「ねぇ、建人おじさん」
「千秋さん。私はまだ高校生です。おじさんではありません」
七海千秋の古い記憶。少し痩けた顔の少年…相棒を喪ったばかりの七海建人が、親戚としてその日限りの宿を千秋の両親に求めた日のこと。
千秋はあろうことか、七海建人が愛用するナマクラの包丁を、彼の荷物から抜き取っていた。
理由は単純。「好きなゲームの武器っぽかった」から。
刃が包帯のような布でぐるぐる巻きにされているのだから、きっと要らないものなのだろう。であれば、自分にくれるかもしれない。
そんな淡い期待を込めて、千秋は七海建人に問いかけた。
「これ、欲しい」
「千秋さん。あなたは死にかけでMPゼロの戦士から装備を取り上げますか?」
「…………ごめんなさい」
ゲームでこう例えられては仕方がない。
いくらナマクラの包丁とは言え、呪力を浴び続けている、謂わば「半呪具」とでも言うべきシロモノである。呪いへの耐性はそこそこにあるが、視認できない千秋には毒にしかならない。建人が包丁を取り上げたのは、千秋の身を案ずる優しさからであった。
暫しの沈黙。千秋が黙々とゲームを進めるのを、建人が見つめるだけの時間。
まだ幼いながらに、将来的に「超高校級のゲーマー」と称される才能を遺憾なく発揮する千秋に、建人は独り言のように語り始めた。
「……千秋さん。あなたは自分が思っている以上に情に脆く、聡く、強い子です。
だからこそ、引き際を間違える」
「あっ…」
画面に映る「GAME OVER」の文字。
まさかミスをするとは思っておらず、コントローラーを手に「むぅ」と不貞腐れる千秋に、建人は続ける。
「…私の親友も、君と真逆な性格をしていますが、根底は同じような男『でした』。
私たちが進んだ道は、いつ誰が死体すら残さないほどに残酷な死に様を迎えてもおかしくない道です。
今後、あなたが知らぬうちにこの道に踏み込んでしまい、誰かを庇うことがあるかもしれない。または、誰かに自らの凄惨な最後を見せてしまい、その心を深く傷つけてしまうかもしれない」
建人は言うと、自らの足の上に座る彼女の頭を撫で、優しく微笑んだ。
「それは君の美徳であり弱点でもあります。親戚として君の無事を祈り続ける私からアドバイスしておきましょう。
自らが何が出来るか、自らの限界が何処なのか。信じることはどういうことか。あらゆる『情』を吐き違えないことです。
……吐き違え、弁えなかった己の未熟のせいで、喪ってしまった私からの忠告です」
千秋の顔に、温かく、悲しいものが滴り落ちていた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
七海千秋がこんな古い記憶を掘り起こしたのには、ワケがある。
新作ゲームの発売日が訪れ、手にとって購入する楽しみを味わおうと訪れた、希望ヶ峰学園敷地外にあるショッピングモール。
そこで見かけたのは、先日、クラスメイトたちを助け、颯爽と去っていった日向創。
そして、自らの親戚である七海建人に、ポニーテールに似合わぬ眼鏡が特徴的な少女。
一見すれば、何の集まりだと困惑してしまうようなメンツに、千秋は新作ゲーム片手についつい尾行してしまっていた。
「……ん?あれ、確か昨日の本科生徒か…?」
「ストーカーかよ。日向、結構モテんの?」
「日向くんは人柄ではモテますが、容姿はアンテナくらいしか特徴がないので面識があまりなければモテないと思いますよ」
「七海さん俺泣いていい?」
「慰めませんよ」
等級で言えば、現時点で五人のみが認められている『特級呪術師』たる日向創が最も権限を持っているのだが、性格的にソレを使って威張り散らすような真似はしない。
キャリア十年のベテラン呪術師でもある創がここまでこき下ろされているのも、最強二人におもちゃにされているのが原因である。
