「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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トライアル・デルタ

 翌日の事。昨日のカナメさんとの話し合いで覚悟を決めた俺は二人にきちんと話しておくことにした。朝に弱いヒマリですらも、俺の呼びかけで目を覚まし、3人そろって真剣な顔で向き合う。寝間着だからちょっと間抜けな絵面かもしれないけどそれは許してほしい。口火を切ったのは当然、俺。

 

 「昨日、よく考えたんだけど…ゴーストを動かす話、受けようと思う。それと、俺も鎮圧ライブの方に参加することにした」

 

 「鎮圧ライブ…って私たちが来たときみたいな…」

 

 「ああ、戦場だ。いつまでケイオスが俺たちを無償で保護してくれるか分からない。何かしらの価値を見せる必要がある。ワクチンライブと並行して俺たちをケイオスになくてはならない人材にできれば…帰るまでの衣食住が保証されるはずだ」

 

 「…そんなの勝手に決めたらだめ。私もやる」

 

 「そうだよ!アルトくんがやるなら私たちだって!」

 

 「ああ、多分そういうと思った。多分やめてくれって言ったって掴まってついてくるんだろ?だから…兵器を使うのは俺だけだ。鎮圧ライブに一緒に来てくれてもいい。だけど、ゴーストを動かすのは俺だけだ。銃もミサイルも俺が撃ってお前らとワルキューレの人たちを守る。だから…お前らはシグナス使って、俺の事守ってくれよ、頼むぜ」

 

 我ながら最低な妥協案だ。自分でもそう思う。でも、二人を納得させられる手段を俺は持ってない。俺一人だけ戦場に行くとして、二人は何としてでも俺を止めるか、一緒についてこようとする。知らないところで危険な目に合われるくらいなら手が届く俺が守れる範囲にいて欲しいという俺のエゴ。攻撃するための力は俺が持つ代わりに、守るための力を渡すからと一見フェアなトレードに見せて自らを守れる力を取り上げるという所業。ああ、吐き気がする。後戻りはできない。

 

 「ねえ、アルトくん…無理、してない?」

 

 「…私たちのためにアルトが壊れちゃうのは、やだ」

 

 「ここに来てからずっとそうだよ。心配すんな、お前らよりは頑丈だ。着替えていこうぜ」

 

 二人の納得できないけど、俺の提案以上の案が思いつかないから、というなし崩し的な了解の返事の後、そう言われた。無理をしてる自覚があるのはお互い様だ。二人が夜毎に声を押し殺して泣いていることを知っているし、ちょっとした暇があれば携帯の電話帳を眺めているのだって知っている。努めて明るく振舞っているのはわかるけど、何年一緒にいると思ってるんだ。俺が多少無理をするくらいなんだってんだ。女の子泣かせてまで自分が大事だなんて言うつもりは毛頭ない。これも元の世界に帰るためだ。

 

 

 

 「おはよう、3人とも。食堂に行きましょうか」

 

 「いえ、アラドさんと先に話してきます。食べたら後悔しそうですし」

 

 「ハヤテさん、大変そうだったもんね…」

 

 「…エチケット袋を用意しないと」

 

 「初日でそんなことはしない、と言えないのがアラド隊長よね…2人も、ってまさか」

 

 「私たちも鎮圧ライブに参加させて下さい。アルトくんだけに任せて引きこもっていられないです」

 

 「…自分の生活費くらい、自分で稼ぎます。アルトを、支えたい」

 

 「らしいです。少なくとも、足手まといにはならないようにします。あとで書類にサインさせてくださいね」

 

 「本当に、いいのね?」

 

 悲痛なものを見る顔で俺たちを見るカナメさんに、俺たちは深く頷いたのだった。かぶりを振るカナメさんも顔を引き締めて、アラド隊長のところに行きましょうか、と言ってくれた。

 

 

 「お、お揃いだな。カナメリーダーまで。決まったか?」

 

