IS ~Battle Stage~(仮)   作:S・TOM

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かつて、ラウラ・ボーデヴィッヒに完膚なきまでに敗北したセシリア・オルコット。イギリス代表候補生として屈辱をそのままにはしておけず、ラウラに雪辱戦を申し込む。
互いのプライドと名誉をかけたリベンジマッチが今、始まろうとしていた。


BATTLE2「ブルー・ティアーズvsシュヴァルツェア・レーゲン」

 アリーナ中央で対峙する二機のIS。その片方は蒼い雫のようなフォルムの機体――イギリスの第三世代機『ブルー・ティアーズ』だ。

 搭乗者はイギリスの代表候補生、セシリア・オルコット。貴族の家柄であるオルコット家の令嬢であり、名門貴族として相応しいだけの実力を持っている少女だ。

 そしてもう片方は黒を基調とした無骨なフォルムをした機体――ドイツの第二世代機『シュヴァルツェア・レーゲン』である。

 搭乗者はドイツ代表候補生にしてドイツ軍特殊部隊所属の少女、ラウラ・ボーデヴィッヒ。銀髪に赤い瞳という特徴を持ち、小柄ながら軍人らしいキビキビとした雰囲気を纏った少女だった。

「ラウラさん、私はこの時を待ちかねていましたのよ」

「ほう?」

 

 セシリアの言葉に耳を傾けるラウラ。お互いに笑みを浮かべたまま、セシリアは続ける。

 

「かつて私は、あなたに手も足も出ないまま敗北した。イギリスの代表候補生として、あれほど屈辱的な負けは無いと言えますわ」

「…………」

 

 セシリアは言葉を紡ぎながら思い出す。ラウラの挑発によって引き起こされた模擬戦。セシリアは鈴と組んで二体一で挑んだが、ラウラは圧倒的な力でそれをねじ伏せたのだ。

 あの時の記憶は今でも忘れられない。同じ専用機持ちが相手とはいえ、国家を代表する自分が手も足も出なかったのだ。

 

 ですが、とセシリアは言葉を続ける。

 

「私にも誇りというものがあります。一度の敗北で折れるほど、私の心は弱くありませんことよ!」

 

 そう言って彼女はスターライトmkIIIを構える。対するラウラは無言のままそれを見つめていた。

 

「さあ、参りましょうかラウラさん!この場を借りて、あなたに雪辱させていただきます!!」

「……面白い」

 

 セシリアの言葉を受け、ラウラは不敵な笑みを浮かべる。その眼には絶対的な自信と、セシリアに対する期待が入り混じっていた。

 

「ならば見せてもらおう、セシリア。お前の持てる力の全てを。残さず私が叩き潰してやる」

「望むところですわ!!」

 

 二人の会話を皮切りに、試合開始を告げるブザーが鳴り響いた。同時にセシリアの放ったレーザーライフルから放たれた閃光がラウラに迫る。

 だが、ラウラはそれを難なく回避した。そのまま滑るように距離を詰めると、右手に握っていた大型ブレードを振るう。

 

「ふっ!」

 

 セシリアは余裕を持ってそれを回避すると、即座に距離を取って射撃体勢に入る。しかしラウラはその動きを読んでいるかのように素早く反応し、再び接近してきた。

 

(やはり接近戦を挑んできますわね)

 

 セシリアは冷静に相手の行動を分析する。ブルー・ティアーズはアウトレンジに特化したISであり、遠距離での狙撃を得意としている。

 ラウラとしてもそれは予想しているはずだ。だからこそセシリアが遠距離を仕掛けてくることを予測した上で、自分からも攻撃を仕掛けてきている。

 ラウラの判断は正しい。確かにブルー・ティアーズの弱点はそれだ。遠距離、中距離では十分な性能を発揮することができるものの、近距離戦は苦手としている。

 セシリア自身もそのことを理解しており、迂闊に間合いを詰めることを避けようとしていたのだが――

 

「どうした?逃げてばかりだと勝てんぞ」

 

 ラウラはニヤリと笑うと、一気に加速をかけて斬りかかってきた。そのブレードを身を翻してかわすと、すぐさま反撃に転じる。

 

「甘いですわ!」

「む……」

 

 ラウラは再び後退すると攻撃を回避しようとする。しかしセシリアの攻撃の方が早かった。彼女が撃ったビーム弾がラウラに命中し、シールドエネルギーを削る。

 

「ぐっ!?」

 

 被弾したラウラは後方に下がり、体勢を立て直した。セシリアもそれに合わせて追撃を止める。

 

