「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集 作:カフェイン中毒
「ハヤテ候補生!これよりデルタ小隊入団本試験を開始します!準備はよろしいですか?」
「へーへー。いわれなくても分かってるぜミラージュ教官殿。さっさと始めようぜ、日が暮れちまう」
「全くあなたはもう…!」
どうも、ここ1週間頑張ったサオトメ・アルト12才、現場はマクロス・エリシオン艦橋よりお送りしております。いやマジでここ一週間すげえ忙しかったんだって。ハヤテさんのテストのために俺も協力したくってシミュレーターでハヤテさんと勝負を繰り返したりとか、ワルキューレのレッスンにお邪魔してギターかき鳴らしたりとか、ミシェルさんにからかわれたりとか。
ハヤテさんってやっぱり才能あるんやなって思うの。それも飛行機、つまりファイターの状態は勿論目を見張るのはバトロイドの運用だ。ガウォークは若干苦手かもしれないけど、バトロイドに限って言えばかなりの力量を身に着けたはず、である。
ここでなぜ疑問符が付くのかというと周りの人たちの技量がそれはもう高いから実際一般兵と比べてどうなのかっていうのがいまいち俺の中でピンとこないからだ。メッサーさんはいうに及ばず、アラドさんやミシェルさん、オズマさんとか。ミシェルさんヤバすぎんよ。一回やらせてもらったけど俺の射程外からの狙撃でほぼ完封されたもん。ビーム掠らせたけど、それしかできなかった。
え?オズマさん?化け物だよあの人。なんで重いアーマードパックで俺より速いの?こっちはかするどころか反撃も許してくれなかった。ミサイルとロケットの嵐の中に紛れ込むガンポッドの弾丸、囮撃ちの見本のような形での敗北です。これには間違いなく白旗を上げるしかないね。ぜってえ8年前のバジュラ戦役の時より強くなってるよ。
で、これはいかんと奮起して頑張ってる所です。ガンプラバトルをこっちの戦法に合わせる作業を続けてるんだけどこれがなかなか難しい。遊びと殺し合いの違いだからそれは違うんだけどこのままじゃダメなんだ。自分の命もヒマリとツムギも、ワルキューレだって守れやしない。足手まといになるのはごめんだ。
「ハヤテさん」
「アルトか。いっちょ一発クリアしてくるから、しっかり見とけ」
「はい!あの、ハヤテさん。自分の得意を活かしてくださいね、同じようにする必要がある場合とない場合があって今は」
「そうじゃないってんだろ?分かってんだよ、俺は俺のやり方で、だ。行ってくるぜ」
「頑張ってください!」
ハヤテさんは自信に満ち溢れた顔つきでヘルメットを片手に抱えて俺の頭をポンと叩くと艦橋を出ていった。複雑な顔をしたミラージュさんがそれに続く。俺の知ってるマクロスΔではこの時点のハヤテさんは覚悟も定まらず飛びたいだけの自由人でミラージュさんからすればちゃらんぽらんの存在だった。
だけど今のハヤテさんはそれなりにまじめに課題に取り組み、きちんと仕事をしてある程度は飛行訓練時にも言うことを聞いている。問題児ではあるが即刻クビにしないといけないというほどの存在ではなくなってる上に、メキメキと実力を上げてきている。
それはそうかもしれない。既にオズマさんにミシェルさんというメッサーさんを超えるキャリアの大ベテランが訓練に加わっていくら飛びたいからとはいえ戦場を駆ける以上はと心得を説いているのだ。本物の大戦争を生き抜いた人物の教えを一笑に伏すほどハヤテさんは愚かではなかったということ。
つまりこの時点でハヤテさんは戦う気はないのではなく、戦うことをある程度念頭に置いて訓練している。強くなるわけだ。
「アルト、お前はどう見る?」
「勝ってほしいのは、ハヤテさんです。ですけどミラージュさんは甘くないと思います。それでも、きっとハヤテさんが勝ちます」
「言い切るねえお姫様。根拠の一つでもあるのか?」
「ないですけど。信じてます。ただそれだけです」
