「………はぁ」
「日向くん、元気ないね?どうかした?」
七海千秋に「希望ヶ峰学園を裏切ること」を迫った三日後。創は現在、同じく特級呪術師の名を冠する「乙骨憂太」と、そのお目付役の南アフリカ人…「ミゲル」と共に、ラーメンを啜っていた。
いつもなら五条悟のように軽口を叩くような気さくな人格者のはずが、今日はヤケに元気がない。
乙骨が問うと、創は暫し気まずそうな面持ちを浮かべたのち、顔を逸らした。
「………希望ヶ峰の女子に惚れちまった」
「ホォ。夏油傑ト五条悟ノ後ロニ着イテ回ルダケダッタガキガ、漸クカ」
「日向くんの限定的な性癖に刺さる女子って居るの?」
「居たんだよ」
あの眠たげな瞳。同年代にしては、張りのある胸。不健康な生活リズムなのに、麗しく艶めく肌。そして、気怠げな態度の奥にある、揺れぬ芯のある心。
魂が無形であるからこそ、人の本質に敏感な創は、七海千秋が自身の好みにピッタリと合致する女性であることに気づいていた。
「…お前たちが年がら年中離れない理由が、漸く分かった気分だ。誰かに恋焦がれるって、こう言うことか。
…お前らが両想いなのが羨ましい」
「日向くんの愛も、かなり重たそうだね」
「他でもないお前に言われてちゃ世話ねーよ」
ミゲルは知っている。日向創という人間が、自らが想像している以上に、周囲の人間に強く執着することを。
幼い彼の目の前で灰原雄が死んだ時。彼を殺した産土神は、怒り狂った日向創によって、残穢すら残さず『殺された』。
その現場に居合わせていたミゲルが語るに、「爆発力ダケデ言エバ、呪術界隈デモトップクラス」らしい。
────存在すら『殺して』やる…!『千変万化:無下限術式』…!!
七歳の子供が立てる領域ではなかった。
直前に黒閃を決めていたせいか、六眼がないにも関わらず、五条悟とほぼ変わらない精度の無下限術式を再現できた創。
流石に虚式までは再現できなかったものの、暴力的な斥力の嵐に、粒子の一片も残さぬほどに『殺され』た過程を見て、酷く戦慄したことを、ミゲルは今でも覚えていた。
離反しかけた夏油傑を引き戻す際も、創が死に物狂いになって呪霊の渦をかき分け、這々の体で説得した理由。
それは至極単純。「自分を肯定してくれる誰かが、これ以上居なくなるのに耐えられなかった」というエゴが突き動かしたのである。
もし日向創が誰かに惚れてしまったのなら。その想いが叶ったら。そして、その想い人が折本里香のように、受け入れ難い死を迎えたら。日向創が何を仕出かすかわからない。が、確実に言えることがある。
日向創は、己も女もソレを取り巻く全ても、まとめて『呪っている』。タチが悪いのは、それを『自覚している』ことだ。
警戒しておく必要があるな、と思いつつ、ミゲルは創の背を叩いた。
「ソレダケ想ッテルナラ、コレカラユックリト時間ヲカケテ、二人ノ関係ヲ深メテイケバイイサ。頑張レヨ、若人」
「ミゲルさん、良い人だよなぁ…。
マジであの二人に振り回されてんのが可哀想になってくる…」
「ソウ思ウナラ、弟子ノオマエカラモ抗議シテクレ」
「言って聞くなら俺も苦労してねーよ…」
「だよね…」
言って、ズル、と麺を啜る三人。
と。そこへ、恋バナの雰囲気を吹き飛ばす爆弾…五条悟と夏油傑が現れた。
「やー!創の甘ぁい恋バナが聴けるって聞いて来ちゃった!」
「創!悪い事は言わない…!超高校級などというおまけが本体みたいな猿だけはやめておいた方がいい…!!ねっ!?硝子や美々子と菜々子の方が数億倍良い女だよ!!ねっ!?」
「だァアアアッせぇなチクショォオォォォオオオオオッ!!!!!」
「日向くんが一番うるさいよ…」
「…コイツラガ全員特級ッテ、コノ光景ダケ見タラ信ジラレネーヨナ…」
♦︎♦︎♦︎♦︎
「………むぅ」
夕方。本科の教室にて、七海千秋は悩んでいた。
三日前に命の恩人たる日向創が告げた言葉。
────希望ヶ峰学園を裏切ってくれないか?
