「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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異星での初めての夜

 惑星ラグナ、マクロスΔの主な舞台であるブリージンガル球状星団に属する水の星。地球よりも水が多いためか現地民のラグナ人は水中生活に適応した種族としてプロトカルチャーにデザインされておりエラやひれなどを持つ。とまあこんな概要はここまでにしておいて、どうやらラグナに向かっているという俺の推測は外れていなかったらしい。というかまず俺がいた星ってどこよ?

 

 「いやー、アル・シャハルから帰る途中でまたヴァールに合うとはついてなかったな。何事もなく帰れてよかったですね、カナメさん」

 

 「ええ、それに面白そうな娘もいたし、アラド隊長も目星がついたんでしょう?」

 

 「はは、あれを見たらそうなりますな。君たちは荷物をまとめておいてくれ。着艦したらマクロスエリシオン艦長に挨拶に行くぞ」

 

 「あーあー、もっと見たかったのに、残念。でもジクフリちゃんの整備も大事大事!レイレイ、ハンガーへごー!」

 

 「了解、じゃ、そゆことで」

 

 あれよあれよと話が進んでいく。なんかこんな仕事の話を俺の前でしてよかったのか?それとも反応を見てる?信用されてない感じがビンビンにしてる。でも会話で目星がついた。もうすでに始まってるんだ。近いうちにこのラグナでワルキューレの選抜オーディションが開催されてそこでフレイア・ヴィオンが飛び入り参加して合格、ハヤテ・インメルマンがアラドさんにスカウトされてデルタ小隊に入隊し…戦争が、始まる。

 

 俺は何ができるんだろうか。いや、何かしようとすること自体がおこがましいかもしれない。だって、俺は器用さならいくらでも自信が沸いて出るがバルキリーを動かせるわけでもない。飛行理論も航空力学もそんなものはかけらも分からない。しいて言うなら、お荷物。マジでこれしかない。なぜ連れてこられたかと言えばフォールドレセプターがあるから。ヒマリとツムギは状態的に珍しいらしいのでどっかに行くってなった時に素直に放してくれるだろうか?

 

 ケイオスに後ろ暗い部分があることはアニメを見てわかっている。アラドさんたちから離れた瞬間何をされるかわからない。本気で誘拐されて人体実験されるなんてことも、ありうる。この世界において天涯孤独で戸籍すらもない俺たちが消えたところで誰も不審に思わないだろう。困った、もしかしたら助けられた時点で詰んでるのかもしれない。

 

 微細な振動が走って俺の思考が中断される。接舷したらしい、もっとすごい振動が走るもんかと思ったけど立ってても分からないレベルだ。バルキリーをケースに仕舞いなおして荷物をまとめ上げる。ヒマリもツムギもまとめ終えたようでそれを確認したアラドさんがドアを開けてカナメさんが続く。俺たちもその後ろについて行く。マキナさんとレイナさんは別の通路に消えて別れていってしまった。

 

 「今からこのマクロスエリシオンの艦長にあってもらう、がそんなに緊張しなくてもいい」

 

 「おおらかな人だから、多少の失礼は目をつぶってくれるわ。それに子供ならむしろ気にしないかも」

 

 「ええっと、仮にすぐ出ていきたいってなったらどうなります?」

 

 「止めはしない、が心配はするな。世間ってのは厳しいぞ坊主、子供だけで生きていけるほど甘くはない」

 

 「出来れば残ってほしいのが本音ではある。貴方たちが私たちを信用してないのはわかるけど、子供を放っておく大人にはなってないつもりだもの。それに言葉も文字も分からないのでしょう?せめて学んでから出ていってもらいたいところね」

 

 「…すいません、生意気言いました」

 

