えっ、自分ステイゴールド産駒なんすか?   作:えびんす

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 私なら殺してくれと懇願します。

 追記:実在の人物名に関して修正しました。ご指摘ありがとうございました。


例えるならエロ本見てるのを親に見つかった時のような

 

 

 春が過ぎて、夏を過ごし、そろそろ秋が来るかという頃。俺ことウッドストックさんは、いよいよレースに向けての調教が始まった。

 

 

 が、初めて見るはずの鞍やらなんやら、人間さんが乗るのに必要な馬具一式を初日の一発で付けられたことで、やはり首を捻られる。

 

 通常の馬ならばもっと嫌がったり怖がったりするらしいが、ハミも普通に受け入れる、鞍を乗せても動じず、なんなら蹄鉄付けるときは職人さんに負担が掛からないよう、なるべく体重を乗せないようにしてたぐらいだ。

 

 あんまりにもされるがままにされていたもんだから、厩務員のおっちゃんですら「こいつ本当に競走馬になれるのか?」と不安な様子。すまんな、中身人間なせいで。馬として常軌を逸しているのは自覚してるよ。

 

 

 で、一通り付け終わって、今は鞍上に乗る騎手の人を待ってるんだが。

 

 

 果たして俺に乗ってくれるような物好きは居るのだろうか。腐ってもあの暴れん坊「ステイゴールド」の子供である。

 

 どんな気性難に乗せられるのか、向こうからすれば戦々恐々だろう。俺が騎手だったら絶対嫌だもん。

 

 

 なんてことを考えていると、こちらに歩いてくる騎手らしき人間さん。はてなんか見たことのある顔のような。

 

 

「おはようございます。こいつがそうですか?」

 

「ええ。まあ今のところは親に似ず大人しいし賢い奴なんで、あまり気負わずに」

 

「任せてください! よーし、よろしくなウッドストック」

 

 

 と、俺の首筋を叩きながら笑いかける騎手の人。やっぱり見たことあるぞこの人。

 

 

 

 

「まああのデュランダルもドリームジャーニーも乗りこなしたんですし、あんまり心配はしてませんがね」

 

「あはは、勘弁してくださいよー!」

 

 

 デュランダル? ドリームジャーニー?

 

 

 …………あっ!? もしや池谷殿か!?

 

 

 やっぱりそうだ、気性難の駆け込み寺とか言われてた池谷騎手じゃないか。なるほど、俺がステゴ産駒だからまあもれなく気性難だろうからという判断なんだろうな。

 

 

 ま、時には気性難じゃない馬に乗るのもいいんじゃないですかね。自分で言うのもなんだけど、俺めっちゃいい子よ?

 

 というわけではい、どうぞ乗ってくださいな。大丈夫だって暴れないって。

 

 

「…………えっ、ぜんぜん暴れない」

 

「でしょう? えらく大人しいんですよコイツ」

 

「ジャーニーと全然違うなあ……お前本当にステイゴールドの子?」

 

 

 そうですけど、という意を込めてヒヒッと鳴いてみる。

 

 

「今返事した?」

 

「多分人間の言葉はある程度分かるんだと思います。ここら辺は親父譲りっぽいですね」

 

「ほー……とりあえず軽く走ろうか」

 

 

 あいよ。細かい指示は任せるわ。

 

 

 

 

 

 

 

 それから半日ほど、馬なりに走って調教を終える。ふいー、やっぱ人背負ってると走りにも影響してくるな。

 

 

 ちなみにだが最初から最後まで池谷殿は不思議そうな顔をしていた。まあ初めての調教でここまで素直にいうこと聞く馬も珍しいのだろう。アイツの子なら尚更といった感じか。

 

 終わり際には「何から何までステゴ産駒っぽくない」と厩務員のおっちゃんに話していた。「でも、コイツも走りますよ」とまで。誉めるなよ照れるぜ。

 

 

 で、馬房に戻っては来たんだが、何故かおっちゃんに加えて、池谷殿も一緒。なに? スキンシップでもするのけ?

 

 

 と、厩務員のおっちゃんが取り出したのは、以前俺にフォークソングを聴かせてくれたときのウォークマン。え、もしかしてやるんすか? この人の前で?

 

 

「本当に音楽好きなんですか? 普通ビビりますよ」

 

「それがコイツ本当に動じないんですよ。ちょっと見てて下さい」

 

 

 ええー? 本当にやるんでござるかぁー? あれちょっと初めての人に見られるの恥ずかしいんですけど。

 

 お? 次は何を取り出して……あ、イヤホン? 耳に引っ掛けて挟んで固定するタイプのやつ? あ、他の馬に迷惑だから?

 

 あ、はい、じゃあ付けてください。馬の耳だとイヤホンめちゃくちゃちっちゃいけど、馬用イヤホンなんてあるわけもないから我慢我慢。

 

 

「いきますよー」

 

 

 おっ、流れてきた……あ、これヤバイ奴だ、超テンション上がるハードロックだ。

 

 あ、あ、待って、そんな、

 

 よりにもよってこんな激しいの、この人の前でそんな、

 

 初めてなのに、せめてもっと優しいのっ、あっ、

 

 待っ、

 

 だっ、

 

 

 

 だめええええ身体が勝手に動いちゃうのおほおおおおおお!!!!!

 

 

 

 

「うわぁ……マジでヘドバンしてる……」

 

「ビックリでしょ? しかもちゃんとリズムとって首振ってるんですよ」

 

「いやあこれは……違う意味でステイゴールドの子ですね……」

 

「まあ他の奴に比べれば可愛いもんでしょう……」

 

「確かにそうですが……えぇ…………」

 

 

 

 ひゃっほおおおおお止まらねぇぜええええええ!!!!

 

 

 DON'T STOP ME NOOOOOOOW!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 しばらくして我に返った俺は、呆然としている池谷殿と目があって。

 

 

(見ないで頂戴ッ!!)

 

 

 恥ずかしさの余り馬房の隅に引っ込んで悶絶していた。なんかもう、すんごい恥ずかしい。

 

 

「あらら、拗ねちまった」

 

「流石に恥ずかしかったんスかね?」

 

「まあ変に人間くさいやつですからね。もしかしたらそうかもしれません」

 

「ハハハ……変なとこで親父に似てるな」

 

 

 本人の前でそんな話やめて頂戴ッ! アタイもうお嫁に行けないわッ!

 

 

 




 言うまでもないがコイツ牡馬なのでお嫁には行かないです。
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