【本編完結】トレセン学園の禁止リスト   作:ドクタークレフ

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本当に、本当におまたせしました。

共同連載していた案件が一旦おちついたので、連載再開します!

皆さんせーの! サメだ! 殴れ!


ターフシャーク ―New Generation―

情報保全室より通達

NOTICE FROM INFORMATION SECURITY UNIT

日本トレーニングセンター学園情報保全室(JUMTSaC-ISU:Japan Uma Musume Training Schools and Colleges Information Security Unit)は、セキュリティインシデントの発生を最小限とするため、このドキュメントを一連の厳格な規則に従って扱わねばなりません。これらの規則は明示不可能です。しかしながら、我々は規則の内容を強く暗示させる物として当該項目を設計しています。

秘書課長兼情報保全室室長、駿川たづな

 

JUMTSaC-ISU:Japan Uma Musume Training Schools and Colleges Information Security Unit must treat this document according to a strict set of rules to minimize the occurrence of security incidents. These rules are impossible to state explicitly; however, we have designed this document in a way that heavily implies them.

HAYAKAWA Tazuna, Senior Director, ISU/SoS

 

ISU通達:当ファイルをこれ以降閲覧する際には異常性の無い包括的接種が求められます。

 

ゴールドシップはゴールドシップである。=ゴールドシップはゴールドシップではない。
地球は丸い。=地球は平坦である。
空は青である。=空は緑である。

 

[レ]包括的摂取が完了しました。閲覧を続行してください。

 


 

 

「わざわざどうもクレフ博士。どんな因縁があるのか知らないが、女の子をいじめるならこちらもそれ相応の対応をしなきゃいけなくてね」

「フフン、さすがは機動隊仕込み、というところかね。カービング用のチェーンソーとは洒落が効いてるな」

 

 トレーナーにそんなことを言った『クレフ博士』と名乗る男。全く同じ顔、同じ格好の男たちがにらみ合う光景はどこか異常に映る。

 

「それで君は見ず知らずの少女のために命をかけるとでも言うのかね

「ヒーローに憧れていてね、名前もわからない無垢な少女を救ってみせるなんて劇的で憧れるじゃないか。それになにもせずに見捨てるよりは誠実だろう?」

「誠実、誠実ねぇ。ビリージョエルだって知っている。Honesty is such a lonely word Everyone is so untrue

 

 節までつけてそう歌い、博士はシニカルな笑みを浮かべて見せた。エンジンが掛かりっぱなしのチェーンソーをぶら下げたトレーナーはそれを黙って聞いていた。

 

「こういった方が日本人には通じるかね? 信義に二種あり。秘密を守ると正直を守ると也。両立すべきことにあらず

秘密無きは真なしとも言うぜ、そっくりさん。……その博士号は日本文学で取ったのか?」

「専門は技術史なんだがね。ソドムとゴモラを滅ぼした火山の噴火が神の怒りと解されたように、技術や科学の幼稚さ故に理解されなかった現象はミームとなって、人間の頭に刷り込まれる。文学にも一応明るいつもりだ」

「ソドムとゴモラは隕石の空中爆発じゃなかったか? しっかりしろよ文学部」

「そういう君は歴史博士かね」

「残念ながら法学部卒でね、学者を名乗れる学はないよ」

 

 トレーナーはそう笑いながらバイクから降り、博士と対峙する。ファインモーションはそれを見つめるだけだ。

 

「だが、学はなくとも女の子を守るぐらいはできるんでね」

「やれやれ、野蛮なお人だ」

「根源的と言ってくれ」

 

 トレーナーは肩をすくめておどけて見せるがその声色はどこか硬く、臨戦態勢であることがわかる。

 

見ず知らずの子のために命を張るなんて馬鹿げていると思わないかい?