 正論だ。ぐうの音も出ない。どこかで焦っていたようだ。多分、これは本音だと思う。向こうも俺たちを怪しんでるのは当たり前なんだけどその前に一人の大人として子供を心配してるってわけか。クソ、歯がゆい。これから戦争をするであろう人たちに俺たちという異物が入って大丈夫なのだろうか?軟禁されることこそないだろうけど多分ずっとエリシオンで待機もしくは裸喰娘娘かどこかで働くのだろうか?しかも、アリスタがこれ以上何をするかすらわからない状態で。また暴走して俺たち以外の誰かを巻き込んだら目も当てられないぞ。ダメだ、負のイメージしかわかない。

 

 完全に難しい顔で黙り込んだ俺をひと笑いしたアラドさんはぐしゃりと俺の頭をかき混ぜてから大きなエレベーターに乗り込む。俺たちは無言でその後ろに付き添うのだった。

 

 

 

 そうして何度かエレベーターを乗り越えて一つの部屋の前につく。アラドさんはその扉をノックすることすらなく開いた。中は、アニメでよく見たブリーフィングルームだろう。そしてその中には一人、帽子をかぶった推定220㎝以上の身長を誇る大柄な体。緑色の肌、豪快そうな顔つきをした男性…マクロスエリシオン艦長のアーネスト・ジョンソンだ。ヒマリとツムギは肌の色を見てぎょっとしているようだが彼はゼントラーディと地球人のハーフだ。この世界では普通、ということになる。

 

 「アラド…ノックくらいしろ」

 

 「すんません。デルタ小隊及びワルキューレ、アイテールと共に帰還しました。それで…通信でお話したことなんですが」

 

 「ご苦労だった。ああ、聞いている。異世界からの漂流者、それも子供か。ほんとに信じたのか?」

 

 「まだ半信半疑ですが、疑う要素が次々潰れていってます。特に、カナメさん」

 

 「はい、彼から預かったアリスタという物質ですが…現時点で一致する物質は見つかっていません。簡易検査ですけど…それでもです」

 

 「ふむ、なるほどな…よしわかった!待たせてすまない。俺の名はアーネスト・ジョンソン、このマクロスエリシオンの艦長をしている。アルト君、ツムギ君、ヒマリ君、でよかったかな?」

 

 「はい、そうです。助けていただいて感謝してます」

 

 「うむ、気にすることはない!君たちが直面している事態についても概ね信じる方向で行こうと思う!アリスタとやらの解析が終わるまではここで次の行動に向けて準備するといい!もちろん終わった後、ここで働くというのなら歓迎しよう!元の世界に戻る方法についても、協力させてもらう」

 

 「あの、なんでそこまでしてくれるんですか?私たち、お金も持っていないのに…」

 

 「…私たちの世界だと、警察に引き渡して終わり、です」

 

 ツムギとヒマリはそう疑問を呈す。そう、本当ならそうして終わるハズなのだ。ケイオスのフォールドレセプター持ちの人材が不足しているのかもしれないが役に立たない子供まで使うほどなのだろうか?それに俺は二人をワルキューレにという話だったら全力で阻止するぞ。死ぬかもしれない戦場で歌うことなんて二人にさせられない。怪我でもしたら俺はどう二人の親御さんに顔向けしたらいいんだ?そう問うた二人を前にしてアラドさんとアーネストさんは豪快に大口を開けて笑った。そして二人そろって

 

 「「救難信号を無視する船乗りがいてたまるか!」」

 

 そういった。言葉の真意は何となくわかる。昔からそういうものなのだろうということは。

 

 「救難信号、ですか?」

 

 「そうだ!この広い宇宙で俺たち船乗りは互いに助け合わなければならん!たとえその救難信号が宇宙海賊のものだとしても、届いたならば助ける!それが船乗りというものだ!」

 

 「それに、お前さんらの事情が丸っと本物だとしたら統合軍は返すことなんてせんだろう。まあ俺たちもお前さんらの事は気になるし放っておいたらまずいことになるっつー予感もある。言い方は悪いが、手元に置いておきたい」

 

 「もちろん、解析中も働いてくれるならそれに応じたお給金も出すわ。その通訳機もあげるし、必要なら勉強の時間もとる。だから、出ていくのは待ってもらえないかな?」

 

