「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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フロンティアな日々

 やばい、何がヤバいってランカさんとシェリルさんがヤバい。フロンティアの歌姫は伊達じゃなかった。8年たっても銀河チャートに居座り続ける実力はこけおどしでも何でもなく本物で、声量で5人いるワルキューレと張り合えるって何?歌も上手すぎて世界観がそのまま広がってくる。舞台装置も何もないのに歌だけで世界を作ってる。超やばい、これはバジュラもファンになりますわ。

 

 「…流石ね。生で聞くとよくわかるわ」

 

 「当然、私はシェリル・ノームなのよ?歌で負ける気なんて最初からないわ」

 

 「ランカさんやっぱ歌ごり上手いやんね!でっかるちゃ~!」

 

 「フレイアちゃんも上手だね!私の歌、ずっと聞いててくれたんだ?」

 

 「はいな!ウィンダミアには、最新の歌は入ってこんかったけど、これに入ってる曲はた~くさん聞いたんです!」

 

 美雲さんが他人の歌を素直に高評価するということにワルキューレの皆さんはかなり驚いてるようで、自信たっぷりに胸を張るシェリルさんにとっては当たり前の評価みたいだけど…ヒマリが結構やばい、もうワクワクのテカテカって感じで今にもベースを鳴らしそうな感じ。ほらヒマリ、気持ちはわかるけどステイステイ、え?いやだニャー?ほらあと少しで出番だから、そしたら思う存分スラップでも3連プルでもやっていいから。

 

 アカペラで歌ってもらったんだけど、その理由はレセプター数値の確認のため、らしい。というのも人類初であるフォールド細菌との共生を実現した二人だ、ケイオス側からしたら死ぬほどデータが欲しいだろうし、ただのレセプター保有者なんじゃなくて、フォールド細菌が腸に定着してネットワークを形成しているという特例中の特例がシェリルさんとランカさん、ランカさんは先天的に、シェリルさんは後天的にそうなったという話なのでヴァールに対抗したいワルキューレとしては喉から手がデフォールドするくらいに重要なデータなのだ。

 

 まあそれを目の前にして歌えないわ、演奏できないわってなってる俺たちにとっては拷問に等しいけどな!多分俺も結構、いやかなり我慢の限界が近づきつつある。どっかのガンプラバーでも言ったと思うけど何の拷問だオラァ!だめだ、平常心平常心、ちょっと落ち着いたせいでファン心が出てしまった。あとで金庫に仕舞って鍵をかけた後鍵を投げ捨てておかないと。怪しまれる行動はNG、これ大事。

 

 「すごい数値…美雲にも劣らないくらい…!」

 

 「生体フォールド波かぁ…バジュラたちと分かり合えたのに、今度はフォールド細菌が悪さをしてるなんて」

 

 「私がかかったV型感染症と同じくらいタチが悪いわね。私みたいな奇跡がそうポンポン起こるのなら苦労はないのだけど」

 

 「…歌でフォールド細菌をお腹に誘導できないかな?」

 

 なんかとんでもないことをお話しになってらっしゃる……!真面目な顔してとんでもないことを言ってるランカさん。つまり、全身の細胞に潜んでヴァールシンドロームを引き起こすフォールド細菌を再度別の方法でフォールドなりなんなりさせて感染者の腹でネットワークを築かせればヴァール無くなるんじゃね?ってことか。なんか実現性ありそうで怖い、だって歌で大概の事は何とかなるこの世界、生体フォールド波が実際効いてる以上、ワンチャンありそうなのがヤバいのだ。なんて~えへへって笑ってるランカさん、戦場帰りっていう感じの言葉がポンポン出てくる人だ。

 

 そんなこんなで進んでいくレッスン、ボイストレーニング、ダンス、フォーメーション、フレイアさんのレセプターはやっぱりオンにならないみたい。なんか、分かるんだよね。フレイアさんなんか気持ちが乗ってない感じする、ワルキューレに入りたいっていう目標は達成したけど入って何がしたいかが分からなくなったんだと思う。ウィンダミア風に言えば風が吹かないってことかな。

