日向創は特級呪術師   作:鳩胸な鴨

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何も知らぬ。故に、何でも成せる。


無知全能

「…何が1ヶ月に一体だ。三日に一体ペースの間違いだろ…」

「日向、アンタなに疲れ果ててんのよ」

 

入学からしばらく経って。日向創は疲れ果てていた。

理由は単純。1ヶ月に一体とされていた特級呪霊が、三日で一体の頻度で発生しているからである。

余程、不平不満を抱えた人間が多いらしい。世話になった一級呪術師の七海健人であれば、「そういう絶望と向き合わなければ、一生何もできないままです」と告げるのだろう。

そう考えると、周りの人間らは持たざる自分にも、持って生まれた本科生徒らにも怒りと憎悪を抱いているというのに、なにも現状を打破しようと考えない人間ばかり。

歪んだ手段ではあったものの、本科に入ろうと企てていた菜摘も、呪霊のことを聞いて呪われることが怖くなったのか、なりを潜めている。

 

受け入れて妥協すべきか、許せないからこそ何かしら折り合いをつけるか。

これをするだけで呪霊の数は劇的に減少するというのに。

本当に夏油先生を止めてよかった、と思いつつ、創は話しかけて来た菜摘に、心底面倒そうに答える。

 

「呪霊だよ。言ったろ?負の感情から生まれてくるって」

「…たしかに、ここってなんか息が詰まりそうな変な感じはするけど……」

「お前だけじゃない。予備学科のやつらが後ろ向きなのだって、生まれ出る呪霊たちに当てられてるからなんだよ。

予備学科なんて制度を導入した時点で、呪術的にはこれ以上ないくらい詰んでる」

 

お手上げ、とばかりにヒラヒラと両掌を振る創。創の言葉に、嘘偽りはない。

しかし、それを希望ヶ峰学園側が聞き入れるかどうかは話が別。完全な人間を作ることを目的に動く学園側からすれば、ハッキリ言ってモルモットの戯言など聞くに値しなかった。

そして、創は希望ヶ峰学園の企みを既に予測している。というのも、夏油からの忠告があったからなのだが。

 

────木登りしても猿は猿。価値のない猿を生み出してなんになる。底辺の傲慢もここまでいくと烏滸がましいことこの上ない。

 

希望ヶ峰学園もだが、呪術高専も相当捻じ曲がった価値観を育ててる。

それが間違ってるとは言わない。創もまた、自分が歪みに歪んだ価値観を持っていることは自覚している。

呪術師と超高校級。この二つがどこまでも相容れない存在である以上、希望ヶ峰学園に未来はない。

 

「…それ、予備学科全員に喧嘩売ってるってことでいい?」

「事実なんだから仕方ないだろ。

ま、あと二年もすれば廃校になる学校のことなんて、俺は知ったことじゃないが」

「は!?なんでよ!?」

 

突如放たれた爆弾発言に菜摘は目を剥き、創の胸ぐらを掴んだ。

 

「こんだけ呪霊がいれば、後は廃れてくだけなんだよ。どれだけ栄華を極めようが、どれだけ神に近かろうが、背負いきれないマイナスが全部を奪い去っていく。この世界はそう出来てる」

「………なによ、それ。

呪いなんか、超高校級の前には無力でしょうが。お兄ちゃんも、ペコちゃんも…、その、アイツも…。みんな、みんな普通に生きてるじゃん……」

「だから言ってるだろ。効かない間も『呪い』には変わりないんだよ。存在してるだけで不利益が出るんだ。目に見えなくても、お前が感じてる気分の悪さがソレだ。

長年かけて俺たちのような凡人の集まりが超高校級を羨み、妬み、憎悪し、『呪った』から、超高校級が消える。お前たちも、本科の人間も、上層部も。全員がそこにある『呪い』を見なかった結果なんだよ。

その流れはもう始まってる」

 

そう言う意味では、超高校級も呪いだったのかもな、と思いつつ、恩師の一人たる夏油を思い浮かべる。

思えば、最も希望ヶ峰学園の危うさに気づいていたのは、夏油だったか。呪霊を生み出す火種となる超高校級を毛嫌いする故だろうか。希望ヶ峰学園の話題には嫌悪を示しながらも、逐一忠告してくれていた。

 

「ま、 そうならないための俺なんだけどな」

「…アンタが強そうってのは分かる。分かるけどさ…。本当に、どうにかできるの?」

「『最強』の一番弟子にとっちゃ、飲み物溢したくらいのハプニングだよ」

 

