「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集 作:カフェイン中毒
「アルトくんアルトくん!次あれ作って!東京タワー!」
「おっし任せろ!こうしてこうしてこうだ!どうよ!?」
「…流石はアルト、完璧」
「…うっわ~~~~」
「さすがのマキナもドン引き」
現在の状況と言えばワルキューレのシグナスの操作のトレーニングを一緒にやっているのであるが、両手をせわしなく動かす俺の操作で舞い上がるシグナスの数
まず最初に脱落したのがフレイアさん、2機、次、美雲さん、8機、カナメさん、10機、マキナさん、14機、レイナさん記録更新で16機、ヒマリ、20機、ツムギ、30機、ラストに俺、とりあえずあるやつ全部。で、俺がこんだけの数動かせるのにはカラクリがある。実際俺が完璧に細部まで動かせるのは50機が限界だ。それでも多い?多分カイザーさんなら今の俺と同じ200機をマニュアルで操作できるだろうからちょっと多い部類だ多分。
実際に俺が動かしてるのは20機、1機のシグナスを親機として子機のシグナスを9機随伴させる、この方式で俺は200機を動かしてるように見せてるだけだ。あとは、動かす順番を決めるだけ。止まるやつは止まってるし、よく見れば動きにズレがあるのがわかるだろう。あとデバイス2個じゃ足りなかったので10個を指全部につけてます。あとは思考がごちゃらないように落ち着いて操作するだけだ。
試しにワルキューレのロゴをシグナスで作ってみたりとかやってみて、おおやれるやんこれめっちゃ楽しいとなってしまったがいかんのだな!アルアル次ジクフリちゃ~~ん!というマキナさんのリクエストに応えてシグナスでジークフリードの形作ってみたりとか。他ウミネコとか、リンゴとか、クラゲとかツムギリクエストのヅダの顔(簡易版)とか今のヒマリの東京タワーとか。数が足りないので若干中途半端ではあるが形にはなってるだろう。
「どんな脳みそしてるんねアルトは…」
「…もともとアルトは同時操作が得意。世界大会の時、遊びで6機の機体を操って私たちと戦ったりしてた」
「一個一個の強さは数が増えるほど下がるけどな。シグナスは操作がかなりシンプルだから数を増やせたんだと思う…でもきっつ…頭痛くなってきた。戻していいです?」
「え、ええ!大丈夫?医務室に行った方がいいんじゃないかしら?」
「いえ、限界まで同時操作やった時に出る知恵熱みたいなもんです。ほっときゃ元に戻ります。ああでも楽しかった~~」
カナメさんの笑顔が引き攣っている。しょうがないけどちょっと傷ついた。本当に、ガンプラバトルで機体を動かしているみたいだった。でも俺たちはワクチンライブで演奏をするのが仕事なのでシグナスの操作はワルキューレがメインになるだろうし関知する隙は無いはずだ。演奏しながら操縦は、最近ちょっと成功したりしたけどそれもガンプラバトルの話。命がかかわるシグナスの操作を片手間でするのはよろしくないはずだ。
「ヒマヒマもムギムギも凄かったけどアルアルだけおかしいね~次のワクチンライブ、シグシグ増やせるんじゃない?カナカナ」
「そう、ね。かなり前向きに考えていいと思うわ。シグナスが増えれば演出もできることが増えるしホログラフもより大きいものが作れる。どう思う?美雲」
「いや、スマンがこっちに貸してくれないか?カナメリーダー」
「アラド隊長!?どうしてこちらに?」
「アイテールの前でこんだけシグナスが動いてればいやでも目立つさ。誘導端末を同時にそこまで操る技量…デルタ小隊にも欲しいところだ」
「まさか…バルキリーに乗せる気ですか!?まだ子供ですよ!?」
かつかつとこちらに歩いてくるアラドさん。ひげを撫でつけながら俺の操作で次々とあるべきところに戻っていくシグナスを感心したように見ている。カナメさんが次にアラドさんが言わんとすることを予想して強烈に反対する。バルキリー!?と思ったけど1ファンとしては操縦席に乗って動かせればそりゃあ感無量というか思い残すことはないというかそういう感じだけど…乗るということは戦うということだ。つまるところそれは…もし人を殺せば俺はどんな顔をして元の世界に戻ればいいんだろうか。複雑な気持ちだ、でも断るべきだと…
「まさか!カナメリーダー俺の事どう思ってるんだ!?」
「…へ?」
「言ったでしょう、誘導端末、だと。もう一つあるじゃないか、ジークフリード用に開発されはしたものの使われてないものが」
アラドさんの全力の否定にカナメさんがポカンとした顔になる。俺もおそらく現在間抜け顔になってるだろう。そしていの一番にアラドさんの意図に気づいたのはやっぱりメカニックのマキナさんだった。彼女はポンと手を叩くと得心顔でうんうん頷いた。
「ああ!スーパーゴーストちゃん!うんうん!カイロスちゃんとジクフリちゃん用の専用ゴースト!確かに誰も使わないから整備だけして死蔵してるよ~!」
「だろ?もしあれを坊主が動かせるならゴーストによる曲芸飛行のプログラムが組める。ホログラフをでかくするのもいいがそっちも悪くないんじゃないか?」
俺の知識にはない話が繰り広げられている。リル・ドラケンが銀河規格共通でジークフリードに装着可能なのは知っているが、それ以降は知らない。俺はΔの映画の2作目が公開される前に死んだから、そちらに出てくる設定のゴーストかもしれないが…そもそもゴーストって半自動操縦でAIが判断してるんじゃないっけ?人間が操縦できるものなの?マシン・マキシマム構想で人間の限界を超える機体だっていうのがコンセプトだし人が動かしたら戦力激減じゃね?
