オラリオの喧嘩屋 作:アイズに膝枕されたい侍
「あ、あの……き、今日から貴方の専属アドバイザーになります。み、"ミィシャ・フロット"です。よ、よろしく、お願い、します」
「……専属アドバイザー?俺にいるかそれ?」
ただいま兎に連れられギルドにて冒険者登録中。
駆け出しに専属で付くギルドの職員、俺のアドバイザーになるらしい桃髪の女が涙目になりながらそう言った。
「ぼ、冒険者始めたての方に付くのは、き、決まりですから。わ、分かりますよ!貴方があの喧嘩屋だってこととか、私なんかが必要ないことくらい!で、でもこれも職務なので……」
そう言われ俯く桃髪。
うーん、まあ確かに仕事なら仕方ないのか?
「まあ、詰まるところは形だけでもってことか」
「そ、そうなりますね」
そんな話をしている中、少し離れた場所の応接スペースに座っている兎と兎の専属アドバイザーのメガネが何やら会話をしていた。
「ほ、本物なの?」
「うーん、僕もこのオラリオに来て数日なので本物かどうかは分かりませんけど……あ、でもロキファミリア?の狼人の人を一方的に倒してはいましたね」
「……本物だわ」
ケロッと答える兎と頭を抱えるメガネ。
目の前の桃髪もガタガタ身体を震わせてるし、他の職員達も陰に隠れながら遠巻きでチラチラ見てる。
ギルド内の冒険者まで俺を避けてる始末。俺は別に危険物じゃないんだがな。
「そ、それでどこのファミリアに所属……ってあの子に連れられてきてたみたいなのでヘスティアファミリアで……い、いいんでしょうか?」
恐る恐る聞いてくる桃髪。
「……俺の目つき、そんな悪ぃか?」
「え?……いやいやいや!とんでもない!大丈夫です!ほんとに!はい!なので怒らないで…!」
そんな見境なく怒るか。
たく……ほんとに昔からこうだ。
周りのヤツらビビりすぎなんだよなほんと。
「とりあえず、ヘスティアんとこの眷属?になりました。カグラです。……これでいいか?」
「は、はいぃぃぃ、わ、分かりました」
そう言って走り書きした書類を持って奥へと消えていく桃髪。
走り去っていくその目から何かキラキラしたものが見えたのは言わないでおこう。
……慣れない敬語まで使ったのにビビんなよ。
◆◇◆◇◆
桃髪のギルド職員、ミィシャが作業のために……あと喧嘩屋から逃げるために奥の方へ去っていったのを確認した喧嘩屋は長くなりそうだとロビーのソファに座り込み昼寝を始めていた。
それを遠目から見ていたベル、そして彼の専属アドバイザーである"エイナ・チュール"こと喧嘩屋命名メガネはヒソヒソと小声で何かを話していた。
「そういえばエイナさん。カグラさんの事なんですけど……」
「……ベル君はここに来て日も浅いものね。あの怪物のことなんて全然知らないか」
そう言うエイナの言葉に首を縦に振るベル。
「そもそも喧嘩屋ってなんです?」
ずっと持っていた疑問。
酒場の件から耳にしていたその言葉をエイナに聞くベル。
「……一言で言えばあの怪物の異名ね」
「神様たちが冒険者に与える2つ名みたいなものですか?」
「と言うよりも自然とそう呼ばれていたのよ。神様たちからと言うよりオラリオ中からね」
その答えを聞きなるほどと頷くベル。
エイナはエイナで頭を抑えていた。
呑気なベルを見て事の重大さを理解していないことに頭を悩ませていたのだ。
「じゃあ、カグラさんがあそこまで恐れられてる理由って…」
目を喧嘩屋に向け、さらにその周りの冒険者を見るベルはそんな疑問を口にした。
その言葉通り周りの人達は喧嘩屋から距離を取り関わらないように気をつけているようだった。
それ以外にも周りの冒険者たちが話してる会話。
「あれが喧嘩屋…」
「見すぎだ。関わるな関わるな」
「ロキファミリアんとこの凶狼ボコったらしいぞ」
「てか生きてたんだな」
「やべぇ、やべぇよ…。死んだと思ってたからあいつの名前使って……証拠隠しに行かねぇと!」
そんな慌てたような様子を見せる冒険者たち。
喧嘩屋の横を不本意ながら通らなきゃ行けない冒険者たちは総じて喧嘩屋を起こさないように細心の注意を払い歩いていたり、ぎこちない動きになる冒険者だっていた。
「今はそうでもなさそうなんだけどね……、昔は凄かったのよ」
「凄かった?」
「うん。喧嘩屋ってどこのファミリアにも所属してなかったのよ。つまり
その言葉を聞きベルは驚愕の表情を浮かべた。
そりゃそうだ。
