「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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ケイオス体験1日目!

 結局あの後ありがたくホットミルクを頂いた俺たちはもう一曲歌って部屋に戻った。歌ったことによって気持ちが切り換えられたのかそのあとはぐっすり眠ることができた。メッサーさんには感謝しかない。気持ちよく目が覚めた俺たちが乱れたシーツを片して布団を折りたたんでいるとドアが開いてカナメさんが姿を現した。

 

 「おはよう、よく眠れたかしら?ふふっ、大丈夫そうね?」

 

 「おはようございます、カナメさん」

 

 「おはようございます!」

 

 「…おはようございます」

 

 「じゃあ、さっそくご飯食べに行きましょうか!今日はどうしたいとか希望はある?」

 

 カナメさんが明るく聞いてくるので予め昨日話し合っておいたことを言ってみよう。正直何もしないでボーっとしてるよりは何かをしていた方が気分的にもいいと思うし。

 

 「はい、あの…よかったら雑用か何かさせてもらえませんか?何もしないと流石に申し訳なくって…」

 

 「お世話になってばっかりじゃ気が引けます!」

 

 「…出来ることがあるなら、やらせてください」

 

 「もー、気にしなくていいのに。じゃあ、お願いしようかな?とりあえず食堂に行きましょうか」

 

 俺たちが口々にそう尋ねるとカナメさんはしょうがないなあという顔をしつつもどこか嬉しそうにそう返してくれるのだった。それはそうと朝ごはんにまた虫は出てこないよね?いや別に食べさせてもらえるだけありがたいから文句なんか口が裂けても言えないんだけど精神衛生上虫を食べ続けるのはちょっとくるものがあるんですハイ。

 

 

 「美味しかったね~~サンドイッチ」

 

 「…BLTサンド、こっちにもあったんだ」

 

 「やっぱこっちにも地球あるんだな、うん」

 

 朝食はサンドイッチだった。何というか、ボリュームたっぷりのいたって普通のサンドイッチ。昨日が蜘蛛を食べただけにもっとすごいのが来るかとある意味身構えた部分があったのも事実だけどいたって普通のご飯で嬉しかったなあ。3人そろって首をかしげてるとカナメさんが「どっちかっていうと海蜘蛛はゲテモノの類なのよ?」と教えてくれた。アラドさん自分が好きだからってゲテモノ勧めたのか…美味しかったから文句はないけど。

 

 「そういえば、ここで待っててって言われたけど何するんだろう?」

 

 「俺たちにもできることだろ…掃除とか?」

 

 「…こんなところで?」

 

 現在俺たちがいるのはアイテールのカタパルトデッキ…の端っこ。カナメさんにここで待っててねーと言われたのでおとなしく待ってるわけなんだけど居心地が悪い。どういう風に俺たちの事が広まってるのかわかんないんだけどあっちこっちで働いてる整備士さんや誘導係の人たちが「フォールド事故とは大変だったね」だの「無理しなくていいんだよ?」だの「困ったことがあったら何でも言ってくれ!」とか滅茶苦茶にやさしくしてくれるから邪魔をしているようで申し訳ない。というかこんなガキンチョを邪険にせず気にかけてくれるって皆さん人間出来すぎじゃないですか?

 

 「すごーい、バルキリーが飛んでる」

 

 「こういう状況じゃなきゃあ全力でテンション上がったんだけどなあ」

 

 「…ちなみにアルト、あのバルキリーって構想にあるの?」

 

 「あったっちゃーあったけど…あと5年くらいたったら形にできるんじゃね?っていうレベルの曖昧なイメージなんだよな。つまり、ない」

 

 そう、さっきから連続でバルキリー、VF-31が発艦していってるのだ。最初はアラドさんの緑の機体、次にメッサーさんの黒、次にオレンジ、次にヴァイオレットとデルタ小隊が全部出ていってしまった。訓練か何かだろうか?動くVF-31という喉から手が出るほど欲しかった光景を見ることが出来てうれしいのは確かなんだけど代償がでかすぎて何とも言えんところだ。けど参考にしたいから目に焼き付けとこう。俺の飛行と何が違うのか、離陸からもうすでに10以上も違う。玩具と本物の違いとはいえものにできたらガンプラバトルでかなりのアドバンテージになるはずだ。

 

 でも、割とマジで何もすることがない。雑用というなの放置プレイである。もしかしてヒマリとツムギがなってるらしい常時アクティブ状態のフォールドレセプターによる空気清浄機の役目が今の俺、というか二人の仕事ってこと?そんで俺はマジでおまけ?あらやだちょっとグサッと来るんだけどそれ。と思ってると整備士さんの一人がタブレットを持って俺たちのところにやってきた。

 

 「もうちょっと待っててね~今仕事ができるだろうから。良かったら見るかい?」

 

