合宿を終え、俺たちは各自帰路についた。が、魁はこの後の仕事のためまっすぐ自宅へ。それもあって俺は一歌と志歩が一緒に乗っていた。
「志歩、柊くんと帰れてよかったね?」
一歌が冷やかすように言った。
「やめてよ、一歌。恥ずかしいから……」
志歩は恥ずかしそう。後ろでなんて会話が繰り広げられてるんだ。
「志歩、いいんだよ?」
俺は志歩に言ってみる。
「だ、だから……もう」
諦めたようだ。
俺は龍夜の車についていく。行く場所は魁以外はみんな同じだからだ。
サービスエリアで休憩をする。魁はもう休憩なしで先に帰った。それ以外の7人で小休憩。
「なんか小腹空いたな」
「あそこにたこ焼きあるよ!」
咲希が指を指す。色んなものを売っている店があり、俺たちはそこに向かった。他には焼きそばや焼き鳥、ラーメンもあった。
「みんな何にする?」
「私焼きそばにしようかな」
一歌が言う。
「私はたこ焼きかな」
「じゃあ私もほなちゃんと同じの!」
俺は志歩の横に行って聞く。
「志歩は?」
「味噌ラーメンかな」
俺は受付に行って全員分注文した。
外にあるテーブルでみんなで食べた。まだ時間はあったし、ゆっくりみんなで話ながら食べていた。
「明日ってみんな仕事?」
「俺は休みだよ」
「俺も」
「俺は休み取った」
海斗だけは少し違うが、みんな休みだった。
「じゃあ魁以外はみんな休みなんだ」
「まぁな。ただ、君らのご両親が心配するからな」
それもあって早く帰ることにした。俺はこのあと別の場所に行く用事があるし。
石山海里という俺の幼馴染みで、今はシンガーソングライター。愛知に住んでるとか言ってたから行ってみようと思った。
渋谷の事務所に着くと、一歌たちを降ろし、解散した。俺はそのあと中野の家に帰り、留守番を頼んでいた風那と交代した。
「ありがとな、風那」
「ずっとネカフェだったからね。ちゃんと寝れたよ」
部屋は俺がいたときより綺麗になっている。やはり日本人の性だろうか。元の状態より綺麗にして返す。これがふさわしいくらい綺麗だ。
「じゃあ、私はもう戻るね」
「いや、また留守番を頼みたい。明日から海里のところに行くから」
風那は喜んだ。寝心地いいんだろうな、ネカフェよりかは。
「今日は俺と一緒に寝て、明日から2日間留守番頼むよ」
「任せて!」
風那はキッチンに行って夕食を作り始めた。食材も俺がいたときの食材を使ってくれている。消費期限切れで捨てるより全然ありがたい。
その日の夜、風那とは違う部屋で寝た。というより、床で寝た。明日は朝が早いからだ。
翌朝3時半、俺は置き手紙を書いた。
もう4時くらいに出たよ。
また2日間留守番頼んだ。ごめんね、大変だよな
愛知のお土産買ってきてやるから許してくれ
あと、冷蔵庫のものなるべく使ってほしい。遠慮しなくていいから。
じゃあ、また3日後。2泊3日だから。
俺は家を出て、朝早い中野駅に向かった。
外は蒸し暑く、暗い。1番嫌な気候で、ジメジメしていて暗く、汗ばむ。
ルートは、STARNIGHT3人で行くのもあって共通。新宿まで総武線で、新宿から山手線で品川、京浜東北線と横浜戦を乗り継いで新横浜、新横浜6:00発ひかり533号広島行きで名古屋へ。魁は仕事で無理だったが、俺たち3人は行けた。龍夜と海斗はただの付き添いだが。
「お前に知り合いなんていたんだなー」
海斗が俺にからかうように言った。
「知り合いの1人や2人くらいいるわ」
「人との関係拒絶してるような奴がな」
龍夜ものってきた。こいつら、言わせておけば……
「お前らだっていないだろ、知り合い」
「俺はいるぞ。実家に帰れば姉妹が待ってる」
「俺も穂波が居るし……」
2人ともいない感じだな。だってどっちも身内じゃないか。
ひかり533号は最速の「のぞみ」ではないものの、朝早いからか名古屋には先に着いてくれる。海里の家は犬山の方なため、集合は名鉄名古屋。JR名古屋からしばらく歩く。
