「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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オーディションと新メンバー

 オーディションが始まった。さっそく俺たちの出番、というわけではなく待機である。オーディションはいくつか分かれていて俺らがやるのは最後の総合パフォーマンスというものらしい。端的に言えば生音に合わせて歌ったり踊ったりをどれだけこなせるか、グループ単位でやるオーディションとのこと。なので今はマキナさんレイナさん、美雲さんと一緒にモニター室で待機してる。

 

 「クモクモお気に入りのこの子、どうかな~」

 

 「レセプターは、ある。けど反応よわよわ」

 

 「そうね、最後まで見てみないとわからないわ」

 

 カメラが別室で歌っているフレイアによってそのレセプターのパラメータを表示してる、らしい。らしいというのは俺たちが文字を読めないからそうとしか推測できないわけで、分からないのはしょうがない。現にヒマリは頭の上にひよこが舞ってるし、ツムギは虚空を見つめている。暇なのはわかるんだけどもうちょっと何とかならんのか。

 

 そして、ダンスオーディション、基礎体力テストと続いて俺たちが携わる総合パフォーマンスの時間がやってきた。現時点でいけるかもという人は31人中4人まで絞られているらしい。だけど、レセプターの数値的にはいかんともしがたいという感じとのこと。とにかくお願いね?とカナメさんに頼まれた俺たちが楽器を持って待機してると最初の5人が入ってきた。

 

 『はい、では総合パフォーマンスを始めます。演奏に合わせ、自由に歌い、踊ってください。これは鎮圧ライブ時に不測の事態が起きても問題なくパフォーマンスができるかどうかのアドリブ力の試験だと考えて。曲目は「一度だけの恋なら」カウントはそっちのバンドの子たちがやってくれます』

 

 そう言ってぷつんと通信が切れる。参加者の女の子たちがそれぞれ位置につくけど俺たちに注がれる視線はなんだか懐疑的だ。それもそうなのかもしれないけど、だって憧れのワルキューレのオーディションに来たと思ったらオーディションのバックバンドはこんなチンチクリン3人だとしたらそんな胡乱な視線になるさ。だけど大丈夫か?きちんと集中しないで、「一度だけの恋なら」は前奏が存在しない、集中してきちんと入れないと醜態をさらすかもよ?

 

 「行きます!ワン、ツー!ワンツースリー!」

 

 とカナメさんに指定された合図を刻んだヒマリを確認したツムギがメロディを演奏しだす、案の定入れなかった人が3人、きちんと入った人が2人、ダンスまでやってのけたのは1人だ。厳しい曲選だ。まあ俺たちは入れなかった人たちの事は考えなくていいと言われているので演奏を止めることもリズムを狂わせることもなく、忠実なリズムで弾く。入れなかった人が遅れを取り戻そうと無理やり入るが落ち着いてないのでリズムが狂いまくる。それが周りを引っ張ってかなり悲惨な感じになっているのが現状だ。当然、正しく入ってた人もそれにつられて狂いだす。

 

 がたがたのアンサンブル、正確なのは俺たちが奏でる音楽だけ。持ち直してる人は一人、この人は自分の世界に入ってる。俺たちの音と自分の体、自分の声しか意識を向けてない。他をシャットアウトしてるんだ。そうしてきちんと歌えて踊れたのは一人だけ、他の人の表情は沈んでいる。

 

 『はい、終了です。ありがとうございました、合否は全工程が終了してからお伝えします』

 

 「すいません!お願いします、もう一度だけ歌わせてください!」

 

 「私も、お願いします!」

 

 『ダメです。私たちワルキューレの任務に「2度目」は基本的に存在しません。大方バックバンドに気を取られて、と言いたいのでしょうが…その程度で乱される集中力で戦場に立てると思わないで』

 

 2度目を申請した参加者がカナメさんにばっさり切られた、がっくりと肩を落とした参加者が瞳に涙を浮かべてドアから出ていった。厳しい、歌のプロと戦場に立つプロという立場から送られる言葉は何よりも重く俺たちにも刻み込まれるのであった。

 

 

 