ワルキューレのレッスンに行っているヒマリとツムギは恐らくレッスン室でテストの様子を見るだろう。ランカさんやシェリルさんも一緒に。アラドさんのスルメを咥えながらの質問にそう答えた俺に対して揶揄うように片目を閉じたミシェルさんがそう言ってくる。根拠なんてないし、原作の知識によってこうなるなんて口が裂けても言えるか。それにもう原作もクソもないよ、すでに色々変わってんだもん。ここは俺にとって現実なんだ。負けるかもしれない、だけど勝てると信じる。それだけだ。
「いいこと言うねぇ。こりゃ一本取られたよ。それじゃ、お手並み拝見といこうか」
「バトロイドの技術に関していやタマゴ野郎にしちゃやる方だがな。バルキリーは可変戦闘機だ。ファイターなくしてバトロイドはない、どうなるか」
『デルタ4及びハヤテ候補生、搭乗完了しました。離陸及び試験開始の許可を求めます』
「オーライ、では試験を始めるとしよう。ハヤテ候補生、時間内にミラージュに有効打を与えた場合合格とする。いくら被弾しようが構わんがそれを利用した特攻などは無効だ。いいな?」
『了解。そんなことしねーけどな』
「いい心がけだ。では離陸後所定の位置まで飛行ののち開始とする。デルタ4から離陸しろ」
『ウーラ・サー。デルタ4、アイハブコントロール。発進します』
2機のVF-1EXが離陸していく。ハヤテさんも危なげなく空を飛んでいる、これは搭載されている補助AIが作動しているからだろうがハヤテさんは自分の飛行になにか別のものが介入することをひどく嫌う、オールマニュアルでの操作をしたいと常々言って墜落すること数度、現状まだまだといった感じだが、このテストではどうする気なのだろう。
「では、試験を開始する。双方、所定の位置へ。ブザーが鳴ったらスタートだ」
『『了解!』』
アーネストさんがデバイスを弄りカウントダウンが始まる。ブザーが鳴った瞬間、同時に動き出す二人。ハヤテさんの青いVF-1EXとミラージュさんの赤いVF-1EXによるドッグファイト。やはり一日の長であるミラージュさんの方が扱いが上手い。ドッグファイトの基本は後ろの取り合いになるのだがやはりあっさりと振り切ってハヤテさんの背後をとる。
ガンポッドより発射されるペイント弾、ハヤテさんは何とか機体を左に傾けて躱す。その状態のままでガウォークになり自由になった射角を利用して腕を後ろに向けてガンポッドを乱射する。ミサイルはない、デルタ小隊の機体であるジークフリードにはシグナスが乗るし市街戦が主になるので爆発物はご法度だからだ。
『この程度…!』
『だろうな!じゃあこいつはどうだ!』
大きく機体を振ってハヤテさんの射撃を躱したミラージュさんのスキをついて後ろを向いたハヤテさんのVF-1EXがきちんと狙いをつけてガンポッドを撃つ。それもバレルロールで躱すミラージュさん、回転しながら撃った弾がハヤテさんの機体の翼に着弾する。
『クソッ!これじゃダメか!当たり前だな!』
『ハヤテ候補生!まだやりますか!?』
『当たり前のこと聞いてんじゃねえってうおっ!?』
もはや喧嘩のような感じの通信を聞いてアラドさんがクックッと喉を鳴らした。こんな時にも二人は平常運転のようだ。試験は続く、お互いにファイターに変形してのドッグファイト、今度背後をとったのはハヤテさんだ。打ち込まれる射撃を右へ左へひらりひらりと躱すミラージュさんにハヤテさんの焦りは募っていく。
『ちっ!やっぱり補助が邪魔だっ…!』
「おいおい、まさか切る気か?何回失敗してると思ってるんだ。確かにありゃ楽しいが、俺でも戦場では補助はつける。生き残るためにな」
顎に手を当てて面白そうにテストの様子を見ていたオズマさんが顎髭を撫でつけながらそう漏らした。既に試験時間の3分の1は過ぎている。補助AIなしのマニュアル飛行を楽しいと言い切るオズマさんにうへえという顔をしているミシェルさん。これもしかして何回かやらかしてるヤツ?それともオズマさんがヤバすぎてAIの先を行くイサムさんとかガルドさんとかと同じ現象が起きてるだけ?