「……流石だな」

「お褒めに預かり光栄ですわ」

 

 ラウラの賛辞にセシリアは微笑んだ。今の攻防だけでも彼女の技量の高さはよくわかる。

 機体の性能を把握し、自分の強みを活かしつつ相手を追い詰めていく。セシリアもまた、ラウラと同様に優れた操縦者と言えるだろう。

 しかしラウラの表情に焦りの色はない。こんな物は単なる小手調べ。本気とは程遠いものだと言わんばかりの態度だった。

 

「次は私の番だ」

 

 そう言うなり、ラウラは機体を操作した。瞬間、シュヴァルツェア・レーゲンの肩部装甲が展開され、ワイヤーブレードが発射される。

 

(来ましたわ!)

 

 セシリアはすぐにスターライトmkIIIを構え、狙いを定める。ラウラの動きに無駄はなく、非常に素早い動作だった。

 だが、セシリアも負けてはいない。高速で迫り来るワイヤーを寸分の狂いもなく撃ち抜く。

 

「ふんっ」

「な……ッ!?」

 

 その隙をシュヴァルツェア・レーゲン本体が捉えた。瞬時にセシリアとの距離を詰めたラウラが、レーザーブレードを向ける。

 

「くぅっ!」

 

 慌ててセシリアも応戦するが、二機の距離は離れていない。互いに牽制の射撃を繰り返しながら、ジワジワと距離を詰めていった。

 

「そこだ!」

 

 先に動いたのはラウラの方だった。スラスターを使い、一瞬にしてトップスピードに達する。同時にセシリアの懐に飛び込むと、手にしていたブレードで斬りかかった。

 

「ちぃっ!」

 

 間一髪で回避するセシリアだが、ラウラのブレードは囮だった。

 ワイヤーがセシリアの機体に絡みつき、拘束する。ラウラはそのままワイヤーを振り回してセシリアを叩きつけた。

 

「きゃあああっ!」

 

 地面に叩きつけられた衝撃で悲鳴を上げるセシリア。シールドエネルギーが大幅に削られるが、すぐに体勢を立て直す。

 

(あえて自分の方に意識を向けさせ、相手の機体にワイヤーを巻き付ける。まんまとやられましたわ……!)

 

 ラウラの戦術は見事としか言いようがない。ドイツの代表候補生であると同時に、特殊部隊の「シュヴァルツェ・ハーゼ」の隊長である彼女にとってはこの程度の連携など朝飯前なのかもしれない。

 

「どうした?この程度か?」

 

 ラウラは不敵な笑みを浮かべると、右肩のレールガンを向けた。次の瞬間、砲弾がセシリア目掛けて放たれる。

 

「くうっ!!」

 

 セシリアは身を捻ってそれをかわすが、ラウラは立て続けに砲撃を行った。回避するセシリアだが、ラウラは容赦なく砲弾を撃ち込んでくる。

 

「くっ……!」

 

 このままでは防戦一方だ。セシリアは即座に決断を下すと、ラウラに向けてライフルを構えた。そして引き金を引くと同時に、レーザービットを展開させる。

 計四基ものビットが一斉に射出され、ラウラに向かって飛んでいった。

 

「ほう」

 

 ラウラは感心したように呟いた後、冷静にセシリアの行動を観察していた。彼女は自分ではなく、周囲の空間を狙っている。

 つまり、相手の周囲を囲むようにしてレーザーを配置し、ラウラを取り囲む壁を作ろうとしているのだ。

 

(なるほど。冷静さは失ってないと見える)

 

 ラウラは口元を歪めると、その場から移動した。当然のようにセシリアのビットもそれを追っていく。

 

「はぁあああっ!」

「む!?」

 

 その時、ラウラはセシリアが接近してくることに気づいた。咄嵯に振り向くが、既にセシリアは間合いに入り込んでいる。

 手に握られていたのはレーザーライフルではなかった。ブルー・ティアーズの近接格闘装備、インターセプターだ。

 

(遠距離射撃型の機体で、近接格闘戦を挑むというのか!?)

 

 ラウラはその行動が理解できなかった。確かに近距離戦闘を得意とするISならば、その戦法を取ることはある。しかしセシリアの機体は中、長距離の戦闘に特化した機体だったはずだ。

 何故、そのような戦い方を選んだ?

