「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集 作:カフェイン中毒
一拍おいての演奏、ツムギがシンセサイザーで入りリズム隊であるヒマリが入る、本当だったらラッパとかサックスとかの音があればビシッて決まるんだけどないものねだりは良くないし、俺たちからしたら十分なくらいかっこいい。最後に俺がギターをかき鳴らしてメロディーを作る。うん、ほぼ一緒だ。最初は、だけど歌に入るまでの前奏で美雲さんが俺たちに向かって口元に指を立てるジェスチャーをしてることに気づく。
二人と一瞬顔を見合わせてアイコンタクト、多分美雲さん、歌いたいんだ。なんで俺たちの演奏でっていうのは置いておくとして、あの歌をもう一度聞けるなら悪い気はしないしある意味で歌ってもいいと認めてくれたのかもしれない、このほんの少しのメロディーで。歌いだしのタイミング、美雲さんが息を吸い込むのが見える。
「見つめ合って恋をして 無我夢中で追いかけて だけどもっと知りたくて メラメラしてる」
「美雲!?」
「クモクモ…?」
「ズキズキ、くる…!」
美雲さんが歌いだした瞬間、他のワルキューレのメンバーが驚いたように彼女を振り返る。やっぱり、歌ってくれるってことだったんだ。それなら俺たちがやることは簡単、テンポをずらさず、リズムを保ち、完璧な演奏を披露すること。まあ、ヒマリの提案したアレンジくらいは許してほしいけど。
「願うほど謎が増え 思うほど熱になる だからもっと飛び込むの 未開の世界 ah~」
「クモクモ、フォールドレセプターが…!?」
「ううん、そんなことより…!」
「私たちも!」
楽しい、奏でるリズムが、響くメロディーが部屋を満たしていくのがたまらなく楽しい。耳コピだとしても再現度はそれなりのものであると自負しているし、俺は前世で何度も何度も聞いた音楽なんだ。転生する前は音符すら読めなかったけど今は違う、どの音がどこを弾けばいいか分かってる。ミスタッチはしない、イメージ通りに動いてくれる体が理想通りに弾いてくれる。
「「恋とか夢とか誰でも信じるけど そこそこ攻めなきゃつまんないよ!」」
カナメさんが歌に入った!マキナさんもレイナさんも構えているので入るつもりなのかもしれない。サビ前、打ち合わせ通りのアレンジを入れる。生バンドっていうのはこういうアレンジを入れてこそだと思うんだよね!一番の盛り上がりのままパスを投げろ!
「「「「ギリギリ愛」」」」
「「いけないボーダーライン 難易度Gでも」」
「全て壊して見せる!」
やっぱり、すごい!歌唱力で俺たちを打ちのめそうとするくらいの圧、マイクがないなんてとても信じられない。負けるもんか、歌った後でやっぱりつまらなかったわ、なんて思わせたくないよなあ!?と、3人でアイコンタクトをした瞬間に気づいた。歌詞が、理解できてる?いや、あとで考えよう。今はとりあえず全力でやり切れ!
「「「「キリキリ舞」」」」
「「更なるGへと 意識が溶ける 」」
ぶわっ、ときた。何かが繋がる感覚、このサビの最後の一瞬、ヒマリとツムギどころか、ワルキューレの全員とリンクしたような、そんなイメージ。何となく、で唐突に入れたそれぞれのアレンジが完璧に調和する。今までそんなことなかったのに。この感覚に一番近いのは…世界選手権でタツヤさん相手に歌った時、あのタツヤさんに正気に戻ってほしくて想いを叩きつけた感覚にすごく近かった。
「体は制御不能 いっちゃうかもね…」
この唐突なリンクの感覚に全員が止まる。演奏はストップし歌も、途切れる。それと同時につながってた感覚もなくなって何でもできそうだった全能感もなくなった。全員が首をかしげる、そしてクスクスと笑い出した。みんながシンクロして止まって、全く同じポカンとした表情をしてるのが何だかおかしかった。ひとしきり笑ったカナメさんが
「あー、ごめんごめん!にしても美雲!びっくりしたじゃない、いきなり歌いだすんだもの。そんなにひかれたのかしら?」
「そうね、始まりの1音からしてもう、たまらなくなったわ。不思議な感覚、とても気持ちがよかった」
「すごい、私たち…みんなフォールドレセプターが…」
「アクティブになってた。本番じゃなかったのに」
マキナさんとレイナさんが手元の端末からホログラム画面を空中に投影してその画面に表示される情報を見てそう報告した。ワルキューレが戦場で歌うのはフォールドレセプター保有者の生声に伴う生体フォールド波がヴァール発症者への特効薬になるからだ。そしてフォールドレセプターは保有者の危機的状況やそれに伴う感情の爆発、高揚感に呼応してアクティブになる。ということは…
「あなた達の演奏は私たちにとっては戦場と同じくらいの高揚感をもたらしてくれた、ということね」
「ふぇっ!?」
「…言い過ぎ、だと思う。私たち、まだそんなレベルじゃない。ヒマリはともかくとして」
「ええ、まあ。素人に毛が生えたもんです。最後の方の感覚は、少し気になりますけど。あとヒマリがやばいのは同意」
「やややめてよ二人とも!プロ中のプロの人たちの前で!」
結構な過大評価をもらったのでそりゃ違うと否定しておく。まあでもヒマリがやべーのは一切の異論はないのでそこら辺は主張しておこう。でも、本当に気になる。さっきの感覚、一瞬で途切れたんだけど、何が何だかわからない、うーん。もしかしてアリスタ?二人が持ってるアリスタが何かに反応したのか?それとも別の要因があるのだろうか?
