日向創は特級呪術師   作:鳩胸な鴨

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王女とて同じこと


好奇心は猫をも殺す

「七海さん!お願いです!あの不思議さんに会わせてもらえないでしょうか!?」

 

日向創と付き合うことになった翌日。いつもより上機嫌に帰宅の準備をする千秋に、クラスメイトであり、『ノヴォセリック王国』という小国の王族たる『超高校級の王女』ことソニア・ネヴァーマインドが迫る。

彼女は「13日の金曜日と聞けば興奮するタイプ」を自称する程に、オカルトに興味が傾倒している。

 

日本という国は、裏で呪術国家と呼ばれるほどに、呪いに事欠かない魔窟である。夏油がスカウトしたミゲルやラルゥなどの外国人術師が「スカウトされてなきゃ近寄りさえしない」と豪語するまでに、日本という国には呪いが渦巻いている。

無類のオカルト好きなソニアが呪いと出会うのは、必然だったのかも知れない。

千秋はそこそこに任務に同行し、その危険性を理解しているからこそ、やんわりとその興味を宥めようとする。

 

「彼が生きる世界にはあまり突っ込まない方がいい…と、思うよ?

ほら、結構危ないことだらけだったし…」

「危ないとは分かってます。でも!だからこそ、惹かれるものがあるのです!」

 

こちらに引き込むべきだろうか。そう考えるも、千秋はその思考を払うように首を横に振る。

千秋は四級術師である。呪術規定違反をある程度見逃してもらえる立場の創とは違い、迂闊なことは口にできない。

会わせるだけなら大丈夫かな、と思っていると。動物の世話を終えた『超高校級の飼育委員』の田中眼蛇夢が教室へ入り、千秋に一直線に向かって行った。

 

「奇しくも俺様と同じ命運を与えられし同士という、天上の栄誉を与えられし遊戯者よ!

生と対を成す禍々しい獣を打ち倒し、俺様が盟約を交わした魔獣を治癒せし者について語る誉れを貴様に与えようではないか!!」

「田中さんも不思議さんのことを知りたいと言ってます!」

「あー…っと、聞いてみるね。はじ…あ、えっと、彼にも都合があるだろうし」

 

芝居がかった口調で千秋に迫る田中に、ソレに追従するように迫るソニア。

この場に左右田が居れば、ソニアの隣に立つ田中に怨嗟の声を送っていたのだろうが。生憎というべきか、幸いというべきか、現在狛枝たちと縫い目の人間を捜索しているため、この場には居なかった。

千秋は携帯を取り出し、校門で待っているだろう創に連絡する。

 

『どうした、千秋?新田さんとパンダならもう来てるぞ』

 

本日、千秋には放課後に任務が割り当てられていた。五条悟曰く「遊ばせとくほど人手に余裕無いんだよね!」とのことで、今回はパンダの任務に同行する予定だった。

少し遅れていることに申し訳なさを感じつつ、千秋は創に現状を報告する。

 

「クラスメイトが創くんに会いたいって聞かなくて」

『あー…。……そいつ、全身を動物の居住区にしてる包帯男か?』

 

創らしい捻くれた物言いだが、名を知らなければそう表現するしかないだろう。電話越しに頷き、千秋は自身に迫る二人を紹介する。

 

「田中くんのことだね。そっちもいるけど、あとソニアさんもいるよ」

『ノヴォセリック王国の王女様か。んー…。ヨーロッパ周りは昔に呪力使える人間が軒並み処刑されまくったからほぼ存在しないし…多少バレても問題ないか…?』

「物騒すぎる歴史だね」

『実際そうなんだから仕方ないだろ』

 

神の御技として扱っていた人間も居るには居るが、と付けたす創。

暫し考えるように唸ったのち、創は「よし」と呟いた。

 

『千秋、連れてきてくれ。田中ってヤツに関しては不可抗力だったけど、王女様は興味が勝って下手に動き回るだろうからな。

ある程度怖がらせて、「本当に触っちゃダメ」って知らせるべきだ』

 

