「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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エンカウント・グリム・リーパー

 「じゃ、中に入って。それとこれ、マルチデバイス。指全部につけること。こっちで操縦を逐次見て最適な形に修正するからとりあえず1機だけで動かす」

 

 「はい、よろしくお願いします」

 

 でっかい棺桶のようなシミュレーターの前でレイナさんにそう言われて渡された付け爪型のマルチデバイスをパチパチと全ての指にはめていく。そのまま開いたシミュレーターの中に入り込んで操縦席に腰をかける。ガンプラバトルは立って全身を使って操縦するから座ってするのは始めてだな…そもそもが爪部分の動きと脳波制御だからあまり関係ないのかもしれない。

 

 『準備できた?よし、じゃあシミュレーター起動。揺れはしないけど、映像はゴースト視点だからそれだけ気を付けて』

 

 「はい、お願いします」

 

 ぼう、と正面と側面、上部のモニターが起動する。最初に表示されたのはこれから操縦するゴーストの外観と詳細データ。データの方は文字が読めないから分からないが外観を見てハッとする見た目、これ翼が違うだけでV-9とほぼ同じじゃん。実際の性能は下がるどころか上がってるんだろうけど…いや、どうでもいいや。いつもとやることは変わんない。データの空に舞い上がるだけ。

 

 『始める、3、2、1…スタート!』

 

 画面の文字、補助AIが表示するREADYがGOに変わる。1人称視点なのはガンプラバトルと変わらない。とりあえず手を使って操縦してみよう。ぐっと加速、ゴーストはガンプラバトルでのバルキリーとは比にならない急加速で空へ舞い上がる。おお、なるほど。バレルロール、インメルマンターン、ハンマーヘッド、レスポンスがほぼゼロだ。手の中に何時ものコンソールがないのが違和感半端ないけど、動かせる。

 

 マルチデバイスが表示する現在速度、マッハ3。確かV-9と同じ年代のゴーストであるQF-5100Dが大気圏内でマッハ5まで耐えられたはずだ。この機体もそれだけの加速ができると考えてもいいだろう。もっと速く!画面の中の空、音を軽く超えたゴーストの軌跡は今どうなっているのだろうか。雲を破って、海と空しかないデータの世界に舞い上がる。同じだ、ガンプラバトルと。ちょっと操縦しにくくなっただけ。ノウハウを完全に生かせそうだ。俺ならカバーできるだろう。

 

 『いくよ、仮想敵配置。敵機はVF-171が1機、3秒後、後方に出現』

 

 レイナさんの操作で仮想敵であるナイトメアプラスが俺の真後ろに出る。後方にアラート、即座に右旋回のあとバックをとる。マッハ4からマッハ1に速度が一瞬で落ちる。ゴーストの最大の利点は人体の限界を無視できること。俺がガンプラバトルでやってるような人が乗ったら一瞬でケチャップになるような動きをしても全く問題がないことだ。だから、相手のナイトメアプラスの真下に鋭角にもぐりこむ。そのまま、両の翼に向かって2発、ビームを打ち込んだ。翼をもぎ取られたナイトメアプラスは失速して海面に不時着、撃墜判定だろう。

 

 『お見事。少し待って、実際の操作と処理が追い付いてない。本当にできるんだね、正直かなりびっくりした』

 

 「かなり操作感覚が近いので、数も増やせそうです。2機に増やしてもらってもいいですか?」

 

 『わかった。次は2機で始める。とりあえずプログラムの修正を先にやる』

 

 多分、数はガンプラバトルと同じくらいだ。腕も足も変形もないけれど、強さを保てるラインはきっとそこまで。それに、ほぼ棒立ちだったナイトメアプラスだけどこれが動いてたらどうなのかもある。武装の選択と操作は大体わかった。あとは俺の動き、ガンプラバトルでのファイターの動きをどこまで流用できるか。こんな時ではあるがかなり楽しくなってきた。でも、兵器なんだ。それだけは必ず心に刻んで動かすようにしよう。

 

 

 

 

 

 

 「…本当に玩具の技術?どんなのかすごく気になってきた」

 

 「本当に遊びなんですよ。人生かける人が山ほどいますけど。ガンプラ売って生計立てたりするくらいには」

 

 「ヤバヤバ、玩具で暮らせるなら苦労はしない」

 

 3時間後、いったん休憩ということでシミュレーターから出た俺は、レイナさんがくれた水、めっちゃ見覚えのある天然水を飲んでいた。そう、Δ本編のリンゴと食うとヴァールを発症してしまうやつだ。水を見て一瞬固まった俺を不審そうな顔でレイナさんが見るので何でもないですと受け取って飲む。ウィンダミアアップルと一緒に食べなければ大丈夫、暫くリンゴはノーサンキューだな。レセプターがあるから発症自体はしないだろうけどこれもできるだけ早期に解決しないと。どう伝えたもんか…