「つまり、アラド隊長が言いたいのは、私にシグナスの操縦プログラムと同じゴーストの操縦プログラムを作ってアルトが動かせるようにしろってこと?」
「できるなら、な。無理なら別に今のままでいい。現状思い付きだからな、そこまでしてできませんでしたじゃ徒労だ。まず坊主の意思を聞こうか」
「すんません、とりあえず話についていけてないんですけど…つまり無人機があって、それを俺が遠隔操縦出来ればお役に立てるって解釈でいいですか?」
「ああ、その通りだ。だが、ビーム砲もミサイルも付いてるシグナスとは全く違う兵器でもある。人を殺せる力がある機械だ。いやだというのならそれでいい」
「…そうですか…明日まで待ってもらってもいいです?」
「ああ、勿論だ。覚悟が決まったのなら、教えてくれ。邪魔したな」
即座に拒否することはできなかった。なぜなら知っていたから、この先戦争が起きて、ワルキューレもデルタ小隊も否応なく戦場に赴くことを知っていたから。その時、仮に俺たちが保護され続けていた場合、エリシオンの中でずっと震えて待ち続けるしかない。もしも、もしもそれを少しでも覆せる力があれば…ヒマリとツムギの二人を守ることが出来るのなら…そう考えると即答は出来なかった。じっくり、この後考えよう。
「アルト君、アラド隊長かなり無理を言ってると思うわ。できることとやるべきことは全くの別物よ。無理をしないで、貴方がこうしたいっていう答えを出して」
「…わかってます。すいません、変な空気にしちゃって。続きお願いします」
カナメさんの真剣な言葉に頷いた俺が思考を打ち切って頭を下げると、アルアル無理しないで~~~!とマキナさんに思いっきり胸の中に抱きすくめられた。顔面に柔らかいものを感じて今までの思考が吹っ飛びフリーズする俺をあーーーーーっ!!!というヒマリの悲鳴が襲う。やべえこれヒマリがすねちまう!やめてマキナさん!とタップするが力が緩まない!ヒマリに引っ張られてすぽっと抜けた俺を待っていたのはジト目の俺のパートナー二人であった。なおそのあと土下座を敢行したのは言うまでもない。下心はなかったけど、ごめんなさい。故意じゃないんです…!レイナさんがすげえニヤニヤしてたのが印象的だった。くそう。
「みーつけたっ。隣、いいかしら?」
「…カナメさん、どうしてここに?」
「私、今日当直なの。あなたが部屋を出たのがわかったから追いかけてきちゃった」
あの後しっちゃかめっちゃかになってしまった訓練で、考えを纏めることが出来なかった俺は一人で昼、ジャズセッションをした場所でラグナの夜景を見ていた。ヒマリもツムギも、俺が扉の外へ出たことは気づいていたようだが…そっとしておいてくれるらしい。一人で考えを纏めたいと思っていたから、ありがたかった。カナメさんが来たのは、予想外だけど。
「お昼の事よね、アラド隊長も唐突なんだから…」
「そうかも、しれません。けどある意味いいタイミングなのかもしれない、と思いました」
「それは、どうして?」
「ワルキューレのバックバンドの話…ワクチンライブだけっていう約束だったと思うんですけど、絶対どこかで無理になるって思うんです。だって、俺たちにはレセプターをオンにできて、ヴァールに対抗できる力がある。もし、俺たちが出ない鎮圧ライブでワルキューレの誰かが怪我をしたら、下がったレセプター数値を補えるスペアになれてしまう」
「いいえ、ありえないわ。同意を取らないで戦場に送るなんてワルキューレのリーダーとして、私が許さない。あなた達を無理に戦場に送るなんてことはしない」
「そこで、同意をとってもやらない、って言わないのがカナメさんの優しいところだと思います。できれば鎮圧ライブ、俺たちにも参加してほしいんですよね?」
