「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集 作:カフェイン中毒
「ね、アルトくんさっきの人たちって」
「…話してくれてた、人たち?」
「…そうだな。ここまで頭の中身と一致してたら流石におかしくなりそうだ。どうすっかね…」
部屋に帰った俺を迎えてくれた二人、おずおずと聞かれたその言葉に俺は肯定の言葉返した。前の世界にいるときのこと、VB-6のペイントを書き換えるときにヒマリに聞かれたことがある。その女の子ってだれ?ってな。そんで、マクロスの設定ってことでフロンティアの話をした。ツムギはヒマリから聞いて教えてってことで細かいところまで話したんだけど主人公の設定が決まってないから仮称俺みたいな誤魔化し方で乗りきったんだけど…まさかこの世界で会うことになるとは思わなんだ。
「調べてみると、ホントにすごい人たちなんだね。紹介してる記事を見ると、銀河を震わせた、なんて書いてあったし」
「…でも、アルトが話してくれたのとは、ちょっと違う。あの人たちが探してる人、行方不明って」
「そこなんだよな。現実と俺が考えてたことの違い、だといいんだけど。ちょっと俺も崩れそうだよ」
俺が話したフロンティアはいわゆるテレビ版だ。だからミシェルさんは死んでいるし早乙女アルトは行方不明になっていないし、恋愛関係もはっきりとした決着はついていないと伝えている。だが、この世界ではミシェルさんは生き残り、早乙女アルトはずっと行方不明、近いのはサヨナラノツバサの終わり方なんだろうが、彼なしでシェリルさんは自力で起きれるものなのだろうか…?そもそも、俺が知ってるものとは違う。俺のフロンティアの知識は役に立たないかもしれない。
「どっちにしろ、あの二人は話したキャラクターとは別人だ。ワルキューレと同等以上の凄い歌手、それだけは違いないけどな。ライオンもトライアングラーも…あのイベントで歌った歌はほとんどあの二人が歌っている歌のはずだ」
「…うん、ヒットチャートに全部あった。びっくりした。でも、別にどうでもいい。こっちじゃアルトが作ってないってだけだから」
「そうだね、きちんとあって歌えるかも!って思ったら、私たちだけがアルトくんがつくったってことを知ってれば十分だと思うの」
「…ありがとな」
俺からしたら俺はいい言い方をすればカバー、悪い言い方をすれば盗作をした身分なのでその言葉は嬉しくもあり、俺に罪を意識させるには十分だった。問題は山積みだし、フロンティアの人たちが来てしまったこと、俺の身体
の謎だって何にも解決してない。もしかしたら本当に俺は早乙女アルトで、フォールドしてきた本人を俺が乗っ取ったのかもしれないと考えると体を本人に返さなくてはいけない。だけど、そうすれば二人はどうなるのだろう。2度目の人生だ、待ってる人がいる他人を乗っ取ってまで生きたくはない、けど大切なものが出来ちゃった今、何をしたら正解なのか…答えって出てくれないもんなんだな。
「そんなわけで!アルトくん!どーぞ?」
「なにが?」
唐突に明るい声を出したヒマリが俺のベッドの上で女の子座りをして腕を広げた。ぽっかーんとしてる俺に続けざまにヒマリが
「なにって膝枕だよ~?もーアルトくんノリわる~~い!」
「さっきと温度差がありすぎて風邪ひきそうだわ。何がどうしてそうなったをきちんと説明してくれ」
「…ここきてから、アルト…タツヤさんが洗脳されてた時よりひどい顔してる。隠してても、バレバレ。アルトが私たちを見てくれてるように、私たちもアルトのこと、誰よりも見てるもん」
「だから、私たちでアルトくんを笑顔にしたくって!ちゃんとスキンシップしたら…元気になってくれるかなって、思ったの」
「あのなあ、その気持ちは大変うれしいんだけどさ…膝枕ってお前…」
「まあまあそんなこと言わずに、ど~ぞ?」
「いや、だから」
「…マキナさんに効果ありと聞いた。とりあえずアルト、大人しく膝枕されて?次は私の番だから」
