えっ、自分ステイゴールド産駒なんすか?   作:えびんす

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 ローテとしては多分間違っている気がしなくもないです。

 どうでもいいですけどみんなうどん食いた過ぎでしょ。


馬体艶々のやべーやつ

『晴天に恵まれました中山競馬場。真冬の冷たい風に晒され、よく乾いた固い芝は果たして馬にとって吉と出るか、凶と出るか。中山競馬場、芝2000m。GⅢ【京成杯】が始まろうとしています』

 

 

 

 うん、今日もいい天気だ。絶好のレース日和じゃないかね。

 

 どうもウッドストックさんです。今日はGⅢの京成杯に出場するよ。前回のNIKKEI杯からまだそんなに経ってないけど、競走馬のローテーションってこんなもんなのかね?

 

 まあ相変わらず俺としては一戦一戦を大事に、真剣に、全力で走るだけさ。壊れたらその時よ。

 

 

「どうだウッド?」

 

「ブルルッ(平気だよ)」

 

 

 鞍上の池谷殿には強気に返したけど、どうなるかは俺にも分からん。脚に痛みとかもないけど。むしろ絶好調だけど。

 

 

 さて、今回はどの馬がライバルになり得そうかなっと…………んお、すげぇピッカピカの馬がいらっしゃる。調子が良さそうだなあ。

 

 

『本日の一番人気、横田騎乗エイシンフラッシュ。実況席からでも分かる馬体の艶、かなり仕上がっていますね』

 

『これは走りにも期待できますよ。一番人気に推されるのも納得です』

 

『二番人気をご紹介しましょう、池谷騎乗ウッドストック。こちらも落ち着いていますね。返し馬でも軽やかな走りを見せてくれました』

 

『ここまで無敗ですのでこちらも期待が高まります。横田操るエイシンフラッシュに池谷はどう仕掛けるでしょうか』

 

 

 へえ、俺二番人気か。随分と期待されてるんですのね。

 

 ま、何番人気でも俺がやることは変わらん。ただゴール目指して走り抜くのみ。

 

 

(よーう、そこのあんちゃん)

 

(ん?)

 

 

 レースに向けて集中力高めとこうかな、などと思っていると、例のピッカピカなお馬さんに話しかけられてしまった。

 

 改めてみると本当に毛艶がいいな。並のお馬さんならたじろぎそうなぐらいキラキラしてる。

 

 

(今日はよろしくな。自分エイシンフラッシュっての)

 

(ウッドストックだ。よろしく)

 

(あんちゃん最近イケイケらしいじゃん? 自分の厩舎でもあんたの噂で持ちきりなんだぜ)

 

(マジで? 最近くしゃみよく出ると思ったわ)

 

(風邪じゃなくて良かったな)

 

(まったくだ。こんなくしゃみなら大歓迎だよ)

 

 

 最初に見た印象とは随分と違って、なんだか調子の軽い奴のようだ。こちらも軽く冗談を返しておこう。

 

 

(まあお互い頑張ろうぜ)

 

(ああ、それじゃあレースで)

 

(おう。ただまあ……)

 

 

 

 だが、こういう奴ほど油断ならないんだよな。

 

 

 

(…………勝つのは俺だぜ?)

 

 

 

 ほらな。

 

 

 

 最後の最後で俺を射抜くように睨み付けるエイシンフラッシュ。なるほど、そっちが本性か。

 

 

 おちゃらけた雰囲気が鳴りを潜め、その目の奥に燃える闘志が俺にプレッシャーをかける。こりゃあ、確かに強者だ。

 

 

 だからこそ、滾る。

 

 

 

(俺が勝つさ)

 

 

 

 ああ、楽しみだ。血が熱く煮えているかと錯覚するほどに、興奮している。

 

 

 

(…………)

 

(…………)

 

 

 

 

 最後はお互い無言で睨みあったまま、どちらからともなく離れた。

 

 おお、こわいこわい。血走った目で物凄く睨まれちった。お前は俺に親でも殺されたんかと。

 

 

 

 

『……いまようやく離れました。エイシンフラッシュとウッドストック、レース前の返し馬で勃発しました激しい睨み合い。勝負に勝つのは自分だと、互いに主張して譲らないかのようでした』

 

『お互いを強烈にライバル視しているかのようでしたね。喧嘩になってしまうかと思いましたが、大事にならず済んでホッとしています』

 

『観客スタンドからはこの二頭に対して割れんばかりの歓声と野次が飛んでおります。一番人気と二番人気の睨み合いから始まりました京成杯、波乱の予感をひしひしと感じます』