 「フ、フレイア・ヴィオンですっ!よろしゅくお願いしますっ!」

 

 あれから4組、それぞれ一発で俺たちの音を聞いてパフォーマンスをした人や自分の世界に入りすぎてズレた人、入れなかった人など千差万別ではあったが俺たちの方はトチることなく仕事をこなすことが出来た、と思う。多分だけどカナメさんたちが求める合格点には届いてないのかもしれないけど。俺が予想する合格基準は基準以上のレセプター数値か、レセプターの数値が低くともそれを補えるほどの歌唱力とダンスなどのパフォーマンス力、その二つのうちどっちか。俺が見る中でワルキューレ並のパフォーマンスをしてる人はいなかった、ありえるとしたら前者の可能性の方が高いから数値を見てない俺が断言できるものではないけど、あの演奏して歌ってもらった時と同じ感覚はついぞ現れなかった。

 

 そして今、目の前で俺たちに向かって噛みつつ自己紹介をして頭を下げた少女は、今のカナメさんたちにどう映っているんだろうか。今までたかがバックバンドと会釈だけされて終わってたからなんかきちんと挨拶してくれて嬉しい、年が近いからかな?そう考えるとウィンダミア人からしたら俺たちは子供じゃなくてもうすぐ成年扱いになるのかもしれない。

 

 「…よろしく、お願いします。頑張って」

 

 「は、はいな!」

 

 「じゃあ行きまーす!ワン、ツー!ワンツースリー!」

 

 「一度だけの恋なら、君の中で遊ぼう 我がままなキスをしよう」

 

 すっげえ、あんなに緊張してたのに一発で入りやがった。他の人たちも入ったけどフレイアさんだけ別格だ。歌が上手い、レセプターがこれでオフだとしたら…オンになったらどれだけ…!これ、俺たちもノリたくなってくるよ。だけど、贔屓になったらいけないのでぐっとこらえて決まったリズム、メロディーをキープし続ける。ほのかにルンが光るフレイアさんを見つめてしまう。流れ通りになるかは分からないけど、本当の最終試験に向けてどうなるか俄然気になってきたぞ。悟られては困るので、務めて無表情でいないと。

 

 

 そうして高い歌唱力と拙いダンスを披露しつつ、フレイアさんは他の参加者さんと一緒に出ていった。俺たちは楽器を下ろしてふーっと一息ついて地面に座り込む。ヒマリが口を開いた。

 

 「ねえ!さっきのフレイアさん、すごかったね!歌凄い上手だった!」

 

 「…うん、音楽をきちんと聴いて合わせてくれてた。あの人、合格かな。アルトはどう?」

 

 「そうだな、感覚的に一番ノリ易そうなのはやっぱフレイアさんだよな。いやあれはすげえよ、多分合格もぎ取ってくるんじゃないか?」

 

 そうやって雑談に花を咲かせているとドアが開いた。カナメさんだ。マキナさんたちは最終試験をするという話を事前に聞いているのでいないのは分かってるし、その試験を受けるのはフレイアさんなんだろう。そして今頃、ハヤテ・インメルマンもアラド隊長にスカウトを受けているころだと思う。

 

 「3人とも、お疲れ様!本当にありがとうね~!きちんと出来てたわよ~、やっぱり生音のほうがレセプター数値は上がるみたい」

 

 「お役に立ててよかったです。あの、それで合格者は…?」

 

 「あなた達は誰だと思うのかしら?」

 

 「「「フレイア・ヴィオン」」」

 

 「息ぴったりね…そんなに違った、のかしら。最終試験次第だけど…そうだ、今日から住む場所変わるけど大丈夫かしら?」

 

 「どこに、ですか?」

 

 「アルトくんは男子寮、ヒマリちゃんとツムギちゃんは女子寮になるのかしらね」

 

 「…アルトと離れたくない」

 

 「いや、です。ごめんなさい…」

 