希望ヶ峰学園を裏切る。その意味が分からず、真意を問おうとしたが、「必要なことは言った。あとは自分で判断してくれ。四日後、答えを聞く」と煙に巻かれてしまった。
「カムクライズルプロジェクト」、「人体改造」、「研究機関」…。希望ヶ峰学園の闇とも呼べる諸々を聞かされてなお、七海千秋は迷っていた。
希望ヶ峰学園。自らの愛する学舎。いくら闇を抱えていようが、ソレは変わらない。
しかし、日向創曰く、「千秋の選択が、学園の未来を左右する」という。
自らの良心を取るか。それとも、未来のために学園を裏切るか。
ゲームの二択なら、どんな形であれ、取り返しが付くから迷わないのに。そんなことを思いつつ、気晴らしにレアドロップを狙って、三度目の挑戦に挑む。
「七海さん、元気がありませんよ…?も、もしかして、何処か怪我しちゃったとか…」
「罪木さん、大丈夫だよ」
クラスメイト…『超高校級の保健委員』たる罪木蜜柑の声に、七海は顔を上げて微笑んでみせる。
言えない。「学園を裏切れ」と迫られたなんて。
幸いにも、このクラスにはエスパーのような鋭さをした人間はいない。そのことに感謝しつつ、取り繕うように会話を続ける。
「そ、そうですかぁ?が、外傷がないなら、心の問題ですかぁ…?あっ、すみません…。こんなゲロブタが一丁前に心配なんか…」
「心配してくれてありがとう。…ちょっと、ね。自分で解決すべきことだから」
「素晴らしいよ、七海サン!!」
耳元で千秋を称賛する狛枝に、いきなりの大声に驚いたのか、罪木は「ふゆぅっ!?」と縮こまって、千秋の背に隠れる。
「罪木サンの『超高校級』に頼らず、自身の希望だけを信じて問題に立ち向かう姿…!!これぞ希望のあるべき本来の姿だよ!!
キミを悩ませているのが何か、幸運なこと以外に取り柄のないゴミクズのボクには計り知れないけど…。キミの希望なら簡単に乗り越えられると信じているよ…!!」
「うん…。ありがとう…」
あいも変わらずな狛枝の言い回しにも動じることなく、千秋は再び思案に暮れる。
裏切る。言葉に騙されて、何か重要なことは見落としていないだろうか。謎解きゲームのセオリーを引っ張り出して思案するも、呪術に関して何ら知識のない彼女には、その真意は分からない。
結局、まとまらない考えに業を煮やし、千秋は荷物をまとめ、教室を出ることにした。
「日向創を追っていたんだけど…。
ラッキーだなぁ…。あの子、綺麗な声だなぁ…。良い声で泣いてくれそうだぁ…!」
自身を狙う視線に気づかず。
♦︎♦︎♦︎♦︎
運命の日。
七海千秋は、建人伝いに伝えられた待ち合わせ場所…この間の喫茶店にて、気を紛らわせるように、ゲームに熱中していた。
タイトルは「ギャラオメガ」。少々マイナーではあるが、知る人ぞ知る名作。理論上のハイスコアに到達するためという惰性な目的で、スコアを競う相手もいないのに続けているゲーム。
超高校級のゲーマーと認められてからは、共にゲームをする仲間はクラスメイトだけになってしまった。
そのことに寂しさを感じることで、目の前の問題から逃げている自分が嫌になる。
そんなことを考えていると、あいも変わらず呪術高専の制服を着た日向創が訪れた。
「待たせたな、千秋。お、ギャラオメガか」
「…知ってるの?」
「おう。思い出深いゲームだよ」
思い出すのは、五歳の頃。
呪力のコントロールが壊滅的に下手くそだった創は、夜蛾より与えられたぬいぐるみ…呪力を流し続けなければ攻撃してくる呪骸を抱えたまま、全面をノーミスでクリアするという無茶振りをさせられたことがあった。
後に入学することになる後輩が、創が散々苦しめられた呪骸を相手することになるのだが、それは置いておこう。
そのことも相まって、創には思い出深いゲームだった。
「……このゲーム、好きなの?」
「好きか嫌いかで言えば、好きだぞ。単純だからこそ奥が深いっていうか…」
「うんうん!立ち回りとか、フレーム分の当たり判定とか、単純なシューティングゲームだけど、すごく考えることが多いよね!」
「………だ、ダヨナ」
「なんでカタコト?」
吐息がかかるほどに迫る千秋に、思わず赤面する創。いくら性癖に命を賭けているとはいえ、女性に対する免疫が皆無の童貞。
