「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集 作:カフェイン中毒
嬉しそうにはにかんだツムギ。この世界に来てから初めての笑顔に安堵した。瞳が髪で隠れていても笑ったとわかったのか、レイナさんは微笑み、カナメさんもほっと一息ついた。代わりにマキナさんは
「きゃ、きゃわわ~~~!!」
「へうっ!?」
机を飛び越えてツムギに抱き着いた!?ぎゅむぅっ!と熱烈なハグを受けたツムギは逃げる間も与えられなかったからかピシッとフリーズして動きを止めてしまった。あっちゃーという顔をしたカナメさんが申し訳なさそうに口を開いた。
「ごめんね、マキナってかわいいものに目がないの。気に入られたってことだから、悪く思わないでね?」
「ついでに小さいものも好き。ツムギ、ドストライク。スリーアウト」
「な、なるほど…?アルトくんどうしよう?」
「すまん、ツムギ…!」
「…ふみゅうううう!?」
俺たちに見捨てられたことを悟ったツムギが再起動してジッタバッタと暴れているが流石は戦場で歌うワルキューレ、基礎体力からもう違う。意にも介さずハグを継続されてる。やがて満足したらしいマキナさんがツムギから離れるとつやつやした顔でテーブルを回り込んでレイナさんの隣の席に戻った。残されたのは口から魂が出そうな、いやもう出てるかもしれないツムギ。一気に体力を持っていかれた顔してる。
「…アルトォォォ…」
「おーよしよし、びっくりしたなー」
泣きついてきたツムギを一通りあやしてやる。身内とそうじゃない人で反応変わりすぎでしょツムギちゃん?もうちょっとこう…何とかならんもんかね?ヒマリの相方扱いでデビューしちゃったんだしいつだって俺が一緒なわけでもないから困るぞー直さないと、帰ってからな。
「…何やってるんだ?」
「アラド隊長、その…マキナが…」
「あー、ああ分かった。悪かったな」
「…だいじょぶ」
「ま、とりあえず腹ごしらえからだな。ほれ、アイテール食堂名物、海蜘蛛唐揚げ定食だ」
「ちょっ!?アラド隊長!?それは…」
「美味しいけど知らない人に食べさせていいものじゃない、隊長ダメダメ」
目の前に置かれたのは、スープ、ご飯、おかずのセット。おかずは…細長い脚が8本ついた正しくザ・虫というフォルムの何かがカラッと唐揚げにされたものだった。あー、もしかしてアニメに何度か出てた虫っぽいやつか。郷に入っては郷に従えと言いますし、手を合わせていただきます。俺どころかヒマリやツムギまで躊躇なく海蜘蛛にかじりついた。いや、レイジに付き合っていろんなもの食べてるから今更虫ごときでぎゃーぎゃー言わんよ。最初は悲鳴を上げてたヒマリも静かに引いてたツムギも食わされた結果もう怯むことすらなくなったからな!
「美味しいですねこれ。なんて言ったらいいんだろ…」
「うーん、エビかな?でも濃厚だよね」
「…カニとエビの中間」
何の躊躇もなく食べ進める俺たちにアラドさんは豪快に笑って自分の分を食べだした。フリーズしていた他の3人も食事を始める。空腹も手伝ってかいつもよりご飯が美味しい。あっという間に器を空にした俺たち、見た目と違ってうまかったなー海蜘蛛。見た目はこう…足の長いタランチュラと言ったらいいだろうか?足の部分はサクサクカリカリで胴体の部分は濃厚な味をしていた。
「意外とバイタリティ高いのね…私は初めて見た時は食べられなかったのに…」
「カナカナの反応が普通だよ~」
「友達にすごく食い意地はったやつがいて…付き合わされて色々食わされました」
「蜂の子とかイナゴとか、虫系多かったよね」
「シュールストレミングはやばかった」
「…髪の毛に匂いが染みついた。思い出したくない」
「意外とえぐいことしてる、ヤバヤバ」
「シュールストレミングってあの罰ゲームに使われるいたずら玩具の匂いの一つだよね?食べ物だったんだ~~」
「ホントに売ってる、銀河ネット通販で。でもマジ高。罰ゲームに使える金額じゃない」
気になったらしいレイナさんが空中に投影された画面を見ている。裏側から見える左右反転したそれはどう見ても二度と思いだしたくない缶詰のそれで世界線が違ってもここに地球はあるんだなということを強く実感するものだった。アラドさんが食べ終えスルメをかじりだす。食後にスルメ…どんだけ好きなんだろう。逆に味が気になってきた。