いずれか。今はまだ負けているが、いつの日か、五条悟と夏油傑に打ち勝った時。

その時まで、憧れた称号はまだ名乗らない。

いくら希望ヶ峰学園が理不尽や不条理に塗れていようが、呪霊の巣窟である以上、呪術師として祓うだけ。

最強にとっては、数が多いか少ないかくらいの違いしかないだろう。

日向創という人間は、五条悟らと違い、弱音も吐くが、彼らと同じだけの強がりも吐くような人間だった。

 

「さてと、そろそろ帰った方がいいぞー。

また巻き込まれたくはないだろ」

「……わかったわよ」

 

創が立ち上がり、ストレッチを始めたことで察したのか、菜摘は教室を出ていく。

これで何度目だろうか。数えても仕方ないな、と思いつつ、創は帳を下ろした。

 

その範囲内に、本科の生徒らが入っていたことに気づかず。

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

「校舎の一部が夜になる…?」

「そう!不思議な体験でしょ!?写真には…残らなかったけどさ」

 

希望ヶ峰学園77期生。誉れある超高校級の称号を授けられた少年少女ら。

その中の一人…「超高校級の写真家」と呼ばれる小泉真昼が巻き込まれたという不可思議現象に、クラスの話題は掻っ攫われていた。

入学から二ヶ月近くが経っている希望ヶ峰学園には、ある「怪談」が流行していた。

 

それは、「昼間であるはずの予備学科校舎が、一部夜に包まれることがある」ということ。

 

場所はまちまちで、廊下であることもあれば、教室であることもあるという。

ただ一律して、夜になった場所には、一部亀裂が走るという現象が見られている。希望ヶ峰学園が誇る卒業生…『超高校級の超自然現象学者』、『超高校級の物理学者』が調査しても、「物理的な破壊だが、原理がさっぱりわからない」らしい。

こんな噂話が立ってしまってる理由として、希望ヶ峰学園にて、呪術師による人払いがまず出来ないという裏事情があるからなのだが、ソレを知るのは呪術師のみだ。

 

創が戦う際、帳に巻き込まれる人間はちらほら居るが、呪霊を見た者は現時点ではいない。創が迅速に祓っているのに加え、呪霊の巣窟たる希望ヶ峰学園に、呪霊を視ることができる人間が入学しているわけがないからである。

 

話を戻せば。小泉真昼は、その「帳に巻き込まれた一人」なのである。

無論、写真家たる彼女は興奮した。純然たる事実のみを現実から切り取る写真。そこに不可思議な現象を写し込む。写真家としての矜持などはさて置き、ごくごく普通の少女としても興味がそそられる現象を収めない手はなかった。

…まぁ、呪力の篭っていないカメラで撮れるわけもなかったのだが。

 

そんなことを知らない彼女は、そのまま話すことでしかクラスメイトに、その鮮烈な体験を表現するほかなかった。

ソレに食いついたのは、彼女と仲のいい西園寺日寄子らを筆頭にした女子数名と、それに追従する男子数名。

一部は興味がないのか、小泉の話を聞き流し、各々のことに没頭していた。

 

「写真はすっごい綺麗な夕方のグラウンドっすよ?ホントに夜になってたんすか?」

「まぁ、物的証拠は…ないけどさ」

「『夕方なのに夜になってる』ってか…。あれ?考えれば普通のことじゃね…?」

「逢魔時を消し去り、宵闇のみを世界に顕現する…。恐らく、田中キングダムの主たる俺の権威が、新たなる眷属を呼び込むべくそうさせたのだろう…!!」

「まぁっ!田中さんにはどんな時間でも夜にしてしまう力があるのですか!?」

「田中のソレは確実にないと思いますよ、ソニアさん…」

 

和気藹々と皆が騒ぐ中で。

ひょんなことから、学級委員長を務める羽目になってしまった『超高校級のゲーマー』たる七海千秋は、一人呟いた。

 

「自由に夜にできるなら、お昼でもぐっすり寝れそうだよね」

「不気味とかじゃなくて!?」

 

帳の真実を知れば、確実にそんな呑気なことは言えないのだが。

どこまでもマイペースな発言にクラスメイトからのツッコミが入るも、七海千秋は我関せずとばかりに寝ぼけ眼でゲーム機との睨めっこを続けた。

 

「でさ、友達から聞いたんだけど、この現象って、『三日に一回のスパン』で、『放課後一時間後』に起きてるんだって!