 

「ふっ!」

「むうっ!?」

 

 思考している間に、セシリアの攻撃が迫ってきた。ラウラはそれをブレードで受け止める。

 

「かかりましたわね」

 

 瞬間、セシリアが笑みを零す。今まで展開されていなかった二基のビットの砲身がこちらに向けられていた。

 

「なっ、インターセプターはフェイント……!?」

「ご名答ですわ」

 

 ラウラがセシリアの意図をやっと理解するも、もう遅い。密着状態から二基の砲口からミサイルが発射された。

 

「ぐぅあああっ!」

 

 至近距離からの爆撃を受け、ラウラの機体が大きく吹き飛ばされた。そのまま地面へと落下していく。

 しかしラウラはすぐに態勢を立て直した。セシリアは追撃することなく、ラウラの様子を伺っている。

 

「いかがかしら? 自らが取った戦術を真似されるのは?」

「…………」

 

 得意げな様子で話しかけてくるセシリアに対し、ラウラは無言だった。今の一撃でシールドエネルギーは半分近くまで減らされている。

 先程の攻防といい、油断ならない相手だ。最初に戦った時よりも数段強くなっているように見える。

「……面白い」

 

 だが、その事実にラウラの心は躍っていた。あの時は圧倒していた相手が、今は自分を追いつめようとしている。その成長ぶりには素直に関心した。

 

「認めよう、セシリア・オルコット。お前の実力は私の想像以上だ。どうやら私はお前のことを少々見くびり過ぎていたらしい」

「ふふ、当然ですわ。私だって日々進歩しておりますのよ。いつまでも同じ場所にいるわけではないのでしてよ?」

 

 セシリアの微笑に驕りは感じられない。確かな実力を持ち合わせた強者のみが見せる自信と余裕がそこにはあった。ラウラもニヤリと笑うと、再びプラズマ手刀を展開した。

 

「ここからは手加減抜きだ。持てる力の全てを以ってしてお前を叩き潰してやる。このラウラ・ボーデヴィッヒとシュヴァルツェア・レーゲンの力でな!」

「望むところですわ! このセシリア・オルコットとブルー・ティアーズで華麗に撃ち落として差し上げましょう!」

 

 二人の少女は互いに不敵な笑みを浮かべると、同時に動き出す。スラスターを噴かせて飛翔するラウラと、レーザーライフルを構え直すセシリア。戦いは終盤を迎えようとしていた。

 

「はぁあああっ!!」

「おおおおっ!!」

 

 上空では、セシリアとラウラが激しい空中戦を繰り広げていた。セシリアは4機のビットを展開し、ラウラの動きを制限しつつ攻撃を仕掛ける。対するラウラはワイヤーアンカーを駆使してワイヤーを振り回し、ビットを振り払おうとしつつ接近の機を狙っていた。

 両者の攻撃が激しくぶつかり合う度に火花が散る。両者一歩も譲らない攻防戦が続いていた。

 

「フッ――」

 

 瞬間、ラウラの機体が爆発的なスピードで距離を詰めていく。瞬間加速だ。セシリアはすぐさま反応し、ラウラから距離を取るでもなくライフルで狙いを定める。

 

(瞬間加速を発動した機体は軌道が直線的になる。そこを狙い撃つだけですわ)

 

 ラウラが狙うは離脱ではなく、突進による突破だろう。そう読んだセシリアはラウラの突撃を待ち構えていた。

 だが、ラウラはセシリアの目論見とは違う行動を取った。なんとラウラはブレードで攻撃すると見せかけ、フリーの状態になっている左手をセシリアに向かって突き出したのだ。

 

「なっ!?」

 

 ラウラの左手からバリアのようものが放たれ、セシリアの機体を覆う。直後、セシリアは金縛りにあったように動けなくなった。

 

(これは……!?)

「よもや忘れたわけではあるまい。このシュヴァルツェア・レーゲンには、停止結界があるということを!」

 

 正式名称、アクティブ・イナーシャル・キャンセラー。通称AICと呼ばれるそれは、慣性停止能力とも呼ばれるもので、対象物の運動を停止させる能力を持つ。

 ラウラの機体に搭載されているそれは、あらゆる物体の動作を止めることができる。防御は勿論、攻撃にも応用できる強力な機能だった。

 

「さあ、これでもう逃げられんぞ!」

 

 ラウラの右肩に装着されたレールガンの砲身が、セシリアを捉えていた。

 

「くっ……!」

 

 すぐにこちらもビットを呼び戻し、レールガンの砲撃を相殺する。結果、両者の間に爆煙が巻き起こった。

 セシリアは急いで後退するが、煙幕のせいで視界が悪くなってしまった。ラウラの位置を見失ってしまう。

 

「どこを見ている?」

 