 そう言われて、俺たちは顔を見合わせる。ここまでやってくれるというのにその手を振り払っていいのだろうか?本当に信用するべきなのだろうか、俺としては信用したい。あの二人そろっていった救難信号の話はそれを信じさせるにたるものがあった。ヒマリとツムギは俺に任せるという感じなので俺が代表して頭を下げる。

 

 「これから、よろしくお願いします」

 

 「承った!では、今日はこれで下がって大丈夫だ。アラド、カナメ、デルタ小隊とワルキューレも解散していい。今日はアイテールの休憩室を当てがってやれ」

 

 「ウーラ・サー!じゃ、今日のところは解散だ、と言いたいところだが…折角だ。もう少し付き合ってくれ」

 

 「では、また明日会おう!」

 

 アーネストさんに1礼して部屋を辞した俺たちを連れてアラドさんは今まで通ってきた道を戻った、と思いきや道を外れて別の場所に案内しだした。そうして道を外れた後、扉を開く。その先には茜色の夕焼けが広がっていた。外なんだ。この先。たぶん、アイテールのカタパルト、その上にアラドさんは俺たちを連れてきてくれたんだ。潮風の匂いと嗅いだことのない匂い、地球ではありえないほどの水一色の町並み、雄大で、奇麗で、そして大きい。

 

 「いい景色だろう?俺のお気に入りなんだ、改めてラグナへようこそ。ゆっくり、ってのは違うか。安心して過ごしてくれ」

 

 「きれー…」

 

 「…うん、すごい、奇麗」

 

 「すっげー…」

 

 言葉が、でない。圧倒されるとはまさにこのこと、日本のコンクリートジャングルが当たり前だった俺たちの前にある自然そのものと調和した街並みは別世界であるという事実をガツンとくれたがそれ以上に感動を禁じ得ないものだった。海にとぷんと沈みそうな茜色の夕日が優しく照らしている。太陽は眩しいと普段は嫌がるツムギですら、髪を分けて瞳を露出して景色を見てる。俺たちはアラドさんが苦笑いしながら声をかけてくれるまでそれを見つめ続けていた。カナメさんの微笑ましいものを見るような目に、ちょっと赤面したのは内緒だ。

 

 

 

 「ねー、アルトくん、起きてる?」

 

 「寝てる」

 

 「…起きてるじゃん、嘘つき」

 

 「眠れねえんだろ」

 

 「うん、ツムギちゃんも?」

 

 「…お昼に眠りすぎた。あと、色々あって眠れない」

 

 アラドさんたちと別れたそのあと、あてがわれた部屋の中で俺たちはそうぼやく、そう、眠れないのだ。幸い泊まり込みを想定して研究所に行ったので明日の分の着替えがあってよかったと思いシャワーを借りて着替え、床に入ったのだけれど眠れない。気絶するように眠ったおかげで眠気が完全にぶっ飛んでしまったのだ。

 

 体を起こした俺たち、携帯の充電にはまだ余裕があるけどインターネットにつながってないし電話回線だってつながってない。だから、全く使わない。話すことは専ら元の世界に戻れるかどうかという曖昧かつ後ろ向きな話題だけ、これでは気がめいってくる。

 

 「外、行くか。アラドさんが連れてってくれたとこ。いってもいいって言ってたよな?」

 

 「うん、扉を開けるカードもくれた。そこ以外はいけないらしいけど」

 

 「…外、出るの?」

 

 「眠くなるまでな。風に当たったら気分も晴れるかもしれないだろ?」

 

 「…うん、行く」

 

 そうして靴を履いた俺たちは上着を着てカードをリーダーに通して部屋を出る。多分大丈夫、ていうか部屋の中ばっかりじゃ気分も落ち込むだろ!緊急事態じゃなけりゃいつでも出ていいぞ!ってアラドさんが許可をくれたので大丈夫、なはずだ。人を感知して自動で電気がつく廊下を進んで、カタパルトデッキに出る。日が暮れた真っ暗な中、街の明かりが優しく光っていた。夕方とは違うその光景もまた、奇麗だ。