 

 博士は首をかしげる。トレーナーはそれを見て、笑ってみせた。

 

「その質問は二回目だ、くどいぞ。何度でも同じように答えるだけさ女の子の好意を裏切るわけにはいかないんだよ」

 

 博士が眉をひそめた。ファインモーションを背に隠すように立つトレーナーの表情を彼女の位置からでは覗き見ることなど出来ないが、博士の表情は奇妙に見えた。そして、その意味合いに思い至る。

 

 同じ問いに違う答えが返っている。

 

 一回目は『名前もわからない無垢な少女』と言ったはずだ。

 二回目は『好意を裏切るわけにはいかない』と答えている。

 

(まさか――――――)

 

「それに、惚れた女の前ぐらい格好つけたいんでね」

 

 トレーナーの言葉が滑り込み、思考が中断させられる。とっさに顔を上げれば、彼と一瞬だけ目が合った。すぐに彼は視線を目の前の博士に戻す。博士の表情は能面のようだ。

 

「……ただの馬鹿ではないようだな」

「話すのは俺だ。いい加減黙れよクソ野郎、俺の顔でグダグダ御託を並べやがって」

 

 ファインモーションも聞いたことがないような荒い声が響く。

 

「彼女は返してもらうぞ」

 

 そうして、状況が()()された。

 

 先に動いたのは博士だ。彼が爆発的な勢いでトレーナーの方に飛び込んでくる。トレーナーも無策で突っ立て居たわけではない。片手で震えるサイズの小型のチェーンソーを正面に腰だめに構える。

 

 刃物の基本というのは突きにあるが、チェーンソーに限ってはそうではない。ナイフやサーベルの場合、バイタルゾーンの奥深くまで到達しやすく、相手の目測を外しやすいのだが、チェーンソーの場合は正確に刃の面をあてがわなければキックバックで自滅しかねないためだ。それでもトレーナーは腰だめに構え、身体を落とし込むようにして低く殺傷面を構えた。

 

 それは博士の突入を予想していた動きであり、同時に、博士もエンジンが掛かりっぱなしのチェーンソーを一番の脅威として捉えている。故に博士は相手の選択肢は限られる。故にトレーナーは大振りによる隙を生まないように警戒を怠らず、必殺の間合いにしびれを切らして飛び込んでくるのを待てば良い。

 

 はずだった。

 

「――――Sanctus, sanctus, sanctus, Dominus Deus Sabaoth

「っ!」

 

 博士の声がトレーナーの耳に入ったとたん、彼の姿が()()()()。トレーナーは反射的にチェーンソーのトリガーから指を離したが、それが彼の命を救う。チェーンソーの切っ先の上面に何か重たい衝撃が走った。切ったものがなんであれ、キックバックを起しやすい位置で何かを切ったのだ。何が起ってもおかしくない。

 

「どこを見ている」

 

 眼球を串刺しにせんと飛び出してきたナイフの切っ先に驚いてとっさに首をひねって回避する。左耳を軽く切られたが後ろに飛び抜けた博士の右腕が引き戻される前に、左手首で腕を引っかける。至近距離での格闘戦の場合、相手をわざわざ掴むだけの時間も命取りになり得る。親指の付け根を相手の手首に引っかけるだけでも、チェーンソーから手を離し、相手の脇腹に拳を叩き込む位の時間なら稼げるのだ。

 

「どこを見ているはこっちの台詞だ」

 

 トレーナーはボクシングの様にバイタルゾーンを守るように腕を正面に構え、動きを止めないように脚を動かしはじめる。

 

「……なるほど、彼女の記憶を別の存在に置き換えたか? なるほどファインモーションの記憶だけを奪うなら止められないわけだな……」

 

 博士はそんなことを言って静かに口の端を吊り上げた。

 

「生憎こういう戦闘は本業じゃなくてね。こういうのはプロフェッショナルに任せることにしよう」

「何を……」

Agnus Déi,qui tóllis peccáta múndi:miserére nobis.