「にしても凄いじゃない!初めて聞いた曲をほとんど完璧に演奏しきるなんて!ねね、ちょっと一つお願いしてもいいかしら?」
カナメさんが手を合わせてニコニコしながらそう尋ねてくる。何だろう、というかこんな子供っぽい一面もあるんだなカナメさん、優しいお姉さんのお手本みたいな感じだからちょっと意外かもしれない。お世話になってるし出来ることならやりたい、その気持ちは二人も同じようなので聞いてみることにしよう
「俺たちにできることなら。お世話になってますし」
「ふふっ、気にしなくていいのに。折角だからあなたたちの世界の音楽、聞きたいなって。メッサー君から聞いたんだけど、昨日の夜歌ってたんでしょう?いいかしら?」
「何それ!?アルアルたち歌ってたのっ!?」
「後で監視プログラムにハッキングして動画を漁ってこないと」
「歌いますからなんか恐ろしいことをしようとするのやめませんかっ!?あっ…」
「じゃあアルトくんメインボーカルね!」
「…墓穴を掘った」
やっちまったあああああああああ!レイナさんが凄い恐ろしいことをボソッと呟いたので思わず止める為に歌うといってしまったが、あまりの勢いに二人にいいよなって聞くのを忘れた。そして、そういう場合虎視眈々となぜか俺を歌わせたいといつも狙ってる二人にとっては絶好のチャンスなわけで、俺に反論させる間もなくメインボーカルを俺に据えてしまった。
あの、今からでも交代…と言おうと思ったがヒマリはつーんとそっぽを向いてツムギはふけてない口笛をふぅふぅ吹いている始末。ダメですねこれは間違いない。そしてレイナさんがツムギに向かってピースサイン、は…嵌められた…!?いつの間にあんなに仲良く…!?もしかしてハッキングする間もなく見ていたりして…あり得る。しょうがない、人に聞かせるにはちょっとあれかもだけど頑張ってみるかあ。
「イエーイ!アルアルボーカル~~」
「あんま期待しないでくださいよ」
「男の子との歌なんてFIRE BOMBERくらいしか聞いたことない。ワクドキ」
「そうね、初体験だわ」
「胃が痛い…!」
声変わり…!声変わりはよ!とりあえず歌ってもかっこがつく声になりたい!俺もカッコよく男性ボーカルの曲歌いたい!一人で練習で歌うならともかく人に聞かせていいものかってなるんだよ。原曲とのあまりの違いに自分で地面に沈むレベル。シャウトでごまかせる曲か?それとも勢いがつく曲?よし、これで行こう。
「それでアルトくんどうするの~~?」
「にやにやしやがって。アレで行こう。ほれ」
「…ん、了解。アルトの歌、久しぶりに聞ける」
「久しぶりっつったって1か月くらいじゃねーかよ…」
「声変わりしてからって言いまくって歌わなかったアルトくんが悪いんです~」
「あー、はいはい悪うござんした。じゃ、いくぞ」
適当にサビを弾いてやる曲を伝えると二人ともわかったようで準備に入る。ガンダムの曲って色々あるけどやっぱり男性ボーカルのものも多いんだよな~、これでかっこいい感じで歌えてればいいんだけど。二人を見るともういけそう、じゃアイコンタクト、せーのっ!演奏開始!10秒ない前奏、息を大きく吸い込む。
「FLYING IN THE SKY! 高くはばたけ 大空をどこまでも SHINING FINGER! 輝く光が 地の果て照らし奇跡を呼ぶSPELL」
「あら」
「わ~~~!」
「けっこう、いいじゃん」
よし!出だし決まった!いろいろ考えたけど、熱さと言ったらガンダム界でも屈指の作品の曲である。マクロスの曲じゃないのはまあ、お察しくださいってことで。これ以上不審者要素増やしてたまるか。でもいつかは打ち明けないといけないんだろうなあ。でもま、後回し!気分乗ってきたあああ!