この三人がどうしてショッピングモールに集まっているか。一言で言えば、少女…禪院真希が実家からの嫌がらせで割り当てられた、希望ヶ峰学園周辺での仕事がきっかけであった。
呪いの耐性が比較的弱い真希に、呪霊の巣窟たる希望ヶ峰学園近辺の仕事は、かなり荷が重い。そのサポートとして、五条悟より呼び出されたのが、言うまでもない特級呪術師の日向創と、たまたま手の空いていた一級呪術師の七海建人であった。
「希望ヶ峰学園は私立だが、お国様とアロンアルファでくっ付いてんのかってくらい、べーったり癒着してるだろ?その癒着してるやつらって、ロクに呪われたこともねーから全員が呪術に懐疑的でさ。
補助監督の人とか、窓の人も呼べないから、人払いが碌にできないんだよ。
だから俺の場合、呪術規定八条『秘密』の違反は、特例で無罪放免になってる」
「で、帳に巻き込んでしまった…と?」
「まさか降りるタイミングでギリ入ってくるとは思わなかったんですよ…」
千秋を巻き込んだのは不可抗力だ、と告げるも、「呪術師界隈の大人代表」とまで称される建人相手にそれで許されるはずもなく。
「後で説教です」と言われ、日向はがっくりと肩を落とした。
「だから言ったでしょう?『呪術師はクソ』だと」
「俺に言わせれば、『希望ヶ峰学園はクソ』ですけどね」
「それは下手にSNSに上げないことです。炎上しますよ」
「二年もしないうちに廃校になる学校ですし、口で言うくらいならいいでしょ」
「マジか。そんなに呪われてんのな」
待て。今何と言った?廃校になる?あの希望ヶ峰学園が?
創の爆弾発言に、思わず手に持っていたゲームを落とし、立ち尽くす千秋。
そんなわけがない。そんなわけがないと必死に否定するが、否定しない建人と真希の態度が、どうしても否定させてくれない。
七海千秋は自分が気づかぬ程の心の奥底で、希望ヶ峰学園に愛着を抱いていた。ソレも無理はない。同じく「超高校級」と呼ばれる、個性的なクラスメイトたちと打ち解け、しばらく経っているのだ。そんな思い出の場所がなくなるという想像をするだけで、千秋にとっては耐え難い苦痛となっていた。
「……それ、千秋さ…、んんっ。本科の生徒の前で言ってよかったんですか?」
「……………五条先生と夏油先生だったら目の前でゲラゲラ笑いながら更に追い込むから大丈夫だと思いたい!!」
「お前、嫌なとこトコトン悟と傑に似てるよな」
「真希さん。五歳の時からあの二人の一番弟子ですよ、この子」
「あー…。そりゃあ嫌なとこ似るわな」
「心外!!」
創が今まで歩んできた人生において、五条悟と夏油傑の存在はあまりにも大きい。それ故に、彼の性格には、多少なりとも二人の嫌な部分が受け継がれてしまっていた。
デリカシー皆無、言葉を選ばない、その癖して悪口のレパートリーが豊富、性癖を隠そうともしないなどと、彼の問題点を挙げればキリがない。
建人が深いため息を吐き、創の背を押した。
「君が千秋さんの不安を煽ったんですから、君が何とかしなさい」
「こう言う時に『大人の責務』とかは出さないんですね」
「子供の尻拭いをすることが『大人の責務』ではないことは、君には再三伝えたはずですよ」
「……まったく、冗談通じないな…」
建人はそれだけ言うと、真希を連れて依頼の現場へと歩いて行く。
今回の依頼は准一級相当。七海建人が居れば、まず被害は出ないだろう。
二人の背中を見届けながら、残された創は、震える千秋に頭を下げた。
「ごめんな。デリカシーのカケラもないこと言っちまって」
自分の性格の欠点は自覚していたらしい。
五条と夏油の悪いところを引き継いでいるにしては殊勝な態度だと、彼らを知る人は口々に言うだろう。
無論、そんなことなど知らない千秋は、震えながらも不安をこぼす。
「……ねぇ。廃校になるって、本当?
