えっ、自分ステイゴールド産駒なんすか?   作:えびんす

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デビュー戦は鮮烈に

 桜が散り、梅雨も半ば、もうすぐ本格的な夏が来ようとしていた。厩舎にも連日雨が降り続き、訓練用のコースもぬかるみ、調教に影響が出ている。

 

 

 まったく梅雨ってのはどうにも気が滅入っていかん。夏みたいにギラギラと日が照りつけて暑いのは一番嫌だが、雨が好きな訳でもない。傘も差せないこの身ではただ耐えることしか出来ぬのだ。

 

 

 現に今も厩務員のおっちゃんに、馬房で世話をしてもらいながら、窓の外で降りしきる雨を眺めているわけで。

 

 

「今日もよく降るなぁポケ」

 

「ブルルッ(そうだねぇ)」

 

 

 ウッドストックという名を貰った俺だが、おっちゃんと二人の時は未だに幼名で呼ばれる。まあ今となっちゃすっかり呼び慣れた名前だし、俺自身嫌なわけではないから好きに呼んでくれていいんだけども。

 

 

「はあ……さむ」

 

 

 それよか今大変なのはおっちゃんだ。今日は雨合羽を柵の釘にひっかけたらしく、右肩から背中にかけて大きく合羽が裂け、びしょ濡れになったまま作業をしている。時期的に特別寒い訳ではないが、そのままでは風邪をひきかねん。

 

 なのにおっちゃんは、「まあこんな日もあるさ」と俺の世話を優先するんだよな。そりゃあおっちゃんだけじゃなく厩舎にいる全員が馬第一の人達だし、合羽破けたのはおっちゃんの不注意だから仕方ないけど、体調管理も大事やで?

 

 ほらおっちゃん、身体貸してやるよ。ちょっとくっついて暖まろうぜ。

 

 

「どうした、暖めてくれるのか? はははっ、優しいなあポケ」

 

 

 うっわおっちゃんの手ぇ冷てぇなあ。

 

 

「ありがとうな。あったけえなお前……ほれ、顔の横掻かれるの好きだろ」

 

 

 あぁ~~そこ気持ちいいわぁ、自分で掻けないから至福。

 

 

 

 

 

 

 

「調子はどうだ、ウッドストック」

 

「ブルルッ(最高)」

 

「ははっ、そうか!」

 

 

 時間は進んで、6月。二歳馬になった俺は、いよいよ今日、競走馬としてデビューする。

 

 

 コースとしては芝1600mの右回り。途中で坂を上るマイルコースだな。俺は走る幅が広いから中距離とマイルでかなり迷ったらしいが、どちらにせよ全力を尽くすだけだ。

 

 

 まあ競走馬とは言うが、相手は皆当然俺と同じ新米ばかり。レース前にしてはいまいち落ち着きがないというか、どことなく浮き足立っている。

 

 

(今日はここにいるやつと走るのか?)

 

(人間いっぱいいる……こわ)

 

(うるっせえなあ)

 

 

 そんな感じの馬たち。これは……貰ったな、このレース。

 

 

 

 

 

 

『さあ最終コーナー回って各馬鞭が入る! 先頭は依然変わらず4番ウッドストック! これを3番チリペッパーと5番プラトニックラブが追いかける展開!』

 

 

(くそっ、速い!)

 

(追い付けないよー!)

 

 

 後ろから聞こえる悔しそうな声。悪いがこのデビュー戦、この俺が貰うぜ。

 

 おっ、坂があるな。だが坂路で鍛え上げた我が筋肉はものともしないぞや。

 

 さらに言えばこちとら中身は人間。どう脚を使えば登りやすいか、普段の坂路で散々模索してきた。この程度、普段のトレーニングに比べれば大したことはない。

 

 さて、仕掛けるならここか?

 

 スタミナはまだ十分残っている。

 

 手綱を噛んで、池谷殿に合図する。行くか? と。

 

 

「よし! 行け!」

 

 

 池谷殿から鞭が入る。

 

 いいんだな? もういいんだな?

 

 よっしゃ。ぶっちぎってやる。

 

 

 

 

『ウッドストックすごい勢いで坂を駆け上がる! 脚色は衰えない! 後ろの馬はもう追い付けないか!? 二馬身三馬身と後続を突き放していきますウッドストック強い! これはセーフティリード!』

 

 

 なんて清々しいんだ。

 

 

 耳を切る風の音。横を見れば後ろに飛んでいくラチ。踏みしめる度に俺の脚を跳ね返す芝。

 

 

 全身で受ける風が、心地いい。

 

 

 そうか、これが。これが馬としての、走る喜び。

 

 

 そうさ。俺はサラブレッド。俺はウッドストック!

 

 

 俺はステイゴールドの息子! 偉大なる親父の血を受け継ぐ者!

 

 

 さあ人間共よ、俺を見ろ! 先頭に立ってやったんだ、よく見えるだろう!?

 

 

 刮目しろ! その目に焼き付けろ!

 

 

 俺の名を! 姿を!! 勝利を!!!

 

 

 俺の名は!! 芝を駆けるロックスター!!

 

 

 キング・オブ・ロック!!!

 

 

 ウッドストックだ!!!!

 

 

 

『ウッドストック強い! ウッドストック強い! 二位以下を大きく突き放して今ゴールイン!! 影をも踏ませぬ力強い走り!! これは将来が楽しみな馬が出てきました!!』

 

 

 

 

 

 あー走った走った。本気で走るとすっごい疲れるけど、それ以上に気持ちがいい。

 

 ついテンション上がっちゃって、頭のなかで恥ずかしいこと叫んでしまった。これは黒歴史確定。夜な夜な思い出して悶絶しそう。

 

 

 ま、今回のはあくまでデビュー戦。ゆくゆくはクラシックも古馬路線も走りたいところだが、そこらへんはオーナー馬主ら上の人間が判断するところ。俺は全力でレースを勝ちにいくだけだ。

 

 

 お、池谷殿が鞍上でガッツポーズしてる。いいけど落ちないでね。まああんた後々オルフェに振り落とされること知らないでしょうけど。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、池谷さん。まずは勝ちましたね」

 

「ええ、なんとか。いやあすごい馬だアイツは」

 

「ほう、そんなにですか?」

 

「調教の時から思ってましたけど、アイツ競馬を理解してますよ。こっちの指示もしっかり伝わりますし、自分でコースをある程度選ぶ頭もある」

 

「ほうほう」

 

「それにアイツ、自分のペースを一定に保ちますけど、最後の辺り。仕掛けようとしたときに、アイツ手綱を噛んだんですよ。『ここか?』って。まるで仕掛けどころが分かったかのようで」

 

「…………俺達が思っているより、すごい馬になるかもな」

 

「なりますよ。させてみせます」

 

「こりゃあ頼もしい。これからもよろしくお願いしますよ」

 

「ええ、任せてください」

 

 

 




 レースの描写ってこんなんでいいのかしら

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