 

 資材を入れているらしい箱が出っぱなしになっていたので3人で肩を寄せ合うようにして座る。夜の少し冷たい風が二人の体温で相殺される。俺の右手にヒマリの、左手にツムギの手が重なる。柔らかな風が吹き抜ける中何も言わず傍にいて同じ方向を見るだけ。それだけでよかった。訳も分からず知らない場所に放り出された1日、疲れたし、訳が分からないし、不安だし。それがゆっくり溶けていくような感じがする。

 

 「たどりつく場所さえも わからない 届くと信じて 今 想いを走らせるよ~」

 

 ヒマリが歌いだした。アカペラで、ガンダムの曲…ガンダムSEEDの「Realize」を。マクロスの曲じゃないのは、多分誰かに聞かれたら面倒なことになるから。そして、元の世界の曲で思い出すものがあるから。例えば、セイ、レイジ、タツヤさん…マクロスは歌がメインではあるがガンダムだって曲は無数にある。ヒマリはよく歌ってたし、ツムギもそうだ。

 

 「カタチ変えてゆく 心もこの街も だけど消えない 願いがある」

 

 続くようにツムギが続いた。思えば彼女の歌も上手くなった。そりゃあ、もうプロだから当たり前っちゃそうなのかもしれないけど。それに俺たちにとって歌は大事な絆の一つなんだからいつ誰が歌いだしたってぴったりと合わせることができるんだ。軽音部で沢山練習したしな。

 

 「違う夢をみて 同じ空ながめた あの日誓った 負けないこと」

 

 二人に比べたらへたっぴだけど俺も続く。せっかく歌うなら気持ちよくいきたい。唐突に始まったアカペラだけど今に始まったことじゃないしな。タツヤさんは正気に戻そうとしたのも俺が無理やり歌い始めたんだっけなんて最近の話なのにもう忘れかけてる。それだけ毎日が濃いっていう話なんだけど。

 

 「ずっと2人 この手繋げずに 生まれてきた意味を 探してた」

 

 サビを二人に歌ってほしかった俺はバトンを渡さずにそのまま歌い続ける。俺の考えはお見通しなのか二人はクスッと笑って繋いでくれた。

 

 「たどりつく場所さえも わからない 届くと信じて 今 想いを走らせるよ~」

 

 「過ちも切なさも 越えるとき 願いがヒカリ抱きしめる~ 未来を呼び覚まして~」

 

 ヒマリの最後の声が風に紛れて消えていった。そのあと、二人も俺も何も言わず黙り込んだ。歌ったことで少し火照った体に風が当たって気持ちいい。

 

 「満足したか」

 

 後ろから声が聞こえた。念のため通訳機を付けたままだったから言葉はわかる。ビクッとなってしまった俺たちがそろそろと振り返るとそこにはメッサーさんがいた。多分当直か監視、おそらく後者。止めなかったのは俺たちが怪しい行動をしなかったからか。見上げた俺たちを変わらない仏頂面で見下ろした彼は俺たちが座っている箱の上にお盆をおいた。その上には3人分のマグカップとホットミルク。

 

 「眠れない、というのは理解する。心情的に責めはしない。だが、子供があまり危険なところに入るな。それを飲んだらおとなしく部屋へ戻れ」

 

 そう言ってメッサーさんは踵を返して扉を開けてエリシオンの中へ入っていった。俺たちは彼の不器用な優しさを前にして、顔を綻ばせた。なんだ、カナメさんの言う通り全然悪い人じゃないじゃん。むしろ、すごく優しい人だ。俺たちは彼が持ってきた少しだけ甘いホットミルクをありがたく頂きながら、笑い合うのだった。よく眠れそうだ。

 

 




 お待たせしました

 ガンダムの世界でマクロスの曲を歌うならマクロスの世界でガンダムの歌を歌ってもいいよね!?というひらめきに支配された結果の話でした。

 次回から原作に突入できたらいいなあ…(願望

 本編の方も同時投稿してるのでよかったらどうぞ

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