増してや、相手は惚れた女である。緊張するなという方が難しい話だった。
「……あっ。ごめんね。本題の方、早く答えて欲しいよね?」
「いや、ソレもあるんだが…。まずは謝罪から始めなきゃな」
言って、創は深々と頭を下げた。
「すまない。俺の特級呪術師としてのしがらみに、無関係の千秋を巻き込んでしまった」
「……どういうこと?」
希望ヶ峰学園を裏切れ、という件は、千秋にも少なからず関係することであったはず。
無関係の事とは何なのか、と疑問に思う千秋に答えるように、創が続けた。
「…呪術界には、ある程度の規定がある事は言ったよな?」
「うん」
「世の中には、ソレを守らず好き勝手する呪術師もいる。そういう奴らは『呪詛師』って言ってな。
下らない違反なら呪術的な『縛り』でなんとかなるが、罪の重さによっては、呪術師による死刑や封印措置を下さなきゃならない」
実は、日向創はこの「死刑措置」を何度か執行したことがある。相手は自分勝手に他者を呪う、同じ穴の狢。ソレが他者を生かすか殺すかだけの違い。
日向創は、自らのアイデンティティの確立のために、何人もの呪詛師の屍を超えてきた。
呪術師というのは、この世の闇そのものを背負う仕事なのだ。いくら上層部が腐り落ちれど、その本質だけは変わる事はない。
これから巻き込む彼女には、知ってもらわなくては、日向創が納得できなかった。
「結論から言う。俺を狙っていた『呪詛師』が、お前も狙い始めた。
ソイツは我欲のために術式を使って、呪術師と非術師合わせて35人も殺している。どれも口にするのも悍ましい殺され方だ。
俺は呪術規定に則り、ソイツを『殺さ』なきゃならない。
…お前は、見たくもないものを見る羽目になるだろう」
「っ………」
画面の奥での殺人とは訳が違う、本当の殺し合い。
その事実に息を呑む千秋に、創は更に深く頭を下げる。
「…俺たち呪術師の勝手を、本来なら無関係のお前に押し付けて、本当に…、ごめん」
この謝罪は、何の打算もない本音だった。
呪詛師の件は、創にとってもかなりの誤算だったのだ。その呪詛師が千秋を狙う以上、創は彼女を常に見守る必要がある。
つまり、どう足掻いても、創が人を殺すところを、彼女に見せなくてはならないのだ。
「……日向くんが謝ることじゃ…ないよ」
千秋には人の本質に触れて、人を見るクセがある。故に、創が人を殺すことに何も感じていない訳ではないことも見抜いていた。
恩人が人を殺す場面を見るのは、確かに怖い。忌避感もある。
それでも、創が背負うものを理解しなくては、日向創を知る事はできない。ソレが出来ないということは、先の選択もきっと、優柔不断なものになってしまう。
「……私、ちゃんと、見るよ。
日向くんや建人おじさんが背負ってるもの。私がこれから背負わなくちゃいけないこと」
「…………ありがとう」
創は胸に湧き出る『呪い』を隠すように、頭を下げた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
────カフェを出たら、向かい側にある路地裏に出てくれ。帳を張って、呪詛師の逃亡を防ぐ。
創の言う通り、千秋はカフェを出て、向かい側にある路地裏へと足を踏み入れる。瞬間。日は出ているはずなのに、世界は夜へと作り変わる。
先日体験した『帳』という結界か、と思っていると。かつん、かつん、となにかが歩く音が響く。
「日向く…」
合流しにきたのかと思っていたが、違う。
創の靴は、酷使によって擦り切れたスニーカーだった。ならば、こんな革靴で地面を叩くような音は鳴らないはずなのだ。
警戒するように、リュックの紐を強く握る千秋。刹那。その頬に、鋭い痛みが走った。
「…ぇ……?」
「く、くくっ…。ぷふふふっ…」
千秋を嘲笑う声。ソレと共に、何かが空を切る音が千秋の服を引き裂き、柔肌に赤い線を描いていく。
少し切った程度の痛み。それだけならまだ、少しだけ顔を歪めるだけだった。
しかし、彼女の体を裂くのは『呪術』。傷口から漏れ出た血が、彼女の体を毒のように蝕んだ。
「ゔ、あ゛ぁあっ…!?」
「特級呪術師ってのもバカだな…!