もしかして…、さ…。その、昨日の出来の悪いゾンビゲーの敵キャラみたいなのが関係してるの…かな…?」
「答えはするが…、そうだな。そこのカフェで自己紹介も兼ねて話そうか」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「改めて。予備学科兼呪術高専一年、特級呪術師の日向創だ。そっちは?」
「七海千秋でーす…。…えっと、『超高校級のゲーマー』…らしい…よ?」
あまりにパッとしない自己紹介に、創は表情を引き攣らせる。
コーヒーを飲んだことで落ち着いたのだろう。千秋は先程とは違う、眠たげな声音をしていた。
「お前の才能だろ…。なんでお前が疑問系なんだよ…」
「ゲームやってたら、いつの間にかこうなってた…ってカンジだから、かな?あんまり、自覚なくって…」
自らの才能を知覚していないタイプの天才らしい。酷くマイペースだな、と思いつつ、創は説明のために口を開こうとする。
「むぅ…。全然ドロップしない…。確率厳しすぎだと思う…」
「うぉっ…!?」
机の上にだらり、と倒れ込むようにしてゲームに熱中する千秋。
無論、目の前に座る創には、その果実が机に挟まれ、強調されるのが見えてしまう。
ここで思い出してほしい。日向創という人間が再三にわたって公言していた性癖を。
────お前、どんな女がタイプだァ?ちなみに俺、東堂葵はケツとタッパのデカい女がタイプです!!
────俺は日向創!!気だるげで、揉みしだきたい胸のデカさを誇る女の子がドスライクだ!!
────日向創!!お前とはブラザーにはなれない…。だが、その性癖に賭ける覚悟は気に入った!!今日からお前はァ!!俺の「永遠のライバル」だァアアアッ!!!
永遠のライバルかつ戦友…その成り立ちは気持ち悪いことこの上ない…である、東堂葵との邂逅が頭をよぎる。
東堂葵が、自らの性癖の化身たるアイドル…高身長アイドル『高田ちゃん』を見つけたように。日向創もまた、自らの性癖の化身たる存在を見つけてしまった。
「……ねぇ。話してくれないの?」
「…………はっ!?あ、ぁ、ああ、すまん」
急に意識し始めると、どうしても体が硬直してしまう。
先輩特級呪術師の一人、九十九由基の説得力ある教えの中の一つとして、「女性の胸のチラ見は本人にはバレバレ」という、呪術師的には果てしなくどうでもいい知識があったが、まさかここに来て役に立つとは。
ドギマギしながらも、創は説明を始める。
「七海…って、呼ぼうとしたけど、七海さんと被っちまうよなぁ…」
「建人おじさんとは親戚…だから」
「…あの捻くれクソ真面目な七海さんの親戚がコレかよ…。
あと、おじさんって呼ぶのやめてやれよ。あの人老け顔気にしてるんだから…」
「もう慣れちゃったし」
平凡な若々しさを有する創には、微塵も分からぬ苦悩を抱く建人。
彼にとって、おじさん呼ばわりはそこそこにストレスになるだろうな。
そんなことを考えつつ、創は話を軌道に戻した。
「七海さんと被るから、名前で呼ぶぞ。
千秋がこれから知ることは、千秋にとってはとても辛いことかもしれない。聞く覚悟があるなら、頷いてくれ」
「……うん。…男の子に名前呼ばれるって、なんか、恥ずかしいね」
「ん゛っ」
助けてくれ、東堂。どうやって性癖ドストライクの子の前で劣情を抑えてるんだ。心の中で何度も叫べど、心の中にいる東堂は助けてくれない。
本人は実は、近場で開催されている握手会に真希の双子の妹…禪院真依を連れてきているのだが、今は関係ない。
数十分後。
以前に九頭龍菜摘にした説明を、創は緊張しながらもそのまま告げる。途中でゲームでの例え話を入れたことで、それなりに分かったことだろう。
「…つまり、超高校級がいるから、希望ヶ峰学園はなくなりそうなの…かな?」