カナメさんが俺から目をそらす。海のような深いブルーの瞳が、ラグナのあたたかな街並みを映していた。レセプターの数値は、多いほどいい。同意が取れるならば、いくらだっていて欲しいんだ。俺たちには力がある、これがただ無力なだけならばこんな面倒くさいことにはならない。本当に保護されて、ただの子供として処理されていたはず。
現実は違う。レセプターがあって、膨大な数のシグナスを同時制御できる。そして、ワルキューレの精神を高ぶらせるほどの演奏を披露できる。欲しくないわけがない。どれか一つでもあれば、任務の成功率は格段に上がる、それがお得セットのようにまとめてくっついてるのであれば…そんなもの絶対に使いたいに決まってる。俺だってそうだ。
「…本音を言うと、そうよ。協力してもらえればワルキューレもデルタ小隊も、一般市民すらかなりの被害の軽減が見込めるわ。より多くの人を助けることが出来る。だからって、それをするために人が犠牲になっていいわけじゃない」
「でも、俺には覚悟がない。あなた達のように他人のために自分の命を犠牲にできない。俺が一番守るべきなのは…あの二人だから」
「それも立派な覚悟よ。その覚悟があったから、私はあなた達をワクチンライブに誘った。あなた達を保護した時、身を挺して二人を庇っていた貴方がいたから私たちはあなた達を保護したの。命のやり取りの場で自己より他を優先していたから」
「かないませんね。流石はワルキューレのリーダー…」
「…こんな、人を戦場へ誘う言葉で褒められたくはないわ。自分の意思で来たハヤテやフレイアとあなた達は違う。拒否する権利がある。自由なのよ。少なくともその選択肢においては」
しん、とラグナの海風が吹き抜ける音だけになる。手すりにもたれかかった俺とカナメさんの間に会話はなく、沈黙が場を支配した。なんで、どうしてと嘆くだけなら無限にできるけど…今俺が欲しいのはなんだ?力だ。人を殺す力じゃなくて二人を守ることかできる力。別にゴーストで誰かを殺せと言われてるわけじゃない、今はまだ。だったら、やることは決まっているじゃないか。
「…もし、俺がゴーストを動かすって言った場合…一つだけお願いしたいことがあるんです」
「…なにかしら?」
「引き金は俺だけに引かせてください。あの二人が何をしても、人を殺すような兵器に触れさせたくない。ケイオスは軍隊じゃない、だけど軍事力はある。人を殺すことも、きっと」
「否定は、できないわ。私たちが手にかけた人がゼロだなんて口が裂けても言えない」
「もしそれが必要になったら、俺がやります。二人に危険が迫ったら、二人が汚れる前に俺が汚れます。それを、容認してください」
「………わかったわ。だけど、これだけは覚えておいて。あなた達は、私たちが守る。何があっても、貴方たち3人に最後の一線は超えさせない。必ず、元の世界に返してみせるから」
だから、一人で抱え込まないで、とカナメさんは真正面から俺を抱きしめてそう言った。強くなりたい。ガンプラバトルじゃない場で初めてそう思った。どんな嵐が来ても二人を守って乗り越えられる強さが欲しい。戦場はシビアだ、とラルさんが何時だか言っていた言葉が頭をよぎる。優しい人たちに報いる手段が、その人たちを苦しめる結果になるのがたまらなく悔しい。価値を見せないと、この人たちに認められる価値を。俺は強くそう決意するのだった。
アルト君、悩む。デルタもフロンティアもそうですけどガチ戦争なんですよね。バルキリーに乗せるかどうかは最後まで悩みましたが、さすがに無理だと判断しました。
ゴーストだからオッケーなわけないんですけどね。一人だけ来るかもしれない未来が分かってるからこそ、人を殺すかもしれないと悩む。カナメさんたちは考えすぎじゃないかという感じで接する。
なんだこのシリアスは。もっとこう…こいつ変態やん…!みたいな感じにしたかったのに。では次回、よろしくお願いします。