「何でマクロスがないんだ!」少年はそう叫んだ 番外集   作:カフェイン中毒

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始まる物語

 「で、さっきのアルアルとヒマヒマとムギムギはフォールドレセプターが3人まとめて波形が一致してたの、私たちの間では共鳴って言われてる現象」

 

 「そうなんですか?感覚的には、割とよくあるよな?」

 

 「うん、世界大会の時とかしょっちゅうなってたよね?心が合わさってくような感じで」

 

 「…普通にやってたから、特別なものっていう感じしない。レイジとかセイとかコンビ組んでる人は割と良くある感じ」

 

 「フォールドクォーツもなしに、そんなことがあり得るとしたらさっきの」

 

 「プラフスキー粒子ですか。こっちでも未解明な部分が多いんですけど…人と人を繋げる性質があるとは言われています。想いを伝えることが出来ると」

 

 「むむむ…それは、また変わった性質だね~といってもフォールドクォーツもまだまだ未解明な部分があるから、なくても共鳴できるって言われてもありえるかも?っていう感じだよ」

 

 現在、歌い終わって楽器をそれぞれ片づけた俺たちが地べたに座って、マキマキ先生によるフォールドレセプター講座を受けつつ歌ってる途中に俺たちにおこったことの解説を聞いていた。何でも俺のフォールドレセプターの波形に重なる様に二人のレセプターの波形が変わったのだとか。どっちにしろ、俺のレセプターも歌ってるときはアクティブになって生体フォールド波を出していたらしい。

 

 「でもでもでも、3人とも凄い演奏上手だったよ!私たち基本的に打ち込みの音楽で歌ってるから、生演奏って迫力断然違うんだね~!ね、レイレイ!」

 

 「確かに。歌への入りやすさとかノリやすさとか全然ちがった」

 

 「バックバンドとか入れないんですか?人気グループなら当然なんじゃ…」

 

 「私たちのステージは戦場よ。途中で途切れるかもしれない生演奏は演者も私たちにも危険だわ。歌えれば、満足なのだけれどね」

 

 ああ、なるほど。基本的にヴァール発症者が暴れまわる戦場の中で演奏しつつ周りを見て救助もするとは言っちゃ悪いが死にに行くようなもんだ。あれ?それ考えるとサウンドフォースことFIRE BOMBERは人外の集まりだったんじゃ…?いや、やめよう。そもそも戦場で歌っていること自体がおかしいんだから、うん。とりあえ途切れるかもしれない生演奏よりも確実に音を届けてくれる機械打ちのほうがワルキューレの任務には最適ってことなのね。

 

 「あの、カナメさん?どうしました?」

 

 「ねえ、アルト君たちって…ステージに立つ気ないかしら?」

 

 「「「…はい?」」」

 

 地べたで何と無しに正座をしつつワルキューレ講座を聞いていた俺たちを見つめつつ何かを考えてる様子だったカナメさんが気になった俺はどうしたのかと尋ねてみたのだけれど、それに対して返ってきたものは予想外というか突拍子もないものだった。3人そろって同じ言葉で疑問を呈した俺たちに真剣な顔でカナメさんが説明してくれる。

 

 「鎮圧ライブで、なんて無情なことは言えないけどワクチンライブなら、と思ったの。フォールドレセプターをアクティブにできる人は貴重、というのは説明したわよね?ヴァールの予防のために行われるワクチンライブに出てもらえればかなりの効果が期待できると思うんだけど…」

 

 「えっと…流石に、急すぎて」

 

 「…何が何だか、分からない」

 

 「そうだよ~カナカナ、確かに歌も演奏もでかるちゃ~だったけど、急に話しても混乱させるだけだって~」

 

 「それに、明後日のワルキューレのオーディションの事もある。仕事キツキツ、もうちょっと後のほうがいい」

 

 「えっ!?ワルキューレってオーディションしてるんですか!?」

 

 ヒマリが驚いたように声をあげる。そりゃあ、戦場で歌い踊るワルキューレの任務に一般人からオーディションなんか出来るもんなのかと思うのも当然の話、というか明後日なのかオーディション!?フレイア・ヴィオンとハヤテ・インメルマンがここに来るのが明後日…俺たちも何かやることを決めておかないとダメだ。少なくとも戦争に突入しても持て余らされない有用性を証明する必要がある。保護してもらうと決めた以上役に立ちたい、っていう気持ちが大部分だけど。

 

 そう考えるとワクチンライブでのバックバンドなら悪くない提案じゃないだろうか?鎮圧ライブまで来いって言われたら俺だけならともかくヒマリとツムギがいる以上無理としか言えないけどワクチンライブなら、まあ大丈夫だろう。問題はワクチンライブのうちどれくらいにウィンダミア軍が介入してくるかってことなんだけど…

 

 「表向きは、ね。本当はフォールドレセプターの保有者を見つけるためなの。それに適性があっても…」

 