興味本位で呪物を触られると困る、と付け足す創。小泉もサトウが退学して以降、あまり他者を刺激しないように慎重に行動しているため、効果はあるだろう。

正直、気は進まないが、百聞は一見にしかずという諺もある。千秋は二人に聞こえるように、少しばかり声を張り上げた。

 

「分かった。連れてくね」

『おーう。二人くらいなら追加で乗れるぞ。一人はパンダのお膝元になるが』

『全てを堕落させるアタイの毛並みに酔いしれるが良いわ…』

『パンダ、お前そのキャラキツいぞ。じゃ、待ってるからな』

 

創とパンダのやり取りに笑いをこぼしながら、「またあとで」と付け足す千秋。

通話を終えると、期待を込めた眼差しでこちらを見つめる二人に、ついて来るように促した。

 

「じゃ、校門に行こっか」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「おお…!闇と光が混じり合う魔獣の中に、斯様な奇々怪界極まりない姿をし、あまつさえ我らと同じ言霊を放つ者は、この俺様を以ってしても知見なき存在と言わざるを得ない…!!この魔獣を手懐けているとは、やはり貴様は闇を以て光を齎す、正に『混沌の覇者』というわけか!!圧倒せし氷の覇王たる俺様…この田中眼蛇夢と同じように、只者では無いようだな…!!」

 

情報量が多い。創の心情を一言で表すのならば、この言葉が相応しいだろう。

じっくりと紐解いていけば、そう難しくも無い言葉の羅列だが、いかんせん芝居がかった口調のせいで頭に入りにくい。

が。こちらも回りくどい言い回しには慣れているため、コミュニケーションが困難極まりない訳では無い。

パンダも言いたいことはなんとなく分かったらしく、田中に口を開く。

 

「ま、只者では無いわな。特に創なんて、日本に五人しかいない特級だし」

「パンダ、それやめろって言ってるだろ。お情けの称号を自慢げに名乗るほど、俺は驕ってねーよ。夜蛾学長もお前らのために昇格蹴ってるし」

 

創は言うと、隣でゲームに熱中する千秋にドリンクを差し出す。

それに呆れたように、パンダは小さくため息を吐いた。

 

「創は呪術で自己肯定したいのに自己を過小評価し過ぎだよな」

「五条先生らにお手玉にされてりゃ、低くもなるさ。あの二人は互角なのに」

「規格外二人と比べても仕方ないだろ」

 

パンダから見た五条悟と夏油傑の存在は、その根本からして全く違う。

天上天下唯我独尊、世界の中心に俺が居ると謳うばかりの振る舞いが赦された五条悟に、この十年で「一国を鏖殺できる」とまで称される程に呪霊を取り込み、手持ちの術式を増やし続けた夏油傑。

足元にも及ばないとは言え、この二人の教えを十年間もの間熟し、その再現が出来る創もまた、特級の名を冠するに相応しい人材であることは紛れもない事実だ。

しかし、創が思う特級呪術師はあの二人のような「不条理」。その域に達しない限りは、創は自らを真の意味で「特級呪術師」と認めることはないだろう。

 

「あ、そうだ。田中。あのチンチラ、大丈夫だったか?」

「貴様は己が力を過小に見ているそうだが…それは真のようだな。

我が四天王の眷属が一人、ルモTの傷は貴様が完治させた。この邪眼が映した真実は、その他にはない。

故に、俺は貴様に礼を言わねばとここに馳せ損じたのだ。ただ一言、ありがとうございます、とな!!」

 

言い回しに騙されがちだが、心優しい少年なのだろう。創はなんとも言えない恥ずかしさにポリポリと頭を掻き、「気持ちは受け取っとくよ」と笑みを浮かべた。

 

「創くん。田中くんの言葉、よくわかるね」

「そりゃ、日向さんの反転術式は家入さん仕込みっすからね。教え方がどんなに壊滅的でも持ち前のコミュ力でなんとか出来てしまうキングオブコミュ力っすから!」

「新田さん。俺のことそう呼ぶのやめてくださいって」

 

