翌日の朝、みんな少し遅めに起きた。明日もう帰ることになっているため、俺たちは使わない物を車の中に積んでいた。
「ドラムセットどうする?」
「明日龍夜を呼んでるから、龍夜がトラックで運んでくれる」
「アンプは?」
「トラックに乗せてく」
「ギターとベースは私たちだけど、シンセは?」
「トラックかな?」
俺は質問攻めにされていた。俺は返答が終わると、みんなと休憩した。
「そういえばさ、柊くんの思ってること聞いてなくない?」
「え?」
「確かに、柊くんもことあんまり聞いてないかも」
そうか。話したのは一歌だけだったっけな。
「みんなにも話した方がいいか」
「うん。できれば」
「いいよ。じゃあ、始めようか……」
本当は少し辛い気持ちになるんだがな……
【回想】
高校の時、バンドを結成してから数ヶ月、初ライブを行った。観客は学校のほとんど全校生徒。入場無料で、体育館でやった。確か、入場者数は250人くらいだったと思う。
「いやぁ、バンド楽しいな」
「そうだな。またライブやろうぜ」
「今度はもっと来るといいな!」
「400人くらい来るんじゃね?」
ステージ裏で話していた。4人はも仲が良く、かなり話す。
それから、俺たちがステージ裏から出ると、ある1人の女子が立っていた。
結果から話すと、将来的に俺の彼女になる人だ。その時彼女はすぐに走っていってしまったが、俺たちは気にもとめずに次のライブを目指した。
初ライブから1ヶ月くらいして、第2回のライブがやれた。今度は野外ライブみたいな感じで、周辺住民に許可を得て校庭でやった。
ライブを観に来てくれた人は約500人。初ライブの2倍だ。
「今回も良かったな」
「あ、そうだ!リピーター増やせるようにサイン会やろうよ!」
海斗が提案した。みんなが賛成して、サイン会をライブの翌日に実施することにした。
サイン会当日。昼の放送でサイン会を実施することを校内に放送した。1年A組で行っていたが、俺のところには誰も来なかった。
「なんで俺だけ……」
「気にすんなって。ファンはいるだろうよ」
龍夜が励ましてくれた。俺は龍夜に「そうだよな……」と言って廊下に出て行った。
「あ、サイン会って終わっちゃった?」
出てすぐ、あの時の女の子に出くわした。
「あぁ。終わっちゃったな」
「今サインってできる?」
女の子はサインの色紙を出した。
「あ、うん。いいよ」
俺はペンでサインをした。女の子はサイン色紙を抱いて飛び跳ねた。
「大事にするね!」
「あぁ。ありがとう」
女の子は戻っていった。そこに、俺が言った。考えるより先に。
「来週の土曜、リハーサル来ない?」
「え?リハーサル?」
「日曜にライブやるからそのリハーサルなんだ」
その子は「うんっ!」と言ってスキップしていった。
ライブが終わって、片付けも済んで俺が1人でいるところに、女の子が来た。
「好きです!」
告白だ。
了承した。嬉しかった。単純に。
付き合い始めて2年、3年生になった俺と彼女はデートで外出していた。横断歩道。安全に信号までついていて、俺と彼女は青に変わってから渡り始めた。
「柊くん、早くっ♡」
「待てって」
俺と彼女は相性のいいカップルだった。
この5秒後までは──
5秒後、俺の前にあったのは倒れた彼女。頭から大量に血を流していた。なにがあった。最初は状況を捉えられなかった。
やがて、分かってくる。彼女が亡くなったことに。
ただ立ちすくむだけで、何もできなかった。
救急車の高い音。俺にはただ夏の蒸し暑い風がぶつかってくる。
俺は通常通り学校に行った。どこか隅の方で彼女のことは思っていたが、バンドに専念していた。
【現在】
「という感じなんだけど」
「私にだけは言ってたんだよね」
俺は頷いた。
「まぁ、今は一歌が大好きだからな」
「私たちは?」
咲希が俺に言った。
「勿論君たちもだよ」
「わーいっ」
みんなは笑ってくれる。だから俺も楽しめるんだろう。
当時の笑うことができなかった俺は、どうしてるだろう。今、この瞬間が、俺の楽しい時の1つだ。