 「はい、やらせてもらおうと思います」

 

 「それとアラド隊長、3人とも鎮圧ライブへの参加を希望しているのでそれに向けた訓練も開始します。アルトくんがゴーストを動かすなら、彼女たちはシグナスをと。責任は持ってください」

 

 「お前…1日でそんなことまで決めてたのか。いや、自然な流れか。察しがいいのも考え物だな」

 

 「アラド隊長!」

 

 「分かってる。坊主、いやアルト。お前が何を考えてその答えを導きだしたのかは知らん、だがお前が撃つ前に俺たちが撃つぞ。ケイオスは、少年兵なんか必要としてないからな。お前が鎮圧ライブで撃つのは、こっちに飛んでくるミサイルくらいだ。人は、撃たせん」

 

 「そう、ですか。ちょっとほっとしました」

 

 アラドさんの言葉にほっとした。鎮圧ライブにも出ると決めた以上、基礎体力をはじめとしたトレーニングもしなければならない。ゴーストを動かす俺は必然的にデルタ小隊よりになるためデルタ小隊で基礎トレーニングをすることになるけど、ヒマリとツムギはシグナスのためワルキューレでの訓練となる。この世界で初めて二人と別れることになるが二人もここに来る前にカナメさんにお願いしている。置いていかれるのは嫌だ、ついて行けるようにしてくださいと。カナメさんもそれに了承を返している。

 

 「当然だ。さて、アルト候補生。朝飯は食べてきたか?」

 

 「抜いてきました」

 

 「ハヤテを見てればそうか。いいだろう、今日からお前も訓練に加える、みっちりしごいてやるので覚悟するように」

 

 「はいっ!」

 

 俺の顔を覗き込んでそう尋ねてくるアラドさんに俺は大きく返事を返すのだった。ワルキューレの方に行くらしい二人と軽くハイタッチして俺はアラドさんについて行くのだった。

 

 

 

 「総員、集合。よし、では本日の訓練を開始する。ミラージュ少尉はハヤテ候補生と引き続き飛行訓練を。チャック少尉は俺とメッサーとだ。何か質問は?」

 

 「あの、アラド隊長…どうしてアルトがここに?」

 

 「仮ではあるがこいつもデルタ小隊の候補生になる。バルキリーに乗せるわけではないがな、ジークフリード用のゴーストがあったろう。それの専任オペレーターになってもらう。鎮圧ライブもな」

 

 「反対しますっ!ただでさえ新入りが一人いるのに子供に割いてる時間はありません!」

 

 まあ、そうだよな。ミラージュさんの言葉は正しく正論だ。ただの子供、それもバルキリーに乗れないなら誰かと同乗するか現地での直接操作が求められる。危険なのは俺も承知の上、反対意見が出るのも分かってる。だから、価値を見せて認めさせてみせる。ちなみに新入りの部分でハヤテさんがめっちゃ不機嫌顔になってる。早く飛ばせろよみたいな顔だ。

 

 「言っておくがミラージュ、これはこの坊主の我がままじゃない。必要だと俺が感じて頼み込んだことだ。わかるな?」

 

 「アラド少佐、差し出がましいようですが俺も反対です。現状のフォーメーションを変えるにはリスクが大きすぎる。ゴーストをどうしても使いたいならチャック少尉に任せてはどうでしょう」

 

 「…昨日、アイテールのカタパルトデッキで何があったか知ってるか?」

 

 「いえ、その時間はフライトログの整理をしていました」

 

 「ああ、しってるぜ?シグナスっつったっけ?あれが滅茶苦茶飛んでたよな。おっさん、それがアルトと何の関係がある?」

 

 「ハヤテ候補生!」

 

 当然メッサーさんも反対、というかもし入った場合の問題点をあげつらうことで否定する理路整然とした理由だ。チャックさんはどうしたらいいもんかとかなりおろおろしてるが積極的に反対するつもりはないようだ。で、アラドさんが言ったのは昨日の出来事の話。ハヤテさんはアレを見ていたのかそれがどうしたとアラドさんに噛みついてミラージュさんが怒っている。

