今度は何者も割り込まない、正真正銘の真剣勝負。大勢の観客が見守る中、二人は再び刃を交える。
「さぁて……いよいよね!」
IS学園第二アリーナ中央にて、凰鈴音が不敵に笑っていた。
その身に纏うのは中国第三世代型IS『甲龍』。肩口には大型衝撃砲『龍砲』を二門備えており、パワーとスピードを兼ね備えている。
対するは『白式』を身に纏う少年、織斑一夏。武装らしきものは手にしたブレード一本のみ。装甲も他のISに比べて薄く見える。しかし、そのスペックはピーキーながら非常に高く、対象のエネルギーを全て消滅させる『零落白夜』を備えている。
「こうしてお前と睨み合うのはクラス対抗戦以来だな。あの時は邪魔が入ったせいで不完全燃焼だったし……今日こそ白黒つけようぜ」
「上等じゃない! 今度こそ完膚なきまでに叩き潰してやるんだから!」
一夏の挑発に、鈴は気炎を上げる。だがすぐに冷静になると、ニヤリと笑った。あの頃から鈴は更に腕を上げているのだ。負けない自信があるからこその余裕であった。
『それでは両者、規定の位置まで移動してください』
審判を務める教師の指示に従い、両者はそれぞれ所定の位置へと移動する。そして……。
『試合……開始!!』
先に動いたのは鈴の『甲龍』だ。肩口に備えられた二つの砲身が光り輝き、同時に圧縮された空気弾を放つ。
――ドゴォンッ!
轟音と共に発射されたそれは、一瞬にして一夏に肉薄する。砲弾が目に見えないのが特徴の空気弾だが、一夏はその攻撃を見切って回避した。
「甘いわよっ!!」
鈴の声と同時に、二門の『龍砲』が連続して放たれる。その動きを見て取った一夏は即座に急上昇すると、今度は逆に地面に向けて加速した。直後、先程までいた場所に砲撃が着弾し、地面に大穴を空ける。直撃すればひとたまりもない威力だ。
「うぉぉおおおお!」
空中から一気に下降しながら一夏は専用武装『雪片弐型』を振るい、真下にいる鈴を目掛けて斬りかかる。
「そんな見え透いた攻撃なんて食らうわけがないでしょう!?」
当然のように、鈴はそれをかわす。地上に降り立った一夏は機動力を生かし、縦横無尽に移動つつ鈴を攻撃する。鈴もまたそれを巧みに避け続け、反撃の機会を窺っているようだ。
「ここだ!」
鈴の背後を取った一夏が雪片弐型を振り抜く。しかし、その刃が機体に届く事は無かった。
「甘いって言ってるでしょうが!」
金属同士がぶつかり合ったような鈍い音が響き渡る。その正体は、甲龍の専用武装『双天牙月』だ。青竜刀型の武器であり、連結させることで一つとなる両刃剣である。鈴は振り向きざまに双天牙月を一閃させ、白式の一撃を受け止めたのだ。
「ぐぅ……!」
鍔迫り合いに挑む一夏だが、重さでは双天牙月が上回る。そのまま押し切られそうになるのを防ぐべく、スラスターを使って強引に後方へ飛んだ。
(ちぃ……パワーじゃ敵わないか)
「逃すかぁ!」
そうはさせないとばかりに、鈴が追撃を仕掛けてくる。二機のISはほぼ同時に急接近し、互いに相手に向かって突撃していく。ガキィィンッ! 両者のブレードが激しく衝突し火花が散った。
「くっ……」
「ふん……この程度?」
一夏は歯噛みするが、鈴の方はまだ余裕がありそうだ。しかしそれも無理はない。何故なら、白式の『雪片弐型』が一刀なのに対し、甲龍の『双天牙月』は二刀。パワーは元より、手数でいえば圧倒的に甲龍が上なのだ。
「ほらほらどうしたの? このままだとあっという間にやられちゃうわよ!」
挑発するように言う鈴だったが、一夏は冷静に思考を巡らせていた。
(落ち着け……甲龍は確かに強いけど、何もかも負けているわけじゃない。何よりも……俺には千冬姉譲りの剣術がある!)