 「戦場で歌えるほどの人は多くない、やめた人もいる。仕方なし」

 

 「覚悟が足りないのよ。足手まといは不要だわ」

 

 ズバリと言い切る美雲さんに苦笑する面々、否定しないってことはそれだけワルキューレの任務がシビアだということなのだろう。戦場で歌う覚悟…見るのとやるのでは全くの別物だ。ただ見知らぬ他人のためと身命を賭せる彼女らはやはり戦場の女神としてふさわしいと今更ながらに感じた。とても、すごい人たちだ。

 

 「あ、でも明後日のオーディションは手伝ってほしいかな?今の演奏の感じだと、多分レセプターをアクティブにしやすいと思うの。それに貴方たちの肩書き、「ワルキューレ見習い」ってことになってるし」

 

 「初耳なんですけど!?」

 

 「…見習い?」

 

 思わず突っ込んだヒマリと小首をかしげるツムギ、言葉が出ない俺。ワルキューレの見習い?俺たちが?それはなんとも…不可思議というか何というか雑用君ではなかったのだろうか?

 

 「えっと、ね?まず貴方たちはレセプターを持ってます。その時点で保護する場合は医療研究施設に行くってことになっちゃうの。それにヒマリちゃんとツムギちゃんの状態を知られちゃうとちょっとまずくって…だから、どうしようって考えた時二つ手段があったの」

 

 「二つ、ですか?」

 

 「そう、まずワルキューレの見習いという立場とデルタ小隊の候補生っていう立場の二つ。年齢的にデルタ小隊の候補生は無理だし、こっちの免許もないでしょう?だから、ワルキューレの見習いっていうことに自動的になったの。今はむしろ音楽ができるってだけでグッと立場が固めやすくなって助かったって気分ね」

 

 なるほど、レセプターがあるというだけでケイオスからしたら格好の実験材料だから、か。遠回しにとはいえあれだけ出ていくのを引き留めていたのはラグナ支部の保護下を離れた瞬間本当にモルモットにされるかもしれなかったからなんだ。ワルキューレがメンバーを探しているのも事実だしレセプターがあった俺たちは本当にちょうどよかったということなんだろう。

 

 「すいません、なんだか色々させちゃったみたいで。ステージに立つのはともかくとして、明後日のオーディションはお手伝いさせてもらいます」

 

 「ううん、アルトくん。立とうよ、ステージに」

 

 「ヒマリ?でもお前まだどうするかだって決めてないだろ」

 

 「やりたいの。お願い」

 

 「…私も、やりたい。お返し、しよ?」

 

 二人がそう言ってくる。いいよと言ってやりたいけど先をある程度知っている身からすればダメだ、死ぬかもしれないんだぞと言ってやりたいけど…これは意味ないやつだ。昨日俺が命懸けで二人を守るのをやめろと説得されたのを突っぱねた時と同じ、言葉じゃ動かないのがわかる。なり立てだとしても二人はプロだ。プロがプロから求められたなら、絶対に応えたくなるのは必然。俺がセイやタツヤさん相手に本気で応えるのと同じだ。今度は俺が折れる番、か。

 

 「わかった。前言撤回します、バックバンドとオーディション補助、どっちもやらせてください!」

 

 「言っておいておかしいかもしれないけど、いいのかしら?ステージに立つって、難しいものよ?」

 

 「えっと、一応私とツムギちゃんはプロですから…」

 

 「…一月前にデビューしたばっかり」

 

 「ムギムギとヒマヒマ、アイドルだったの!?」

 

 「あ、アイドルってほどじゃないですけど…一応歌手としては、まあ?」

 

 「…私はヒマリのおまけ。ソロ活動はしないけど、相方としてならって」

 

 「…そうだったの。なんだか慣れてるなーって思ったけどそういうことだったのね。納得したわ」

 

 「アルトはデビューしてないの?」

 

 「俺はそういうのじゃないんで…一応企業所属のモデラーっていう立場ですし」

 

 「アルトくんいっくら誘っても一緒にやってくれないんですよー!もー!でも今回は一緒に立ってくれるってことでいいんだよね!?ねっ!?」

 

 「わかったわかったって。当然俺もやるから、ワルキューレの人たちが納得するパフォーマンスになるまで特訓だぞ?」

 

 「…その言葉を待ってた。アルト、覚悟」

 

 結局、なし崩し的というか逃げ場が無くなった俺はワルキューレのバックバンドに自分たちが抜擢されるという大役をどうしたもんかと思いつつ受け入れるのだった。楽譜を見せてもらったけどどうやら五線譜とか記号とかそういうものは共通しているようだ。解読どうこうの手間はないようでよかった。相変わらず歌詞は読めないけど一回聞かせてもらえればヒマリが完コピしてくれるし俺たちもそれなりに耳コピできるから何とかなりそうだ。