 

 パリパリと小動物のようにクラゲチップスをかじるレイナさん。俺の視線をどう解釈したのか「私は安くない女、あげない」とチップスを腕の中に隠した。いえ別にこの後の事もあるんで食べたら面倒になるから要らないですと言ったら安心してパリパリを再開した。で、さっきまでのシミュレーターの結果なんだけどかなりいい感じだ。ハヤテさん風になったけど、シミュレーターのゴーストの性能がかなりいいし、逐次修正を加えられた操作プログラムのおかげでガンプラバトルと変わらないくらいの動きはできる。問題なのはガンプラバトルを上回る動きができないということだ。そのくらいしないとメッサーさんには勝てない。遊びと戦争の差は大きい。まだ理解していない俺でもその程度は分かる。

 

 

 「どうだ?多少は慣れたか?」

 

 「アラド隊長、アルトかなりできる。メッサー、覚悟すべし」

 

 「…どうだかな」

 

 「へえ、お手並み拝見といこうか。アルト、いいか?」

 

 「はい、メッサーさん…よろしくお願いします」

 

 「…準備しろ」

 

 シミュレータールームにやってきたのはアラドさんメッサーさんを始めとしたデルタ小隊の面々。パイロットスーツのままということは訓練が終わってすぐにこっちにやってきたということか、俺ももらったタオルで汗を拭きとってマルチデバイスを付け直す。メッサーさんは言葉少なに隣のシミュレーターの中に消えていってしまった。俺も頭を下げた後シミュレーターの中にはいる。すぐさまシステムが立ち上がった。

 

 『今回のテストでは、メッサーに全ての判断を一任する。撃墜判定でも有効打でも好きにしろ。アルトは使用するゴーストが全て撃墜されたら終了だ。俺たちも、シミュレーターの中で見学させてもらう』

 

 『了解しました。サオトメ候補生、俺に有効打、もしくは撃墜判定を出せば合格とする。チャンスは1回のみ、やるか?』

 

 「やります」

 

 『…5分後に開始とする。チェックをしておけ』

 

 チャンスは一回、当然の話か。ワルキューレのオーディションと一緒だ、ただ一度のチャンスをものにできるか、それに向こうはアラドさん以外俺を採用したくないはず、時間の無駄だと思っているということ。でも、俺も必死なんだ。食らいつけるだけ食らいついてやる。それに、レイナさんとも約束したし、ツムギとヒマリだって頑張っている。俺だって、やらなきゃいけないんだ。

 

 パキパキと指を鳴らしてリラックス、ガンプラバトルのコンソールを握る様に手を固定する。最後の確認に即答した俺をどう思ったのかメッサーさんはヘルメットのバイザーを下ろしつつそれだけ言って通信を切った。画面が立ち上がってREADYの文字が表示される。タイムカウントがゼロになり、始まった!

 

 画面が切り替わった瞬間素早く操作する。どこにいるか分からないメッサーさんに見つからないように4機のゴーストに指令を送って上空へ舞い上がらせた。そのまま、残り6機のゴーストを操って、レーダーを気にしつつ雲の中に入る。

 

 今俺が操縦しているゴーストは全部で10機、ガンプラバトルでやれる最大数と同じだ。メッサーさんもみんなも俺がどれだけのゴーストを使ってくるかなんてわからない。見つかってもいい、だけど見つからなかったらもっといい。上空の4機のうち二機を索敵機としてカメラの映像を確認する。左後方、俺の後ろに雲の乱れ、6機のうち2機を真横にブレイク、挟み撃ちにかかる。

 

 『6機だあ!?ジークフリードだったら2機が普通だぞ!?』

 

 『黙れチャック、双方に情報を与えるな』

 

 『う、ウーラ・サー…』

 

 雲を抜け、チェック、死神が描かれたジークフリード!真後ろにつけられた!ミニガンポッドの弾が容赦なく発射される。全部が直撃弾、どこまで予想して…ロールで回避、そのまま加速する4機のゴースト、メインカメラではなく上空のゴーストから送られてくる視点を俯瞰視点として扱い現在の状況を把握、真後ろにつけられた!

 

 ブレイクした2機が挟み撃ちの態勢で戻ってくる。発射されるビームをメッサーさんはわずかに上昇して躱した。狙いをつけられたゴーストへのガンポッドの雨あられ、何とか躱す。強い…!メッサーさんの両後方につけた2機と追いかけられている4機、有利なのは俺のはずなのに、隙がない。下手に動けば同士討ちを誘発する位置にメッサーさんは付いている。でも、想定内!