ツムギにまあまあと押される。実際気持ちはありがたいんだけど…いや、折角だし甘えとこうか。二人がきっと真剣に考えてそう行動してるんだから、拒否したらもっとすごいこと言いだすかもしれないし。ツムギバレンタイン事件がアップグレードされてヒマリ&ツムギケイオス大暴走事故とかに進化されたら困る。抵抗をやめて、引っ張られるがままにヒマリの膝の上に後頭部を載せる。
横になったせいなのか、安心感のせいなのか分からないけど、どっと抗いがたい眠気が襲ってきた。思えば今日は疲れた。会うはずもない人と会ったし、自分自身を見失いそうになったし、人をたくさん傷つけてしまったし。起きて考えを纏めないと、と思っても瞼が開いてくれない。意識も、薄くなってきた。
「アルトくん、私とツムギちゃんは絶対にアルトくんの味方だから」
「…アルトがどんな目にあったってずっと傍にいる。だから、ゆっくり休んで」
意識が微睡に落ちる前、そんな声が聞こえた気がした。なんだかとても、安心できた。深い睡眠に落ちるのが、怖くなかった。
「…んあ?」
「…あ、起きた」
「うわっツムギスマン!?何時間寝てたおれ!?」
「ひーみつー!でもアルトくん、よく寝てたよ~?そんなに気持ちよかった?」
「………」
「…アルト、図星だ」
「……もう勘弁してつかぁさい……」
どうやらかなりの時間眠ってしまったらしい。眠る前の俺を一発殴り飛ばしてやりたい、なにその場の空気に流されて膝枕されてんだよ!いいか、確かに二人とは大切な幼馴染でパートナーではあるが恋愛関係とかそういうわけではないんだ!(力説)もっと鋼の意思をもって物事を遂行しないと…!どうやらもう日付は変わって朝方らしい、だから多分二人とも交代で俺に膝枕し続けてくれてたんだ。俺の横で寝っ転がるヒマリの揶揄いに真っ赤になった俺が黙りこくると俺を膝枕し続けるツムギがさらに俺の顔を覗き込んでそう言ってくる。思わず両手で顔を隠した俺を見る二人がケラケラと笑っている。もう、ダメ……お嫁にいけない。
そんなことを思ってると、何となく精神的に軽くなってる感じがした。やっぱり、ため込んでたのかな俺。揶揄われてるから言わないけど、ありがとう。二人とも。
「おはよーヒマヒマにツムツム!成功した?」
「バッチリです!アルトくんったらそれはもうグッスリで!」
「ナイスだよ~~~!アルアル!感想をどうぞ!」
「こーら、追い詰めないの。アルト君、ちゃんと眠れたみたいでよかったわ。それと、これを返却します」
「もう放っておいてください……ってアリスタ!?いいんですか?」
「ええ、分析は終わったわ。これ以上の分析は成分採取とかしないとダメそうなの。変に傷つけたら約束と違うでしょ?十分にそれは証拠になったの」
食堂での話、今日はワルキューレでのレッスンメインになるハズなのでデルタ小隊の基礎トレはお預けである。まあ音合わせというやつで、動きながら演奏したりとかそういうの。鎮圧ライブに適した動きをしつつ演奏するというなんか割と難しいことをやってるわけで。これが意外と楽しい。ガスジェットクラスターで飛びながらギターを鳴らしたりするのが超楽しい。まだワイヤー付きだけど。
そして、マキナさんに捕まって色々聞きだされようとしているのを遮ってくれたのはいつも優しいカナメさん。彼女は俺のアリスタを取り出して返してくれる。そして、3つのペンダントを取り出した。
「これは?」
「いつも、そのまま持ち歩いてるみたいだから、なくさないようにと思って作ったの。こうやって、ほら!うん、似合うじゃない」
ペンダントトップにアリスタをはめ込んだ後、保護用らしいガラスで蓋をして俺にかけてくれるカナメさん。どうやら素のまま持ち歩いてることを気にして保管保護用のペンダントを作ってくれたみたい。ヒマリもツムギもそれを受け取ってペンダントにアリスタをはめている。暗い緑色のアリスタがきらりと光る。案外悪くないかも。
カナメさんにお礼を言って俺たちは食事を始めた。途中で合流したハヤテさんに昨日の事を心配されつつも、お揃いだな!とフォールドクォーツのペンダントを見せられてちょっと嬉しくなった。それはそうと、フロンティアの人たちはどうなったんだろう。帰っちゃったのかな?
