコンっと。

 

 

「…………おお~!?」

 

「頭いいでしょ? もう一個いくぞウッド、8÷2は?」

 

 

 今度は割り算かよ。えー、4だから4回叩けばいいな。

 

 

「またまた正解ですね! 普段からやられてるんですか?」

 

「いや、いま初めてやりました」

 

「ええっ!?」

 

「まあコイツなら出来てもおかしくないって思ってましたからね。あまりにも賢いので」

 

 

 いや、咄嗟に計算して答えちゃったけど、これ今、とんでもないことやっちゃったんじゃないのか俺……?

 

 やったことない四則計算が出来る馬って、それだけで神馬かすわ妖怪かってなりませんかこれ。

 

 

「まあこんだけ頭がよけりゃあ、そりゃあレースでも強いってなもんですよ。僕にも分けて貰いたいねえこの賢さ、ハッハッハ!!」

 

「あ、あははは……」

 

 

 いやおっちゃん楽天的すぎるでしょ、お姉さんも取材陣も引いちゃってるよ。

 

 これ、世に知れたらえらいことになるんじゃ……。

 

 

 

 

 

「迂闊すぎますよ!! これで研究所に入れられて一生研究漬け、みたいなことになったらどうするんですか!!」

 

「いや、申し訳ない……」

 

 

 あの後、おっちゃん(と俺)がやらかしたことに関して、オーナーの人から物凄い叱られた。

 

 当たり前だよな、繰り返し教え込んだならまだしも、やったこともない四則計算をやって答えられる馬なんて前代未聞だ。

 

 

「あのシーンはカットして貰うよう頭下げて頼み込みましたけど、多分資料としてずっと残りますよ!? 出回ったら大変なことになりますよ!」

 

「弁解のしようもございません……」

 

「ああ、せめて引退まで世に出ないでくれ……」

 

 

 うーん、確かにおっちゃんの楽観さが原因とはいえ、咄嗟に答えてしまった俺も悪いよな。分かんないふりして無視すればよかったんだし。

 

 オーナーさん、本当にすまん。俺からも頭下げるから、おっちゃんばかり責めないでやってくれ。

 

 

「お、おいウッドどうした?」

 

「急に座り込みましたね……頭下げて…………土下座、のつもりですかね?」

 

「……俺を庇ってくれるのかい?」

 

 

 庇うというか、やらかした責任は俺にもあるし。連帯責任ってことでここは一つ。

 

 

「…………コイツも、事の大変さが分かるのでしょうか」

 

「……今までの事を考えると、それもおかしくありませんな」

 

「……今回は彼に免じて、これ以上は言いません。ですが、今後はくれぐれも気をつけてくださいね」

 

「はい、大変ご迷惑をおかけして……」

 

 

 どうにかオーナーさんが矛を納めてくれて助かった。

 

 

 …………マジで流出させないでくれよテレビの人。あぁ、本当の意味で黒歴史じゃねぇか。

 

 

 

「ブモッ、ブモッ(ヘヘッ、兄貴でもやらかすことあるんだな)」

 

「ブゥウルルルヒヒィィンッ!!(なに笑ってんだオルフェてめえ蹴り飛ばすぞ!)」

 

「ヒィィン!(八つ当たり反対!)」

 

 

 

 

 後日放送されたVTRでは、問題のシーンはきちんとカットされていた。

 

 




 なお引退後に発掘されるもよう。

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