「ま、そういうこったな。
下手すりゃ、『禁足地』レベルになるぞ」
「…どういう感じでまずいのかな?」
「此間のバケモノより数百倍ヤバいのがポンポン出てくる。生徒全員映像化不可能なレベルでのお陀仏。
…この二言だけで察してくれないか?」
「…………それ、は…ダメだね。うん」
五条悟と夏油傑がいる以上、禁足地になるようなことは無いだろうが。
以前の夏油先生であれば、わざと禁足地化させて特級呪霊を量産し、取り込んでいるのだろうな、と思いつつ、続ける。
「で、俺はそれを防ぐために、国から命じられて、希望ヶ峰学園の予備学科に入ったわけだ。学園側には、呪術師であることは伏せてな」
「……なんで?」
「希望ヶ峰学園が呪術に否定的なクセして、『特級呪術師』を素体に『人体改造』を企んでたからだよ。
どこから聞きつけたのか、『高校生の特級呪術師』を求めてるらしい。現時点じゃ俺か乙骨かのどっちかなんだが…、アイツには里香っつー制御不能の爆弾がいるしな…」
サラッととんでもないことを暴露する創。
情報源は腐ったみかんこと呪術界上層部であり、癪に触る言葉選びで創に忠告していた。
特級呪術師は数が少ない。それこそ、全人類を探し回れど、二桁いるかいないかである。
その中でも「五条悟」と「夏油傑」という特大級の爆弾が懇意にしている「日向創」は、呪術界隈において、前者二人を同時に起爆させる爆弾なのだ。
それこそ、希望ヶ峰学園の思惑通りに人体改造を施されることになれば、セコム二人がそこら一帯を消し飛ばすことを躊躇わない。特に夏油傑は、呪詛師になってでも希望ヶ峰学園を根絶しにかかるだろう。
「…なんで呪術師を求めてるの?」
「『カムクライズルプロジェクト』。『超高校級の希望』とかいう、あらゆる才能を収めた人間を、人工的に作り出したいんだと。
……アホくさ。ショッカーの二番煎じかよ。昭和にやれ、昭和に。
…で、貴重な超高校級たちよりも、俺らみたいな頭すっからかんの凡人にロボトミー手術を施して作り出したいわけだ。予備学科はその素体選びって訳だな」
たしかに、昭和の特撮ヒーローの悪役みたいな思想だな、と思いつつ、千秋は創の説明に耳を傾ける。
「でも、呪術に関しては、脳を弄った程度で習得できない。魂ごと形を整えなきゃ、まず無理…ってことを、五十年くらい前に御三家の恥晒しから聞きつけやがってな。
で、『元から呪術師の人間を素体にしよう』とか考えた訳だ」
無論、そんなことを企んでいる連中が牛耳る学園に、無策で飛び込んだわけではない。
日向創が特級呪術師である理由は何か。
最強の二人の弟子だから…いや、違う。強い術式を有しているから…いや、違う。
思い出してほしい。彼は、困難極まりない筈であった夏油傑の説得を成し得ているのだ。
それらが導く答えは一つ。「コトダマという呪いを、誰よりも巧く使える」から。
日向創の凡人が故に人を引き込む話術は、羂索という千年の時を生きる最古の呪詛師も一目置くほどのもの。
本科の生徒たる千秋にこのことを明かすのも、予備学科の菜摘に話したことも、希望ヶ峰学園を根底から「変える」ための布石であった。
「本題だ、七海千秋」
「え?呪いのことが本題じゃないの?」
「それは千秋の本題だ。俺が話したいことは、そっちじゃない」
「むぅ…。日向くんのテキストはちょっと難しいよ…」
と、その時だった。ぴりり、と創の懐から着信音が響いたのは。
「あ、七海さんだ。ちょっと待ってな。
…はい、もしもし?」
『すみません、「宿儺の指」です。応援お願いします』
宿儺の指。その単語を聞いた途端、創の纏う雰囲気が刺々しく変わった。
千秋もそれに気づいたのか、心配そうに二人の会話を見守る。
「………あー…。ウチが持ってんのってたしか、まだ三本だっけか。七海さん、そいつ何本分です?」
