第2話 私の好きな人
「あら、この人は?」
「あ、月島っていいます」
志歩の家に上がらせてもらうと、姉の雫が迎えてくれた。
「しぃちゃん、ついに彼氏を──」
いや待て、何を言っているんだこの人は。この返し方は1番困る。特に志歩がいるところだと。
まず、肯定的な返事を出すと、志歩から冷たい視線を送られることだろう。
逆に、否定的な返事をすると、今度は志歩のことを嫌ったようで、傷つけてしまう。
だったら、曖昧な返事を出す。しかし、これでも相手から「もっとハッキリ答えろ」と言われる可能性がある。
そこで、俺は少々志歩には申し訳ないが、笑って誤魔化すことにした。
「お姉ちゃん、そういうのじゃないから……」
「あら?でも、目が恋人同士の目をしてたわよ?」
どんな目だ。というか、俺もそんな目をしてたのか?なぜわずか数秒前の自分はそんな目をした。
「もういいから……柊くん、行こ」
志歩も諦めたようで、志歩は俺を強く引っ張って、志歩の部屋に連れ込んだ。
連れ込んだのはいいが、俺も志歩も、黙り込んでしまった。そりゃあ、あの後だ。話しづらいだろう。
「あの、志歩?」
「……」
志歩は聞こえていないのか、無言のまま。
「志歩?」
「……やっぱり、好きなのかな……」
なにかボソッと言った気がしたが、よく聞こえなかった。
「志歩?なんて言った?」
「え、あ、なんでもない」
珍しく焦っていた。
俺はとりあえず、志歩にどうすればいいか聞いた。
「それで、何をすればいい」
「あ、えっと、ベースを弾いてもらいたい」
「俺、ベース今ここにないけど」
「私の予備のやつ使って」
そこまでして、俺のベースが聴きたいんだろうか。
ベースは、高校1年から4年間続け、大学2年生まで続けていた。
俺はベースを持ち、志歩の前で弾いた。
「……上手」
志歩が笑って言った。
「志歩とセッションしたらいいんだろうけど」
「ここじゃうるさいでしょ」
それもそうだ。
志歩はベースを弾いて、俺の反応を求めた。
「いいじゃん。低音もあるし」
俺は志歩にベースを色々と教えていた。
それから1時間くらい、志歩の家でゆっくりしていたが、帰る時間になったため、俺は帰る準備をした。
「そろそろ帰ろうかな」
「もう帰るの?」
「時間だし、ね」
俺は志歩の部屋から出て、玄関に向かった。
「あら、帰るんですか?」
「あぁ、はい」
俺は雫に見送られて家をあとにした。
翌日、点検が終わってから教室を適当に回っていた。
(1-Cか)
俺はC組の中を見てみた。丁度みんなが帰り始める時間で、話ながら楽しんでいた。
その中で、黄色い髪の1人が俺に手を振った。咲希だ。俺は中に入って、咲希に話しかけた。
「どうした、咲希」
「遥ちゃんに紹介しようと思って」
咲希は俺のことを遥に紹介した。遥は礼儀正しくお辞儀した。
「柊くん、そこにいたんだ」
一歌も来た。
「みんな同じクラスなんだね」
「うん。仲良いからやりやすいよ」
俺たちがそう話していると、外から女の子の声が聞こえた。
「遥ちゃん、ちょっといい?」
「うん」
遥はその女の子のところに向かった。
「柊くん、今度練習したいんだけど」
「ん?セカイの方と俺の方、どっちがいい」
「交互かな。週に4回あるから、土日は柊くんでいい?」
「あっ、長いからでしょ」
咲希が一歌に言った。
「そうだけど……」
「いいよ。じゃあ、明後日かな」
「うん。ありがとう──」
すると、さっき話しに行ったはずの遥が俺に寄ってきた。
「柊くん、手伝って!」
「え?」
俺だって、緊張してないわけじゃない。だって、桐谷遥は、元ASURANのメンバーなんだから。
「えっと、何を」
「いいから、このあとね!」
何も分からず、俺はとりあえず行くことにした。
「咲希、一歌、一緒に来て」
「え、うん」
「うんっ!」