「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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裏話・大人たちの憂鬱

 ラグナの夜は優しい、月明かりと満天の星空の元で潮風の匂いと露店のにぎやかな声が緩やかに聞こえてくるだろう。ラグナの繁華街を歩くのは一人の女神かと見まごう女性と長身の男性の姿。見る人が見ても分からないように変装している。それも当然の話だ。女性の名はカナメ・バッカニア、今を時めく戦術音楽ユニットワルキューレのリーダーにしてマネージャーをも兼務する有名人、じゃあその隣は?と聞かれれば彼女には劣るもののそれなりの有名人、ワルキューレと共同作戦を組む専用小隊、デルタ小隊のエースパイロットにして鬼教官を務める凄腕パイロットのメッサー・イーレフェルトだ。

 

 「まさかメッサー君とこんな形でご飯を食べられるなんてね」

 

 「アラド隊長からの呼び出しですから。それと、ワルキューレの護衛は自分の任務です」

 

 「それでもよ。いっつも誘っても乗ってくれないんだもの。アラド隊長が、エリシオン艦内じゃなくて外で話そうだなんて…よっぽどのことなのかしら」

 

 「…自分には、分かりかねます」

 

 最近、デルタ小隊とワルキューレの周りは嫌に忙しい。新人であるハヤテ・インメルマンとフレイア・ヴィオンのおかげでかなり体制が変わった。それは勿論いい方向なのではあるが、免許は持ってても空戦については全くの素人であるハヤテとワルキューレに入れて燃え尽き症候群にでもなってしまったのか、最終テスト以来一向にフォールドレセプターがアクティブにならないフレイア、問題は山積みだ。

 

 特にハヤテは問題行動が多く、教官役のミラージュ・ファリーナ・ジーナスの頭を悩ませている。飛行技術もバトロイドでの操作はかなり習熟しているがAIの補助を嫌って何回も失速して落ちる始末。このままではミラージュの堪忍袋の緒が切れるのも近い。相性自体は悪くはないはずだが、まっすぐ堅物娘と自由奔放な感性全振り男では性格的な反発を招くのも時間の問題だろう。

 

 「…アルト君、どうだった?シミュレーターで戦ったんでしょ?」

 

 店までの道のり、繁華街から少し外れた入り組んだ道のりに入った途端にカナメはメッサーに対してそう問うた。サオトメ・アルト、ヴァジュラ戦役の英雄と同じ顔、同じ名前を持つ少年。優れた演奏技術を持ち、歌まで熟す。現在行方不明とされている英雄との関係性は不明。そして、異世界から来たと主張している。

 

 ケイオスも馬鹿ではない。そんな世迷言は切り捨てて保護してしかるべき施設に移送するのが普通だ。だが、彼と彼と一緒にデフォールドしてきた二人は異常だった。未知の粒子と未知の物質、通じない言語、そして高い数値のフォールドレセプター。戸籍どころかこの世界にいた痕跡すら追えない3人をエリシオンで保護するべきと主張したのはカナメだ。それは、戦地である故郷ディバイドの光景と、命を懸けて女の子二人を庇いながら逃げ惑う少年に重なったという私情が少しと、観測された事象の関係者を確保するべきという戦場のプロとしての判断。

 

 大人びた少年だと思う。一緒に来たヒマリとツムギという少女たちを第一に考えるその姿勢はカナメ個人としては好ましい部類のものだった。だけど、決定的な部分で信用されていない。無償でここまでしてくれるなら裏があるという考えのもと動いているように見える。役に立とうと、捨てられまいとこちらにアピールし、実際に有用だからこそ「いいのよ、私たちに守られていて」と言わせてくれない。こちらの欲しいものを持っているから、運用せざるを得ない。もしも、何もできなかったとしてカナメ個人の財産で3人を元の世界に帰れるようになるまで保護することも検討に入れていたカナメとしては、複雑だった。

 

 「…私情を挟まず評価を下すのなら、欲しい人材です。今回本気で相手をしました、戦術の組み立て方も、操縦も100%我流ではありますがかなりのものです。特にゴーストを戦闘機動で6機同時に操れるのは得難い才能と言えます」

 

 同じく隣を歩くメッサーも、サオトメ・アルトに複雑な感情を抱く一人だ。隣のカナメやアラド以外のデルタ小隊とワルキューレは知らないことだが一度メッサーはヴァールを発症している。隣にいるカナメの歌のおかげで回復しているがいつまた発症するか分からない状況で、デルタ小隊の戦力を上げる手段があるなら喉から手が出る程欲しいのは事実。だがそれが、12才の子供であるなら話は別だ。確かにレイナ・プラウラーやフレイア・ヴィオンのように15才、14才のメンバーがいるのは事実だ。だが、レイナやフレイアも元の惑星において成人扱いされる年齢、だから問題なくワルキューレに在籍している。

