夜になって、雪は再び強くなってきた。
気温は氷点下まで下がり、今は秋田市で-5℃らしい。
「柊、ストーブ焚いでけれ(柊、ストーブ焚いといて)」
「分かった。あ、薪ってどこにある?」
「窓の近くさ置いてあるはずだども(窓の近くに置いてあるはずだけど)」
俺は母さんに頼まれて薪ストーブを焚く。それを聞きつけたなぎと唯菜が一歌を連れてこっちにやって来た。7年前もこんな感じだったかな。
「柊くん、はやくはやく」
「ちょっと待てって」
俺はストーブの中に薪を入れ、チャッカマンで火をつける。
「おー!」
唯菜がストーブの前に手を近づける。
「暖まるまで少しまっとけよ」
「はーい」
「お兄ちゃんはどこ行くの?」
「倉庫さ薪取りに行ってくる(倉庫に薪取りに行ってくる)」
俺は玄関から外に出て薪を取りに行った。2階にあったはずだけど……
「おっ、あったあった」
「おっ、柊くんじゃないか。久しぶりだね」
唯菜のお父さんだ。
「久しぶり。7年くらい会ってなかったかな」
結構仲は良いから敬語は外して話す。
「それにしても、倉庫に何しに来てたのさ」
「いやぁ、スノーダンプがここにあるって言われたから」
「スノーダンプだったら車庫だよ。今日俺たちが使って車庫に置いたから」
「そうか。ありがとう」
唯菜のお父さんは倉庫を降りていった。俺も薪を5本持って家の中に戻った。
外はやはり寒く、凍えそうだ。やっぱり薄い長袖で室内にいるからだろうか。
ちなみに、東北の家は冬にストーブを焚いている時は半袖が普通。まだ焚いたばかりだから寒いしで長袖だけど。
「一歌?寒いだろ」
「柊くんも寒いかなって」
一歌は玄関で出迎えてくれていた。
昔っぽい家で、玄関は横に開けるタイプのドア。入ると広く、さらに同じ幅の廊下がある。右側が居間、左が小さい冷蔵庫とゲーム部屋だ。
もちろん廊下は寒い。フローリングだし、ストーブもない。
「柊くん、寒いでしょ」
一歌は廊下に上がった俺をすぐにハグした。薪があるのに。
「一歌の身体あったか……」
「あーっ!」
そんな声が聞こえると、唯菜となぎが出てきて、俺を3人でハグした。暑苦しくない……あったか……
「あったかいな……」
「ストーブ効いてるよ。はやくはやく!」
俺は唯菜に連れられて居間に入った。部屋全体があったかい。寝れそう。
「あったかい……」
「お兄ちゃん、ここで寝ないでよ?」
「寝ないさ。上に寝室あるんだし」
俺はテーブルの前に座った。
テーブルは低く、床に直接座る形だ。居間と外が1枚の扉で繋がっていて、ベランダもない。その分寒いんだが。
障子が閉まっていて、外は見えない。
「柊くん、ギターって……」
「あぁ。明日届くよ。明日は除雪になりそうだけど」
俺は一歌を撫でて言った。
22時過ぎ、俺は歯を磨き、2階に上がった。結構急な階段で、上がると右側に1部屋、左に1部屋、振り返ったところに廊下があって2部屋ある。その奥側が防音室だ。
寝室は防音室の隣。
「ここだよ。俺たちの部屋は」
「敷き布団なんだね」
「あぁ。嫌か?」
「ううん。平気」
一歌はすぐに布団の中に入った。寒いのかな。
俺もすぐに一歌と同じ布団に入った。そのまま暖かくて眠り、翌朝になった。
翌日早朝5:40。
秋田の朝は早い。もう全員出て除雪開始だ。
「おめぇが道路の雪寄せしといてけれ(君が道路の雪寄せしといて)」
「んだども、雪寄せる車さどこあるんだ(だけど、雪寄せの車どこあるの)」
「車庫の中さ入ってら。はだげの前さこげから、そごからな(車庫の中に入ってる。畑の前すごいから、そこからね)」
秋田弁のオンパレード。俺には伝わるから車庫の中から車を出してきて、一歌を乗せた。
「この車、どこで売ってるの?」
「トラクター改造した。改造したのは俺だ」
「え?」
トラクターを買ってきて、近くの町工場で鉄を曲げてもらって、それをトラクターに取り付ける。強度は十分ある。
「改造した本人が運転しないとな。私有地だけだったら一歌でもいいんだよ?」
「いや、大丈夫……」
俺はトラクター改を車庫から出し、少し離れたところにある畑の前まで走らせた。一歌は俺の膝の上に座っている。
畑の前に着くと、俺は方向転換して、鉄製のスノーダンプを前にする。
このスノーダンプカーについて少し説明。
トラクターだった下に温水タンクを搭載し、ボタンを押すと鉄製のスノーダンプの下から温水が噴射される。高圧になるように設計されていて、雪を早く溶かせる。
さらに、トラクターを改造したため、タイヤは柔らかいところに強い。雪なんて軽々走れる。
スノーダンプは左を向くように斜めに設置されていて、雪を押すと左側に寄せる。しかも温水で溶かしながら進むため、固い雪でも大丈夫。
ついでに動作の仕組みもガソリンから電気モーターに変更。電車を参考にして、かなり出力の高いモーターを積む。電気についてはガソリンで発電し、それを蓄電池に貯め、それを使う。環境にやさしい。
「よし、いくか」
俺はスノーダンプカーを走らせる。まだ積もったばかりの雪なため、温水は出さない。
進んでいくに連れて雪はどんどん左側へ。左側は水路になっていて、乗っていない俺の両親、唯菜の両親、なぎ、唯菜の6人がスノーダンプやスコップを使って砕き、水に流していく。
「柊くん、これ作ったの、すごい……」
「まだ雪掻き専用の車、あるぞ。つっても、軽トラをほんの少し改造したやつだけど」
ただ運搬用に作っただけ。今使ってる軽トラそれだし。
軽トラの方はただ骨組みを強化して重さに耐えられるようにして、タイヤを頑丈な物に交換したくらい。
「これってどこら辺まで行くの?」
「隣の家の前までかな、大体」
俺はゆっくり進めていく。一歌も身を乗り出して雪を寄せているのを見ている。夢中になっててかわいい。
除雪が終わると、俺は居間に戻ってストーブの前に座った。
『あったかーい』
俺と一歌が同時に言った。
すると、玄関に大きい荷物を2つ持った人が向かっているのに気付いた。俺と一歌はなんとなく察し、玄関に向かった。
「すいませーん、お届け物でーす」
「はい」
俺がはんこを持って行き、紙にはんこを押した。
一歌が荷物2つを持ち、それを居間に運ぶ。
「ギター!」
「あぁ。丁度今届く予定だったからな」
他の6人が雪掻きをやっている最中、俺たちはギターを出した。
「ちゃんと傷なしに届いたな」
「帰りは持ってくんだっけ」
「あぁ。人もいないだろうしな」
一歌は立ち上がって言った。
「練習、しようよ」
一歌と俺は2階の防音室に向かった。