 

 「動かしてたのはこいつだ。現在アイテールに保管されているシグナス予備含めて200機、こいつが全てマニュアル操作で完璧に動かしていた。チャック、お前ジークフリートの電子プログラムを利用して飛行しながらいくつまで操作できる?」

 

 「攻撃が来ないと仮定して30機ですかね。しかしアラド隊長、それマジですか?」

 

 「大マジだ。何だったら動画見せてやろうか」

 

 「…もし仮にそれが本当だとして、なぜそんなことが出来る。答えろ、サオトメ・アルト」

 

 かつかつと靴を鳴らしながら威圧感たっぷりにメッサーさんがこちらにやってきた。流石は軍属上がり、恐怖の使い方というやつをよく理解している。喉が干上がりそうだ、だけど答えることくらいならできる。

 

 「ガンプラバトルです。シグナスの操作、爪にデバイスをつけて操作する方法がガンプラバトルの操縦方法と非常に近かったんです。数についてはもともと同時操作が得意だったとしか言えませんけど…」

 

 「ガンプラバトルってあの…アルトの故郷で流行ってるっていう遊びかい?確かにすごい迫力だったけど…」

 

 「信用するには根拠が薄い。そんな世迷言を信用するなど…アラド少佐、我々はワルキューレの命を守る生命線です」

 

 「なら試してみろ、メッサー。過去どうこうじゃない、今できるかどうかを確認すればいい。それで使えないとお前が判断すれば…その時は大人しくバックバンドやっててもらうさ」

 

 「…了解しました。それならば俺からは特に何も。ミラージュ少尉、まだあるか?」

 

 「いえ、了解しました。訓練へ移ります。ハヤテ候補生!」

 

 「へいへいっと…」

 

 ミラージュさんはメッサーさんが矛を収めたのなら自分も言うことはないという感じでハヤテさんを引っ張って訓練用のVF-1EXの方に行ってしまった。チャックさんもメッサーの相手だなんて可哀想に見たいな感じの顔をしつつもプロとしての判断なのか俺を擁護することなく自分の機体の方へ行ってしまった。

 

 「メッサー、テストはシミュレーターで行うものとする。訓練後だ、いいな?」

 

 「了解」

 

 「俺もすぐそっちに行く…そろそろ、お、きたきた。レイナ、どうだ?」

 

 「バッチリ、シミュレーターの方は大丈夫。あとは、アルト次第」

 

 やってきたのはレイナさんだ、どうやらシミュレーターの調整に来ていたらしい。多分、こうなることをアラドさんは予測していたんだ。仮に俺が断ってたらどうするつもりだったんだろうか?あと、俺がいくら性能がいいゴーストを何機操作しようともメッサーさんには勝てないと思うんだけど…

 

 いや、勝つ必要はないのか。あくまでメッサーさんを認めさせられればいいんだ。けど…何がラインなんだ?正直あの人を認めさせるのってかなりハードル高いような…

 

 「んじゃあ、すまんけどレイナは今日アルトに付き合ってやってくれ。アルト、訓練終わりまでシミュレーターで鍛えてろ。なに、メッサーを認めさせるなんざ軽いさ」

 

 そう言って、アラドさんは更衣室の方まで行ってしまった。残されたのはまさかの放置プレイを食らうという仕打ちを受けた俺と俺を丸投げされたレイナさんである。俺とほぼ同身長の彼女はジッと俺を見つめてそのまま手招きだけして歩き去る。俺は慌てて彼女の後ろをついて行くのだった。

 

 「アルト、ゴーストは基本的に半自動操縦、こうしろという命令はかき込めても人が自由自在に操作できるものじゃない、けど」

 

