俺たちは秋田駅に着くと、すぐに改札から出て旅行先をみんなで話し合った。秋田駅まで来ても行ける場所は多くないが、少なくとも楽しめる程度ではある。
「それで、どこに行くんだ」
「行きたい場所があればそこに」
秋田駅周辺に行きたいところなんてあるのか、という感じだが。そもそも秋田駅周辺なんて全く来たことがない。全部山の中だったし。
「あ、ここ行ってみたいかも。ポートタワーってとこ?」
一歌が言った。ポートタワーか。だが、ポートタワーって秋田駅から距離あった気がするけどな。
「柊、知ってるか」
「知ってるけど、確か秋田駅から遠いぞ?」
一歌が道を調べると、驚愕の数字が出てきた。
「1時間50分だって……」
「2時間近いのか……なら、他に──」
魁が言いかけた。だが、秋田駅から歩いて2時間ってことは、おそらく……
「土崎だな」
「土崎?どこだそれ」
土崎は秋田駅から2駅先の駅だ。秋田港に近く、当然ポートタワーも近くなる。
「土崎からだったら1時間かからないだろ」
俺がそう言うと、一歌がすぐに調べてくれた。調べてみると、俺の予想通りだった。
「25分くらい」
「流石秋田の人だね」
穂波が言う。このくらい地図を見れば分かった気がするが、もしかして全員方向音痴か?いや、違うはずだろう。特にLeo/needは。
このあとの普通電車は10:38発の男鹿行き。男鹿線に向かうが、追分までは奥羽本線各駅に停車する。
「ただ30分歩きか」
「遠いには遠いね」
龍夜と海斗が言う。それもそうだ。まだ2キロ弱あるのだから、全然遠い。
「まぁ1時間以上短縮できただけいいじゃん」
「徒歩時間ゼロにしたいよね」
1時間以上短縮できたのは確かに良かった。咲希の言うとおりだ。ただ、その後の声。最近聞いた覚えのない声だ。
「あれ、柊の妹さんじゃないか」
「どうも、龍夜さん」
何でここになぎがいるんだ。どう考えてもおかしいだろうに。
「なんでここに」
「なんかポートタワー行くって言ってたからついてきたの。あ、ちょっと待って貰えれば秋田駅から車取ってくるけど」
20分くらいかかるんだったかな。それくらいだったら待ってやるか。戻るのを含めても1時間はかからないだろう。
「お願いできるか」
「オッケー。土崎の駅で待ってて」
なぎは泉外旭川駅で降りた。12分後に秋田行きがやって来る。
「車使えるんだ」
「良かったな。というか、なぎと会うのは龍夜と一歌以外初めてか」
「あぁ。かわいいじゃん。ね」
海斗が共感を得る。なぎってかわいいのか。いつも一緒にいたからか感じなかった。
「妹さん、彼氏とかいるのか」
「知らん。ってか、もらおうとするな」
危うく海斗に取られるところだった。
「それで、土崎着いたら待ってればいいのか」
「あぁ。1時間かからないだろうし」
12分後に電車が来て、10分かからずに戻り、車で20分。1時間はかからないだろう。
土崎に着き、俺たちは駅前でなぎが来るまで待った。なぎがどれだけ早く来るかは分からないが、10月とは言えども秋田は寒い。今も14℃程度で、暖かくはない。
「やっぱり東京より寒いな」
龍夜が言う。だが、龍夜は言えるような格好ではなかった。
「何言ってんだよ。半袖着てさ」
龍夜は下は長ズボンだが、上は半袖。14℃で半袖でいて、終いには寒いなんて。
「東京は20℃超えてたから大丈夫だと思ったんだよ。全く大丈夫じゃないが」
「私言ったんだよ?寒いって」
穂波が言ってたのに着てこなかったのかよ。
「持ってきてるのか?上着は」
「いや……」
こいつ、死んだな。今の時期から秋田は寒くなっていくってのに。
「頑張れ、龍夜」
魁が少しからかうように言う。
「氷にはならないようにね」
海斗も笑って言う。笑うしかないだろう、こんなの。
「うぐ……次は持ってくるからな……」
龍夜は風の通りにくいところに移動した。穂波もそれについていった。
40分ほど待つと、なぎが車で俺たちを迎えに来た。