補助監督の新田明が自分のことでもないのに鼻高々と創を持ち上げるのに、創は呆れを込めたため息を吐く。

彼がここまでコミュニケーション能力に長けているのは、五条悟、夏油傑、家入硝子の三名が原因である。現在でこそナリを潜めたものの、傍若無人が服を着て歩いているような人間である五条悟に、取り繕うのは上手いが、流れるように他者を罵倒し相手を引き込む話術を使う夏油傑。そして、反転術式のプロフェッショナルではあるが、他者への説明が壊滅的に下手だった家入硝子。

こんな問題しかない人間の巣窟に五歳の頃から放り込まれ、十年の時を過ごした結果。ある程度の良識とコミュニケーション能力が自然と備わってしまったのだ。

 

「…って、田中が俺に会いたかったのってそれだけか?」

「ああ。貴様の生きる世界は俺様には理解できん。だが、貴様が戦うことで救われる命があることは理解しているつもりだ。それはあの時、貴様が魑魅魍魎を引き裂いた姿から安易に想像できる。

俺様は軈て全てを支配する存在にはなるが、誰かの足枷になろうとは思わん。

信ずる道を突き進む者への冒涜に他なら…おい貴様ッ!!いくら肉を食らう魔獣とはいえ、何故よりにもよって斯様な激毒まみれの肉を食らうッ!?」

「へ!?いやあのオレ動物じゃないから!」

 

田中は創への言葉を切り上げると、憤怒の表情を浮かべ、香辛料や添加物たっぷりのカルパスを食らうパンダへと詰め寄る。

このような心優しい人間が多く居れば、呪術師の負担も減るのだが。そんなことを思いながら、創はソニアに目を向けた。

 

「で。次はアンタか、王女様。呪いの世界が知りたいのか?」

「はいっ!是非!」

 

興味津々なのを隠しきれない様子で迫るソニア。息がかかるほどに迫る彼女に、少しばかり後退りながらも、創は話を逸らすように問いかけた。

 

「…あーっと、オカルト大好きなタイプ?

王女様、ネットの洒落怖とか見てにやけ止まらないだろ?」

「しゃれこわ…は、知りませんけど、オカルトは大好きですよ!恐怖劇場ア○バランスなんて、もう六週は見てますわ!」

「古っ…」

 

チョイスが驚くほどに古い。昭和に放映されていた全十三話のドラマを六回も見るとは、余程オカルトが好きらしい。

まるで、1970年代からタイプリープしてきたようなソニアの言動に面食らいながらも、創はあっけらかんと告げる。

 

「いいぞ」

「へ?」

「職場体験ってわけじゃねーが、見学くらいならさせてやるよ。

パンダ、お前やっぱトランクな」

「なんで!?え!?オレの膝に座らせるんじゃなかったの!?」

「冗談だよ」

「だとしてもショック!覚悟しろよ!動物愛護団体が黙ってないぞ!!」

「お前呪骸だから対象外だろ」

 

流れるように幼馴染から荷物扱いを食らったパンダが、猛烈にショックを受ける傍ら。

新田が慌てて創に耳打ちした。

 

「だ、大丈夫なんすか?ノヴォセリック王国の王女サマなんでしょ?」

「今回はモグリの呪詛師相手ですし、そこまで警戒する必要もないでしょ。それに、王族なら呪詛師に狙われる可能性もゼロじゃないし、いい機会だと思いますけど」

 

曲がりなりにもこの道十年のベテラン呪術師であり、特級の称号を冠する創の言葉に、「それもそっすね!」と手のひらをひっくり返す新田。

彼女は急いで荷物を退けると、戸を開けてソニアに座るよう促した。

 

「どうぞ、お座りくださいっす!あんまいいシートじゃないっすけど!」

「おかまいなく。だいじょうVですわ!」

 