 アイテールの中、レイナさんが俺を先導してつらつらとゴーストについて説明してくれる。そう、ゴーストはAIによる自動兵器だ。人が操縦する事なんざ考えてはいない。だから、俺がすることもAIへの命令をするだけだと思っていてだからこそどうしようかと思ってたんだけど…

 

 「でも、どこの世界にもバカはいる。ゴーストに乗りたいっていう命知らずのためにシミュレーターにお遊びとして設定されたモードがある。今回それを流用してシグナスの操縦系統と合わせてゴーストの同時操作プログラムを作った」

 

 「あの、それってさり気に1日仕事じゃないような気がするんですけど」

 

 「そう、朝から疲れた。もっと褒めろ、給料出たら生クラゲ奢って」

 

 「あ、はいわかりましたありがとうございます。…本当に大丈夫ですか」

 

 俺がそういうと彼女は勢いよく振り向いてバッチン!と俺の頬を両手で叩いて固定する。そしてぐっと顔を近づけた。ミントみたいないい匂いがする、じゃなくて!無表情な彼女ではあるがその瞳の奥の感情にようやく気付いた。これは…怒り?

 

 「それはこっちのセリフ。私たちの了解もとらずに鎮圧ライブ行きに同意するなんて。サオトメ・アルト、お前が悪いやつじゃないというのは分かる。けど、目的が違うでしょ。死に急ぐ理由はないはず」

 

 「それは…ええ、そうです。俺たちは早く帰りたい。1秒でも早く。ですけど…助けてくれた人に恩が返せるなら、全力でそうしたいと思ったんです。できることをせずに取り返しのつかないことが起これば、絶対に後悔するから」

 

 もちろんこれが全ての理由じゃない。大きな部分を占めるのは全くの私情だ。だけど、今レイナさんに言ったことも紛れもない本音だ。例えば、洗脳されたタツヤさんを見捨てて、廃人にでもなったりしてたら…そんなこと考えるだけでも恐ろしいが、俺はガンプラバトルをやめてバルキリーすら投げ捨ててたはずだ。助けられたら助け返すのは当然の話、ただ唯々諾々と消費だけして過ごしたって、後悔しか生まない。なら、できることをできるだけ全力でやる方がいい。賢くはないだろうけど、それが俺だから。

 

 じっとレイナさんの目を見つめてそう伝える。彼女がどう思ったのかは知らないけど、頬から手が離れる。つかつかと踵を返していってしまう彼女を慌てて追いかける。こちらを振り向かないままレイナさんは

 

 「アルト、お前は馬鹿だ。でも、お前みたいなやつは嫌いじゃない。あのゴリラの驚く顔を、私に見せて。そしたら、クラゲ奢りはなしにしてあげる」

 

 「ええ、見せてやりますよ。俺なりのやり方でやってやります。期待しててください」

 

 俺はそう言ってレイナさんの横に並ぶのだった。シミュレーターとはいえ初めて動かすものだ、経験値も技量も相手が圧倒的に上、だけど俺にも経験はある。命のやり取りでもない本気の遊びだけど、熱量だけなら負けてない。デルタ小隊の訓練が終わる前に、ものにしてやる。




 というわけで次回がアルト君初戦闘のVSメッサーさんです。あれこれ勝てるビジョン浮かばなくね?でもアルト君ならワンチャンあると思うので頑張ってもらいます。

 思ったけどこれアルト君本番だと演奏しながらゴースト運転しなきゃダメなんだよな…どこのサウンドフォースだ。でもバサラさん来たらマジで歌で全部解決しちゃうし…

 あ、ちなみにアルト君が実際にバルキリーに乗るなら早期警戒機です。チャックさんやFのルカと同じタイプですね。ゴーストを操りながらバシバシ自分も攻撃する感じです。主役機?ツムギちゃんです。ヒマリちゃんは勿論歌姫。

 話が進まんね~。アニメの2話の経過時間がどれだけかわかんないけど1か月くらいはありそうって思ってる

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