 

 「ごめんねアルト君たち!出番なんだけど大丈夫かしら?」

 

 「待ってました!やるよアルトくん、ツムギちゃん!」

 

 「く、食い気味だね…」

 

 「…ヒマリ、やる気満々、私も頑張らなくちゃ」

 

 「そうだな、俺も乗ってきた。今ならビルドストライク乗りこなせそう」

 

 「…レイジにすぐ取り返されちゃうよ」

 

 確かにその通りだけどそれは比喩表現なんですよツムギさん。あのくらいのじゃじゃ馬モビルスーツを操縦できるくらい指が動きそうって意味なんです。けっしてレイジとセイの機体を横取りしようとしてるわけじゃなくて…アハイ、演奏します。何弾けばええのん?え?ワルキューレの曲をシェリルさんとランカさんが歌うの?何それデカルチャー!あ、でもシェリルさんプロとしての目はかなり厳しいと思うから超がんばらないと、おしいくぞ!

 

 シェリルさんの挑発的な目に答えるため、俺は力強くギターをかき鳴らすのだった。なお、お二人の歌は俺たちの演奏をかき消しそうなくらい凄かったことをここに記しておく。これよりやべー熱気バサラって人がいるらしいが、そんな人がここに来たらレッスン室吹き飛ぶんじゃないだろうか。

 

 

 

 「意外とやるじゃない。確かにこれならステージを任せるのには十分なものだわ」

 

 「アルカトラズの事を思い出しちゃったな~。凄いね、3人とも。今度私とシェリルさんのライブでもバックバンドやらない?」

 

 「いいじゃない、こっちの事が片付いたら考えておいて。きっといいステージになると思うわ!」

 

 押されっぱなしだったレッスン、バチバチにフォールド波を浴びた俺たち3人に対してシェリルさんとランカさんはかなりの高評価をくれた。この二人にこんな高評価をもらえるのだとすれば俺たち結構自信持っていいってことでは?ほらみろヒマリどころかツムギですら目をキラキラさせてる。昨日歌を聞いた時にめちゃめちゃファンになったんだね二人とも。良かった~。

 

 あと、やっぱりフレイアさんのレセプターは最後までアクティブにはならなかった。レッスンにも身が入ってなかったようで美雲さんに叱責されてショボショボになってしまったフレイアさんにヒマリとツムギが慌てて近寄って行った。全力でフレイアさんを元気づけにかかる二人、気分転換しましょ!とご退出していった。なんかヒマリのやつフレイアさんと仲がいいんだよな~~年が近いからかな?二人も俺だけじゃなく周りにも目を向け始めて警戒を解いていったんだと思うと嬉しい。

 

 あとシェリルさんはリップサービスじゃなくてガチでそう思ってるらしくカナメさんに交渉を始めた。ランカさんもお願いしま~すと言っているが暫くは無理ですね。あと美雲さん?あげないわ、じゃないですけど?確かにラグナ星系を離れて遠くの星に行ってみたいなと思わないこともないんだけど、多分俺たちがこの星系に来たのは何か理由があるはずだ。それが何なのかは分からないし考えすぎなのが一番いいんだけどな。

 

 「あっ!思い出した!」

 

 「どうしたのランカちゃん?カナメの顔を見て何か引っかかってるみたいな顔してたのと関係ある?」

 

 「そうそう!カナメさん!だいぶ前に番組上の企画だけど共演したよね!?」

 

 「えっ!?はい、それはしましたけど…覚えていたんですかっ!?」

 

 「うん、今思い出したの!確か、新曲の宣伝のために熱湯風「わーーーー!!!わーわーわー!!!」」

 

 「なに!?カナカナ、ランカさんと共演してたの!?」

 

 「気になる、これは調査すべし」

 

 「面白そうじゃない、ぜひ聞かせてほしいわ」

 

