馬になったわね(ガチ)
【THE WINNER】
2010年、ジャパンカップ。
その馬の逆転劇に、人は夢を見た。
反骨心溢れる豪脚に、誰もが打ち震えた。
大外から全てを抜き去った、伝説の3ハロン。
【かっこいいっていうのは、こういうことだ。】
その馬の名は―――――
(どうして)
とある牧場で、俺は黄昏れていた。
別に傷心して動物に癒されに来たわけではない。元々特別動物が好きなわけでもなかったから。
ならなぜ俺が牧場にいるかというと、単純明快。
(どうして)
俺がその牧場で生まれた、馬そのものだからだ。
そもそも俺はほんのちょっと前まで、確かに人間として生きていた。普通の家庭に生まれ、普通の学校に行き、それなりの大学を出て、そこそこの企業に就職したごく一般的なサラリーマン。
当時結婚を考えてた彼女もいたし、会社での仕事ぶりも悪くなかった。平々凡々、ごくごく普通の生活を送っていた青年だった。
それがある日、信号無視してきた車から彼女を庇って、代わりに俺が撥ねられて。十数メートル吹っ飛ばされた挙句、運悪くガードレールに頭を強打して即死。あの勢いだ、多分俺の仏さんは直視できないグロテスクな有り様になっていただろう。
んで、なんでかしばらくして、意識を取り戻したはいいのだが。
(なんで生まれ変わった先が馬畜生なんですか?)
神様、俺何か罰が当たるようなことしましたかね? まさかの畜生道だ。こういうのって普通アレじゃない? なんか剣と魔法のファンタジーなとこに転生して無双して俺ツエーみたいなことするのがお決まりじゃないの?
いや百歩譲って動物に生まれ変わるとしても、なんでよりによって馬なの? 出来ることなら犬や猫になりたかった。せめて鳥。
……なってしまったものは仕方ない。どうしてこんなことになったかはもう考えないようにしよう。今はしっかりと人生……馬生? を全うして大往生してやる。それが当面の目的。
とはいうものの、果たして俺はどういう馬として生まれてきたのだろうか。馬だけに。寒いなこれ。
「おー、しっかり立ててるなぁ」
と、現れたのは壮年の白髪が目立ち始めているおっちゃん。ツナギと長靴という出で立ちから見るに、多分俺……というか俺の隣にいる、今世での俺の母親である馬の世話係だろう。
確か、えーっと……厩務員って言うんだったか。前世で上司や先輩の影響で競馬を嗜んでいたから、それに合わせてそんな知識は中途半端にあった。
「ん、母子ともに健康そうだな。お前はあのステイゴールドが父親だ、もしかしたらすげえ競走馬になるかもなぁ」
……なんて言った? ステイゴールド?
えっ、自分ステイゴールド産駒なんすか?
早くもタイトル回収