 ぎゅむぅと二人して俺にくっついてきた。まあ、どっかでこうなるとは思ってたんだけど思ったより早かったな。あららと困った顔をするカナメさんとできれば二人を優先したい俺としては無言でカナメさんの裁定を待つしかない。二人からすれば俺と離れるのは同じ世界の事を共有できる人が一人減るということであるし、まだ警戒してる二人からしたら全力で嫌がるのもしかりって感じだろう。困ったなあ…

 

 「いつまでも休憩室間借りしてるわけには行かんだろうしなあ…何とかなりませんか?」

 

 「そうね、精神的にも無理矢理はがしちゃ可哀想だけど…アルト君は女子寮で寝られる?」

 

 「外でテント張って暮らしていいなら」

 

 「許しません」

 

 だよねー。結局離れなかった二人の事を考えて落ち着くまでは休憩室を間借りしてていいとアーネスト艦長が太鼓判を押してくれたのでとりあえずこの件は流れることになった。それとある意味でヒマリにとって朗報なのだがワルキューレが使う楽器全ての使用許可が下りたらしい。つまりギター、シンセ、ベースだけじゃなくてトランペットとかサックスとかも死蔵されてるだけであるらしい。使えるなら使っていいよとのこと。ワルキューレが迷走してた時期の副産物だって、バンド方面だけじゃなかったのね…

 

 何と無しの雑談を柔らかく笑うカナメさん、ギターやベースも数種類あるとかなんとか、マジで?アコギ使えるなら使いたいんだけど。それはともかくとして、どうやら合否の連絡が来たらしい。カナメさんが席を外して外に出ていった。俺たちも使った楽器の手入れを済ませて奇麗に片づける。結果が予想通りなら嬉しいんだけど…

 

 

 そう考えながら私服に戻った俺たち、でも私服も洗って着まわすのがきつくなってきそうだ。そろそろ服も変えないとなあ…いくら一瞬で洗濯されて乾くとはいえ。そしてカナメさんに呼び出された俺たちがケイオスの受付に赴くと私服のチャックさんとカナメさんに出迎えられた。

 

 「お、来たね~。初仕事お疲れさん!新入りの歓迎会やるんだ、お前らも主役だぞ~!」

 

 「ふふっ、貴方たちの予想通り、フレイアさんが合格よ。今日は一日お疲れ様」

 

 「…カナメさんたちのほうが大変だった。お疲れ様でした」

 

 「そうですよー。私たちは同じことしかしてませんし」

 

 「チャックさん、すいませんわざわざ…」

 

 「気にすんなよー。新人拾っていくぞー」

 

 そうしてモノレールで道を下って異国…異星?情緒あふれるラグナの街をおっかなびっくり進んでいく。待ち合わせ場所らしいカフェには既にフレイアさんの姿とハヤテ・インメルマンの姿がある。彼らは俺たちに気づくとフレイアさんはパッと顔を輝かせ、ハヤテさんの方は物凄い怪訝な顔をした。真逆の反応に思わず笑いそうになったよ。

 

 「あー!オーディションの時のゴリゴリバンド!」

 

 「ゴリゴリバンドのヒマリでーす!合格おめでとうございます!フレイア・ヴィオンさん!」

 

 「ゴリゴリ!」

 

 「ゴリゴリ!」

 

 「「ゴリゴリ~!」」

 

 「何やってんだか…で、お前らだれ?」

 

 「ふふっ、この子たちは貴方たちと同じ新入り。ワルキューレのバックバンドになる子たちなの。今日のオーディションにも協力してもらったわ」

 

 なんか波長が近いらしいフレイアさんとヒマリが一瞬で仲良くなってゴリゴリ言い合ってるのを尻目にハヤテさんがそう尋ねるのをカナメさんがサラッと説明してくれた。どうやら何もかもを話す必要はないらしい。おいおい必要になったら話すべきだろうか。

 

 「サオトメ・アルトです。よく言われるんですけど本名です。よろしくお願いします。あっちでゴリゴリ言い合ってるのがスズカゼ・ヒマリです」

 

 「…イロハ・ツムギです。よろしくお願いします」

 

 「なんかそんな露骨に警戒されるとちょっとくるな…ハヤテ・インメルマン、ハヤテでいい。よろしくな」

 