『帳の内側に帳を張る』可能性を考えないなんて!!」
熱い。痛い。流れ出る血が、マグマのように思えてくるほどに、激痛と熱を伝えてくる。
相手の口ぶりからして、どうやら、策を逆手に取られてしまったらしい。
呪術に関して、呪術師たちに比べればなんら知識はないが、少なくとも創もまた、相手にハメられたことがわかった。
「ぁ、あ゛っ…、づ…っ」
「んんー…。いーい声だなぁ…。キミの声は、とてもいいよ…。もっと、泣かせてあげようか!!」
「あ゛ぁあっ!?!?」
掌がナイフで貫かれる。骨が削れるような、ごりゅっ、という音が響く。
逃げなきゃ。逃げなきゃ、殺されてしまう。
死にたくない。漸く、打ち解けられたクラスメイトと別れも言えないままで。
相手の術式によって生じた毒の影響で、体が蝕まれる中。
千秋は激痛から逃れるように、声にならない悲鳴をあげた。
「ああ、いーいおもちゃだ…!流石は超高校級…。泣き声までも天才的だよ…!!」
「ゔぁ゛っ、あ゛ぁああっ!?!?」
直接触れることで発動された術式により、皮膚を渦巻く毒が活性化される。
体の骨ごとぐちゃぐちゃに掻き乱されているような、そんな激痛。
これが人の『呪い』。希望ヶ峰学園を包み込もうとする闇の化身。
恐怖と激痛に歪んだ顔を、呪詛師の男は千秋の頬を掴んでじっくりと見つめる。
「ああ、良い顔だ…。どうかその顔のまま、死ん…」
────調子に乗るなよ、呪詛師。
ドス黒い感情が込められたコトダマ。
霞む視界の奥。そこに立っていたのは、膨大な呪力を隠そうともしない、激昂した日向創だった。
呪詛師が何かを言う暇もなく、創の拳が男を吹き飛ばす。
何処までも吹き飛んでいく男を見やることもなく、創は後悔を顔に浮かべ、傷だらけの千秋の前にしゃがみ込む。
「…千秋、ごめんな。俺が間抜けだったせいで、要らない怪我して…。痛かったよな…。
今、治してやる。『千変万化:反転術式』」
「………ぁ、れ?痛くない…?」
ただの反転術式ではない。千変万化によって強化された反転術式により、見る見るうちに傷が回復していく。
数秒もしないうちに、元通りに治った千秋は、ぱちくりと目を丸くしながら、体の調子を確認した。
「…ケアルガ?ベホマズン?……呪術師って、魔法使いみたいだね」
「こんなの出来るの、俺か硝子さんくらいだよ。『千変万化:無下限術式』」
瞬間。目の前の創の姿が掻き消える。千秋のゲーマーの目には、1秒足らずで数メートル前へ移動した姿が視認できた。
創は呪詛師の口を抑え、溢れる激情をそのままにぶつける。
「一級呪詛師『軽畑 幸雄』。呪術規定第九条に則り、秘匿死刑を執行する。
…生憎、俺はお前みたいな嗜虐趣味はないんでな。激痛を感じる暇も…、呪いの言葉を吐く暇もなく…。一瞬であの世とやらに送ってやるよッ!!」
「むっ、むーっ!!!」
創は呪詛師の顔を掴んだまま、思いっきり振りかぶり、投げ飛ばす。
そして掌を呪詛師へと向け、叫んだ。
「…ごめんな。…術式反転『赫』ッ!!」
瞬間。高密度の斥力が、呪詛師を存在ごと消し飛ばす。
人一人を殺した創の顔は、酷く疲弊しているように見えた。
♦︎♦︎♦︎♦︎
「…すまなかった。俺が間抜けだったせいで、要らないトラウマを…」