 

 

 

 そして翌々日、運命のと言ったら違うか。俺たちにとっては違ってもドアの向こうにいる彼女たちにとっては正しく運命の日なのだろう。この星系のあらゆる惑星からワルキューレに入るためだけにオーディションを繰り返し選抜されてきた女の子たち。そしてなぜか俺たちも一緒になってオリエンテーションに入ることになっている。なんで?とは今更言えないんだ、そんなことはどうでもいい。問題なのはヒマリとツムギの二人がアーネスト艦長に抱っこされているという謎の状況で突入ということである。

 

 「あの…アーネスト艦長?その…なぜ二人を?」

 

 「うむ、実は俺はどうも初対面の女性に受けが悪くてな。大抵悲鳴をあげられる。子供でも抱いてれば多少はましではないかという思い付きだ」

 

 「お~~!たかーい!」

 

 「…アルトを見下ろしてる、新鮮」

 

 「お前らを見上げるのは確かに新鮮だよ、うん」

 

 真面目に頑張ろうと思った矢先にこれだよ。というかヒマリもツムギもノリノリじゃねーか。そういえば二人は艦長を見ても驚きはしたが悲鳴まではいってなかったな。それにしてもでっけーなアーネスト艦長。マイクロンでも220㎝はありそうだ。戦闘種族のゼントラーディだけあって腕も足も丸太のように太く筋肉質だ。羽毛でも持つかのように二人を抱えて白い歯を見せて笑う余裕がある。うーん、俺も筋肉をつけてああなるべきなのだろうか…?え?お前も来ないか?さすがにちょっと…ま、まあそれはそれとして。

 

 「とりあえず使う曲は一夜漬けしましたけど…あれでよかったんです?」

 

 「アーネスト艦長……あっ、そうね、十分以上だったわ。ヒマリちゃん、彼女凄いわね…」

 

 「それは、まあそうですね。あいつがいなければ俺は全然違う生き方してたでしょうから」

 

 一昨日、ヒマリは使う曲を聞いてそれを全て楽譜に書き起こしてくれたのだ。で、それをもとに合わせてとりあえずアレンジも何もいれないただ正確に曲を奏でるように、レッスンの後ほぼ丸一日レッスン室を借り切ってひたすら練習して、とりあえず機械レベルまでもっていくことに成功した。で、すぐに爆睡して今日にいたる。そして現在俺たちはちょっとサイズが大きいケイオスの制服を着て今この場に立ってるわけだ。

 

 「時間だ、行くとするか!」

 

 「おー!」

 

 「…お~」

 

 「本当にそのまま行くんですか?艦長」

 

 「当然だ!」

 

 そう言ってアーネスト艦長は二人を抱きかかえたまま明らかに身長にあってないドアをかがんでくぐっていった。彼が向こうへ行った瞬間、きゃああああ!!!という悲鳴の合唱が聞こえた。クマにぬいぐるみ作戦はダメだったか…そしてカナメさんが続いた瞬間にそれが黄色い悲鳴に変わる。後ろについて行った俺にはちっとも視線が行ってない。視線が物理威力を持ってたらカナメさん穴だらけだこれ。

 

 「はい、静かに。戦術音楽ユニットワルキューレのリーダー、カナメ・バッカニアです。そして」

 

 「アーネスト・ジョンソン、マクロスエリシオンの艦長だ」

 

 「では、本日のオーディションを開始させていただきます。まず彼ら3人はバックバンドとしてオーディションに協力してもらう演者です」

 

 子供?なんで?とざわざわする彼女たちにカナメさんが説明してくれる。ちょっとへこんだらしいアーネスト艦長に降ろしてもらった二人が俺の近くまで来る。カナメさんが俺たちの事を紹介してくれたので3人そろって頭を下げておく。視線が少し和らいだ気がした。

 

 「では、開始前に一つ。私たちワルキューレの鎮圧ライブは命懸けの任務です。覚悟のない人は今この場で立ち去ってもらっても結構!」

 

 凛、としたカナメさんの厳しい言葉が参加者たちにびりっとした圧を与える。気を引き締めた参加者の中に、いた。豊かな明るい茶髪をくくったハート形のルン、新緑の瞳、あどけなさが残る顔立ちを緊張でガチガチにしたマクロスΔのメインヒロイン、フレイア・ヴィオンの姿が。彼女は緊張で目を回す寸前みたいだけど。

 

 俺はとりあえず目の前の仕事を完璧にこなすべきだと考え、彼女から視線を外して前を見つめるのだった。

 




 お待たせしました。

 今回からようやっと原作が進みます。んでまあ相変わらず本編の進みは遅いですけど書いてはいますのでご安心ください。あと少しですので

 で、一応なんですがルート的にはテレビ版を参照にしてます。映画だとハヤテは最初っからデルタ小隊ですからね。

 では、次回もよろしくお願いします

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