 「なんですか?これ?」

 

 「これはメッサー中尉のジークフリートのカメラ映像だよ。今から模擬戦をするそうだから、ペイントで汚れた機体を洗ってもらおうってね。アラド隊長から聞いてるんだっけ?」

 

 「…動きが激しいのに全くぶれない、すごい」

 

 「お、分かるのかい?メッサー中尉はバルキリーの操縦ももちろんだけど負担のかけ方も一流でね、まいど一番消耗が少ないのさ、じゃあタブレット置いておくから好きなだけ見てね~」

 

 そう言って人のよさそうな整備士さんは去っていった。俺たちは3人こぞってタブレットを覗き込む。ジェットコースターをより激しくしたようなカメラの映像ではあるが不思議と酔わない、たぶんこれが操縦技量ってやつなんだと思う、デルタ小隊のVF-31は基本的にミサイル積んでないので腕部のミニガンポッドと機銃のやり取りだけどメッサーさんは四方八方から来る射撃を鮮やかに躱して反撃を確実に当ててる。ヒェッ、そこでそんな急制動するの?キャノピーに弾かすったぞ!?超怖い。そんなギリチョンで避けて怖くないんだろうか。

 

 「うお~~…すっげ。全然違うや」

 

 「…これ、バトルでだいぶ参考になるやつ」

 

 「いまのロールとか再現できるかな?」

 

 結局、そんな戦闘を見せられても俺たちは専らそれをガンプラバトルで再現できるかどうかが話題になる。通訳機は外してるから周りには謎言語に聞こえてるであろう俺たちの会話、まあ聞かれても普通に説明できるんだけど…通訳機結構大きくてずっとつけてると耳が痛くなるんだよね…話しかけられるかもって時につけよう。

 

 あっという間にペイントまみれにされるヴァイオレットの機体とオレンジの機体、たいしてメッサーさんの機体は被弾ゼロ、模擬戦が終わったのか奇麗に編隊を組んでこちらに帰ってくる。心なしかヴァイオレットの機体がちょっとズレてる?あんまり気にならないレベルだけど。

 

 あっという間に戻ってきたVF-31が次々と着艦した。全く無傷の緑と黒に対して赤いペイントまみれの紫と橙、こりゃー掃除のし甲斐がありますこって。と言っても俺達バルキリーどころか飛行機の掃除すらやったことないんだけど。いいとこお父さんの車の洗浄を手伝うくらい?

 

 「お!いるな坊主たち!こっちこい!お前らの仕事を説明してやる!」

 

 緑のVF-31のキャノピーが開いてヘルメットを脇に抱えたアラドさんが姿を現した。流石にスルメはかじってないか、整備士さんにお礼を言ってタブレットを返してアラドさんの機体に駆け寄る。彼はキャノピーから飛び降りるという傍目から見たらとんでもないことをサラリとこなして俺たちの前に着地した。他の機体からも操縦者が出てきて同じように飛び降りて着地した。もしかしてこれが普通?すっげ~。

 

 「全員、集合!よし。ではいつも通りジークフリードのペイントを落としてからブリーフィングとする。今日はお手伝いがいるから変なところは見せるなよ、特にチャック」

 

 「なんで俺名指しなんですか!?」

 

 「冗談だ。昨日説明した通りだ。被弾は死に直結する、己のバルキリーのペイントの量が今日のお前らが死んだ回数だ。噛み締めて掃除するように。メッサー、いくぞ」

 

 「う…ウーラ・サー…」

 

 「はい…」

 

 「了解」

 

 そう言ってアラドさんはメッサーさんを伴ってカタパルトから去っていった。残ったのはヘルメットをかぶったままの女性と恰幅のいい男性、彼らはヘルメットを脱ぐと俺たちに向き直った。

 

 「あー、自己紹介な!俺はチャック・マスタング少尉。事情は聞いてるよ、大変だったなあ」

 

 「ミラージュ・ファリーナ・ジーナス少尉です。どうぞミラージュと呼んでください。ところで何をするかは聞いてますか?」

 

 「いや、説明してくれると思ったんですけど…」

 

 「全くアラド隊長は…では代わりに私が。ペイント弾の清掃はそこまで難しくありません。水で流し、ブラシで擦る。以上です。まあ、大きさが大きさですから…」

 

 「…たしかに、大きい」

 

 ちょっと凹みながらミラージュさんが説明してくれた通り変形する大型ロボットであるジークフリードにこれでもかと塗りたくられたペイントを落とすのは苦労しそうだ。しかも話を聞くにこれは被弾した己を戒めるための罰のようなもののため基本的に一人でやらなければならず整備士さんたちが手伝うことはよくないんだとか。もちろん場合によりけりで別の仕事が入っている時とかは任せることもあるらしい。