「何人いるんだっけ?」
「8。無理だろ」
「ふふーん、じゃあじゃんけんして。お兄ちゃんも一緒にねっ」
やな予感がする。
「勝った4人が私の車ね。負けた4人はこのあと30分後くらいに来るゆっちの車」
「待て。唯菜来てるのか」
「出席足りてるらしいよ。ほら、じゃんけんしてっ」
ということは負けたらまた寒い中で30分待機ってことだ。
「やるか……」
俺たちは8人でじゃんけんをした。
勝ったのは一歌、志歩、龍夜、そして魁。
「なんだ、龍夜勝ったのか」
「面白くないな」
「なんだと!」
冗談交じりで言った。30分待機だったら面白かったんだが。まぁ、30分待機になったのが俺なんだが。
「じゃあ温かいとこ行こっか」
勝った4人が乗ると、なぎはすぐに車を出した。さて、30分待機だ。
「さぁ、30分待つか」
「龍夜は行っちゃったからね~」
海斗は未だに龍夜をいじる。面白かったが。
「というか、その唯菜ちゃんって誰?」
「あぁ、従妹なんだけどな。大学生なんだよ」
「だから来てて驚いてたんだ」
あいつ、よく出席足りてるな。
30分後、唯菜が車で俺たちを迎えに来た。
「ねぇ、ちょっといい?」
「ん、なんだ」
俺が唯菜の横に行くと、咲希と穂波、海斗をそっちのけで俺にぎゅーっと抱き付いた。
「何してんだよ、唯菜」
「エネルギー補給。よし、できたからいいよ。乗って!」
こいつ、エネルギー補給で人に抱き付くって一体何なんだ……俺だけにしてくれよ……?
「どこに行くんだっけ」
「ポートタワー。一歌がもう言ってくれてると思うから向かってくれ」
「はいはーい」
唯菜は車を走らせた。ポートタワーまでは数分で着く。
「唯菜さん、柊くんと従妹なんですか?」
「ん。そだよ」
「なんか大学生らしいな」
「前こっちに帰ってきてから毎日行ってたから。出席は足りてるの」
前来たときって、そんな前でもないだろ。
「足りてるんだったらいい」
「ふふーん、でしょー?」
そんなことを話していると、すぐにポートタワーに着いた。言ったとおりそこまで遠くなかった。
「あ、あれなぎの車だ」
「もう来てたか」
俺たちが着くと、なぎたちも俺たちと合流した。ポートタワーの根元あたりで俺たち10人は固まり、頂上へ上る。
「ここって結構高い?」
咲希が俺に聞いてくる。
「まぁ県内だと高い方かな」
「今日晴れてるからねー。遠くまで見えるよ」
ポートタワーの頂上まではエレベーターで上がる。10人全員が乗れるくらいの大きさで、頂上まで早く上がれる。
「一歌、怖くないか」
「うん、まだ平気」
絶叫マシンが苦手な一歌からしたら今回のエレベーターが意外と怖いと思ったのだが、これくらいだったら大丈夫か。
頂上へ着くと、ガラス張りの壁の近くに咲希が駆け寄った。みんな高所恐怖症は克服して、ゆっくりではあるが壁の近くまで寄った。
「高いね、やっぱり」
「高くなかったらタワーじゃないだろ」
魁が咲希にツッコミを入れる。
「一歌ちゃん、怖くない?」
「うん。大丈夫だよ」
「一歌、大丈夫なんだ」
「いっちゃん克服したんだね」
4人は外を見ながらそんなことを話していた。
「私も来たの久しぶりかも」
「そうだね。久しぶりかも」
なぎと唯菜も久しぶりだったらしい。
ポートタワーから降りた俺たちは、昼食のために駐車場まで戻った。次の車はさっき乗っていない方の車に乗った。
「なぎ、チャイナタウン行けるか」
「あ、そこ行く?いいよ」
俺はなぎに昼食を食べる場所を提案した。秋田に来て食べてみたいものだとチャイナタウンのアレだろう。
「チャイナタウンって何?」
咲希が聞いてきた。そうか、チャイナタウンって言ってもわからないか。
「行けばわかるけど、すごいよ」
「ちゃんぽんなんだけどね、見ると驚くよ」
なぎが運転しながら言った。
「へぇ、なんかおもしろそうだな」
「うん!ね、ほなちゃん」
「うん」
なぎは少しうれしそうにした。