名鉄名古屋で海里と合流し、俺たちは一同喫茶店へ。海里からしたら知らない人が2人いるが、以外とフレンドリー。
「へぇ、君たちは柊のバンドメンバーなんだ」
クールでおとなしい声をしているのが海里。結構クールで昔からモテてる。
「海里さんはシンガーソングライターでしたっけ」
龍夜は敬語で話しかける。
「そうだよ。あ、敬語は外してもらって構わないから」
優しい口調で、女を虜にしてきたんだろうか。
「柊は相変わらずモテてるかい?」
「モテてるね。ガールズバンドの子とはカップルみたいだもんな?」
「まぁな。海里もモテてるのか」
海里は両手を横にして言った。
「そうだね。ただ、告白が多くて困ってるよ」
「贅沢な悩みだこと」
俺が言うと、海里は「そうかい?」と笑いながら言った。
「ん、柊。ケータイ鳴ってるぞ」
「あ、ホントだ」
俺はケータイを取り出す。志歩からのメッセージで、「志歩から写真が送信されました」と表示されていた。俺は3人に席を外すことを伝える。
「ごめん、ちょっと連絡してくる」
「あぁ。いってらっしゃい」
俺は志歩から送られてきた写真を見た。写真をタップして大きくする。写真をちゃんと見てなかったが、志歩の顔はあったような。
志歩からの写真を見ると、そこには上半身の服を脱いで、ブラジャー姿でいる志歩が写っていた。俺はあたりを見渡して、誰もいないことを確認してから返信した。
柊〈志歩、なんだこの写真は〉8:01
志歩〈ベースの弾き方を聞きたいなって思って〉8:02
気付いてないのか?写真送り間違えてるが。
柊〈送る写真間違えてないか?〉8:02
俺が志歩に聞くと、すぐに写真は消えてTAB譜の画像と志歩が弾いている様子の画像が送られてきた。
志歩〈どうすればいいかな〉8:04
柊〈さっきのは?〉8:04
志歩〈一歌と咲希に下着のこと聞いたときの写真〉8:07
少し慌てたな。返信が遅かった。
柊〈それでベースのことだけど、多分それ左手の位置もう少し下じゃないかな〉8:08
志歩〈ありがとう〉8:09
志歩の下着、初めて見たな……
俺は3人がいる席に戻った。3人は仲良く話していた。
「おっ、戻ったか」
「柊のバンドSTARNIGHTっていうんだってね。いい名前だね」
海里が言う。
「ありがと」
海里は書類を机の上に出して言った。
「これなんだけどさ」
書類には「石山海里と演奏したいバンド募集」と書かれていた。
「演奏したいバンドか。この辺にいないのか」
「結構ガチなところが多くてね」
そうか。ガチすぎて参加できるわけがないって感じか。なんかかわいそう。
「俺たちも検討してみるよ。海里も知名度はあるし」
「ありがとう。助かるよ」
STARNIGHT全員で立ち上がり、喫茶店をあとにした。
「じゃあな、海里」
「また明日、犬山駅でいいかな」
「もちろん。明日の9時な」
俺たちは喫茶店から出てホテルに向かった。
【幸山魁視点】
仕事なんて、そんなの嘘だった。
柊が知り合いのところに行くのを俺は知っていた。どうせ柊は一歌がいないと本気出さないんだろうと思い、俺は先に戸塚に帰って「青春18きっぷ」を買っていた。まぁ、在来線しか使えない切符だが、5回分入っている。
今回は俺とLeo/needの5人で1回使って終わりだが、帰りも買えば別にどうってことない。
「お待たせ、魁」
志歩が1番最初に来て、そのあとすぐみんなが集まった。早朝から出発してもよかったが、朝起きるのもいやだろうし、朝は8時頃の出発にした。
「柊くん何してるんだろうね」
「どうせ一歌がいないから本領発揮してないな」
みんなも早く会いたそう。いや、穂波や咲希からしたら龍夜と海斗に会いたいだけか。
「そうだ、志歩。柊に怪しまれないように連絡してくれよ」
「分かった」
志歩は連絡を送ってくれる。もう湘南新宿ラインのホームにいるため、余裕はないけど。
しばらくすると、志歩が顔を真っ赤にした。え、連絡するだけでそんなになるか?
