オラリオの喧嘩屋 作:アイズに膝枕されたい侍
「いぃぃぃやあぁぁぁあぁぁああぁあ!」
少年は走っていた。それはもう死に物狂いで。
白い髪を揺らし、赤い瞳から涙の尾を引きながら全速力で走っていた。
なぜ走る?その答えは少年の後ろ。そこに居たのは人の体躯を優に超える牛頭の化け物『ミノタウロス』。
Lv2の冒険者が相手取れるそんなモンスターに駆け出し冒険者である少年が狙われていたのだ。
勝てるわけが無い。そんな恐怖から少年は逃げていた。
後ろから迫るミノタウロスの蹄が土を踏む、いや土を踏み砕き走り迫る音が耳に入りつつ足を止めずに走り続ける。
「はぁ…はぁ…なんで…こんな…!」
思わずこぼれる愚痴。
しかし、それも仕方の無いことだ。
本来ミノタウロスがいるはずのない階層。駆け出しが戦い方を学ぶためのチュートリアルのようなそんな場所にこんな化け物がいる。凶運にも程がある。
そんな逃げ続ける少年だったが、
「っ!うわわ…!」
ミノタウロスが一際強く土を踏み締めた衝撃で地面が揺れた。
その勢いで躓き、地面へと転がる少年。
転がった先にあるのは壁。
少年は言わずもがなピンチだった。
「は、ははは…」
思わず乾いた笑いが口からこぼれた。
ケツを地面につけ、巨躯のミノタウロスを見上げる少年のうちにある思いは諦めだった。
そんな時だった。
「んでこんな場所に牛がいんだよ」
「え?」
惚ける少年。
そんな声が聞こえた瞬間、ミノタウロスの胸元に赤い液体を吹き出しながら何かが生えた。
よく見てみるとそれは刃物。形状からして刀だろう。
赤い液体はミノタウロスの血。吹き出たその血が少年の体にこぼれ落ちるが少年はそれを機にすることなく目の前の光景を見ていた。
「とりあえず……死んどけや」
『━━!』
正体不明の声に驚きを見せるミノタウロス。
次の瞬間胸元の刀は上へと動き出し、ミノタウロスの頭までを両断した。
しかし、そこは化け物。これだけの致命傷を負いつつも未だに少し動いている。その最後の力、それを使いミノタウロスは後ろにいる敵に目掛けて攻撃を放った。
いや、正確には放とうとした。しかし、拳は届かず一瞬のうちにミノタウロスの体は粉々に切り刻まれたのだ。
その拍子でまたもやミノタウロスの血を浴びる少年。
ミノタウロスが倒れ、その先にいたのは、
「おいクソガキ。死んじゃいねえな?」
フードを深く被る男がいた。
◆◇◆◇◆
全く、なんでこんなとこに牛がいる。
そんなことを心の中で思いつつ、刀を振るい血を飛ばし鞘へと収める。
「た、助けて下さり、あ、ありがとうございます…」
「あ?あー、まあ通りがかっただけだしな。運は良かったじゃんお前。……いや、その様子だと駆け出しか。駆け出しで牛と会うとか運悪ぃのか?まあいい。死んでねえなら重畳だ。とりあえず今日は帰んな」
「は、はい」
そう言うと、こっちをチラチラとみながら出口の方へと向かい始めた白髪。
「……何チラチラ見てんだよ」
「へ!?あ、いやなんでも……し、失礼します!」
そう言って勢いお辞儀した白髪は踵を返し一目散に立ち去って行った。
その様子を見て兎みたいなやつと思ったのは心のうちに留めておこう。
さて、俺もそろそろ移動しよう。今日の飯代くらいは稼がんと。とりあえず牛の魔石を回収してその場を立ち去ろうと━━
「あ」
「んあ?」
━━向かう先に立っている金髪の女。
見た事ある。と言うより昔の知り合いだった。
"アイズ・ヴァレンシュタイン"。ロキファミリア所属の女剣士。今は"剣姫"なんて2つ名で呼ばれている。
「あ……あの」
「……」
とりあえずバレるのは良くない。話しかけられても無視しつつ金髪の横を通る。
背中に視線を感じるが振り返らない。
程なくして奥から聞こえてくるいくつもの足音。
数十人もの団体がこちらに向かって歩いてきていた。多種多様な種族、装備を見ても1級品。
ほとんど知ってる顔だった。
「そんでよーさっき逃げ回ってた駆け出しがさ」
「ハイハイわかったわよ」
「ミノタウロスは?」
「ここの階層に逃げたやつで最後だよ。まあでもアイズが飛び出してたし多分もう大丈夫だとは思う」
そんな会話を繰り広げるロキファミリアの面々の横を素通りしていく。
フィン、リヴェリア、ガレス、ティオネ、ティオナ、ベート。
その他の幹部以外にも久々に見る顔で不覚にも少し懐かしく思ってしまった。
「……そうか。だが、念のため警戒は━━っ」
「…?リヴェリア?」
「あ…ああ、すまない。少し考え事を……とりあえず警戒はしておこう」
「ああ、そうだね」
……不味いな。今王サマエルフと目が合ったな。
驚いていたけど気がついたか?……いや、あれから5年は経つ。成長もした。フードも深く被ってる。気づきにくいはずだろ。
そんなことを思いつつ俺は気持ち早めに足を動かしてダンジョンの奥へと足を進めた。
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