 人見知りを発動させて俺の後ろから顔だけ出してボソボソ自己紹介をしたツムギを見たハヤテさんが自己紹介を返してくれた。自己紹介が終わったのを見計らったのかチャックさんのとりなしで裸喰娘娘への道のりを歩いていく。前は昼にここを通ったけど夜に来ると全く風情が違う。まるで空中にクラゲが舞ってるような幻想的で淡い光が照らしていた。

 

 「なあ、アルトっつったっけ。バックバンドってことはお前も戦場に出るのか?」

 

 「それは、まだです。ワクチンライブのみってことになってます。出るのかどうかは決めてません」

 

 「ふぅん。ま、お互い仲良くしようぜ。いくつだ?俺17だけど」

 

 「12です、もうすぐ13ですかね。二人も大体一緒ですよ」

 

 「わっかいな~、今度何か聴かせてくれよ」

 

 「いいですよ。どういうのが好みなんです?」

 

 「リズム感がいいやつ」

 

 そうしてきょろきょろと周りを見渡してでかるちゃ~とつぶやくフレイアさんとそれを苦笑いしながら見るハヤテさんを連れて裸喰娘娘にやってきた。誇らしげに家兼デルタ小隊男子寮だというチャックさんとその家族が姿を現した。携帯が何だという話の中突然の「私のおさかな~~!」という声と共に、テラス席からこちらの方に猫の上半身とアザラシの下半身をくっつけた生き物が魚をくわえて此方に向かっているところだった。

 

 「なにあの…猫?」

 

 「…初めてみた」

 

 「ウミネコだ!あいつっ!また…!チャック兄さんに任せなさい!」

 

 そう言ってチャックさんがお魚咥えたウミネコと取っ組み合いに入るが、素早いウミネコに翻弄されて額をぶつけあって撃沈した。うわ、いったそ~…!その件のウミネコは逃げる為に俺たちの方へ向かってくる。げっ!狙いは…ハヤテさんか!

 

 「えっ!?俺か!?どわっ!?」

 

 「…だめ」

 

 「ブニャ゛ッ!?」

 

 ハヤテさんに向かって強烈な尻尾ビンタをかまそうとしていたウミネコはジャンプしたツムギに正確に脇に手を入れられてインターセプトされた。まさかキャッチされるとは思ってなかったウミネコが逃げ出そうと暴れるが長時間のガンプラバトルに耐えられる上にシンセサイザーという楽器もこなすツムギの握力は見た目以上に強い。ビチビチと陸の上の魚みたいな暴れ方をするが意に介さずツムギは手を伸ばして持ち続ける。やがて逃げられないことを悟ったウミネコがうなだれた。

 

 「ツムギちゃん、ナイスキャッチ!」

 

 「ツムギ、ナイス。まさかなお魚咥えたどら猫をホントに見る羽目になるとはな」

 

 「…ちょっとかわいい。でも泥棒も人を怪我させるのも、ダメ」

 

 「ウ゛ニャウ…」

 

 実際ツムギからすればあの程度の速度ならまあ止まって見えるのだろう。それで、何時もガンプラバトルでやってるように軌道の予測をして先読みしたうえで動いた。それを分かってるのは多分パイロットやってるチャックさんだけ。彼はポカンとした顔でツムギを見ている。そういえば彼女の目の良さはまだ誰も伝えてないんだっけか。

 

 「へくしっ!」

 

 後ろから盛大なくしゃみ。ハヤテさんが鼻をすすっている。鼻の頭が赤いからアレルギー性鼻炎なのかな?猫アレルギーかぁ、ラグナで暮らすには大変そうだ。心配そうなツムギが近づいて声をかける。ウミネコ持ったまま。

 

 「…大丈夫?」

 

 「近づけないでくれ!猫アレルギーなんだ、っくしゅん!」

 

 盛大なくしゃみが何発かくらいラグナの夜に響いた。




 お待たせしました。本日2話目です。やっと物語が進みますね~、といってもまだしばらくはラグナ周りの話になるでしょうしアルトくんの戦場ポジションを決めないといけません。

 本日同時更新している本編の方もよろしくお願いします
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