 パっと思い出した!という顔をしたランカさんがカナメさんに話を振る。はぇー、共演してたんだカナメさん、でもなんでそんなに顔色が悪い上にあたふたしてるんだろ、と思ったら続く言葉に真っ赤になってランカさんを遮るように大声を出して口をふさいでしまった。だが時すでに遅し、ワルキューレメンバーは曲者ばっかりなのだ。ランカさんに群がって話を聞きたがっている。

 

 そういえば、ワルキューレに入る前のアイドル時代は黒歴史なんだっけ…?それでねー、と語りだすランカさんに耳まで真っ赤になった顔を手で覆い隠して崩れ落ちるカナメさん、私も色物系やったんだよ!って類似の件として語りだすのはニンジンのプロモーションの話、デビューの時に着ぐるみでー、という話で自分の話からそれてほっと一息ついてるカナメさん、なんか可愛いな。美人なのはそうだけど、ギャップがあるというか何というか。でも、あとで「カナメ・バッカニア 熱湯風呂」で検索しよっと。気になるし。

 

 

 

 「ふっ、ふっ、ふっ……」

 

 ところ変わって現在エリシオンの足元でございます、やってることは走り込み、当たり前の話なんだけど体力はあって困らないと思うんだ。だから毎日5キロくらいを自主練としてランニングしてる。ちなみにメッサーさんは出社前に10キロを30分で走ってから出社してくるらしい。化け物か何か?いや俺も慣れたら増やすつもりだけど。特に俺やワルキューレは鎮圧ライブにおいて動き回るのが必然だ。止まって演奏するにしてもいざという時動けませんではワルキューレもヒマリもツムギも守れないので基礎体力強化は毎日頑張るのだ!

 

 ラグナのからっとしつつも南国っぽいさわやかな暑さに包まれて汗だくになりつつ、グラウンドを何周もする。ちょっと離れたところでは他の小隊のパイロットの人たちが同じように自主練に励んでいる。毎日俺もここに来るから顔見知りになっている。俺が終わってぶっ倒れてると飲み物奢ってくれたりするいい人ばっかりだ。インドア派だけどな俺は!できるならバルキリースクラッチしたいぜ!今はできないけど!!!

 

 ペースを守りつつ完走、タイムは…聞かないでくれ。次は全力ダッシュ100mを10本やって今日は終わろう。とりあえずクールタイムと水分補給、しようと思ったら水を飲み切っていたことに気づく。もう一本余分に買ってこればよかったなあ、と思いつつ電子マネー入りの携帯端末を手に取って近くにある自販機を目指そうとヘロヘロで立ち上がる。と、体を起こした時点で後ろから首筋に冷たいものが当てられた

 

 「つめたっ!?」

 

 「自主練お疲れさん、頑張ってるな」

 

 「貴方は…」

 

 「ああ、自己紹介してなかったっけ。ミハエル・ブランだ。ミシェルでいい」

 

 そう、俺にドッキリを仕掛けたのは狙撃も女も百発百中の色男ことミシェルさんだった。近くにオズマさんはいない、多分ランカさんとシェリルさんはワルキューレと一緒だから護衛は不要となってミシェルさんの時間が空いたんだ、それで俺を見つけて構うことにしたらしい。まだパイロットとして前線にいることを選んだらしいミシェルさん、クラン・クランさんとはどうなったんだろう。くっついてる気配は、あるな。左手の薬指、シンプルだけどハイセンスな指輪がある。宝石は付いてないデザインで、指の動きを邪魔しない感じだ。

 

 「しかしまあ…ほんとにそっくりだな。瓜二つだ、お前には迷惑な話だけどな」

 

 「いえ、迷惑だとは思ってません。実のところ、申し訳ないって思ってます。変に似てるからこうやって空振りさせて、ぬか喜びさせてる」

 

 「考えすぎだ。勝手に早合点して勝手に来たのは俺たちだし、お前らだってフォールド事故じゃないか。変に自分を追い詰めるなよ、潰れちまうぞ」

 

 地べたに座り込む俺に買ってきたらしい水を渡して、俺の隣にドサッと腰を下ろすミシェルさん、大人って感じがするわ。前世でこんな雰囲気俺出せなかったけど。アニメだとおしゃれなカフェとか似合いそうだったのに今はシックなバーでも違和感なさそう。こりゃクランさん大変だな。結婚相手がクランさんと決まったわけではないけど。じー…っと眼鏡越しに俺を見るミシェルさん、なんだろうな?