 

 だが純粋な地球人である3人の場合成人年齢は18才になる。まだハイスクールにも上がってない3人、うち一人を人を殺す可能性のある役目につかせるのは全力で拒否したい。もっと言うならワクチンライブだけの参加でとどめておきたかった。自分で覚悟をして飛び込んでくるのと、巻き込まれて否応なしに選択を迫られるのでは違う。ただのホットミルクに、感謝の念を込めた絵を返してくれた少年を戻れない道に引き入れたくなかったとシミュレーターの中で唇をかんだことを思い出す。

 

 「そして、飛行機乗りにはなるべきではない人材です。自己犠牲が強すぎる、そして無理を押し通せてしまう根性と技術…危険だと言わざるを得ません。鼻血を出してまで俺に食らいついてきました」

 

 「…そう、だよね。ヒマリちゃんもツムギちゃんも…見てられないくらい必死だもの。フレイアが心配して慌てふためくくらい」

 

 今はあてがわれているアイテールの休憩室で休んでいるであろう3人を思い浮かべてカナメは大きくため息をついた。それもこれもデルタ小隊の隊長であるアラド・メルダースがシグナスの操縦訓練中に突然現れてゴーストを操縦してみないかなどと誘ったせいだ。あれがなければ今頃3人とも鎮圧ライブに行くなどと言い出さず基礎トレーニングを必死こいてやることもなく、メッサーとシミュレーターで戦闘することもなく、エリシオンのどこかで3人で笑いながらデカルチャーという歓声を浴びながら楽器を演奏していたはずなのだ。

 

 カナメとメッサーの思考がここぞとばかりにシンクロする「あのスルメ親父…!」と。普段は尊敬すべき隊長で実際に尊敬の念が絶えないアラドに対してとんでもない暴言を心の中で吐くバディ二人。流石は戦場で組むだけの事はある、息ぴったりだ。ようやく、アラドに指定された店にたどり着いた二人は何とか文句を言ってやろうと意気込んで裏路地に佇むバーの中へ入っていくのだった。

 

 

 

 「いらっしゃいませ。ご予約をされていますでしょうか?」

 

 「24番のショットをもらえないかしら?」

 

 「かしこまりました。こちらへどうぞ」

 

 符牒を口に出して案内されたのは防音用の個室。ドアを開けて内から鍵をかける。既に個室の中にはアラドとマクロス・エリシオンの艦長であるアーネスト・ジョンソンがいた。いつも通りのクラゲを咥えたその姿と私服姿のアーネストを見て向かいに席に着いたカナメとメッサー。アーネストがピッチャーからグラスに水を注いでくれたので礼を言って受け取る。既に向かい二人のコップの中にはラグナ特産のバナナ酒と思われる液体が氷と一緒に入っていた。

 

 「よう、お二人さん。悪いねこんな夜遅くに。メッサー、やっとお前と飯が食えるな」

 

 「アラド隊長!そんなことよりどういうつもりですか!?あの3人を鎮圧ライブに引き込むだなんて!」

 

 「俺からも聞かせてください。あなたはこんな急にチームの命を脅かすような変更はしない。いつだって万全の準備をしていた。なぜ、やつをデルタ小隊に…?」

 

 単刀直入という言葉はまさにこれが相応しい。水も飲まずに一息にワルキューレとデルタ小隊の中核を担う二人の口から飛び出たのは当然来る途中に話題にしていたことだ。予想はしていたらしくアラドは咥えていたクラゲを噛んで飲み込むと顔を引き締める。先に口を開いたのはアーネストだった。

 

 「事情がかわった。ケイオスの本社の方から高いレセプターを持つならよこせという話が来たんだ。当然、あの3人の事だ。ワルキューレの作戦行動に同行させるから不可能だという返答をしたんだがな…」

 

 「やつら、バックバンドなら必要ない。今まで通りでもいいだろう。それならばヴァールの研究に協力させるべき、と言い出したんだよ。それでも断ってやったけどな」

 

 「別に医療施設に行くのならそれはそれで正しい流れではないでしょうか」

 

 そう、今メッサーが口にした通りフォールドレセプターを持っている保護された人材は医療研究施設へ行くのが通例だ。むしろあの3人の保護が異常なのであって本来の流れに戻るだけの話だ。当然、異世界云々の話でひと悶着あるだろうが、それも保護した側が考えることだ。メッサーもカナメも反対の立場ではあるが本部のその連絡は理解できるものだった。

 