 その声に反応した時にはもう遅かった。いつの間にか背後に回っていたラウラが、右手のブレードをセシリア目がけて振り下ろす。

 

「きゃあぁぁああ!」

 

 直撃を受けたセシリアが激しい勢いで吹き飛ばされる。空中で姿勢制御を行うが、落ち着く暇もなく次の攻撃が迫ってきた。

 

「あぁっ!」

 

 ワイヤーが機体を絡め取り、セシリアの体勢を大きく崩す。そこへ本体のラウラが右腕を振り抜き、ブレードで一閃する。

 

「ぐぅうっ!」

 

 シールドエネルギーが大幅に削られ、セシリアは苦悶の声を上げる。ラウラは攻撃の手を緩めず、縦横無尽に空を駆け巡ってセシリアに猛攻を仕掛け続けた。

 

「く……! はあぁっ!」

 

 セシリアも負けじと反撃を試みる。しかし、ワイヤーによって行動を制限されているため思うように動けない。シールドエネルギーと共に集中力も削り取られていき、ビットを動かすこともままならない状況だった。

 

(このままではラウラさんの思う壺ですわ……。何か手を考えなくては……)

 

 ラウラの猛攻に苦しみながら、セシリアは思考を回転させる。この状況を覆す方法はないか、必死に頭を働かせる。

 

(考えなさい……考えるのよセシリア・オルコット)

 

 そう自分に言い聞かせながら、セシリアは打開策を考える。そして一つの結論に達した時、彼女の口元が小さく笑みを浮かべていた。

 

(出し惜しみなどしませんわ。シールドエネルギーを使い果たしてでも必ず勝利して見せる!)

 

 その作戦は確実性のない、謂わば賭けに近いものだった。だが、今のセシリアに迷いなどなかった。

 必ず成功させる。その自負心が彼女を支えていた。

 

「これだけの攻撃を受けてもまだ戦意を失わないとは大したものだ。流石はイギリスの代表候補生といったところか」

「…………」

「だが、それもここまでだ」

 

 ラウラが巻きつけたワイヤーを引き寄せ、セシリアとの距離を一気に縮める。この一撃で決めると決心し、ブレードを握る右手に力を込めながら。

 

「これで終わりだ!」

 

 ラウラがブレードを振りかぶる。その刃が、セシリアの機体に届こうとしていた。

 

「ええ、これで終わりですわ」

「何?」

 

 瞬間、ラウラの機体に衝撃が走リ、動きが止まる。ラウラは何が起きたのか理解できなかった。

 

「なんだ……機体が、動かない……!?」

 

 突然の事態に、ラウラは動揺を隠せない。そんな彼女に、セシリアは不敵な笑みを浮かべて言った。

 

「チェックメイトですわ。ラウラさん」

「ッ!?」

 

 直後、ラウラは驚愕した表情で下を見る。そこには、インターセプターを機体に押し付けているセシリアの姿があった。

 

「一体、何が起こって……!」

 

 よく確認すると、セシリアのスラスターからは激烈な炎が噴き出していた。先程までとは明らかに違う挙動をしている。

 

「瞬間加速……この状態で加速を続けているのか!?」

「流石はラウラさん、察しがいいですわね。でも、もう遅いんですのよ?」

「くっ……!」

 

 ラウラは機体を動かそうとするが、AICを発動できない。急激な加速を行うセシリアの機体に、シュヴァルツェア・レーゲンが押さえつけられてしまっているのだ。

 

(落ち着け、機体を動かせなくともワイヤーは操作できる。セシリアを引き剥がせば勝利は――)

 

 再び機体に衝撃が走り、ラウラの思考が中断される。今度は背後から攻撃を受けたようだ。

 振り向くと、いつの間にかセシリアのビットがラウラの背後に回っていた。どうやら、ビットの攻撃も受けたらしい。

 

(レーザービット! この一瞬で集中力を取り戻したのか!?)

