彼方ちゃんが好きって君が言うから付き合ったんだよ? 作:裏面が下駄
とあるファミレスで、目の前にいる茶髪に赤い大きなリボンをつけた少女に話しかける。
「俺さ、近江先輩に告白しようと思うんだ」
「ぶぅっっーーーー」
目の前の少女は今まさに喉に流し込もうとした飲み物を俺の顔めがけて盛大に吹き出した。
「ちょっ、何すんだよ!」
「ゲッホゲッホ、、、いや、、、ゲッホ、何すんだじゃないでしょ!突然すぎて気管に入っちゃったじゃない!」
言い終えると少女は再びむせていた。そんなに驚くことかと考えながら、少女が落ち着くのを待つ。
目の前にいる少女は桜坂しずく。お互い家が近く、学年も同じであることから幼少期から今に至るまでの腐れ縁である。
今日もお互いの両親が仕事で遅いこともあり、こうして近所のファミレスに晩御飯を食べに来ているのである。
「で、彼方さんに何するって?」
やっと落ち着きを取り戻したしずくは、興味津々で顔を近づけてくる。
「だから、告白したいなぁーなんて。いやっ近いって!」
近づいてきた顔を手で押さえながら抑制する。
「凪くんが!?あの女の店員さんに営業スマイルされただけで「俺の事好きなんかなぁ」とか言ってた凪くんが!?」
そう言うとしずくは先程とは打って変わりケラケラ笑い出した。やめてくれ、黒歴史を思い出させないでくれ。
ひとしきり笑い終えると満足したのだろう、ちゃんと俺の話を聞く姿勢になった。
「それで、彼方さんのどこに惹かれたの?」
「家族のためにバイトを掛け持ちする優しいとこや、スクールアイドルに一生懸命なところかな」
近江彼方先輩。虹ヶ咲学園に通うライフデザイン学科の3年生。そして虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会の一人でもある。
おっとりとした性格でいつも眠そうにしている。
そしてなぜかしずくも同好会のメンバーでもある。見てくれは凄くいいのだが中身は頑固で意地っ張りである。
でもまあ、おかげで近江先輩と知り合えることが出来ているのでそこは感謝しないといけない。
「それでどうやって告白したらいいと思う?」
「んー、彼方さんかぁー…難しいなぁ。今言ってた事をそのままぶつけてみるとか?」
「やっぱそれしかないよなぁー」
普段使わない脳をフル回転させても、特に何もいいアイデアが思い浮かばない。
「彼方さんって校内でもすごく人気で、狙ってる人も多いみたいだよ?」
「ごふぅ…!やっぱそうだよな〜。俺なんかが告白したところで鼻で笑われて、「どの分際でそんな事が言えるの?」とか言われて終わるんだろうな…」
「さ、流石に彼方さんはそんな事言わないと思うけど…でも難易度は高いだろうね。」
「じゃあどうしろってんだよ…」
「そんなお困りな君に特別にいい事を教えてあげましょう!」
「!?」
俺は勢いよく顔を上げしずくを見る。何か秘策があるのかと期待しつつしずくが発する言葉を待つ。
「そ・れ・は!私と付き合う事です!」
「…は?」
「だーかーら」
「いるじゃん!そんな高嶺の花を狙わなくてもほら!目の前に!こーんなに可愛い幼馴染が!!」
そう言いながらあざとさ全開のウインクを飛ばしてくる。
ウインク全然出来てないし、左目もつられてつぶってるし。くそ、可愛い。不覚にもそう思ってしまった。
「いやいや、絶対ないから!…今更そんな目で見れるかっての!」
「……」
「…やだなぁ!凪くん!冗談に決まってるじゃん!」
「は?!そ、そんなこと分かってたし!」
「はい嘘、真に受けちゃって耳真っ赤だよ?」
ケラケラと笑い飛ばすしずく。
「ま、当たって砕けてみなさいな!」
そう言うと立ち上がりレジの方に歩いて行った。
次の日、俺は近江先輩に告白するため屋上で告白の練習をしていた。
「近江先輩、貴女の優しくてどんなことに対しても一生懸命なところに惹かれました。付き合ってください!」
んー、違うな。もうちょい具体的に言った方がいいか…
「おーーい、蒼山くーん?」
いや、まず優しいってなんだ…?考えるほど意味が分からなくなってくる。
「蒼山凪く〜ん?」
「もう!さっきからなんですか!今忙し…いんだ…」
「こ、こ、近江先輩!なんでここに!?」
「やっほ〜彼方ちゃんだよ〜。さっき蒼山くんが見えて驚かそうとしたんだけど…そのね、全部聞こえちゃった。えへへ」
「……」
え?聞かれてた?今の?全部?
顔がトマトの様に真っ赤になるのが自分でもわかる。
「ごめんなさい!なんでもないです!忘れてください!」
この場から早く逃げ去りたく、早口言葉のように言い残し走って屋上の扉を目指す。
ガチャリ
何か嫌な音が扉から聞こえる。まさか?!と思いつつも扉を思いっきり押してみる。開かない。
誰だよ!今鍵閉めた奴!
「っ!待って!」
近江先輩も近付いてくる。開かない焦りと聞かれた羞恥心から頭がパニックになる。もうヤケだ。後はなる様になれ!
くるりと扉に背を向けると近江先輩に向かって叫ぶ。
「近江先輩!優しくて笑顔が素敵で、スクールアイドルに一生懸命な姿に惚れました!おっとりしてるのに裏では努力してる姿がかっこいいです!そんな近江先輩が好きです!付き合ってください!」
言い切った…!ダメならダメだった時だ!
「…!実はね〜彼方ちゃんね、しずくちゃんが蒼山くんのことよく話してたの聞いてたんだぁ〜
それで少しだけど気になってたんだ♪
彼方ちゃんでよければよろしくね?凪くん♪」
「…え?告白受けてくれるんですか…?」
「うん♪でも彼方ちゃん、独占欲がかなり強いけどいいの?」
「全然問題ないです!ありがとうございます!すっごく嬉しいです!」
「言質取ったからね?」
何か近江先輩が言った気がしたが嬉しさのあまり聞き取ることができなかった。
晴れて俺と近江先輩は恋人になった。
しかし近江彼方の本性をこの時はまだ知る由もなかった。