 

 『…っ!』

 

 追いかけまわされる4機のうち1機がエンジンを止めて失速、真後ろにいるVF-31へぶつかりにかかる。突然の質量弾にメッサーさんのVF-31が大きく動作を取って躱す、ここっ!失速してきりもみ回転しているゴーストからミサイルが発射される。すぐさま体勢を立て直したそのゴーストは直角軌道をもって下にもぐる。上空から降るミサイルと下からのビームでの狙撃、さらに後方からのビームの弾幕、さらに残っている前の二機が急加速、反転してビームを浴びせる。

 

 それに対して繰り出されたのは、神業だった。後方からのビームをガウォークに変形することで躱し、前方からのビームはピンポイントバリアを使って防御され、ミサイルはコンテナに格納されているビームガンポッドで撃墜、下方からのビームはバトロイドに変形することで躱された。ほぼ同時に繰り出された超絶マニューバ、だけどっ!

 

 同時操作、跳ね上がる様に後方のゴーストが上へ、前方のゴーストが下へ潜る。雲の中に入ったほかのゴーストを気にすることなく追いかけてくるVF-31。ほぼ直角の軌道をつけて追いかけられてるゴーストが曲がるが、最小限のロスでVF-31は追いかけてくる。やっぱり振り切れないかっ!だけどっ!斜め上空からのビーム、即座に変形したVF-31がピンポイントバリアで防いだ。とったっ!俯瞰視点役のゴーストからの突然の狙撃に足を止めたメッサーさんに襲い掛かる雲の隙間に身を隠したゴーストのミサイル、これもだめか!ガウォークのままバックし、即座にファイターに変わったVF-31がウェポンコンテナから出したビームガンポッドと右腕のミニガンポッドを斉射、俯瞰視点役のゴーストと雲の中に潜った内の1機が正確に撃ち抜かれる。即座に他のゴーストを退避!

 

 反転したVF-31が今度は俺に追いかけられる形になる。そろそろ、そろそろ…ここっ!追い込んだっ!上空からのミサイルの雨が降る。仕込んでおいた4機のうち2機、あのあとエンジンを止めアクティブステルス全開で風に乗せて待機させておいた。下手に動かすと完全にばれるためこの場所に追い込むしかなかった。上空の俯瞰視点役のゴーストも追いかけられるゴーストも全部囮、必殺竜鳥飛び…なんて言えないが。最後の最後まで残しておいた必殺の刃だ!これ以上時間がたったらアクティブステルスのエネルギーが無くなってバレてただろうけど。

 

 だが、それでも反応するのがデルタ小隊のエースパイロット、完全な不意打ちでも問題なく対処できるスーパーマン、両手のミニガンポッドを斉射してミサイルを撃墜してしまう、さらにはビームガンポッドでミサイルを発射したゴースト2機を撃墜してしまった。追いかけっこが再開される。ロックオンの警告が響いた。

 

 『ここまでだな』

 

 そう、聞こえてくる。確かにほぼほぼチェックメイト、俺の負けだ。でもラストの一手くらいはあがける!繊細かつ急いで操作をする。その瞬間、VF-31の展開されたビームガンポッドへビームが着弾した。メッサーさんは油断なんかしてない、俺の最後の悪あがきが成功しただけ。最初に分けた4機のゴーストの内最後の1機、俯瞰視点役のゴーストの片割れが放った超長距離狙撃、都合10キロの距離を超えて飛んできたビームがたまたま当たった。

 

 『メッサーに当てやがった…』

 

 『さてメッサー、条件は満たしたわけだが…どうする?』

 

 『……フォーメーション変更を考えます。確かに、使えるでしょう』

 

 はは、やった。じわじわと喜びが来る。と同時に鼻からたらり、と鉄臭い液体がでた。鼻血だ。どんだけ集中してたんだ俺、頭もゆだる様に熱いしぼやっとしてきた。一向に出てこない俺を不自然に思ったのか外からの操作でシミュレーターが開く。こっちを覗き込んだのはレイナさん、鼻を押さえて鼻血を止めようとする俺を見てぎょっとした彼女はタオルをもって中に飛び込んできた。顔にタオルが押し付けられる。

 

 「わっ、ちょ、レイナさん」

 

 「今は黙れ。あとよくやった、褒めてつかわす。メッサーの珍しい顔が見れた」

 

 「…はい」

 

 乱暴だけど優しい手つきで鼻血を拭ってくれるレイナさんの言葉で俺は湧き出てくる喜びが現実なのだと噛み締めた。




 VSメッサーさん、終わり。勝てたら普通におかしいので一矢報いるみたいな感じで行きましたけど、ホントだったら当てれること自体もおかしいというのは追記しておきます。メッサーさんは強いんです。表現できてるかどうかは別ですけど。

 メッサーさん、ゴースト2枚抜きできますから、オーバードライブ状態とはいえ。でもこれでデルタ小隊参加が決まりました。あとは体力強化を頑張ってもらいましょう。

 では次回もよろしくお願いします

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