少しだけ残った遺体の後始末を終え、すっかり日が暮れた頃。創は補助監督たちにより、新しく服を渡された千秋に、深々と頭を下げていた。
千秋はその謝罪に、首を横に振って答える。
「……謝らなくて良い…と、思う。だって、日向くんは悪くないから…。
それに、私、大丈夫だよ。日向くんが、助けてくれたもん。ほら。怪我なんてなかったみたいにピンピンしてるよ、私」
「…それでもだ。すまない」
惚れた女を守れなかった。
相手は知らぬこととは言え、日向創自身が決して納得できる結果ではない。
深く頭を下げる創に、千秋はぷすぅ、と頬を膨らませた。
「日向くんってば、なんでそんなに謝るの?今日、謝ってばっかりだよ」
「…俺に呪いを課してるだけだよ。『今日、お前は守れなかったんだぞ』ってさ」
創は言うと、真っ直ぐな瞳で千秋の目を見た。
「だから、お前も呪ってくれ。間抜けだった俺のせいで酷い目に遭ったと、心の底から呪ってくれ。
酷い奴がいたって思って、少しずつ記憶から無くしていって、漠然とした呪いだけ残して、忘れてくれないか?」
なんと真っ直ぐで、歪んだ願いだろうか。
しかし、日向創は七海千秋という人間を軽く見過ぎている。
創の言葉に、千秋は彼の頬を両手でぶっ叩いた。
「えいっ!」
「ぶっ!?!?」
そこそこに強い一撃に、思わず「いふぁい」とこぼしてしまう創。
しかし、千秋はその手を離さず、創に迫った。
「今、私は生きてるよ。日向くんが守ってくれたおかげだよ。
…日向くんが、誰かの代わりに『背負って』くれたおかげだよ」
七海千秋という存在は、女神の生まれ変わりか何かなのだろうか。
呪いの世界に焦がれ、呪いの世界で生きてきた日向創を、呪いの世界からではなく、普通の世界から肯定する千秋。
「…希望ヶ峰学園はさ。闇では、あんな人たちで溢れてるのかな?」
「…可能性は高い。ロボトミー手術なんて思いつく奴らだ。俺たちみたく、人の心は捨ててるだろ」
「捨ててないよ。日向くんは苦しんでいたから…。
呪術師がみんな、日向くんたちみたいな人たちなら…、呪術師の人たちは心を捨ててないよ」
そんな問答を交わすと、千秋は創の頬から手を離す。
そして、少しばかり赤くなった手で、創の手を取った。
「裏切るよ。君の背負うものを、少しでも軽くするために」
「……お人好し過ぎるよ、お前」
「ギャラオメガが大好きな人に、悪い人はいないと思うしね」
「ぷっ。なんだよ、それ」
二人分の笑い声が、夕空に響いた。
ミゲル…呪術高専における特級呪術師たちの保護者でありストッパー。地味に苦労人。好きなタイプはアマゾネス。
乙骨憂太…日向創の親友兼恋愛相談所。里香ちゃんとの甘々な関係を普段から見せつけているリア充。好きなタイプは里香ちゃん。
美々子、菜々子…好きなタイプは夏油様みたいな高身長な優男。ただし創だけは願い下げ。理由は「愛が重そうだから」。
家入硝子…十歳以上年下はタイプじゃない。
七海千秋が狙われていることに気づいたのは、呪力感知によるもの。相手が誘い込むつもりでわざと呪力をほんの少し漏らしていたのも相まって、創はまんまと引っかかってしまった。いくら特級とはいえ、まだまだ子供だからね。未熟はあるよね。
考えると、あらゆる関係って「呪い」になり得るんだなぁ。