 

 「なあ、お前どうして訓練してたんだ?バックバンドって聞いたけど、そんなパイロットみたいなことしなくてもいいだろ」

 

 「あれ、聞いてないんですか?鎮圧ライブにも出るからですよ?戦場に出るわけですから、生き残れるようにならないと」

 

 「おいおい、ケイオスってそこまで人不足なのか?冗談きついぜ…本気なのか?お前と一緒に来たっていうあの女の子たちもか?」

 

 「ええ、まあ。元の世界に戻りたいですから、ここにいられるようにすれば衣食住と帰れるチャンスを伺う時間が手に入ります。ヴァールシンドロームのど真ん中に落ちて来たんですから、帰る道もヴァールにあると思うんです」

 

 「確証はあるのかよ。戦場ってのはそう容易く出入りできるもんじゃないぞ」

 

 どうやら、俺たちがやることを中途半端にしか聞いてなかったらしいミシェルさんがかなり顔を厳しくしてそう問いただしてきた。そういえば、早乙女アルトがSMS入りするときかなり強硬に反対してたんだったなこの人。同じ顔の俺が戦場に赴くということで重ねてるのかもしれない、けどもう決めたことだしヴァールが発生した時に、アリスタをもっていけば何かが得られるかもしれない。動かなかったら腐るだけ、動いた方がいい。

 

 「確証なんてないですよ。でも、ここでじっとしてても何も変わらないですし、荷物を置いておけるほど営利企業は寛大ではないと思います。とにかく、一歩踏み出して飛んでみないと分からないんです」

 

 「……」

 

 「ミシェルさん?」

 

 「お前、見た目だけしか似てないのに、変なところであいつみたいなこと言うんだな…背伸びしたような事ばっか言った後に、飛ぶ…か」

 

 俺の答えを聞いたミシェルさんは、何かを思い出すように目を細めてしみじみとそう言った。きっと、俺にはわからないことだろうけど悪いことじゃないと思う。彼にとってのライバルで親友の事だ、俺が呼び水となって思い出すものがあったのかもしれないけど。

 

 「おい、お姫様、携帯貸してくれよ」

 

 「はい?まあいいですけど、忘れたんですか?あと、俺は男です」

 

 「知ってる、あだ名だよ。あ・だ・名。もうあいつのことは姫って呼べないからな、代わりに呼んでやるよ。あとそれ、俺の連絡先な。困ったら連絡しな、教えられることなら教えてやるよ。戦場での注意点とか、いい女の口説き方とかな」

 

 「…奥さんに怒られても知りませんよ」

 

 「おっと、こわいこわい。残念ながら今はあいつしか見えないんでね。残弾だけやるよ、それじゃな」

 

 なんだよ、アツアツじゃん。俺の支給品の端末に自分の連絡先を入れて俺に返したミシェルさんが冗談めかしてそう言う。お返しにと指輪を見ながらそう言い返すと、予想してたのかカウンターが帰ってきた。のろけに呆れた俺をよそに立ち上がった彼はひらひらと手を振って去っていった。俺は十分に休憩は取れたはずなので、そのままトレーニングを再開するのだった。結局何の用だったんだろう、ミシェルさん。




 ミシェルさん、アルト君を姫認定する。もう元の早乙女アルトはお姫様なんて呼べないからね、しょうがないね。ちなみにこれはアルト君が現在超未熟者なのでそう呼ばれてるのです。答えに至った早乙女アルトを見てる彼からしたらいらん重荷まで際限なく手を伸ばすアホ主人公は男には見えないでしょう。あとはクランといちゃついていてほしい(願望

 次回は別視点。フロンティアVSケイオス、子供たちをめぐってをお送りしとうございます。

 次回もよろしくお願いします

一応確認 どっちがいい?

  • SMS共闘ルート
  • フロンティア組帰還ルート

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