 

 さっそくというわけで腕まくりとズボンを捲り上げた俺、ヒマリとツムギはスカートなのでホースを持たせることにしよう。デッキブラシを借りてごしごしとバルキリーを洗い出す、割とすぐに赤い塗料は落ちてくれるんだけど飛行してるときに乾いちゃった部分が結構頑固だ。というか近くで見るとジークフリード超かっけえ。やっべえ、暇なときに紙とペン借りてスケッチしたい。出来るならフルスクラッチしたい。一度見たから本物とそん色ない構造で作れると思う。

 

 「…メッサーさん、すごい。ね、アルト、ヒマリ」

 

 「ああ、超やばいな」

 

 「アルトくん語彙力語彙力」

 

 「なぜ、そう思われるのですか?」

 

 「…ペイント弾が機体の急所にしか当たってない。コックピット、エンジン、関節…一発で落ちるような場所ばっかり」

 

 「…そうですね…メッサー中尉はとんでもないお方ですってなんでそんなことわかるんですか!?」

 

 「あれ?どういう風に聞いてるんですか?私たちの事」

 

 「あー、フォールド事故でこっちにやってきた異世界人(仮)っていう話しか聞いてないんだ。なに?向こうでパイロットでもやってたの?そうだったら異世界殺伐としすぎじゃないか!?お兄さん怖いわー」

 

 「ああいえいえ!そういうわけじゃなくて!えーと…」

 

 どうやら中途半端な感じで話が通っていたらしい二人に掃除をしながら俺たちが元の世界でやっていたことを説明する。ガンプラバトルという模型を動かして戦う遊びがあってそれが一種の競技として認められており世界大会まであること。とりあえずそこら辺まで話し終えたら二人ともぽかんとしてしまった。

 

 「模型が動くね~~、ちょっとチャックさんの理解を超えてきたな。さすがは異世界」

 

 「私の世界では実際に変形する飛行機なんてなかったですよ?」

 

 「なるほど、おたがいさまなわけね」

 

 「ということは今の急所のくだりって…」

 

 「…ガンプラバトルで当たったら大体まずい場所。特にコックピットとエンジンは致命傷、関節はまあ?バトル続行?」

 

 「コックピットやられたら一発で負けだもんな」

 

 「シミュレーションに転用できないものでしょうか…?すいません、動かしますので離れててください」

 

 そう考えるとバルキリーの機首部分にコックピットというMSの内蔵式と違う構造は結構不利ではなかろうか?心臓を丸出しにしてるようなもんだよねバトロイドならともかく。まあ基本どっちも当たったら負けだから一緒っちゃ一緒か。

 

 奇麗になったファイター状態の2機が二人の手の動きで遠隔操作されて腕で体を支え足を展開してガウォークに変わる。おー、やっぱついてたんだ遠隔操作機能!あー、けっこう中までペイント入り込んでるのね。これはバトロイドもやらなきゃいかん奴。ついでに変形を見れてだいぶテンション上がった。ここがそうなるのね、記憶とイメージで作ってた他の機体と違ってジークフリードは実物を見れたしこれは捗る!

 

 「流石に高いところは危ないので私たちがやります。足をお願いしますね」

 

 「終わったら昼飯奢ってやるよ~~」

 

 そう言って二人はするするとジークフリードの上にホースを持って昇っていった。慣れが段違いですね。言われた通りに足に入り込んでいたペイントを流す作業に没頭することにする。何というか、楽しいわ。バルキリーに触れられるっていうこともそうだけど体を動かすことによって気分が晴れる。気持ちのいいラグナの潮風と景色のおかげで鬱屈とした気分が吹き飛んだんだと思う。

 

 降りてきた二人がまたジークフリードを変形させたバトロイドに変え掃除、そして懸架アームでジークフリードが掴まれファイターに変形させられた後、格納庫に運ばれていった。ふうと一息ついたミラージュさんがどこかに通信を入れている。アラドさんあたりだろうか?

 

 「チャック少尉、このまま昼休憩に入れ、とのことです」

 

 「あ、そうなの?じゃあ丁度いいか!昼飯奢ってやるよ~!行くぞ!」

 

 「どこに、ですか?」

 

 「決まってるさ!ラグナの名店、裸喰娘娘さ!」

 

 ヒマリの疑問にチャックさんは自信満々とした顔でそう答えるのだった。




 お待たせしました。本編の方は心が折れそうなのでもうちょっと待ってください。掲示板人気なのは分かってたけど通常回なくていいは心に来るんです…

 掲示板ね、書くの大変なんです。ネタ集めなきゃいけないし…反応考えないといけないし。

 とりあえず次の話は裸喰娘娘とワルキューレとの絡みで行きますんでよろしくお願いします

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