 「……お前、これ見てもそう言えるか」

 

 「…これは、なんでしょうか?」

 

 「あまりに向こうが強硬なのでな、おかしいと思ってレイナに調べさせた。向こうに3人が行った場合の「実験スケジュール」だそうだ」

 

 アラドがパサッと投げてよこした紙の束、今時珍しい紙を使うということは、データ上に残せないほどの重要機密か後ろ暗いことの証拠だ。読み進めていくうちにカナメの顔が凍り付く。メッサーの顔もこわばって紙がしわになるほど手に力が入っていた。

 

 書いてあることは実験…人体実験のスケジュールだった。ケイオスは複合企業であるため薬の開発も行っている。治験だってそうだ。だから検体に人を使うことはある。だが、移送してすぐ人体実験をするなんて常軌を逸しているとしか思えない。内容もかなりのものが多数を占める。

 

 「血液検査、ヴァール発症者の血液を輸血する実験、同意を取れれば内臓も抜き取る、と。この同意ってのも怪しいものだがな」

 

 「ようはあいつらが欲しいんだよ。3人とも戸籍も痕跡もない、消えても騒ぐやつはいない。これほど都合のいいモルモットはないって話だ」

 

 「…3人を別々の研究所に移送し、確認後実行…かなり綿密に練られているように思えます。検体名まで…!」

 

 「……ケイオスが、こんなことを…?」

 

 「いや、全体じゃない。大木の根の内の一部が腐っていただけだ。だが、レディ・Mに根回しされると面倒くさい、その前に…あいつらをラグナ支部の柱の一部にする。そうすれば俺たちより立場が下の頼みこむしかできねえマッドどもの手は振り払える」

 

 「じゃあ、昨日の急なデルタ小隊への勧誘は…」

 

 震える声でカナメがそうアラドに問う。何かが狂っていれば、3人の子供がヴァールの研究のための材料にされていたかもしれない事実。それが、自分の所属している企業で行われたかもしれないという衝撃。ラグナ支部に引き留めておいて良かった、ともし、そのまま見送っていたら…と考えて背筋が凍る。笑いながら演奏をする3人の顔が浮かんだ。

 

 「そういうことだ。ワクチンライブのバックバンドだけでは弱い。最低でもそれ以外に何かを任せられるほどの事があれば、今来てる要請を撥ね退けることが出来る。それこそ鎮圧ライブにおけるシグナスのオペレーターやゴーストの操縦者とかな」

 

 「もしこれでダメだった場合、新ユニットとして芸能部でのデビューも考えていた。俺たちは船乗りだ、みすみす沈む船を見捨てることはしない。ましてやそれが子供であれば猶更だ」

 

 ストン、と腑に落ちた思いだった。昨日と今日の上司の普段では決してしない強引な行動の理由をようやく理解することが出来た。あの3人には後がないのだ。どれだけ気付いているかは分からないが本当にできることをして必死に食らいついていかないと、待っているのは悲惨な結末だということだ。真剣な顔でアラドが続ける。

 

 「これは地獄の2択だ。カナメリーダー、メッサー…お前らには選択肢がある。戦場という地獄にあの子供たちを送り込むか、人体実験という地獄に送り込むか…どっちにしても辛い道になる。どうするかは二人の自由だ。俺とアーネストはもう腹を決めた。しかるべき時にこの資料はレディ・Mに提出して問いただす」

 

 「今日のこの話、聞かなかったことにしても構わない。なぜ話したかは、お前たちならわかるだろう。レイナは、もう既に決めたようだ」

 

 「…いえ、時間を頂くまでもありません。俺は協力させてもらいます」

 

 「私も、やります。いえ、やらせてください」

 

 迷いなくそう言ってくれる部下を見たアーネストとアラドはいい部下を持ったと嬉しくなる。同時に、部下を地獄に引きずり込んでしまったことを心の中で深くわびた。もともとアラドもアーネストも軍人上がりだ。守るべき存在である子供を手助けすることには何の躊躇も躊躇いもない。確かにおかしなところが沢山ある3人ではあっても、やはりただの子供なのは変わらない。とりあえず何か腹に入れるか、とアラドがメニューを取り出す。残りの話し合いは密室で、静かに行われた。




 この急なデルタ小隊への勧誘はなんだったのかというお話でした。初めて別視点というものに挑戦してみましたけどうまくできてますかね~?

 ケイオスに闇がある設定になっちゃいましたけど既に美雲さんという闇の塊があるのでこういう風になってもおかしくないなと思います。捏造ですけど。

 メッサーさんもカナメさんもアラドさんもアーネストさんもいい人に違いないんや…!というお話でした。次回からまたアルト君視点に戻ります
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