そうして食事を終えた俺たちは元の部屋に戻されることになった。結局のところ俺たちが不審者なのは変わらないしアリスタ以外のものは証拠にならない。日本語があった以上に地球には日本があるのだろう。なら俺たちが持っているものの全てに印字されている日本語はこの世界のものと大差ないはずだ。異世界産であると確定しているアリスタが一番の証拠なのは変わらない。
「そういえば、すごく古い端末使ってる。空間投影式じゃなくてディスプレイ型なんて、レトロ」
「俺たちの世界だとこの携帯が最新式なんですよ。西暦2020年代ですから」
「それが一番信じられないんだけどな…お前さん他に何持ってきてるんだ?」
「…荷物見てないの?」
「おいおい俺たちは警察じゃなくてただの民間会社だぜ?そんな権限はねえぞ。有事とか戦時特例とかでもない限りな」
「えーっと、携帯とプラモ、あと充電器と音楽端末かな?」
「俺も似たようなもんですかね。違うのは工具くらいです」
「…アルトたちと一緒。遊びに行っただけだから大したもの持ってきてない」
「みんな模型持ってるの~?人気なんだね、その…ガンプラ、バトル?」
「そうですね、世界大会があるくらいですから」
「大会だと?模型を戦わせるのに大会までやってるのか」
「第7回まで行われたんですよー。みんな本気で勝ちに来てたんです」
割と和やかだ。表面上は、だけど。ヒマリとツムギは愛想笑いこそ見せているがやはり不安らしくあんまり突っ込んだ話をしようとはしていない。アラドさんカナメさんあたりは多分気づいたうえで何も言っていないんだと思う。こちらが話しやすいように聞きたいことを質問してくれているのがありがたい。
そうして部屋につくと、レイナさんとマキナさんは帰る、というわけでもなく模型を見せてほしいとお願いされた。いいんだけど…見せるのは選ばないとダメかも。多分一番波風立たないのはヅダかな?ツムギを見ると彼女は分かったとばかりに頷いて荷物をごそごそした後ヅダを取り出す。大会で使ったヅダ・マクロスパックではなく彼女が改めて作り直したフルスクラッチヅダだ。もちろん空中分解機能付き、まあこの世界じゃ意味もないことだけど。
「…私の、愛機です」
「お~~~!きゃわわ!凄い完成度かも!」
「ただの模型じゃない。こっちの模型とは雲泥の差、ヤバヤバ」
「私にはよくわからないんだけど…そんなに凄いものなの?」
「カナカナに分かりやすく言うと…このままおっきくしてデストロイドにしても大丈夫なくらい?」
「それってとんでもないことじゃないかしら…?」
「そのくらい、凄い。これなら戦えるのも納得。もしかして、全部手作り?組み立てセットみたいなもの使ってる?」
「…フルスクラッチだから、全部手作り。でも、私よりアルトのほうがすごい」
えちょっ!?ツムギさん!?そういう言い方したら俺のも見せる流れになるじゃん!?バルキリーしか持ってきてないんだが?いや、確かに食事の前に向こうじゃバルキリーとかは俺が創作したコンテンツってことになってるって説明はしたけど…見せていいのか?というか見せることである意味証拠になるのか?ダメだ、期待の視線、特にマキナさんの視線が眩しい。もしかしてツムギさんさっき見捨てたこと根に持ってらっしゃる?ええい、ままよ!
「アルアルのも見せてほしいな~~」
「ドキドキ、ワクワク」
「お手並み拝見ってやつだな」
「も~みんなして…無理しなくていいのよ?」
あっかん!ハードルが際限なく上がっていく!カナメさんの優しさが優しさになってない。ここで引いたら空気が冷めてめんどくさいことになるじゃん?よし、もう素直になれ俺!プラモの出来だけなら誰にも負けないという絶対の自負を思い出すんだ!というわけで覚悟を決めた俺は荷物をガサゴソ漁ってケースを取り出しそこから一つのバルキリーを取り出す。俺が初めて作成した始まりの一機の片割れ VF-1を。それを見た瞬間にやにや笑ってたアラドさんが真剣な表情に変わる。
「こいつは…バルキリーか!?」
「ふおおおお、これはVF-1EXじゃなくて開発当初のVF-1!すごいよアルアル!」
「よかったら手に取ってください。唯一他人に誇れるものなんで、どっから見てもらっても大丈夫です」
「…ほとんど現行品と変わらねえな、口径まで一致してやがる。なるほど確かにこれは凄いっていうわけだわ」
「ん…?ねえアルアル、もしかしてこれ変形する?ちょっとここら辺とか動きそう」
「しますよ。こっちのVF-1がどうなのかは知らないですけど俺のだとこう変形します」