 

 

「…………大丈夫かウッド」

 

「ヒヒッ(大丈夫)」

 

 

 池谷殿が心配そうに俺の首を撫でてきた。どうやら相当な時間睨みあっていたらしい。いやー最近の若いもんは血の気が多くていかんね。俺もか。

 

 ……さて、あの漆黒の牙城、どう崩していこうかね。

 

 

 

 

 

『第三コーナー回った、ここで順位をもう一度。先頭はアドマイヤテンクウ、その後ろにログ。一番人気エイシンフラッシュは三番手、続いてフラガラッハ、タイムチェイサー、アースステップ三頭並び立てる。半馬身離れてブルーソックス、外からローグランド、トーセンマリーンもここ。この辺りからウッドストックじわりじわりと上がってきているか? 最後方はブルーグラス、フーガフューグとなっています』

 

『注目のウッドストックですが差し、追い込みが得意とのことで、勝負を仕掛けるならコーナー回ってすぐでしょうか』

 

 

 さてさて、どうするつもりですかね池谷殿は。そろそろ上がっていかないと追い付けないぜ?

 

 

「……いくぞ」

 

 

 あいよ。前は三頭で争ってるがどう行こうかしら……おっ、今回は内から? ちょっと膨らんでるから内を突けと。了解。

 

 

(げっ!?)

 

(じゃあの)

 

 

 追い抜こうとしてるのは、タイムチェイサーか。後ろから追い抜かれる気分はどうだ、追跡者さんよ。

 

 

 その次は、おっ? フラッシュくんじゃないか。折角だ、挨拶がてら後ろから圧掛けてやろ。

 

 

(はろー)

 

(…………!)

 

 

 ビックリした? ねえねえビックリした? あらやだそんな怖い目で睨まないでよーフラッシュくんこわーい。

 

 

(行かさねえ……)

 

(ほう?)

 

 

 鞍上の横田氏もこちらを牽制しているのか、少し内ラチに寄せてくる。内からは抜かせないと。

 

 そりゃあ内一杯なら走る距離が結果的に少なくて済むからな。誰だってそうする。俺だってそうする。

 

 

でもな。

 

 

 

『さあ最終コーナーを回る馬群、先頭は変わらずアドマイヤテンクウ、後ろにログと付けてエイシンフラッシュとウッドストックが三位争い! ウッドストック抜け出すかエイシンフラッシュ抑え込むか!?』

 

 

 多分池谷殿は最終コーナー出口で仕掛けるつもりだろう。以前にもやったからな。

 

 

「……いいか? ウッド」

 

 

 返事代わりにハミを噛んで伝える。嘶いて返事する余裕は流石にねぇ。競いあってる相手は化け物揃いだから、気を抜いたらあっという間に後ろに沈む。

 

 

 さあ、もうすぐだ……おっ、横田氏が鞭を入れた。フラッシュが一気に加速して先頭争いに突っ込んでいく。

 

 

「今だ!」

 

 

 こっちも鞭が入ったな! よっしゃやってやるぜ!

 

 

 

 

『さあ最後の直線だ! 中山の直線は短いぞ! 先頭はアドマイヤテンクウ、後ろからログを躱してエイシンフラッシュ! さらに出口から大外回ってウッドストック飛び出した! ログは4位に後退、後ろからタイムチェイサーとフラガラッハも上がってくるが!? 決着は先頭の三頭になるか!?』

 

 

 

 

(来たか!)

 

 

 大外から思いっきりブン回して、誰にも邪魔できないコースで一気に加速する。池谷殿と調教で何度も何度も練習したこの位置取り。

 

 斜め前でフラッシュがまた睨み付けてくる。テンクウとよろしくやっててくれ、俺はこのまま抜け出すから。

 

 

(させねえ!!)

 

(邪魔するな!!)

 

 

 おっと、流石に許しちゃくれねえか。テンクウもフラッシュもさらに伸びていく。特にテンクウは掛かってんじゃないかと思うほどの脚の回転。フラッシュも負けちゃいない。

 

 

 流石だ。どいつもこいつも化け物ばっかりだ。GⅢでこれなら、GⅠはどうなっちまうんだ? 今から武者震いしちまいそうだ。

 

 

 

 

『伸びる伸びるまだ伸びる! アドマイヤテンクウ必死に逃げるがエイシンフラッシュ躱して先頭! しかしウッドストックが!? ウッドストックが大外からかっ飛んできた! NIKKEI杯で魅せた剛脚が炸裂する!!』

 

 

 

 

(ウッドォォォォ!!)