一夏はあえて甲龍との競り合いで崩れた。わざと体勢を崩して見せたのである。
「隙あり!」
その瞬間を狙って、鈴が双天牙月を振るう。だが一夏は慌てる様子もなく、冷静に対処する。
相手が攻撃する瞬間。それは相手が最大の隙を晒すチャンスでもある。故に一夏はそのタイミングを見計らい、渾身の力を込めて雪片弐型を押し込む。
「な……きゃあああ!?」
予想外の反撃に、鈴は悲鳴を上げる。白式と甲龍のパワーは拮抗していたが、鈴の方が一瞬だけ遅かった。そのため、機体のスペックを発揮できずに弾き飛ばされてしまう。
(鈴が崩れた、ここは迷わずに攻めるべきだ!)
一夏は即座に決断すると、再度の攻撃を仕掛けるべく鈴に接近していく。だが、それを黙って見ている鈴ではない。
「調子に乗るんじゃないわよ!!」
鈴は叫びながら、肩口にある『龍砲』を起動させる。連射速度を重視した砲撃を行い、牽制を行ったのだ。
「甘いぜ!」
一夏は砲撃を回避しつつ、雪片弐型を構えて突貫する。そして再び雪片弐型を振るい、鈴に斬りかかった。
「だから無駄だってば!」
甲龍のパワーならば、その攻撃すら受け止められると鈴は判断する。事実それは間違いではなかった。だが……。
「まだだ!」
一夏は雪片弐型の出力を上げると、そのまま鈴の装甲を切り裂いた。
「えぇ!?」
まさかの展開に鈴は驚きの声を上げ、一夏はそのまま追撃をかける。
「くっ!」
鈴は慌てて双天牙月を振るい迎撃しようとするが、一夏はそれを紙一重でかわすと雪片弐型を振るう。
「うわぁ!?」
衝撃に怯みながらも、鈴も必死になって雪片弐型を弾いた。だが、一夏はそこで止まらない。スラスターを全開にして一気に間合いを詰め、再度の斬撃を放つ。
「舐めるな!」
今度は鈴が反撃に出る。双天牙月を振るい、一夏に斬りかかる。その攻撃を一夏は回避し、カウンター気味に雪片弐型を繰り出して攻撃を行う。
「くぅ……!」
「はあぁっ!」
互いの刃が何度も衝突し、激しい金属音がアリーナ内に響く。優位に立っているのは一夏の白式だ。起死回生のカウンターが成功し、勢いに乗っている一夏に対し、鈴の方は完全にペースを崩されてしまっている。
「このぉぉおおお!」
それでもなお、鈴は双天牙月を振り回す。しかし、白式のスピードについていけない。
一夏はスラスターを使って上空に飛ぶと、雪片弐型を構える。
「これで決めるぞ!」
雪片弐型の刀身が変形し、光の刃が伸びる。零落白夜を発動させたのだ。一撃必殺の攻撃力を誇る、白式の最大最強の武装である。
「ぜぇ……ぜぇ……!」
先程の攻防で鈴は消耗し切っている。立て直される前に決着をつけるべく、一夏はスラスターを使って急降下した。
「うぉぉぉぉおおおおおおおお!!」
一夏は気合と共に、雪片弐型を握る手に力を入れる。鈴に反撃させる間を与えぬまま距離を詰め、思い切って振り下ろす。
勝った。一夏が勝利を確信した次の瞬間。
「なっ……」
一夏は自分の目を疑った。何故なら、自分の目の前にいたはずの鈴が消えてしまったからだ。
目標を失った雪片弐型は虚しく空を切り、白式のシールドエネルギーを無意味に消費した。
「ど、どういう事なんだ……?」
一夏は何が起きたのか理解できなかった。鈴は確かにそこに居たはずなのに、突然姿が掻き消えたのだ。まるで霧のように。
(いや、違う!)