 

 直後、靄が晴れるかのように、空気から溶け出すかのように影がうごめきだす。

 

「……なるほど、これがサメの正体ってわけだ」

「安心したまえ、非異常のオブジェクトをDクラスに分け与えただけだ。彼らは戦場ですら、財団の機動部隊ですら持て余した者たち。……さて、文民警察(ミリシア)上がりがどこまで持ちこたえるかな」

 

 影の中から浮き出てきたのは数十名の人間の姿である。服装はカジュアルなものでバラバラだが手元にはAR-15に見えるライフルがあり、統率の取れた動きが見て取れる。

 

「トレーナー……」

「あがいてみる価値はありそうだ」

「なるほど、勇敢な男だ。君がそちら側でなければ、ぜひとも部下としてほしいところだよ」

「御免被る」

 

 博士の軽口にそう返して、笑い返すトレーナー、目が左右に走り、前に戻り、フッと笑った。

 

「さぁ、お祈りの時間は済んだかな?」

「優しいなぁ博士とやら、最後の晩餐の用意は済んでるのか?」

「腹が減ったら地獄で出してもらえ」

 

 一斉にライフルがトレーナーを指向し――――

 

「――――なら、準備不足だったな」

 

 トレーナーがそう口にし終えるのが早いか、男二人の間に何かが降ってきた。それを攻撃だと感じた影たちは反射的にそれが飛んできた方向、すなわち、斜め上に銃を振り上げた直後、その銃が青いプラスチックでできたおもちゃのライフルに置換された。直後、まるで虚空から現れたかのようにヘリコプターのダウンウォッシュと強烈なサーチライトが叩きつけられる。

 

『ファインモーション、そこから動くな!』

 

 スピーカーから降ってくる声と同時に大量の弾丸と薬莢が降ってくる。影に穴を空けんと、大量の弾丸をヘリコプターから降らせているのだ。

 

『ファイントレ、時間稼ぎご苦労!』

 

 スピーカーから降ってくるのは野太い男の声。トレーナーが見上げれば、サイドドアから八九式自動小銃を構えた大男――――マヤノトップガン担当トレーナーがスポーツグラスの奥で笑っているのが見える。その後ろでは、オグリキャップ担当トレーナーが指切りで正確に三連射を続けて影を地面に叩きつけ続ける。

 

『雑魚はこちらで対処する。さっさと本丸叩いてお姫様を救って来いよ子爵殿!』

「O5-13の直轄機動部隊(レッドライトハンド)……!」

『情報古いぞ、我々は既にその名前を捨てた』

 

 博士のつぶやくような声をオグリキャップ担当トレーナーが拾う。ヘリコプターの爆音と自身の小銃の爆音にさらされているにも関わらず、正確にそれを拾って見せた。そのヘリから何者かが飛び降りて、ファインモーションのとなりに飛び降りた。トレセン学園の制服に特徴的な耳飾りが揺れる。

 

「よう」

「ゴールドシップさん!?」

「おう、間に合ったな。あとは任せろって言いたいんだけど、まぁそううまくはいかないか」

 

 最低でもビルの5階ぐらいの高さから飛び降りたはずだが、軽々と着地したゴールドシップの手元には鎖があり、それはトレーナーと博士の間に落ちたなにかまで伸びている。

 

「スクラントン現実錨……!」

「おい、ファインのトレーナー! 決着急いでくれ! ここシャンク/アナスタサコス恒常時間溝(X A C T S)なんてねぇから現実子を密閉できねぇんだ!」

「わかった」

 

 博士の驚きすら塗りつぶして、ゴールドシップが笑う。ゴールドシップに向けようとしたのか、博士が取り出した何かを弾丸が弾き飛ばした。

 

『お前実は医者より狙撃手の方が向いてるんじゃない?』

『黙れネイビー』

『だから海自だって言ってるだろ』

 

 わざと聞かせるかのような軽口がヘリから降ってくる。にっと笑ったゴールドシップがファインモーションを抱きよせる。

 

「きゃっ」

「殿下、想像しろ。イメージしろ。今アタシが状況を好き放題書き換えられてるけど、時間がない。殿下のイメージが必要だ」

「どういうこと?」

「アタシはこの錨を通してあの博士が好き放題できないようにできる。()()()()()()()()()()()()()がここにある。アタシたちはそれを使って、あの博士の使ってるサメを打ち破る。ファインモーションという概念を喰らうルールを叩き割る。そのためには、ファインモーション、お前のイメージが必要なんだ」