「ハァイ、よく眠れたかしら?」
「お、おはよう!えっと、サオトメ君、かな?」
「シェリルさんにランカさんがおる…!ご、ごり緊張する~~~!」
「……」
そんなことはなかった。思わず無言で固まってしまったが何時ものレッスン室に行った俺たちを待ち受けていたのはジャージ姿のシェリルさんとランカさん、そしていつものワルキューレの面々、フレイアさんの無邪気な感想をよそになんでいるのかと目を向けてしまう。察したらしいシェリルさんが
「別に遊びに来たわけじゃないのよ?昨日貴方が部屋から出た後、大人の話をしたの。それで、暫くワルキューレのステージにゲストで立つことになったの」
「えっと、サオトメ君の事は私たちもちゃんとわかったんだけど、ケイオスの人たちに迷惑をかけたから、提案してみたの」
「それに、貴方が私たちのアルトじゃなくても、個人として仲良くするかどうかは別問題だわ。貴方が私たちの顔を見たくないっていうなら流石に考えるけどね」
「そう、なんですね。確かにそうかもです。あとでサインください」
行動力の化身か何かかこの人たち。予想してないわけじゃなかったけれど、実際にそうするか普通?一歩間違えばヤバかったのにその渦中の組織に居残るとかどんな胆力…そういえばこの人たち戦場で歌ってたんだったわ。多分この世界の歌手って基本胆力とかメンタルお化けなんだろうねきっと。とりあえず仲良くしたいという意思表示でサインを求めると快諾された。二人の視線は俺の後ろへいく。そうすると、俺の後ろに隠れる二人に気づいたらしく、シェリルさんとランカさんが近寄ってきた。
「はじめましてね?私はシェリル・ノーム、シェリルでいいわ。一緒のステージに立つんだから仲良くして欲しいわね」
「私はランカ・リー、ランカでいいよ。よろしくね!」
「日本語…!?」
「…どうして?」
「あははっ、フロンティアだと日本語も使われてるんだ。びっくりした?」
「フロンティアで暮らしていれば聞かない日はないもの。覚えちゃったわ」
超絶びっくりした。二人がヒマリもツムギに話しかけた時に喋ったのは日本語、確かにフロンティアで日本語でメールするシーンなどはあったがまさかそんな感じになってるとは、ここも俺が知らないことだ。なんか嬉しい、何でもかんでも俺の頭の中が再現されてたら狂いそうになるけど、違いがあるたびになんだか安心する。
「えっと、その、スズカゼ・ヒマリです。昨日、お二人の歌聞きました!もう、すごかったです!私じゃ追いつけないくらい!」
「………イロハ・ツムギです、あう…アルト、ヘルプ」
「昨日の威勢はどうしたんだお前…」
「…電池が切れた」
「充電しといてくれ」
今日も立派に人見知りなツムギ、かなりぐいぐい来るシェリルさんとランカさんにたじたじなご様子、シェリルさんは「ふふ、可愛いじゃない」だって。音楽に関しては物怖じしないヒマリ、それはもうお二人を全力で褒めてた。歌詞は理解できなかったですけどとにかくとにかくすごいと思ったんです!って二人を褒めちぎってる。ランカさん嬉しそうに「ありがとう!」ってキラキラスマイル。キラッ☆のポージングがとってもお似合いですね。そしてシェリルさんはヒマリを見て
「…なんだか他人の気がしないわ」
「ふえええっ!?な、なんですかっ!?」
ぎゅむっと熱烈なハグをした。確かになんだか二人とも顔のパーツが似てるような…?でも俺みたいなほぼ同一人物そっくりさんじゃなくて他人の空似、とか親戚で似てる人、みたいな感じだからあまりトラブル云々とかではなくなりそう。いつもはハグする側の癖にされる側になった途端にいつも通り真っ赤になって恥ずかしがるヒマリ、よしよしと可愛がられている。仲良くなれそうで安心した。
「ツムギちゃん、恥ずかしがり屋さんなんだね。でも、仲良くしてくれると嬉しいな」
「…ん、ランカさんの虹色クマクマ、聞いてて楽しかった」
「ほんと?ふふ、歌ってあげようか?」
「…いいの?」
昨日、ハヤテさんとフレイアさんの所で二人の曲をたっぷりと聞いたらしい二人、どうやら元の曲を歌っていたとしてもシェリルさんとランカさんの歌は二人にとっては別物に映ったのかもしれない。俺としてはヒマリとツムギが歌う方も好きなんだけどな。だけど俺の事があっても、仲良くしようとしてくれる二人には頭が下がる思いだ。そして、当然なんだけどランカさんとシェリルさん、大人だ。もう完全に年上のお姉さんオーラが出てる。まあカナメさんより年上、もとい。お姉さんだから当然っちゃ当然だけど。
「なんだったら、日本語で歌ってあげるわ。歌詞も一応あるし、歌えるわよ?」
「えっ、ホントですか!?」
「えっとね?フロンティアは日本文化を大事にしてるの。歌もそうなんだ」
「…ちょっとフロンティア行ってみたいかも」
なんか、姉妹見てる気分だ。それはともかくとして、レッスンしないと。頃合いを見計らっていたカナメさんの合図に気持ちを切り替える。それぞれの楽器を手に取ってチューニングを始めた俺たちを見るシェリルさんとランカさんの目がプロのものに変わる。そういえばオズマさんとミシェルさんはどうしてるんだろうか?じゃらんとなったギターの音に満足した俺はふとそんなことを考えるのだった。FIRE BOMBERの曲弾いたら釣れたりして、なーんて。
なんか、難しいですね。いろいろ考えましたけど。どうやってもアルト君が曇ります。この作品のプロット考えた時に一番最初に思いついたのが救いようのないバッドエンドだったので引きずられてるのかもしれません。
でも大丈夫です。今のまま進めばハッピーエンドになるはずっ!ちなみにフロンティアが日本文化云々は独自設定です。日本語自体は使われてるのは公式ですが。
シェリルとランカが再現できねー…とりあえずDアニメストアで映画を無限ループしてきますわ。
次回か次々回に大人たちの裏話書けたらいいな~~。あの別視点書いてて楽しかったです
一応確認 どっちがいい?
-
SMS共闘ルート
-
フロンティア組帰還ルート