情報が正しかったら、今日がその日なんだよ!」

「小泉おねぇ、肝試しのお誘い?」

「まぁ、そうなっちゃうかなぁ…?

でも、このクラスでの思い出は残しておきたいからさ」

「そういうことなら、全員で行くってのはどうよ!」

 

皆が予備学科校舎への肝試しに、参加の意を募る。そこそこ団結しつつあるこのクラスにて、「思い出を残しておきたい」と言う小泉の気持ちは、皆を賛同へと導いた。

中には照れ隠しとして「仕方なく参加する」と言い訳する者もいたが、『超高校級のアニメーター』、御手洗亮太のみはふくよかな体型を揺らしながら、「仕事があるから」と去ってしまった。

仕事であるならば仕方あるまい、と納得し、教室を去る。

 

その際。七海千秋はふと、窓の外を見た。

 

「……なにか、嫌な感じ」

 

♦︎♦︎♦︎♦︎

 

結論から言おう。77期生は、ものの見事に帳に巻き込まれた。

予備学科とはいえ、在籍数はかなりの数に上る。それ故に、本科の校舎に負けず劣らず、校舎は無駄に広かった。

だというのに、何の因果だろうか。帳は彼女らを飲み込んでしまったのだ。

 

「うぉっ…!?マジに夜になったぞ!?」

「…バカな…。覇王たる俺以外に闇を司る者がいたと言うのか…!?」

「ははっ…。これも希望に至るまでの道…ってことでいいのかな?」

 

夜に包まれた校舎を見渡し、感嘆の息を漏らす彼ら。やはり、噂は間違いではなかった。皆がそのことに感心していると。

 

その存在は、姿を現した。

 

『ぅじゅるるるるるる…』

 

准一級呪霊。廊下を圧迫するほどの巨大さを誇る体躯が、廊下の曲がり角から唸り声を上げて現れる。

人とも動物とも取れない、不気味な質感。

顔の七割を占めるほどに巨大な瞳が、彼らを捉える。

 

「うぎゃあああああああっ!?!?何だアレ何だアレ何だアレェェェエエエっ!?!?」

「いやぁあああああああっ!?!?た、食べないでくださいいぃいいいっ!!!」

「闇より出ずる化身か…!?しかし、我が眷属どもとは違う…。そもそも、同じ存在であるかどうかすら曖昧極まりない…!!」

 

彼らが呪霊を視認できているのには、わけがある。というのも、彼らが極端に『呪われやすい』という至極単純な理由なのだが。

超高校級という称号を冠するが故に、他者から呪われる。故に、呪霊たちは彼らを取り巻く濃密な呪いを喰らうことで存在を強め、非術師でも視認できるようになってしまった。

 

「面白ぇ…。食いでありそうな図体してんな…。ぶっ倒して食ってやらぁ!!」

「ボクこんなキモいの調理するの嫌だよー!?いや、シェフとして出来ることはするけどさー!!」

 

『超高校級の体操選手』の終里赤音が呪霊に飛びかかると共に、『超高校級の料理人』の花村輝々が抗議の声をあげる。

因みに、やめておいた方がいい。呪霊操術を扱う夏油曰く、「吐瀉物を吸い取った雑巾を食らってる」ような味がするのだから。

まぁ、大前提として。非術師の攻撃が呪霊に通じることはないが。

 

「…あ?なんか、ゴムを殴ったみてぇな…」

『じゅるっ!!』

「がっ!?」

「赤音ちゃん!?」

「貴様ァアアアアアアっ!!!」

 

剛腕によって引き剥がされ、地面に叩きつけられる赤音。それに激昂した『超高校級のマネージャー』たる弍大猫丸が雄叫びをあげて突っ込む。

が。途中で足を止め、腹を押さえて崩れ落ちた。

 

「ぅぐっ…!?こ、こんな時に…、クソの波が来おってからにぃい…!!」

 

無論、偶然ではない。呪霊の放つ負の気に当てられ、体調の悪化が始まっているのだ。

被呪者の中でも極上とも呼べる存在たる弍大をこのまま放っておくほど、呪霊という存在は節制ができるわけではない。

弍大の体躯さえもズッポリはまるほどの巨腕で彼を抱えると、大口を開けて彼を喰らおうとする呪霊。

と。それを邪魔するように、『超高校級の幸運』たる狛枝凪斗が放った小石のかけらが、どういうわけか、呪霊の立つ地面を崩落させた。

 

