「もう少しだな。そこは別の運指のほうがいいし──」
俺は一歌と練習をしていた。一歌は少し汗をかき、俺もなるべく上手くなるように指示した。
「この運指でいいかな」
「あぁ。次のコードにいけるような感じだったらいい」
一歌は楽譜を見て、もう一回練習し始めた。
「そこ、弾く弦が1つズレてる。2弦じゃないか?」
「けど、ここって3弦じゃないの?」
俺は楽譜を見る。確かに2弦なはずだが……
「それ、1列下見てるよ。そこはEmで2弦」
「あっ、じゃあ、運指もこう?」
「そうそう。じゃあ、いけそうだね」
一歌はゆっくり弾き始めた。
もう練習開始から3時間。かなり練習している。
「今日はどこまでやる」
「Dまでは終わらせたい」
あと15小節か。
「じゃあ、さっさと終わらせよう。時間もあるし」
俺はDまで練習を進めていった。
ようやく練習が終わり、俺たちは防音室から出た。廊下は寒く、防音室とは違かった。閉め切ってたから暖かかったんだろう。
「あ、お兄ちゃん」
なぎが階段の下から呼んだ。
「何してんだ、なぎ」
「んー?ちょっと和室行ってた。電波繋がらないんだもん」
「だったら裏行けばいいだろ。裏の方が繋がるぞ」
「私は和室くらいの電波の強さでいいの」
なぎは「ふふん」と自信を持ったように言った。何に自信を持ったんだ?
「あ、ゆっち、薪変えた?」
「変えたよー。あったかいよ」
ゆっち。唯菜のあだ名だ。というか、なぎもあだ名だ。凪紗って名前なんだけど、俺がただ単になぎって呼んでる。理由なんてない。
「一歌、先に──」
一歌は俺の横を通り抜け、ストーブの前に手をかざした。
「はや」
「あったかー……」
唯菜が一歌の隣でにこにこして見ている。あぁ、ほんわかしてるなぁ。
「ちょっと連絡してこようかな。唯菜、なぎ。一歌を頼んだ」
「まかせて」
俺は外に出て、少し歩いた。雪は若干積もっていたが、歩けるくらいだ。
少し家から離れないと電波が繋がらない。俺は電波が繋がるところまで来ると、魁、海斗、龍夜の3人とビデオ通話を繋いだ。一瞬で入ってきて、そこには志歩、咲希、穂波もいた。
「久しぶり。みんな帰省中?」
龍夜《俺たちだけ違う。旅行中だ》
龍夜が言った。龍夜だけは旅行か。
「みんな、どこ行ってるんだ」
魁《俺は静岡の実家。涼しいぞ》
魁だ。
「こっちは寒いけどな」
咲希《どこ行ってるの?》
咲希が聞く。そうか、みんな知らないか。
「秋田だよ。雪は降ってないけど、積もってるね」
咲希《へぇ、秋田かぁ。美人とかたくさんいるでしょ!》
「さぁな。意識して見たこと無いから」
秋田美人ってホントにいるのかな。
龍夜《そう言うけどよ、お前妹さんすげぇかわいいじゃん》
龍夜が言う。そんなかな。いや、そうかもしれない。
「そう、なのかな」
龍夜《そうだって。会ったことあるの俺しかいねぇけどさ》
龍夜は1回だけ俺の実家に来たことがある。まだ祖父母も生きていた頃に。
海斗《一歌とどっちがかわいいんだ?》
龍夜《おい、それってどっちに対しても傷つくじゃないか》
穂波《一歌ちゃんもかわいいよね》
志歩《けど、一歌いないよね》
あ、気付いたか。流石志歩。
「あぁ。寒いからな」
志歩《柊くんだけ外いるの?》
「外じゃないと通話できないんだよ」
中でもいけるかもしれないけど。
龍夜《あれ、前行ったときは中でもできたよな?》
「そうだっけ?じゃあちょっとしてみるよ」
俺は歩いて家に戻る。
咲希《志歩ちゃん、静岡どう?》
志歩《うん。けっこう静かで、気持ちいいよ》
穂波《へぇ、静岡ってそういう感じなんだ》
魁《結構田舎の方だからな。新幹線の駅から遠いし》
「なんだ、俺を置いて」
龍夜《静岡の話に夢中だったな》
俺が話してないとこうなるのか。けど、聞いてるのも楽しいな。
「富士山は見えるのか」
魁《見えない。そんな近くないし、あと別の山で見えないな》
海斗《静岡でも見えないんだな》
龍夜《こっから富士山見えてるよ》
咲希《どこにいるの?》
穂波《スカイツリー。りゅうくんと2人でいるんだ》
「スカイツリーからって富士山見えんだ」
龍夜《見えるぞ。ぼんやりとだが》
「さすがに龍夜以外は見えないもんな」
俺は家の中に入り、今に入る。一歌がストーブの横で唯菜と話していた。
「おっ、終わった?」
「いや、一歌に会いたいって声があってね」
そう言うと、一歌はむくっと起き上がり、俺の左後ろから顔を出した。
「聞こえてるか?」
魁《おう。家の中に入ったのか》
意外と聞こえるもんだな。
「一歌もいるぞ」
咲希《一歌ちゃん!》
「咲希。どこいるの?」
咲希《群馬の水上ってとこ。海斗と一緒に帰省してるんだ!》
海斗たちも帰省か。
龍夜《あれ、凪紗いないのか》
「なぎ、お呼びがかかってるぞ」
「ほえ?」
なぎが俺の右側から顔を出す。
「あ、龍夜さん!」
龍夜《久しぶり。大きくなったなぁ。大学生?》
「はい。大学4年です」
龍夜《そうか。卒業も近いんだ》
「あんまりナンパっぽくするなよ」
龍夜《ははは、すまん》
みんなも画面越しに笑っていた。
「じゃあ、そろそろ終えるか」
魁《あぁ。じゃ、またな》
俺はビデオ通話を切った。