『これで終わりですっ!ハヤテ候補生!』
『んなろっ!終われるかぁ!』
必殺の射撃、それに対してハヤテさんが選択したのはバトロイドへの変形、限界ギリギリのGを許容しつつ自由になった足を動かしての進路変更、そう、それですよハヤテさん!貴方が一番得意なのはファイターでもガウォークでもなくバトロイド!生き残る手段なんて何でもいいんだ。だってそれが戦場における勝ちなのだから。
発射されるガンポッド、ハヤテさんは通信の向こうで獰猛に歯をむき出して笑って、ヘルメットを脱いだ。同時に補助AIも切っていたらしく姿勢の制御を失ったVF-1EXが自由落下でミラージュさんの必殺の弾丸を躱す。そしてそのままラグナの海へ落下していく。
『ハヤテ候補生!!機体を立て直してください!ハヤテ候補生!』
「だめかっ…!」
「案外、見どころあるかもなあいつ」
チャックさんが両手を握ってハラハラしてるのを横目に面白そうに目を細めたミシェルさんがそう漏らす。狙いを悟ったのだろう、俺も多分わかった。アラドさんやオズマさんも同様。チャックさんも遅れて気づく。多分狙ってこうやったんだ。その証拠にハヤテさんの目は死んでない、どころか生き生きとし始める。
『この歌…!風が吹いたぁ!』
『なっ!?』
歌、俺たちには聞こえないそれがハヤテさんにはおそらく聞こえている。VF-1EXのゴーグルに光が灯ったように見えた。バトロイドのまま翼を広げて揚力を確保し、細かく足のエンジンを噴射して体勢を立て直す。それを見たミラージュさんが顔を引き締め容赦なくガンポッドを撃ち込む。
『いい感じだ!いける!』
『なっ!?』
「へえ、やるなあいつ」
空中でステップを踏むように小刻みに足を動かして回避するハヤテさん、教科書では絶対にやらないその動きにミラージュさんは面食らってしまう。そこで足を下に向けたハヤテさんは一気に急上昇し、ミラージュさんにガンポッドを浴びせる。
『そんなふざけた動きで!』
『今アンタを躱せればふざけようが何だろうがいいんだよ!俺はここで飛びたいんだ!』
『なら私に当てなさい!』
『言われなくても!』
ガウォークで躱したミラージュさんを執拗に追うバトロイドのハヤテさん、その動きはかなり荒っぽいがそれでもミラージュさんを追うには十分なもので、ガウォークのバックで逃げるミラージュさんの逃げ場を読んでその先にガンポッドを置く。先読みの技術の片鱗、それを見せたハヤテさんに対してひゅうっとミシェルさんが口笛を吹いた。
「こりゃ、合格だな」
ぽつりとそう漏らしたアラドさんの言葉を肯定するように、ガンポッドの一発が、ミラージュさんのキャノピーを直撃する。直後にハヤテさんのガンポッドが弾切れになる。だが、合格は合格、チャックさんがよっしゃあ!と腕を振り上げ。アラドさんは嬉しそうにスルメを噛み千切った。
「お姫様の言うとおりになったわけだな」
「あの、それ辞めません?」
「なんで?」
「見ての通り姫って柄じゃないです」
「いやだね」
「ええ~~」
俺のささやかな抗議をさらりと受け流したミシェルさん。ぶーぶーと文句を言ってみるが変えるつもりはないらしく余裕の笑顔で微笑まれた。は、腹立つ~~!!!オズマさんもニヤニヤするばかりで助けてくれないし訂正してくれないし。玩具にされてるぞ俺…!
『そこまでだ。アルト候補生、準備しろ』
「え、あ!はい!」
唐突な通信に俺は指ぬきのグローブを慌ててつける。通信相手はメッサーさん、スーパーゴーストを両翼にくっつけたジークフリードで先に試験空域に待機していたのだ。そして今から行うのはテスト後の奇襲である、それに乗じて俺も実機を動かしてやってみろという感じなのだ。
レイナさんマキナさんお手製の手袋型操作デバイスをエリシオンに繋ぎ、そこからフォールド通信でメッサーさんのジークフリードに繋ぐ。それを確認したメッサーさんがジークフリードからゴーストを切り離した。
『フォーメーションはダブル、攻撃はせずに俺の後ろから離れるな』
「了解!」
『おわっ!メッサー!?何しやがる!?』
『一度勝ったぐらいで気を抜くなということだ。一機撃墜しても次が来る、戦場で落ちる前に俺がここで叩きなおしてやる』
『クソッ!機体差が…!』
『そんなものは言い訳にならん』
そうしてメッサーさんに瞬く間にペイントまみれにされていくハヤテさんのVF-1EX。その光景はメッサーさんが弾切れし、俺がメッサーさんの飛行に必死に食らいついて、そしてハヤテさんの機体が一色になるまで続くのだった。
えー、長い間お待たせしました。復活とまではいきませんが時間ができたので番組内容を変更しつつお届けしております。
流石にストーリー進めないとエタると思ったので別視点は封印し本編をさせてもらいました。
ハヤテがバトロイドが得意という設定をうまく拾えたかどうかは分かりませんが、作者的には満足してます。
ではまた次回にお会いしましょう。感想評価よろしくお願いします。
一応確認 どっちがいい?
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SMS共闘ルート
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フロンティア組帰還ルート