渋谷からは8:05発の湘南新宿ライン東海道線直通、快速小田原行きに乗った。休日ダイヤで、人はほとんど観光客らしき人だけ。
志歩は乗ったあとも少し連絡していた。終わると深呼吸して俺にもたれ掛かった。
「柊くん今頃何してるんだろう」
「もう知り合いと会ってると思う。新幹線は朝早いので行ったし」
「……送る画像間違ってた……」
「え?」
一歌と咲希がニヤリと笑う。穂波はキョトンとしていた。
「前の下着の写真?」
「……」
図星だったんだろう。そんな写真撮ってたのか。
大崎に8:12、横浜8:30、大船8:49、小田原には9:27に到着。そのあとすぐにやってくる9:31発東海道線普通熱海行きで熱海へ。
「魁、柊くんと合流するのどこにする?」
「あ、確かに」
そんなこと考えてなかった。
「私連絡しようか?」
一歌が言う。
「じゃあそうしてくれるかな」
一歌は連絡してくれる。一歌がやったら違和感もないだろう。
熱海には9:54。そのあとすぐに10:00発東海道本線普通静岡行きに乗り換える。座るために静岡までではなく、途中の興津までにする。
「柊なんだって?」
「柊くんまだ見てない……忙しいのかな」
心配そうにする。
「大丈夫だよ。柊なんだし」
電車は10:58に興津に到着。11:03発東海道本線普通浜松行きに乗り換える。
12:34、浜松に到着。お昼くらいのため、俺たちは昼食にした。
駅から出て、そばを啜る。一歌は咲希と一緒に食べていて、穂波は2人のお母さんみたい。
「ほなちゃん、これ長くない?」
「ほんとだね。一歌ちゃんのそれも長そうだよ」
3人で話しているのを見ると、俺と志歩は笑ってしまう。
「元気だな」
「うん。まぁ、咲希らしいかな」
結局それで済んでしまう。仲が良い証拠だ。
昼休憩をはさみ、13:39、東海道本線普通豊橋行きで豊橋へ。豊橋に14:14に着くと、14:20発東海道本線新快速大垣行きで名古屋へ。柊が待ってるはずなんだけどな。
「一歌、なんて送ったんだ?」
「15:15にJR名古屋駅を出発する東海道本線にSTARNIGHTのポスター貼ってあるよって」
それで柊が来るかな。
「柊くん、それで来るの?」
志歩が聞く。心読んだのか?
「柊くんだったら来るよ。きっと」
一歌と柊の気持ち、みたいな感じなんだろうか。
15:12、新快速大垣行きは名古屋に到着。柊は1番後ろのドア前にいた。
「柊くんいたよ」
「ふふっ、一歌ちゃん、嬉しそうだね」
穂波の言うとおりだ。今までと全然違う。
電車から降りると、一歌は走って柊のところへ。柊は一歌を受け止めてくるっと一回転。勢いがすごかったのか。
「あれ、みんないるんだ」
龍夜と海斗も来た。穂波と咲希が磁石のように引きつけられる。
「海斗!」
「なんだ、来てたんだね」
15:15、来た電車が出発する。
「なんで来たんだ、君ら」
「どうせ一歌がいないと本領発揮できないだろ?」
一歌は柊にピッタリくっついている。柊は無意識に撫でてるけど。
「それもそうだな。じゃあみんな、ホテル行こうか」
8人でホテルに向かうため、俺は引き続き東海道本線を西に向かう。
15:30発快速米原行きで岐阜へ向かう。岐阜がホテルの最寄りらしい。
15:48、岐阜に到着。俺と志歩は飛び入りだったためホテルが岐阜で取れず、岐阜の近くである笠松という駅まで行き、近くのホテルで泊まる。
「じゃあな、また明日、犬山で合流でいいか?」
「いいよ。時間だけ教えてくれれば」
「朝9時。頼むよ」
俺は柊たちと分かれて名鉄岐阜駅へ。
笠松駅はミュースカイ以外は止まる駅で、名鉄岐阜からもいける電車が多い。
「一歌たちと一緒の方がよかったか?」
「いや、魁と一緒だったらいい」
志歩は冷静に言う。嬉しいな、そう言ってもらえると。
16:02発特急中部国際空港行きで笠松へ。
笠松には16:06。ホテルまで10分ほど歩き、俺は志歩と同じ部屋のため、部屋に荷物を置くと志歩の用意を手伝った。
「やっぱりあの2人は一緒じゃないとね」
「そうだよ。あいつらは一緒がいい」
俺は志歩の隣に座った。