「そうそう!そんな感じだよ、一歌」
俺は一歌に言った。いやぁ、上手くなったなぁ。
「うん!もう慣れてきたかも」
それもそうだろう。今までハの字でしか滑れていなかったのに、今日はミドルターンの練習。なんかミドルターンっていうよりロングターンだけど、ターンができるだけでそれっぽくなる。
「もう少しターンを素早くやってみようか。曲がったって感じたらすぐに反対に切り返す感じで」
一歌は一度止まってからターンを始めた。ミドルターンの形にはなっている。ちなみに、俺たちがよくやるのもミドルターンに近い感じ。傾く角度は人によって違うが、俺は結構角度が急な人。海斗は緩やかだ。
「柊くん、このままミドルで降りてっていい?」
「あぁ。いいぞ」
一歌は速度を上げてミドルで降りていった。俺もその後ろをミドルターンではなく、ショートターンで降りていく。結構苦手なんだが、練習だ。
他のみんなは、基本的にみんな自由で、一歌は俺と滑りたいってことで一緒に。魁と龍夜が今日はスノボだ。俺だって怪我の翌日な訳だが、そうは思えないほどに動いている。今日が大晦日なのもあるが、みんなで滑りたかった。
一歌が滑り終えてからしばらくして、俺も下に着いた。ミドルターンの練習で4回程度転んだけど。
「次どうする?」
「お、まだ滑りたい?」
「まだ疲れてないから」
一歌はリフトに向けて歩いていった。まだ歩き方はぎこちないか。
「じゃあ行くか」
「うん」
一歌は俺と並んでリフトに乗った。
リフトに乗ってから、俺と一歌は話を始めた。
「みんな、スノーボードとかできるんだね」
「あぁ。今日は魁と龍夜がやってるよ」
「スノーボード、難しそうじゃない?」
「あぁ。難しいよ」
「木の葉」と呼ばれる技みたいなのがあるんだが、あれができるまでも結構かかった。できると楽しいけど、俺はやっぱりスキーだ。
「もうちょっと上手くなったら初めてもいいかな」
「おっ、興味持ってきたな」
「スキーが好きになってきたから」
一歌がそう思ってくれてよかった。これでLeo/needも大人に近づいたな。STARNIGHTはそれを望んでいた。
「STARNIGHTにも思いがあるんだよ。君たちに対しての」
「そうなの?知りたい」
「それはみんなが集まってからだな」
リフトが上に着き、俺と一歌はリフトから降りた。
「一緒に滑ろう?柊くん」
「もちろん。一歌に合わせるよ」
一歌はミドルターンで降りていく。俺がその横を滑っていく。一歌と意思疎通して、どっちに曲がるか、などを予測していたため、ぶつからなかった。
俺はフードコートで、たった1人で休んでいた。休めてもいないが。
「いってぇ……」
どうして俺が悶絶してるかって?それは今から10分前に遡る。
俺は途中で志歩と合流した。だから、一歌、俺、志歩の3人で滑っていた。
しかし、途中から吹いてきた吹雪が強くなり、指導のために外していたゴーグルを着けた。
視界は吹雪で悪く、かろうじて見えるゲレンデを滑っていった。
一歌は俺のすぐ隣に、志歩はその後ろにいた。
吹雪で見えなくなり、俺は安全のために一度止まろうとした。
「一歌、一回止まるよ」
「うん。って、柊くん!そこ!」
一歌は俺の手を掴んだ。しかし、スキーウェアで滑り、一歌の手は離れていく。
止まろうとしたところが平坦でなく、平坦だと思っていた俺はバランスを崩し、そのまま転倒。転倒だけならよかったのだが、足首や腕、さらには肩を強く打ったため、昨日刺された傷口がまた開いてきた。
というのが一連の流れ。転倒した俺はどうにか下まで滑り、フードコートで休憩をとった。
傷口からまた血が出てきて、スキーウェアの下に着ていた服を見ると、血が滲んできていた。
「……」
血を見る度に昨日のことを思い出す。
醜い演奏、酷い歌。
事実ではないデタラメと信じたいが、どうもそうは思えなかった。
「柊くんっ」
俺の背後から俺を呼ぶ声。Leo/needじゃない女の人の声。
俺はその声がする方へ振り返った。そこには、誰もいない。俺の幻聴だろうか。
「なんだ……幻聴か」
「幻聴じゃないって」
俺の独り言に反応した。俺は周囲を見回した。
すると、俺の左後ろに女の人が立っていた。
「……お前……」
俺は手を伸ばした。夢か、現実か。
俺が手を伸ばすと、女の人は俺の手を握った。
「何年ぶりかな。10年くらい?」
俺は痛みを堪えて立ち上がった。俺より少し低い身長。声は少し変わってるか、いや、あまり変わってないか。
そこにいたのは、交通事故で亡くなったと聞いていた、咲良だった。
「酷いんだよ?私死んでないのに、他の人と取り違えて死んだことになってるんだから」
「けど……両親が……」
「柊くんを驚かせようとした嘘だってさ。やになっちゃう」
話し方も昔と変わってない。間違いない、咲良だ。
スキーウェアに、スノーボード。ぎこちない歩き方で俺に寄ってくる。
「柊くんは変わったね。色々と」
「そうか……?」
俺は今の状況についていけてなかった。
「もうっ、柊くん、なんかぎこちないよ」
「あぁ、ごめん……」
衝撃なのもそうだが、髪型が俺のタイプにそっくりだ。一度咲良に言ったことはあったが、それ通り。というより、もしかして……
「髪型さ、もしかして──」
「あ、気付いた?高校の時に柊くんがタイプって言ってた髪型なんだ!」
「へぇ、かわいい」
「ありがとっ」
俺が咲良と話していると、後ろからSTARNIGHTとLeo/needもやってきた。
「おっ、咲良。来てたか」
「あっ、みんな。久しぶり~」
俺は魁のことを呼んで聞いた。
「おい、来るの知ってたのか」
「あぁ。柊以外知ってたぞ」
「マジかよ……」
俺はみんなの方を見た。
「一歌たちも知ってたのか」
「うん。知ってた」
ホントに俺だけ知らなかったのか。
「柊くんは何してたの?」
「怪我だ」
咲良は俺の横に立った。
「うわ、すごい……」
「大丈夫さ。あ、そういえばスノボやってたんだっけ?」
「うん」
「魁と龍夜に教えてもらえ。スノボ得意じゃないだろ」
「分かった」
咲良は魁と龍夜と一緒に外に出て行った。
「柊くん、怪我は治ってきた?」
「まぁ、多少は」
「もうちょっと休んでよっか」
一歌は俺の隣に座って、俺のことを見守ってくれた。
その日の夕方、咲良は俺たちとは違うホテルに戻っていった。明日の10時に待ち合わせしている。
俺たちは年越しの瞬間をホテルで迎えた。みんな大広間に集まり、時計を見ながら年越しの瞬間を伺った。