「振り向かず歩くのさ 無限の力がある」
「…!?アルアル、フォールドレセプターアクティブ!?」
「ええっ!?」
「それだけ、じゃない…!ヒマリとツムギのレセプター数値が、上昇してる!」
ああ!歌はいい!下手なもん聞かせるくらいなら死にたくなるけど、反応が良かったり褒めてくれるってもんならそりゃあ歌ってて気持ちよくなるもんさ!響くギターライン、シンセサイザーの主旋律、ベースの重厚な低音、どれか一つでもあれば十分、全部揃ったら最高ってもんだ!
「何度でも試すのさ どんなに苦しくてもやり遂げる」
何だかよくわからんが、高揚感が高まってきた!やっぱ燃える曲だ!マクロス世界よ!これがガンダムの曲だ!二人の思考とシンクロする、さっきのつながった全員が丸裸になったような時とは違うガンプラバトルの時と同じ息が完璧に合ってお互いの思考が完全に一致してる状態、情熱をそのまま歌い上げろ!
「愛はいつもこの胸に 永遠に消えることはない!この手が叫んでいる 明日へと走れ」
「フォールドウェーブ、同調…!」
「これ、アルアルがデフォールドした時に検出された粒子!?」
「そんなことはどうでもいいわ」
「クモクモ?」
「後で見返せばいいものは置いておきなさい?今は、彼の歌を聞くのよ」
投影された画面に集中してたマキナさんとレイナさんの手を止めさせた美雲さんが、彼女らの顔を画面から離させる。ポロっとでたがプラフスキー粒子が出たのか?ってことはアリスタは、生きているんだな。ここに来てからうんともすんともいわないから力を失ったのかと思ってたけどそんなことはなかったらしい。いかん、雑念が出た。集中!
「BRIGHT YOU NOW!君が描いた 未来へのシナリオは」
「…すごく、いい」
ぽつりとそう言ったカナメさんの言葉ににっと全員の笑みがこぼれる。やはり、音楽というものは世界を超え、人種を超え、言葉を超えて心というものに直接響くツールであるらしい。多分、さっきの美雲さんが歌った時俺たちが歌詞の意味を理解できたのと同じように今、ワルキューレの彼女たちも俺たちが歌っている歌詞の意味を理解しているのだろう
「SHINING FINGER!夢を掴もう すべては思うままに I GET A CHANCE!」
「デカルチャー…!」
演奏を終えた俺たちに渡されたこの言葉が今の歌の評価を如実に表しているのだった。振り向いた俺は両手をあげて、その両手にヒマリとツムギが同時にパン!と手を叩き合わせてハイタッチ。どうなることかと思ったけど、案外何とかなるもんだ。あんだけ拒否ったけど、終わってしまえば楽しかったからな。
「アルアル~~!!凄かったよ~~!もー、デカルチャー!」
「むぐ、どうも、ありが…!苦し、マキナさん、ちょ、たすけ…!」
「ツムギ、ナイス演奏。褒めて遣わす」
「…レイナさん、ありがと」
「ヒマリちゃんも、ベース凄い上手なのね。ドラムがいないのにリズムキープをあんなに正確にできるなんて」
「えへへ、ありがとうございます。でもアルトくんの歌があってこそですよ。アルトくん、いつもいつも何かしら理由をつけて逃げちゃいますけど、歌、上手なんですから」
た、助けて…!楽器をおいた途端飛んできたのかと勘違いする勢いで突撃してきた、そしてツムギがされたように彼女の腕の中に納まる俺、ち、力がつよい!抜け出せない、というかハグの力が強すぎて胴体が締め上げられるせいで呼吸が苦しい!ベアハッグだこれ!なんでこんな力がつよ…!ぐえええ~~
「きゃああああアルトくんっ!?」
「ちょっとマキナ!アルト君泡噴いてる!」
「うわわわごめんねアルアル~~!」
「…アルト、昨日の私の気持ちわかった?」
「…よく、理解したよ…!」
お待たせしました。今回ほぼ歌しかやってないですねごめんなさい。さて、次回でストーリーを進め、れたらなあと思ってますけどまだかかるかも。
実は今回使用しようとした曲は2パターンありまして、今回アルトが歌った「FLYING IN THE SKY」とツムギとヒマリで歌う「嵐の中で輝いて」のどっちかを使いたいな~と思って脳内会議の結果アルト君に歌ってもらいました。どっちもデカルチャーなガンダムの中でも1,2を争うくらい大好きな曲です。
やはり音楽、音楽はすべてを解決する…!!
ではまた次回!
そういえばワルキューレが歌唱するとき色分けどうしよう…レイナとフレイアのカラーが思いっきり被ってる…!