 

 トレーナーがこぶしを握り直す。それを見ながら、ファインモーションの耳はゴールドシップの言葉を追いかける。

 

「想像しろ。イメージしろ。お前のトレーナーがあの博士を華麗に打ちのめす姿を。お前を救い出して、最高のハッピーエンドにつながるような、劇的なイメージを、可能な限り精細に描き出せ。お前が一番今サメに近い。その声で、そのイメージで、アイデアで、サメを内側から叩く」

「そんなことが……」

「できるんだよ。概念を、アイデアを、その現実すらも書き換える! より良いアイデアで、くだらないアイデアを叩き潰す! お前が決めなきゃ進めない!」

 

 ファインモーションは一瞬目を閉じ、開く。その刹那で、決意を固めるには十分だった。

 

「父なる神と、アイルランド大公国第二公女にして英諸島連合(アイランズ)連合王室第十二位ファインモーションの名の下に命じます」

 

 確か絵本の読み聞かせだった。竜の生贄として差し出される姫を助け出す英雄の話。

 豊かな草原と豊かな風を受け、立つ英雄の姿を幻視する。

 

 

 

「かの者の力を砕き、未来を拓きなさい。その剣が救いとなり、その拳が栄光とならんことを!」

 

 

 

 ダウンウォッシュが吹き抜けると同時、トレーナーが強く地面を蹴る。その風には草の香りがわずかに交じり、ファインモーションは彼の背に翼を見た。

 

 静かだった。

 

 ファインモーションの視線の先を、トレーナーが駆けていく。博士は拳銃を取り出し向けるがもう遅い。発砲したところで、トレーナーの耳元をわずかに切りつけただけで飛び抜ける。そのトレーナーの手元にはサーベルが出現し、その自動拳銃を真っ二つに切り捨てた。

 

「認めんぞ、こんな現実」

 

 振り下ろされたサーベルを辛うじて拳銃の残骸で受けた博士は前蹴りで距離を稼ごうとするが、それすら風を背にトレーナーが迫る。蹴り上がるような姿勢になった博士にそれを避ける術はない。トレーナーはそのまま刀を薙いだ。

 

「――――――!」

 

 サーベルの刃が博士の手首を両断する。血飛沫が弧を描いて宙を舞い、トレーナーがその剣を腰だめに構える。まだ体勢が整っていない博士に体当たりをかますように、刃を突き立てる。

 

「……だったら現を抜かして夢でも見てろ」

 

 博士の耳元に口を寄せ、静かにそう口にするトレーナー。刀を捻り、水っぽい音を響かせながらそれを引き抜けば、博士の膝が崩れた。

 

 博士の体が地面に叩きつけられたその瞬間、ヘリの音が戻ってくる。トレーナーの足下に血だまりが広がっていく。それを見下ろしていたトレーナーだったが、彼の姿勢もぐらりと揺らいだ。 

 

「トレーナー!!」

 

 ファインモーションが駆け寄り、血溜まりで自らの膝が汚れるのも厭わず、膝をついた彼を抱きとめた。

 

「ファイン」

「うん、うん……っ!」

 

 彼が名前を呼んでくれた。それだけでも、こんなにもうれしい。熱を持った彼の体を強く抱く。

 

「君の騎士に祝福のキスはしてくれないのかい?」

 

 力のない声でそんなおどけたことを言って見せる彼の目を見る。ファインモーションは目の端に涙をためて、静かに彼の頭を抱き込んだ。

 

「……ありがとう、トレーナー。私の騎士さん」




参考リンク

マイケルズ博士 マイケルズ博士は危険に晒されていません。




あと1話か2話ほど続きます。次の話はそんなに時間をかけずにお出しできるはずです。
今しばらくお待ちくださいませ!


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緋色の王によろしく。
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