『一本でしょう。ただ、希望ヶ峰学園に眠る呪いたちに当てられてます。術式の付与はありませんが、生得領域が…』
「うっわ最悪…。呪霊が食ったのか。…受肉したわけじゃなくて良かった。
そうですね…。会計するので、30秒くらい持ち堪えてください」
『わかりました』
創は言うと、財布から五条悟名義のクレジットカードを取り出す。保護者がわりでもあるし、使用許可も貰っている。なんら心配はない。
創は「行くぞ」と言い、席を立ち上がった。
「行くって、どこに…?」
「呪術師の世界」
「え?」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「ッソ、ノーモーションで生得領域の展開とか、無茶苦茶過ぎんだろ…!!」
「それが『宿儺』です。…呪力での再生があそこまで早い以上、相当周囲の呪いを取り込んでいると見ていいかと」
「希望ヶ峰学園は周辺まで魔窟かよ…!」
相手は宿儺の指を取り込み…しかも、濃密な呪いをも取り込んでいるせいで、数倍手強くなっている呪霊。
生得領域内にいることでの強化も合わせれば、真希一人では勝ち目はない。七海建人がいることで、ギリギリ生存できている…と言う状況であった。
いくら呪具や術式で削れど、濃密な外気の呪力を傷口から取り込むことで、即座に回復してしまう。
結果、二人は詰みに近い状況となっていた。
「あと10秒ほどで日向くんが来ます。もう少しだけ頑張れますか?」
「ハイになってるアレ相手にあと10秒かよ…!結構な無茶だぞ…!」
『ひゃう!!』
甲高い奇声を上げ、姿をかき消す呪霊。
真希たちが背中合わせに周囲を警戒する最中、呪力の弾幕が二人に襲いかかる。
「単純な攻撃だが、厄介ですね…」
「受け流すのが精一杯…!」
相当量の呪力が込められた弾幕を弾き、急所を避ける二人。体に少しばかり穴が開くも、苦痛に顔は歪めなかった。
これで倒せないことに業を煮やしたのか、呪霊は立ち止まり、掌に呪力を込める。
「アレはヤバい…っ!」
「避け…」
ずきん。二人が呪霊の直線上から逃げようとするも、走る激痛がそれを阻む。
二人が己の足を見やると。その足を、呪力の棘が貫いていたのが見えた。
「い、いつの間に…!?」
「さっきの弾幕か…!!」
あと3秒。迫る呪力の塊に、もう無理か、と二人が覚悟を決める。
────『千変万化:呪言』。
瞬間。迫る呪力と二人の間に、創とその背におぶられた千秋が現れる。
創の口元には、蛇の目の呪印、下には蛇の牙の呪印が浮きでていた。
「『弾けろ』」
ぱぁん、と呪力が弾け飛び、霧散する。
日向創は普段、『呪言』を使うことはない。自らの『コトダマ』の強さが、周囲に無駄な被害を出すと知っているから。
しかし、この状況下において、話は別。
宿儺の指を、更には周囲の呪いを取り込み、強大になっている呪霊に、展開された生得領域。周囲の被害を心配することも、手加減するメリットもない。
「待たせたな、二人とも。『じっとしててくれ』」
びたり、と二人の動きが止まる。
創がそれを確認するや否や、呪霊が一瞬にして創に迫り、千秋ごとその肉を裂こうと爪を振り下ろす。
が。その腕はあっという間に創に掴まれた。
「『くたばれ』」
瞬間。呪霊が丸ごと弾け飛び、宿儺の指だけが地面に転がり落ちる。
目を丸くする千秋に、呪印を消した創が告げた。
「言いそびれたな。本題だ。七海千秋」
────希望ヶ峰学園を裏切ってくれないか?
領域の弾けた空は、曇天だった。
本作の独自設定…高専が持つ六本の宿儺の指を回収したのは、半分が五条と夏油で、もう半分が日向。
日向の呪言は、宿儺の指を一本取り込んだ呪霊相手ならノーリスクで使える。しかし、真人たちクラスになると、喉を潰すことを覚悟しなくてはならない。