一夏はハッとなる。鈴が姿を消したのではなく、自分が認識できないほどの速度で移動したのだと気づいた。瞬時加速だ。一夏が勝負を決めかかった一瞬、鈴はスラスターから放出したエネルギーを利用して離脱したのだ。
すぐさまセンサーで鈴の位置を探る。離れた場所に反応があった。一夏は雪片弐型を握り直し、その方向へと向き直る。
センサーの反応通り、鈴はそこにいた。息を切らしながら肩を上下させ、汗をかいている。俯いているせいで表情まではわからない。
「……不思議な物よね、人の身体って」
呼吸を整えながら鈴は呟くように言う。
「体力も尽きかけて、もう打つ手が無いって状況だったのに……身体の方が勝手に動いてくれるんだもの」
乱れていた呼吸は徐々に落ち着きを取り戻していく。そして顔を上げると、鈴は不敵な笑みを浮かべていた。
「おかげで、もう一戦いけそうだわ」
「…………」
違う。さっきの鈴とは明らかに何かが違う。一夏は直感的に感じ取った。姿は変わっていないはずなのに、纏っている雰囲気が別人のようだ。
あの一瞬の分かれ目で鈴の中にあったスイッチが切り替わったのかもしれない。あるいは、今まで抑え込んでいた力が解放されたか。
一つ確かなのは、今の鈴に同じような手段は通用しないという事だ。
「行くわよ、織斑一夏!」
双天牙月を構え直す鈴から、オーラのようなものを幻視できた。それは、鈴の中で眠っていた龍が目覚めたかのように思えた。
鈴が地上を滑るようにして高速で移動する。
「速い!?」
気圧される一夏。鈴は双天牙月を両手に構えると、そのまま突貫する。
「ぐっ!?」
咄嵯に一夏も雪片弐型を振るい、攻撃を受け止める。だが、パワーで劣る白式では、甲龍の馬力には勝てない。押し切られてしまう。
「なっ!?」
龍砲の砲身が展開し、一夏は驚きの声を上げた。
「吹き飛びなさい!」
鈴が叫ぶと同時に、衝撃砲『龍砲』が発射された。見えない砲弾が白式の腹部に直撃し、その巨体を弾き飛ばす。
「うあぁぁああ!」
凄まじい威力に一夏は悲鳴を上げ、アリーナの壁まで飛ばされる。
壁に激突する一歩手前で受け身を取れたが、白式のエネルギーは大幅に削られてしまった。
「くそっ!」
一夏はすぐに体勢を立て直そうとするが、それよりも早く鈴が追撃を仕掛けてくる。双天牙月をバトンのように回転させて投擲してきた。
(回避が間に合わない!)
一夏は雪片弐型を振るって弾こうとするが、双天牙月は雪片弐型に触れる直前に軌道を変え、再び一夏に襲い掛かる。
「なにっ!?」
一夏は驚愕の表情を浮かべ、反射的に雪片弐型で受け止める。だが、その攻撃は囮に過ぎなかった。本命の攻撃は別にある。
鈴は瞬時に一夏に接近し、右手の掌底を繰り出した。
――――ドォンッ!!
爆発にも似た音がアリーナ内に響き渡り、一夏の身体がくの字に折れ曲がる。胸部装甲に亀裂が入り、そこから火花が上がった。
「うわぁっ!!」
大きく後方に吹っ飛ぶ一夏。背中から壁に叩きつけられ、大きくバウンドする。
「が……はっ……」
肺の中の空気が強制的に吐き出され、一夏は苦痛に顔を歪めた。この勝負で一番のダメージだ。絶対防御が発動しなかったのは幸いだったが、それでもダメージを受けたことに変わりは無い。白式のシールドエネルギーは大きく減少していた。
「まだ終わりじゃないわ!」
鈴がそう言ってエネルギー弾で追撃する。当たる直前で一夏は地面を転がって避けた。
「ぜぇ……ぜぇ……」
起き上がった一夏は、荒い呼吸を繰り返していた。
一夏は悟った。今の鈴は、自分の知っている鈴ではない。以前戦った時はここまで強くなかったはずだ。明らかに成長している。それも尋常ではない速度で。
(これが……中国代表候補生の力なのか?)
身体を起こしながら一夏は考える。だが答えが出るはずもない。そんな事を考えている暇など無いからだ。
「何よ、防戦一方じゃない。来ないならこっちから行くわよ!」
鈴は瞬時加速を使い、一気に間合いを詰める。そして双天牙月を振り下ろす。
「くっ!?」
辛うじて回避した一夏は反撃に転じようと雪片弐型を振るうが、またもや途中で軌道を変えて別の方向から攻撃を仕掛けてきた。
「くそっ!」
鈴の猛攻に一夏は防戦一方で追い詰められていく。パワーやスピードだけじゃない、鈴自身の動きも変化している。さっきまでは直線的な攻撃しかしてこなかったのに、今はフェイントを交えながら攻撃してくるのだ。しかもそれが全て的確に当ててくる。
「どうしたの?逃げてるばかりじゃ勝てないわよ!」
「わかっている!」
一夏は叫び返し、鈴の攻撃を弾き返した。そして距離を取ろうと後退する。
「逃がさないわよ!」
だが、鈴はそれを許さなかった。一夏の退路を予測して龍砲を撃ち、一夏の動きを止めようとする。
(駄目だ、振り切れない……!)