 

 ラウラはハッとなる。四基のビットが自分を取り囲んでいることに気づいたからだ。

 

「まさか……貴様!」

「さあ、存分に味わってくださいな」

 

 直後、ラウラは四方八方からの一斉射撃を受ける。上下左右、あらゆる方向から放たれるビームが、次々とラウラを襲った。

 

「ぐああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 防御しようにも機体が動かない。セシリアによって押さえつけられたまま、ラウラは無防備の状態を晒し続けてしまう。

 

「あぁぁああっ!」

 

 全身の装甲を削られ、ラウラは絶叫する。その声はアリーナ全体に響き渡った。

 

「盛大なフィナーレをご覧に入れましょう!」

 

 セシリアがそう言うと同時に、腰部のビットからミサイルが至近距離で発射された。

 

「ぐあぁあぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 全弾命中し、ラウラの悲鳴が木霊した。その爆発は凄まじく、爆煙によって視界が遮られるほどだった。

 やがて煙幕からラウラの姿が現れ、完全に力が抜け落ちたまま地上へ落下していく。その様子を見たセシリアは、ふぅっと息を吐いて言った。

 

「……ふう、これで私の勝ちですわね」

 

 セシリアは一仕事終えたような表情を見せる。そして、展開していたピットをゆっくりと戻していく。

 

『試合終了。勝者、セシリア・オルコット』

 

 試合終了を伝えるブザーと共に、アナウンスが流れる。その瞬間、観客たちは一斉に歓声を上げた。

 

 

「私の負けだ。成長したな、セシリア」

 

 試合後、アリーナの更衣室にて、ラウラはセシリアに対してそう言った。

 

「ありがとうございます。けれどラウラさんもお強かったですわ」

「いや、最後の攻撃は見事だった。あの時のお前からは決死の覚悟を感じたぞ」

「あら、それはお互い様ではありませんこと? 私だって死ぬ気で挑んでいましたもの」

「ふっ……」

 

 ラウラは小さく笑うと、セシリアに背を向ける。そして振り返らないまま言葉を続けた。

 

「初めて戦った時を覚えているか?」

「ええ、もちろん。忘れようもありませんわ」

 

 セシリアが答えた後、ラウラはしばらく沈黙する。その様子に首を傾げながら、セシリアは言葉を待った。

 

「……あの時の私は力に囚われていた。教官の強さを理解できず、自分が最強であることを証明するためだけに戦っていた」

「…………」

「私にとって対戦相手とは叩き潰すだけの存在だった。己の力を振りかざし、圧倒的な力で相手をねじ伏せる。そこに相手に対する敬意など微塵もなかった」

 

 ラウラは続ける。その口調はどこか自嘲気味なものとなっていた。

 

「あの時の私は決して勝者などではない。ただ力に追いすがることしかできない、哀れな敗北者に過ぎなかったのだ」

 

 そこまで言うとラウラはセシリアへ振り返った。そして真剣な眼差しでセシリアを見据えて言った。

 

「すまなかった。お前と鈴の勝負を妨げ、無闇に傷つけてしまったを謝罪させてほしい」

 

 深々と頭を下げるラウラ。そんな彼女を見て、セシリアはくすりと笑みを浮かべた。

 

「今更気にしてはいませんわ。それに、ラウラさんの事情は知っていますもの。あなたがどのような思いを抱いてIS学園に来たのか、理解しているつもりですわ」

「……そうか」

 

 ラウラは顔を上げる。そこには穏やかな表情をしたセシリアがいた。

 

「ご自分をあまり責めないでくださいまし。今のラウラさんは以前とは違います。自分の弱さを自覚し、仲間を大切に思っているはずです……特に、一夏さんのことは」

「……そうだな。あいつには感謝してもしきれない恩がある」

 

 織斑一夏。ラウラが敬愛する織斑千冬の弟だ。かつてのラウラは一夏を、比類なき千冬を変容させる存在として憎んでいた。

 だが、力に支配され、暴走してしまった自分を助けられたことがきっかけでその内面を理解できた。一夏の真っ直ぐな心に触れ、本当の強さとは何かを知ったのだ。

 

「ラウラさんが一夏さんを思うように、一夏さんもまた、あなたのことを大切な仲間だと思っておりますわ」

「フッ、当然だ。なにせ私は一夏の嫁なのだからな」

 

 ラウラは自信満々に答える。自虐的な姿は消え、すっかりいつもの彼女になったようだ。

 それを見たセシリアはクスリと笑い、ラウラの手を握った。

 

「ラウラさん、機会がございましたら、また手合わせ願いたいですわ」

「良いだろう。次は私が勝つ」

 

 二人は握手を交わす。こうして二人の戦いが終わったのであった。

 

「ところで、近々新しいお洋服を仕立てようと思っているのですけど、ラウラさんもご一緒にいかが?」

「え? あ、いや……私は結構だ」

「フフ、照れる必要はありませんわ。ラウラさんも一夏さんに振り向いてもらいたくありませんの?」

「うっ!?……そ、それは……」

「なら決まりですわね。では次の土曜日にご一緒してくださいな♪」

「ま、待て! 勝手に決めるな!」

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