遥は俺のことを引っ張って走り出した。遥が向かった先は、普通の飲食店。なぜこんなところに連れてきたんだろうか。
「ごめんね、ここに」
みのりも一緒だったんだが、飲食店に入る理由なんて……
「みのりがストーカー被害受けてるらしくて」
アイドルをやってるんだったらあり得る話だが、気持ち悪いだろう。
「それで、遥ちゃんが、柊くんに任せようって」
俺が一緒にいたら、ストーカーがいなくなるってことだろう。
「だからここに?」
「うん。仲良くしてるフリでいいから」
「何言ってんだ、もう仲良いだろ」
俺は遥とみのりを掴んで、飲食店に入った。
「3名様でしょうか」
店員から聞かれた。
「はい」
「個室とテーブル、どちらになさいますか」
「個室で」
遥が言った。ストーカーが近づけないようにだろう。
俺は定められた個室に3人で向かった。
個室は4人まで入れて、俺の向かい側にみのり、隣に遥が座った。
「とりあえず、なんか話そうか」
「学校のこととか?」
「そんなことだろうな」
みのりは俺と遥と親しく話していた。俺はたまに外を気にしていたが、ストーカーのような人物はいなかった。
「それにしても、柊くんって志歩ちゃんと仲良かったんだね」
「あぁ。同じバンドだったりして」
俺が話していると、通路側から視線を感じ、俺は通路側を見た。
俺が見るのと同時に、隠れた何かがあったため、俺は立ち上がった。
「どうしたの?」
「遥、みのりを守って」
遥はみのりの隣へ移動し、みのりが見えないようにした。俺はドアを開け、隠れた先を見た。
「どうしたんですか、そんなところで隠れて」
予想通り。太った男性が室内から見えないところに隠れていた。
「い、いやぁ、何のことですかね」
「みのりを追ってんですか?」
「っ……」
すると、男性は俺を押しのけ、俺が開けたドアから室内へ入った。みのりに何かするつもりだ。
俺はすぐに叫び、助けを呼んだ。
「警察を呼んでくれ!今すぐ!」
俺はそう叫ぶと、すぐに室内へ入った。
案の定、男性はみのりを押し倒していた。遥がそれを退かそうとしていたが、ストーカーの体重も相まって、びくともしていない。
「おい、どけよ!」
俺はストーカーを後ろに引っ張る。
「みのりちゃん、かわいいよ。みのりちゃん、ぐへへ」
気持ち悪く言っている。俺はまた力を入れてどかそうとした。
「離れろ!」
俺がそうしていると、警察が到着した。
「どうしたんですか!」
「こいつ、ストーカーです!」
俺がそう言うと、警察の人も協力してストーカーを離そうとした。
「僕に触るんじゃない!」
ストーカーが腕を振り回して、俺と警察官を殴った。
「いっ……」
地面に俺は倒れ込んだ。窓枠に顔を打ったせいで、激しい痛みだった。
「公妨!公妨!公務執行妨害で現行犯逮捕する!」
警察はすぐに手錠をかける。
「なんでこんなことしたの」
遥がストーカーに言った。
「うるせぇ。お前みたいな出来損ないに言う権利はねぇよ」
「いいから、ほら、早く行くぞ」
警察がストーカーのことを連れていく。みのりは泣き、遥は目の輝きを失い、ただ壁を見ていた。
「遥、みのり。おいで」
みのりは少し涙を拭いたあと、こっちに寄ってきた。
「みのり、怖かったな。もう大丈夫だから」
倒れていた俺だったが、この2人は俺より辛いはずだ。
「遥、おいで」
「……出来損ない……」
遥はあの一言に酷く傷ついていた。
「君はスーパーアイドルだろう?」
「そうだよ、今だって、ASURANのCDは売れてるし」
みのりも励ましていた。
「私、もう終わりだよね。MOREMOREJUMPでやっていけないもん」
遥はもう自分を責める方向にいた。俺は痛みを堪えながら立った。
「そんな深く考えるな。人生って、深く考えたらきりがないから」
「でも、出来損ないだし……」
「出来損ないって、意味考えたことあるか?」
「……え?」
俺はスマホで検索して、その画面を見せた。
「でき上がりが見事でないこと」
「だから、私は見事じゃないってことでしょ」
「遥はいつから出来上がりになったんだ」
俺は遥に強く言った。
「お前はMOREMOREJUMPのメンバーだろ。まだ途中だし、目標を達成してもいない。そんなの、出来上がりって言わない」
「……」
「だから、出来損ないなんかじゃない。でき上がりじゃないから。まだ努力できる。まだ成長できる」
遥も泣き出してしまい、なんか気まずくなった。
「そうだよね……そうだよね、柊くん」
俺はみのりと遥を両手で抱きしめ、安心させた。