一夏は内心で焦り始める。このままではジリ貧だ。接近すれば双天牙月が、距離を取れば龍砲が飛んでくる。どちらを選んでも対処法が無い。あまりに隙が無さすぎる。
(俺じゃ勝てないのか……)
一夏はふと、昔の事を思い出していた。あの日、初めて箒と戦った時のことを。
IS学園に入学する前のことだ。剣道場で箒と出会った。最初は剣の腕を見込んで手合わせを申し込んだのだが、結果は散々だった。一本取るどころか掠る事すらできなかった。
悔しかった。男として情けなかった。だから、もっと鍛錬を積んだ。毎日竹刀を持って素振りをした。だが、それでも差は縮まらなかった。
『なぜそこまで必死になる?』
ある日、道着姿の箒が聞いてきた。
『強くなりたいんだ』
『なぜだ?』
『守りたい人がいる』
一夏は即答した。それは嘘偽りの無い気持ちだ。
『そうか……私には守るべきものがあるだろうか?』
一夏は首を横に振った。守るべきものがあるから強くなるというわけではないと思う。
今の自分を超えたい。少しづつでも良い。絶対に諦めずに努力を続ける。それこそが強さへの近道だと思う。それに思い出させてくれたのは、目の前にいる彼女だ。
(そうだ。鈴も今の自分より強くなろうと努力してきたんじゃないか)
なんで今まで忘れていたんだろうか。一夏は自分を叱咤する。
(鈴に勝つには、「今の俺」じゃ駄目なんだ!)
一夏は覚悟を決めた。雪片弐型を握る手に力が込もる。
「何をするつもりかしら?」
一夏の様子に、鈴は警戒を強める。
一夏は深呼吸をし、雪片弐型を構え直した。
「鈴、俺は馬鹿だったよ。本当に大切な事を今まで見落としてきたんだ」
「…………」
一夏の言葉に、鈴は何も返さない。ただ黙って聞くだけだ。
「たぶんそれが、俺が負けている理由なんだと思う。けどもう大丈夫だ。お前が今までの鈴と違うように、俺ももう今までの俺とは違う。お前の知らない俺を見せてやる!」
「面白いじゃない、ガッカリさせないでよ!」
鈴は不敵に笑う。一夏がどんな力を見せてくれるのか楽しみでしょうがない。
「行くぞ!!」
一夏はスラスターを全開にして加速し、鈴に突っ込む。双天牙月の攻撃範囲に入る直前で急上昇した。
「え!?」
予想外の行動に鈴は一瞬動揺するが、すぐに冷静さを取り戻す。上昇しながら鈴は一夏に狙いを定め、龍砲を撃った。
(来る!)
だが一夏は避けない。雪羅の手甲で弾く事もしない。ただ一直線に向かっていく。
「うおおぉぉっ!」
気合と共に雪片弐型を横薙ぎに振るう。鈴は双天牙月を盾代わりにして防ごうとするが―――
「!?」
雪片弐型の刃が双天牙月に触れた瞬間、雪片弐型の形状が変化した。そして双天牙月の柄の部分から先が切断される。
「これは……!」
一夏がやった事は単純だ。エネルギーの放出を逆方向に向ける。それだけの事である。
「零落白夜!?アンタまさか!」
「ああその通りだ!これが俺の新しい力だ!」
一夏は鈴に向けて加速する。今度は鈴の方から間合いに入った。
「くっ!」
鈴は咄嵯に双天牙月を投げ捨て、龍砲を撃つ。だが、一夏は止まらない。雪片弐型を振りかぶったまま突き進む。
(白式に残されたシールドエネルギーは後僅か。これ以上、試合を長引けば確実にこっちが負ける……。だったら、次の一撃に全てをかける!)
(とでも思ってるんでしょ? お見通しよ!)
追いかける一夏と、追われる鈴。互いに間合いを保とうとジリジリと動き回る。そして――
「そこだぁーっ!」
一夏が瞬時加速を使い、一気に距離を詰める。その行動は鈴の読みにピッタリだった。
(かかったわね!)