 

(フラッシュゥゥゥゥ!!)

 

 

 互いに限界まで脚を回す。根元がちぎれそうだし、肺が酸素を求めて痛いし心臓が破裂しそうだ。

 

 だけど、だけどよ。それがどうした。

 

 

 

 こういうのを求めてたんだよ俺は!! 強者と鎬を削るデッドヒートをよ!!

 

 お前も、お前もそうだろフラッシュ!! キツいよなぁ!? 死にそうだよなあ!?

 

 だけどそれ以上に!!

 

 

 

((勝つのは俺だッ!!!!))

 

 

 

 

 ()()()()()()()()、仕方がねえんだよなぁ!!?

 

 

 

 

『壮絶なデッドヒート!! エイシンフラッシュか!? ウッドストックか!? 鞭が飛ぶ!! 後ろからテンクウもう一度迫るが!? 前は既に三馬身以上!! 芝を抉って駆け抜けるッ!! ウッドか!? フラッシュか!? どっちだ!? どっちだ!? 互いに譲らず二頭並んでゴールインッ!!!

 

 これがGⅢのレースで良いのでしょうか!? 白熱の死闘を繰り広げました二頭に、歓声が巻き起こっています!!』

 

『これは写真判定ですね……どっちが勝ってもおかしくありませんよ』

 

 

 

 

(ゼェッ……ゼェッ……!!)

 

 

 くっそ……しんどッ…………フラッシュめ、なんて奴だ。全力で走ってたのに引き離せなかった。

 

 ああくそ、肺が熱い……酸素が、酸素が足りねえ……!

 

 

(ハアッ……ハアッ……)

 

 

 横を見ると、俺と同じく疲労困憊といった様子のフラッシュ。目の焦点も合ってるんだかいないんだか分からん。

 

 

(や、やるじゃねえかウッド……)

 

(あんたもな…………)

 

(あーもうダメだ、しばらく走りたくねえ)

 

(同じく)

 

 

 この時ばかりは意見が一致する俺たち。あー池谷殿、そこ、そう首の後ろあたり擦ってて。なんとなく回復しそう。

 

 …………で、これ多分写真判定だよな? 俺から見てもフラッシュと同時にゴールしてたように見えたし。

 

 

(あー、これは俺の負けかなあ)

 

 

 横でフラッシュがそんなことを呟く。

 

 

(なんだ、弱気だな?)

 

(いや、なんとなく、勘だけどさ。俺、最後の最後で競り負けた気がするんだよなー)

 

(ほう)

 

 

 

 

『…………確定ランプが灯りました! 一着はウッドストック!! ウッドストックです!! 二着はエイシンフラッシュ、その差は……2cm!! ハナ差2cmの決着!! 大接戦です!!』

 

 

 

 

(ほらな)

 

(ホントだ)

 

 

 いい勘してるなフラッシュ。しかし2cmって、本当にギリッギリじゃねえか。こりゃ皐月賞までにもっと鍛え直す必要があるな。

 

 

(いやー負けた負けた! お前本当に強いなあ)

 

(あんたもめちゃくちゃ強かったよ。正直次は当たりたくないね)

 

(つれないこと言うなよーまた走ろうぜー)

 

(冗談だって、あーもう鼻を擦り付けなさんな)

 

 

 

 

『ウッドストックにエイシンフラッシュが鼻を擦り付けていますね』

 

『健闘を称え合っているんでしょうか、馬も競った後に友情が芽生えるのかもしれませんね』

 

『往年の少年漫画のような、思わず胸が熱くなる光景ですね。観客席からは惜しみ無い拍手が送られています』

 

 

 

 

「やっぱりモテるなウッド」

 

「ブルルッ(うるせーやい)」

 

 

 名馬に癖ありとは言うが、馬になってからこっちその言葉が身に染みるよ。どいつもこいつもホントキャラが濃いわ。俺? 今更つまんねーこと聞くなよ、元人間だぞ濃いに決まってるだろ。

 

 

「お前とならどこまでも走れる気がするよ」

 

「ヒヒッ(おう)」

 

 

 心配しなくても、どこまでも乗せていってやんよ。俺の鞍上はあんただけだ。

 

 

 そうだろ、相棒。

 

 

「今日のご褒美はリンゴだってさ」

 

「ヒヒッ! ブモッブモッ(やったぜ! さっさと帰るぞ相棒!)」

 

「あっこら慌てるなって! 前にもやったぞこれ!」


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