「そういう反応が普通よね。でも、それが事実。それだけならまだ良かったんだけど、喧嘩屋の強さって、今はもう居ないんだけどね?ゼウスファミリアとかヘラファミリアの団長と肩を並べるくらいのものだったのよ。ちなみにその2つのファミリアの団長って今のオラリオ最強の"
「……え?じゃあカグラさんってオラリオ最強…?」
「分からないけどね?でも、最強の一角には確実に入るわね」
その言葉を聞いたべるは思わず座るソファの背もたれに体重を預けた。
頭の整理が追いつかない。
そこまでの人だったとは、そんなことを考えてはいるがそれ以上になんでそんな人が自身に気をかけてくれてるのか、それが不思議でならなかった。
「あと喧嘩屋がやった事といえば、オラリオの街を半壊、17のファミリアを単独で再起不能、単独でダンジョン深層に行って踏破記録を塗り替えたり、他には拳1つで地震を起こしたりとか?他にもいろいろ。まあ、後は……神殺しかな?」
「か、神様を殺したんですか?」
思わずベルは自身とエイナを挟むテーブルに手を置き身を乗り出して詰め寄った。
「事実確認は出来てないけどね。でも状況から確実に……て感じね。ただ邪神……闇派閥の主神だったこともあってそこまでの罪にはならなかったみたい。まあ、大罪だったとしても喧嘩屋なんて捕まえられるはずもないんだけど…」
そう言って力なく笑うエイナ。
それを聞いたベルは力なくソファに座り直した。
「……現実味が」
「無いわよね。目の当たりにしてきた私でも未だに信じられてないんだもの」
そんな風にひとしきり話した2人の間には無言が広がった。
エイナは過去の喧嘩屋を思い浮かべ、ベルは今聞いた話を必死に頭の中で整理していた。
そんな時だった。
「おい!てめぇが喧嘩屋か!」
「……」
1人の中年のガタイのいい男が昼寝をする喧嘩屋に怒鳴り声をあげていた。顔が少し赤い。この時間から酔っているのだろうか?
知り合いなのか。周りの冒険者たちは彼を必死に止めようとするがその男は止まろうとしない。
「待て待て待て!お前落ち着けって!な!?」
「うるせえ!お前はあっちいってろ!ここで喧嘩屋をぶっ倒せば俺はオラリオ最強になれんだろ!?」
どうやら最近オラリオに来たらしいその男。
仲間からの情報でオラリオで最強の1人と言われる喧嘩屋と呼ばれる男がギルドにいると言う話を聞いてやってきたみたいだった。
「そうだけどさ!違うって!誰も倒せねえから最強なんだって!マジでお前やめろって!」
「だから俺が倒すんだよ!俺のパワーに勝てるやつなんていねーんだ!こいつの次はオッタルって野郎だ!」
そう叫んだ男は止めようとした仲間を押し飛ばした。
それを見てエイナは立ち上がる。
「まずい、止めないと」
「そ、そうですよね。このままだとカグラさんが…」
「違うわよ。命が危ないのはあの男の方よ」
そんな会話を他所に男は喧嘩屋の寝る椅子を思いっきり蹴飛ばした。
「おい起きろ!喧嘩屋!アホ面ぶら下げて寝てんじゃねえよ!調子に乗ったクソガキがよォ!」
「……」
そんな声を聞き喧嘩屋は目を開けた。
周りを見回して、そして、自身に突っかかってくる男に目を向けた。
「……お前でいいんだな?」
「あ?何ボソボソ言ってやがる?まあいい、死んでけや!」
そう言って背中に携えた大剣を手に取り喧嘩屋へと向けた。
「まずい!起きちゃった!」
「え?」
「聞いた話なんだけど喧嘩屋って……」
ベルがそんな言葉の続きを聞く前に剣を振り下ろす男。
「死ねぇッ!」
無慈悲にも喧嘩屋に向かっていく剣先。
しかし、そんな中でもエイナの言葉はよく聞こえてきた。
「……寝てるとこ邪魔されるのが1番嫌いらしいのよ」
そんな言葉の直後に聞こえてくる何かが砕ける音。
「……え?…は?」
男の目は手にしている剣に向けられていた。その剣は半ばからへし折れもはや剣と呼べるものでは無い。
ただ分かることは目の前の喧嘩屋が無造作に向かってくる剣にただ単に腕を振ったということだけ。
「さっきからうるせぇよ、お前」
「え」
喧嘩屋が呟いた直後、後頭部から地面にめり込まれる男。
顔面を掴む喧嘩屋が深深と男を地面へと叩きつけていた。
「たく……」
そんな言葉を吐き体を痙攣させながら白目をむく男を他所にソファに座りまた眠りへと着いた。
「……良かったあ」
「え?」
「いや、昔だったら問答無用で確実に死ぬまで殴り続けてただろうから。……昔よりマシになってるって聞いてたけど、良かったぁ」
地面にへたり込むエイナ。
ベルはとんでもない人が仲間に、そして、とんでもない人を目標にしていることを改めて実感した。
ヘスティア土下座回が近づいてきてる…。