そんなわけで俺はVF-1をガウォークへ、そのままバトロイドへ変形させる。マキナさんは食い入るようにそれを見つめてぶつぶつと難しい単語を呟いている。メカニック的な…と思ったけどもしかしてそれ稼働部位にかかる強度計算を暗算でやってらっしゃる?アラドさんは変形しきったVF-1を見て唸る様に
「坊主、お前これ少し器用で済ませていいもんじゃねえぞ。マキナ、どう見る」
「はい、今ちょっと計算してみましたけどこっちのVF-1と99%同じ設計です。というか誤差レベルでしか差異がないんです~。可変戦闘機って軍用だから民間に設計図なんて公開されてないのに…」
「その端末が最新だというならハッキングでの盗用の可能性は限りなく低い。腐っても軍のコンピュータ、カチカチ」
「えーと…つまるところどういうことなんです?」
「お前さんが持ってるそのVF-1だがな、実物と形どころか変形機構その他もろもろが一致してるんだよ。その設計のまま大きくしてエンジンぶち込んじまえば飛ぶっつーことだ。こりゃ異世界ってのが現実味を帯びてきたな…」
つまり、俺のVF-1は今この世界にある現行、というか当時のものとほぼ同じ形かつ同じ変形機構を有している、ついでに武装の縮尺の口径も一致していると。さらにさらにレイナさんが言うには一応の最新式である俺の携帯の科学技術を見るに軍にハッキングかけて設計図を盗むなんてことは不可能であり、それが俺の話の信憑性を高める結果になった…ってことでいいのか?わからん。
「ちなみにだが…ハッキングなんてやってないよな?」
「やってませんし言葉が通じない時点で文字も分かんないです。というかハッキングそのものすらできません」
「だろうなあ…お前さんたちボロが出ねーからな。寝起きですら日本語だ、こっちのコンピュータ言語なんて知る由もないか」
「ねえアルアル、メカニックになる気はない?結構才能あると思うよ!」
「いや模型作りでそんなこと言われても…」
「え?だってアルアル1からこのバルちゃん作ったんでしょ!?その時点で設計できちゃうってことだよー!」
それもそうか。あれっ!?これもしかして結構やばいこと!?この世界じゃ一番メジャーな兵器である可変戦闘機を模型とはいえほぼ完璧に再現したってことだよな?確かに前世のデザインの丸パクリとは言え実際に図面におこして製作したのは俺だし…実際そこは俺でも自分で誇れる部分だと思う。
「それはそうと…いやどっから見ても大したもんだ。メッサーが見たらなんていうかな」
「絶対無言で何も言わない」
「そんなことはないと思うよ?メッサー君バルキリー大好きだし…」
「メサメサの表情の違いを見抜けるのはカナカナだけだよ~」
「ええ~…そうかしら?」
惚気かな?というかメッサーさん普段からあの鉄面皮なんだ…俺やヒマリ、ツムギといった不穏分子がいるから務めて無表情でいるのかと思ったらそんなことはないみたい。いやだってすごかったよ?話しかけるなオーラみたいなものは一切出てないのにもかかわらず威圧感ヤバすぎてよろしくお願いしますの一言も発せなかったもん。身長もでかいから見上げなきゃいけなくて首がいてーし。
「そういえば、動画で出てた機体じゃないみたいだけどあれって持ってきてないのカナ?あっちの方も気になるよ~」
「動画も一瞬だったし、最後どうなるかも気になる。ワクワク」
「…アルト、出しても大丈夫?」
「うん、もうこの際大丈夫だよ」
「…やった」
そういってツムギがとてとてと自分のバッグの中を漁りに戻る。ヅダ・マクロスパックは世界大会の後改めて予備パーツを利用して組み立てなおしたから決勝で使った赤いマクロスパックプラスを含め2機ある。ツムギはどうやら俺の作ったそれらをたいそうに気に入ったらしく肌身離さず持ち歩いているようだ。足取りの軽さを見る限り自慢したいのかな?やっぱヅダが好きだなーあいつ。そう考えてると部屋内に放送が入って全員の動きが止まる。言葉はなく音だけだから俺たちは何のことかわからない。
「ついたみたいだな。すまんな、お開きだ。あとでじっくり見せてもらいたい」
「え~~もう?しょうがないな~」
「タイミング悪すぎ」
「もう、しょうがないでしょ?私だって気になってたのよ。じゃあ、貴方たちも準備してね?ついたから」
「ついたってどこにですか?」
「決まってるだろ。俺たちケイオスラグナ支部の母星、ラグナにだよ」
そう言ってアラドさんは座っていた席を立ちあがるのだった。
こっちばっかりになっちゃいますね。やはり序盤は書きやすいです。ですが本編を忘れているわけではないのでご安心ください。
そんなわけで次回は本編と同時更新とさせていただきます。ではまた近いうちに。