「お、ツイてるね。

ボクなんかの幸運が、弍大クンの希望を守れてよかったよ」

『じゅるるるるっ!?!?』

「おっさん!!」

 

落下の際に投げ飛ばされた弍大を、終里が受け止める。

が。事はそう上手く進まない。呪霊は何本もある腕のうちの一つを崩落した地面にひっかけ、体勢を整える。

その際に走った亀裂が、彼らの足元まで届き、廊下を丸々崩落させた。

 

「な、うわぁあっ!?」

「ひゃあ!?み、見ないでくださぁい!!」

「……って、あれ?そこまで落下したわけでも…」

 

襲ってきた衝撃や浮遊感とは違い、すぐに着地したことに、皆が目を丸くする中、舞い散る埃が床に落ちる。

その中で、彼らは一様に息を呑んだ。

 

『ぢょお、ぉおおおっ…』

『ぎゅゆゆゆゆゆ』

『じ、じしししじじっ』

 

満たす限りに異形、異形、異形。

廊下を呪霊たちが埋め尽くすのを見てしまったのだ。

あまりに絶望的な状況に、一部の生徒たちは放心し、泣き、声にすらならない息の振動で助けを呼ぶ。しかして、呪霊がそれを聞き入れるはずもない。

もうダメか。七海千秋が迫る呪霊の顎門に、強く目を瞑った時だった。

 

「借りるぞ、東堂!!『千変万化:不義遊戯』!!」

 

ぱん、と拍手が響き、同時に黒の閃光が煌めく。

『黒閃』。呪力と打撃をほぼ同時に叩き込む事で、通常の打撃の2.5乗の威力を発揮する『現象』。この場にそれを起こせる人間は、たった一人。

 

「だーっ…!!本科の生徒が帳の中に入ったから、俺の方に来なかったのか…!!なんて果てしなく最悪なタイミングで入ってきたんだよ、コイツら…。

呪いを食って存在が増してる…。ほぼ受肉じゃないか…」

 

そう。特級術師、日向創である。

この状況に悪態を吐きながら、自分と相手の位置を入れ替える術式…「不義遊戯」で殲滅していく。絶え間なく響く拍手の音と、打撃の音。

呪霊の群れでほぼ見えないが、本科の生徒たちを守るように、誰かが移動していることだけは、彼らは把握していた。

 

「な、なんて速度…、いや、入れ替わってるような…?」

「何言ってんだ、ペコ………山。超能力でもあるまいに…」

「アイツ、強ぇ…」

「う、うむ…。なんちゅうドえれェ戦い方なんじゃあ…!!黒い光はなんかは分からんが、『ゾーン』に入った選手のような威圧は感じるぞッ……!!」

 

日向創の体術は、夏油傑と東堂葵の仕込みである。千変万化が無くとも、ここに群れている呪霊のみならば一人で相手できる。

例え、守るべき存在が十数人居ようとも。それが出来てしまうのが、「特級呪術師」なのだから。

 

「おい、本科の人たち!祓い終わるまで下手にここを動くなよ!!死ぬぞ!!」

「…キミ、予備学科の人?」

 

全体の6分の1を祓い、少しばかり余裕が出てきた創が、その場を動かぬよう忠告する。

狛枝が嫌悪感を隠そうともせずに問うと、創は叫んだ。

 

「話しかけんな!!お前らの言霊ひとつひとつがコイツらのエサになる!!

コイツらはお前らへの『嫉妬と羨望』が命を持って生まれてきたバケモノなんだ!!原因たるお前たちを今も殺したくて殺したくて堪らないんだよ!!」

 

実はここにいる呪霊の数は、「日向創を除く予備学科全員と同数」である。

予備学科ら一人一人のあまりにも強い妬み嫉みが、准一級の群れを織りなすほどに呪霊を生み出したのだ。

 

「ひぅっ…!?わ、私たち、何かしたんですかぁ…?な、なんでこんな…」

「話しかけんなって言って…、ッ、五条先生、借ります!!『千変万化:無下限術式』!!」

 

────『領域展開』。

 

瞬間、世界は作り変わる。

術式の到達点。決まった時点での勝ちがほぼ確定してしまうような、理不尽の権化。

その名も『領域展開』。閉じ込めることに特化した結界で外界を隔て、現実に自分の生得領域を展開する。

得られる効果は二つ。術式の必中と、環境の最適化。

つまり、非術師であれば、確実に死ぬと言っても過言ではない状況を作り出せるのだ。

 

────『才覚断裁』。

 

彼らを包み込むのは、暗黒。

嫉妬に塗れた予備学科たちの叫びが渦巻く、一分一秒といればいるほどに気が触れるような嫌悪感を感じさせる空間。

創は自身の纏う無下限を「拡張」させ、千秋たちを保護する。

 

「な、なんだ、これは…!?