死語に部類される言葉を放ち、助手席に腰掛けるソニア。創も千秋を連れて後部座席に座り、パンダがそれに続いて乗り込む。

残された田中はというと、ソニアに目を向け、後部座席の扉を開いた。

 

「あれ、結局来るのか?」

「そこの雌猫の監視だ。俺様と違い、貴様らが見据えているモノの本質を理解していないように見えたからな。貴様らとて、自らの預かり知らぬところで、共に同じ空間で現世を学んだ盟友とも呼べる存在が闇に飲まれるのは我慢ならんだろう」

「じゃ、パンダの上に座ってくれ」

 

田中は言われるがままにパンダに腰掛け、皆に檄を飛ばすように叫んだ。

 

「では、向かおうではないか!人の闇が蠢くアビスへと!!」

「なんでお前が仕切ってんだよ」

「当たらずしも遠からずってのが腹立つっすね」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

到着したのは、希望ヶ峰学園前駅。

前とは言うものの、車で7、8分ほどの距離が空いており、有料の駐輪場に停めた自転車で通学する生徒もちらほら見られる。しかし、天下の希望ヶ峰学園の最寄駅だけあってか、かなり大規模なショッピングモールも設けられており、予備学科、本科関わらず、授業帰りの生徒の溜まり場にもなっている。

その中にて、創は任務についての説明を始める。

 

「今回は千秋とパンダへの任務だ。

ざっくり言うと、呪詛師の確保。モグリっぽいから、お前ら二人でも大丈夫だろ」

 

ショッピングモールを吟味するように見渡し、感嘆の息を吐く創。

希望ヶ峰学園前にあるというだけで、こうも活気に満ち溢れているものか。観光スポットとして、確立した人気もあるのは明白だ。パンフレットを見ると、「元・超高校級の企画者」が、この駅を観光スポットに仕立て上げたらしい。

それだけに、良くないものまで渦巻いてしまっている。面倒だな、とため息を吐く創に、パンダが問いかけた。

 

「じゃ、創はなんでついてきたんだ?」

「五条先生が押し付けてきた」

「うん。その一言でよく分かった」

 

本来ならば同行しているのは五条悟なのだが、急に「今日、期間限定数量限定のチーズスフレ食べに行くから、創よろしく」と、創に無理矢理に押し付けてきたのだ。

思い出しても腹が立つ。そんなことを考えながら、田中とソニアに目を向けた。

 

「今回の任務は…ハッキリ言うと、飼育委員の田中にはキツいモンがあると思う。今なら引き返せるぞ?」

「愚問だな。俺様が引き下がれど、闇の聖母はその好奇心で自らをも殺してしまうだろう。それをみすみす見逃すほど、この田中眼蛇夢、覇王としての資格を捨ててはおらんぞ!」

 

ソニアが心配なら、素直に「心配だ」とでも言えばいい気もするが、これが田中なりの心配の仕方なのだろう。

しかし、今回の任務は田中の地雷を踏み抜くことは確実。激昂して相手に詰め寄らないといいが、と思いつつ、説明を続ける。

 

「モグリとは言ったが、その被害はバカにならない。

動物の死体を処理せずに放置して初めて発生するような伝染病が、ここらで蔓延し始めてる…って噂、保健委員のクラスメイトと薬剤師の先輩から聞いたことないか?」

「ありますわ。患者の方は、普通にペットを飼っていただけと仰っていたそうですが」

「そのペットが曲者なんだよ」

 

グロ注意な、と付け足し、ポケットから写真を取り出し、千秋に渡す創。

千秋はゲームの傍らでそれを覗き込み、思わず顔を顰めた。

 

「…その、田中くんはこれ、本当に見ない方がいい…と、思うよ?」

「二度も言わせるな。覚悟は出来ている」

「………わかった。どうぞ」

 

田中の圧に押され、写真を手渡す千秋。

ソニアと田中がそれを覗き込むと。ソニアは驚愕に目を剥き、田中は怒りを滲ませながら強く歯を噛み締めた。

 