対する鈴はその場で停止して、一夏を引き寄せる。
雪片弐型を振るわれるギリギリのタイミングで、瞬時加速を利用した体当たりを仕掛ける。それが鈴の思い描いた勝利のビジョンだ。だが――――
「甘いぜ!」
「な……!?」
白式の瞬時加速には、もう一つの段階がある。複数のスラスターを持つ第二形態だからこそ可能な超高機動モードだ。一夏は雪羅の背部ユニットを起動し、更に追加のブースターとして使う。それによって一夏の速度は増す。
つまり、今の一夏は瞬時加速と瞬時加速の連続使用を行っているのだ。
「きゃぁぁぁぁああああ!!」
タイミングを見失った鈴は避ける事ができず、まともに一夏を受け止める形になった。そのまま二人はもつれ合うようにして地面に落下していく。
――――ドオォンッ!!
アリーナの地表に二人の体が激突し、土煙が上がる。観客席の生徒は沈黙したまま、事を成り行きを見守った。
やがて土煙が晴れていく。そこには仰向けに倒れた鈴の姿があった。
『勝負あり!勝者、織斑一夏!』
審判役の教師が勝敗を宣言する。同時に観客達の歓声が上がった。
勝った……鈴に勝てたんだ。一夏は一身に拍手を浴びながら、静かに拳を掲げた。
※
試合後の医務室。一夏は痛む身体に湿布薬を貼り、ベッドの上で休んでいた。
「あ~、全身筋肉痛になりそうだ……」
「当然です。あの試合は貴方の体力を大きく消耗させました。しばらくは激しい運動は控えてくださいね」
一夏の怪我の手当をしているのは、クラスの副担任である山田真耶だ。
「そういえば、鈴はどうなったんですか?」
「凰さんなら保健室で治療を受けてますよ。そちらは大した事はないみたいです」
「良かった……」
それを聞いて一夏はホッとした。流石にやり過ぎたかもしれないと思っていたからだ。
「それにしても、今日の試合は驚きでした。二人とも、まるで別人のようだったってみんな言っていましたよ」
「ははは、そりゃそうでしょう」
正直、自分が一番驚いている。あんな風に戦えるなんて今まで考えた事も無かったのだ。恐らく、あの試合が無ければ一生気付かなかっただろう。
「私としても、お二人の変化には驚かされっぱなしです。特に織斑君の変化が一番大きいですね。本当に見違えるようでした。何があったのか教えてもらえませんか?」
「別に大した事はやってないんですよ」
一夏は苦笑して言った。
「ただ今の自分より強くなろうと必死に頑張ってきただけなんです。俺も、鈴も、他の皆も」
「…………」
答えを聞いた真耶は数秒の無言の後、微笑みを浮かべる。
「それは、とても素敵なことなんじゃないでしょうか」
「ええ、本当に」
一夏は窓から見える空を眺める。赤い天井の下に広がる夕日が眩しかった。
「では、私はそろそろ戻りますね。今日はゆっくり休んでくださいね」
そう言って真耶が部屋から出て行った。しばらくしてドアの向こうから足音が聞こえてくる。
(来たか)
その音を聞くと同時に、一夏は身を起こした。そして待つ。
「入るわよ」
ドアが開いて、鈴が入ってきた。筋肉痛に苦しむ一夏と違い、彼女の方はピンピンしているようだ。
「お疲れ様、鈴。さっきの試合すごかったぞ。まさかあんな試合が出来るとは思わなかったよ」
「当たり前じゃない。あたしは中国の代表候補生なのよ? あれぐらい出来なくてどうすんのって話よ」
「はは、違いねぇや」
一夏は笑って肩をすくめる。
「……本当に強かったよ、鈴」
「うん、ありがとう一夏。でも、アンタだって凄いわ。最後の瞬間まで諦めずに向かってきたものね。正直、ちょっと怖かったわ」
「あの時のお前ほどじゃないさ。人が変わったように見違えたから内心ビビリまくりだったぜ」
「なによ、人を化け物みたいに」
鈴が頬を膨らませる。流石に化け物呼ばわりは心外らしい。
「悪い。そういう意味じゃ無いんだ。ただ――」
一夏は言葉を続ける。
「あの時のお前と戦えて良かったって、心の底から思ったんだ」
そう言いながら一夏は笑顔で右手を差し出す。
「だからまたいつか、全力で勝負しようぜ。俺もその時までにもっと強くなる」
「……そうね。仕方ないから約束してあげるわ!」
鈴はその手を握り返す。
「あたしだって、もっともっと強くなってやるんだから。次は勝ってやるから待ってなさい」
「ああ、望むところだ!」
互いの健闘を称え合い、友情の証として握手を交わす二人。
その姿はとても爽やかな物だった。
AIのべりすとを使って書きました。