まさか、田中キングダムとは対をなす死の国の顕現ではあるまいなっ!?」

「……き、気持ち悪い…っ…。ゔ…、ぶっ…」

「だ、大丈夫、日寄子ちゃん!?」

「うぶっ……」

「わ゛っ!?輝々ちゃん、エビみたいに泡ふきながらゲボ吐いてるっす!!」

「ソレを言うなら蟹だと思います…ぅぷっ…」

「そ、ソニアさおぼろろろ…」

「おいコラ左右田!!俺に向けて吐く…ぉえっ…!?」

 

領域内に溢れる負の気に当てられ、一部吐瀉物を吐き出す彼ら。流石に天下の無下限でもこればかりは防げなかったらしい。

比較的冷静かつ、隣でことの成り行きを見ていた千秋に、創は口を開く。

 

「いいか?お前らが見てるのは、呪いだ。

で、ここはその呪いがお前たちを殺すために引き摺り込んだ、絶好の場所。

俺が…まぁ、無敵バリアみたいなの張ってるから平気なだけで、入った瞬間に殺されてもおかしくない場所だ」

「即死ルートに強制突入って感じ?」

「……まぁ、ちょーっと違うが、すんごく俗っぽく言うと…っと、来やがった」

 

迫り来る術式…嫉妬による怨嗟によって出来た裁縫道具たちの強襲に、創は無下限を纏いながら触れる。

瞬間。呪力で構成されたソレは霧散した。

 

「構築術式の領域展開か?…いや、もう少し複雑なんだろうな。

ま、今からやることに変わりはないから、関係ないか」

 

言って、創は両手を祈るように組み合わせる。…否、組み合わせてはいない。指と指の間を交差させ、指は伸ばしたままにしていた。

 

「何?神様にでもお祈りするのかい?

いくら不可思議な力を持っているとはいえ、所詮は…」

「この空間には対処法がある。その一つは壁を破る方法なんだが…まぁ、現実的じゃないからソレは置いとこう」

 

狛枝の憎まれ口を遮るように、創が告げる。

今から成すのは、日向創という存在そのものの顕現。何者でもないが故に、何者にでもなれるという「可能性」を最大限引き出すための「領域展開」。

 

「特別に出血大サービスだぜ、天才ども。

何者でもない『日向創』の『何者にでもなれる可能性』を魅せてやる」

 

────『領域展開』…。

 

瞬間。闇夜に包まれた世界がかき消え、白の空間が埋め尽くす。

街のような、村のような、里のような、国のような、島のような、空のような、海のような…。

あらゆる認識が可能な空間に、皆がパチクリと目を丸くする。

そこに立っていた呪霊も、あまりに圧倒的な領域に狼狽え、創に迫ろうとする。

 

────『無知全能』…!!

 

無知であるが故に、あらゆることが出来る。無知であるが故に、あらゆる可能性を引き出せる。

領域内には、幾万、幾億もの「日向創」が立っていた。

 

「ここは、俺の『可能性』。何者でもない俺が描くだけ描いた妄想を、現実にできる。

俺たちを殺したければ、あらゆる可能性の俺を殺し終えてからにしてもらおうか…!!」

 

無下限が、赤血が、影が、包丁が、拳が…。

あらゆる可能性を成し得た日向創が、一斉に呪霊に襲いかかる。

数秒もしないうちに領域は解かれ、残ったのは呪霊の死骸だけだった。

 

「ふぅ…。終わった……」

「……キミは、何?」

「ん?」

 

呆然とする千秋の問いに、創は手を払いながら答えた。

 

「予備学科生徒。あと呪術高専一年所属、特級呪術師の日向創だ」




領域展開「無知全能」
ざっくり言うと「あらゆる可能性を成し得た日向創」を全て召喚し、タコ殴りにする。尚、召喚する創は、創が一度夢想したものでなくてはならないと言う制約がある。創は五条悟と夏油傑相手にコレを使っても勝ったことがないどころか舐めプされたことがある。相手最強だもんね、仕方ないね。
領域の展開プロセスは、伏黒の真っ白バージョン。

書いてて思ったけど、ここの夏油と五条を狛枝に会わせたら喧嘩ばっかしそう。

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