「な、なんですか、これ…?」

「ペットの死骸だよ。それも、ただ呪いで無理矢理動かされてる…正真正銘、希望ヶ峰学園に担ぎ込まれた患者サマのペットの成れの果てだ」

 

写真に写っていたのは、あまりにも腐食が進み、骨や内臓が露出していると言うのに、まるで生きてるかのようにボールを加え、駆け寄る姿の子犬だった。

田中はあまりの怒りからか、血が出るほどに拳を強く握り締める。

 

「許せん…ッ!!生を愚弄するかのごとき斯様な真似、この田中眼蛇夢が裁きの鉄槌を下してくれようぞッ!!」

「下手に手を出せば、お前の育てた動物…今も服の中にいる魔獣までこうなるかも知れねーんだぞ。怒るのはいいが、手を出すのはやめといたほうがいい」

「………ッ」

 

田中はその言葉に、悔しそうに歯噛みした。

ソニアがそれを心配そうに見つめる傍らで、創は淡々と言葉を続けた。

 

「改めて、特殊ツール使った裏サイトで、ペットの反魂を商品にしてる呪詛師が、今回のターゲットだ。

反魂とは名ばかりで、ただ呪いで死骸を動かしてるだけのお粗末なモンだが…。幻惑の類も呪いに含まれてるのか、死骸のことを誰も不思議に思わねーんだよ。その結果、伝染病が蔓延してるから、俺たちに対処するように上が命令したわけだ」

 

それだけ言うと、創は再びモールに並ぶ店へと視線を移し、手土産を吟味する客のように辺りを見渡す。

その実、創は残穢を追ってるのだが、一眼見れば観光客が店を吟味しているようにしか見えない。こう言ったスキルも、呪術師には必要となってくる。

 

「ちょうどいいことに、近くに購入してそこそこ経ってるヤツが居そうだ。手がかりも欲しいし、ちょっとご挨拶に行こうか」

「手がかり?その、犯人は分かってるのでしょう?」

「居場所までは突き止めてないんだよ。下手に突っつき回すとかえって危険だからな」

 

創は言うと、人混みをかき分けて歩いていく。千秋とそこそこ大きいダンボールに入り、ぬいぐるみのフリをして台車に乗っているパンダがそれに躊躇いもなく続いていく。

残された二人もまた、好奇心と義憤が突き動かすままに三人について行った。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「…急に雰囲気が変わりましたね」

 

観光客が賑わうモールとは一点、寂れた雰囲気の区画が彼らを出迎える。ある程度使われる通路故に残されているだけで、店を出す程のメリットもなく、整備すらされずにさびれている、そんな場所。

ヒシヒシと伝わる不気味な雰囲気に、ソニアは少しの怯えと、それすら打ち消す好奇心を込めて辺りを見渡した。

 

「この先の出口は、希望ヶ峰学園とは真逆に出る。出たところで娯楽施設とかもない、なんの変哲もない街並みが広がってるからか、整備に金もかけないし、店も出さない。

活気に乗ってきた負の感情がここに集約してるせいで、良くないものも溜まってる。希望ヶ峰学園ほどじゃないけどな。

……っと、猛烈に臭ってきたぞ」

 

創は説明を切り上げ、足を止める。

皆がなんだ、と思っていると。鼻につく腐臭に顔を歪め、あたりを見渡した。

 

「何、この臭い…?」

「アレだ」

 

創が指差す先に沿うように、視線を向ける。

そこに居たのは、一人の女性。リードをつけた犬が前を歩き、尻尾を揺らす。

それだけならありふれた光景だろう。問題は、リードをつけた犬にあった。

 

「ひっ…!?」

「やはり、命への冒涜に他ならん…!」

 

その犬は、四肢はちぎれかけ、顎は腐り落ち、脇腹に至っては臓物と骨が飛び出ているという、あまりに悲惨な姿だった。

確実に死んでいる。だというのに、生きているように動いている。

生と死に携わる才能を有する田中だからこそ、いたずらにその境界を弄る真似を許せないのだろう。ましてや、自身が愛を注ぐ者たちの同胞ともなれば、それも無理はない。

創は田中を抑え、その女性へと歩み寄る。

 

