「柊くん、ここなんだけど」
「あぁ、少し遅くなってるかもしれない。気持ち早めでいいと思うな」
「りゅうくん、ちょっと速いかな」
「ううん、そんなことないと思うけどね。まぁ、そう思うんだったら遅くしてもいいかな」
「ねぇ、ここって引っ張りすぎ?」
「ベースなんだから引っ張らないとだろ。別に引っ張りすぎてもいない」
「ここちょっとアレンジ加えたいんだけど、どうしたらいいかな」
「なら、ここを少し変えればいいんじゃないかな。そうすればもっと曲のイメージが着きやすくなると思うよ」
久しぶりの長めの練習時間。俺たちはLeo/needから聞かれたことにそれぞれ答えていた。
「ねぇねぇ!なんかみんなで旅行行きたくない?」
咲希が唐突に言う。そんな話も何も無かったろ。
「随分急だね」
「だって!合宿はやったけど旅行って行ってなくない?」
咲希と龍夜がそう言っていると、海斗が咲希の後ろから言った。
「スキー行ったろ。冬に」
「あれは私たちがついていったから、今度はみんなで楽しく!ね!」
スキーが楽しくないみたいな感じに聞こえなくもないが。
咲希は必死で俺たちに旅行をせがむ。
「咲希、魁たちも仕事あるんだから」
「えーっ、行けないかぁ……」
Leo/needの悲しい顔を見なければならないのは心に来る。苦しくなってくる。
「……10月の三連休全部空けとけ。秋田行くぞ」
「きりたんぽ!」
「お前は食べ物しか頭の中にないのか」
咲希と海斗はいつも通りの感じか。これでいいんだけど。
「じゃあ、先に言っておく。集合は東京駅、朝6時な」
「うん!」
旅行に行きたいのはみんなもなんだろうか。なんか咲希だけな気がする
「ホテルとかは?」
「俺の実家使うけど、どうかしたか」
「持ち物とかは?」
一歌と穂波が立て続けに聞いてくる。楽しみにしていそうだ。
「洗濯してもらえるから、2日分の着替えとあとは汚れてもいい服は用意しておいてくれ」
「何で汚れてもいい服?」
志歩が聞いてくる。
「多分手伝いがあるから。畑作業とか」
「ま、とりあえず用意しておこう。当日、みんな楽しみだろ」
龍夜が聞くと、みんなほぼ同時に頷いた。なんだ、少し嬉しさを隠していただけか。
「ほら、とにかく練習するぞ。秋田に行くまでに少しはしておかないと」
魁の言葉でみんなは練習を始めた。
三連休初日、朝5時半に集合した。海斗と魁が始発で出ても東京着が5:47のため、仕方なくその2人はホームで合流することになった。
5時半、2人を除いた全員が着き、先にホームに向かった。10月7日、今日は三連休初日なのもあり、新幹線も臨時便が出ている。普段は秋田行き始発は6:32発だが、今日は6:00発が始発。
「ごめんね、先に向かわせちゃって」
海斗がやって来た。その後ろから魁が荷物をひいてやって来る。
「っ!」
志歩が魁に反応する。何かあったかな。
「ん、あぁ、着てきたぞ」
魁が志歩に言う。ということは、やっぱり何かしてたんだな。
「志歩ちゃん、何してたの?」
「べ、別に穂波には──」
「昨日2人で服を買いに行ったんだ。急に呼び出されて」
志歩は顔を必死に隠す。顔が真っ赤なのはバレているが。
「いいじゃないか。志歩が選んだのか」
「あぁ。これだったら似合うって言ったからな」
さらに志歩は目をそらす。
「別に恥ずかしがることじゃないと思うが」
「うっ……」
もうやめてやれ、魁。志歩はもう限界だ。
「ほら、もう乗るぞ」
俺たちは臨時こまち49号秋田行きに乗る。
普段のこまちの場合は盛岡と、盛岡から先までの始発で、仙台までは東京6:04発やまびこ51号が先に着く。そのため、仙台までの始発ではないのだが、臨時49号は東京駅から出る新幹線の始発。どの駅へも東京駅からは始発になる。
ちなみに、飛行機の場合は7:00発JAL161便で行くと早く着き、秋田空港に8:10に到着する。だが、実家からは秋田駅の方が行きやすく、飛行機だと3万円以上かかるのに対し、新幹線は2万円かからず移動できる。8人でも飛行機は24万超、新幹線は16万未満と、8万円以上安くなる。新幹線の方がいいだろう。
「秋田駅って何時着?」
「10:03。4時間くらいだね」
東京からの最速は秋田行き最終のこまち45号。20:16発、23:53着の3時間37分。俺たちの49号よりも約30分速い。停車駅も2駅多いのもあり、俺たちの49号は遅くなっている。
「じゃあ少し寝れるね」
「秋田近づいたら起こすから大丈夫だよ」
「じゃあ、ちょっと寝るね……」
一歌は俺の肩に頭を乗せて目を瞑った。
「柊、顔がニヤけてるぞ」
「えっ!?そ、そんなことないだろ」
「いや、すごい笑ってた」
龍夜に言われて俺はようやく気付く。そんなに俺ニヤけてたのか。
「けど、一歌が肩で寝てくれてるから」
「あぁ、幸せだな」
ホント幸せだ。もうこれ以上何も望まない。
「朝早かったもんな」
「あぁ。俺と龍夜は1本だからそんな早くなかったもんな」
4時半に起きても間に合うくらいの電車だ。
「ゆっくり寝かせてあげようか」
「あぁ。疲れてるだろうし」
一歌をそっと寝かせ、俺はそこから動かずに黙っていた。