「やぁ、こんにちは。随分と個性的なワンちゃんですね。少し見せてもらっても?」

「えっ…?な、なんですか、あなた…?ウチのペロに何か用ですか…?」

 

にっこりと、夏油譲りの胡散臭い笑みを浮かべ、女性に詰め寄る。

瞬間。その笑みを消し、創は女性の腕を掴んだ。

 

「借りるぞ、ミゲルさん。『千変万化:黒縄』」

 

創の術式は、何も他人ばかりを模倣するわけではない。理解を深めれば、呪具に宿した術式さえも模倣できる。

とは言っても、黒縄に関してはオリジナルに比べれば、弱い術式のみしか解除できない相当な劣化版ではあるが。

しかし、今回女性にかかっていた術式は、かなり雑なもの。創が模倣した黒縄でも、十分に解除できた。

 

「……あれっ?私は、何を?」

「足元は見ない方がいいですよ」

「えっ…?ひっ!?!?」

 

自分が握っていたリードに繋がれた動く死骸を見て、思わず腰を抜かす女性。

創はそれに向けて掌を向け、術式を解除した。元の死骸に戻ったそれは、電池の切れた機械のように動かなくなり、そのままバランスを崩す。

 

「……そんな…、だって、蘇るって…、ペロが生き返るって…っ!」

「生き返るわけがないでしょう。

それに、昭和のおもちゃみたいな応答しかしない、そのグロテスクなガワのお人形さんが、アンタのペロって言えます?」

「……………」

「受け入れてあげましょうよ。この子が可哀想だ」

 

創の言葉に、女性はその場に泣き崩れる。

犬の亡骸に合掌し、創はその残穢を追うように目を凝らした。

その景色を呆然と見つめるソニアに、千秋はゆっくりと語りかける。

 

「ソニアさん。これが呪いなんだよ」

「な、七海さん?」

「ソニアさんが憧れるような不可思議なんてなくて。純粋な絆も、キラキラ輝く思い出も、ただ相手を想う愛さえも、後悔だらけの形に歪めてしまうだけの、ドロドロの呪いだけが渦巻く世界。

もう一度言うね。これが、呪いなんだよ」

 

犬の死骸をペットロボのように加工し、飼い主の『別れ際』の思い出さえも塗りつぶす。

その狙いは金儲けでも、人助けでも、自己満足でも関係ない。ただ、その二人を無作為に呪ったと言う事実だけが残る。

ソニアは自らの期待していたものより、遥かに狂気と悪意に塗れたソレに、ひゅっ、と息を呑んだ。

 

「…手がかりは揃った。今からその呪詛師ん所行くぞ」

 

未だに泣き叫ぶ女性を新田に任せ、創らは駅の出口へと向かう。

ソニアは躊躇いがちな、田中はしっかりとした足取りで、三人に続いた。




夏油先生が創くんに説得された影響か、原作の数倍くらいパワーアップしてる件について。五条悟と双璧を成す存在にしてあげたかっただけなんです。
術式無効化の術式も抽出済み。文字通り、五条悟と渡り合える特級になってます。乙骨が三ヶ月で返り咲いたなら、ここの夏油さんは多分、四級から特級まで二日あれば十分だと思います。
この最強二人の教えをこなしても、特級最弱止まりな創くん。術式以外に恵まれてなさすぎる気がしてくる。特級って時点で素養はあるけど、それを活かす才能が凡人なのが悲しい。それでも挫けないので、ここの創くんはメンタル最強。

パンダって肉食なんだって。だからカルパス香辛料と添加物たっぷりにしておいた。香辛料と添加物は流石に無理だろ。パンダの消化器官何がダメか知らんけど。
…パンダ先輩、どーやって消化してるん?飯はツミレ食べてたから食うんだろうけど、消化器官がさっぱりわからん。呪力に変換されてるってことでいーや。
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