手違い夢主の彼女たち   作:空下眼子

14 / 28

完結まで我慢できなかったのでこちら投稿しておきます。
今回は穏やかで常識ありそうな夏油先生メインのお話。


『亡者』 その3

 

「おつかれ、写真も撮ったしもう良いよ」

「……ウス! おつかれ~!」

 

 家入先生による写真撮影が終わった後、私が心臓を治して悠仁くんは何の問題もなく起床。

 救出したばかりの時は寒さと恐怖で凹んでいたが、私が直に温め、開き直り理論で諭し、予定時刻には完全復活。見事完全犯罪を成し遂げた。

 

「クラスメイトの遺体写真の撮影現場、こんな和気あいあいとしてて良いの……?」

「本人が馬鹿みたいに元気だからな」

「馬鹿だから元気の間違いじゃない?」

「かもしれねぇ」

 

 釘崎くんと伏黒くんは壁際で悠仁くんの蘇生待ちだったが、私が渋る筈もなく秒で終わったのですっかり緊張感を失っていた。因みに特級二人はまだ合流できていない。外面では直帰と言いつつ、悠仁くんは実際には死んでいないので寄り道でもしているのか。

 

「虎杖、身体大丈夫か?」

「全然元気、違和感とかなんもない」

「じゃあもう問題ないわね、行くわよ伏黒」

「ああ、またな虎杖」

「おう」

 

 二人が悠仁くんと別れて安置室を出て行こうと扉を開ける。

 

「はいストップ」

 

 と、何故か丁度そこに夏油先生が立っていた。

 

「先生?」

「なんで入って来なかったんですか」

「二人とも元気そうだけど、クラスメイトも亡くなったことだしもっと暗い顔してね」

「無視かよ……」

「だから口開けて」

「は? ム゙も゙ッ!?」

「嫌です」

 

 夏油先生のありがたいお言葉に思わず釘崎くんが固まり、一瞬の隙に呪塊を口に詰められた。今日イチ惨いシーンと言って過言ではない。伏黒くんはあらかじめ予想がついていたのか、答えと同時に影に沈んで逃走を始める。

 

「……っゔ、ふ! っふじ、伏黒ォ゙! アイツ私のこと見捨てやがった!! ……ヴェっ、家入先生、この部屋水道ある……?」

「ちょっと待て」

「く、釘崎、ダイジョブ……?」

「なわけねーだろ! 人生で一番不味い!! 早く濯ぎたい!!」

「アハハ、誰かに虎杖くんの話題振られたらその味思い出してみて。因みに蠅頭だから大した影響はないよ」

「夏油先生はマトモだって思ってたのに゙ィ゙~!!」

 

 喉を掻きむしらんばかりの勢いで身悶える釘崎くん。

 こうして見ると原作夏油が如何に我慢を重ねていたのかが良く分かるが、隙あらば生徒にゲロ拭いた雑巾味の塊食わせて喜んでる教師夏油、嫌だな。でもこれが私たちの夏油先生という現実。離反してなくて毎日が楽しそうだから文句は言えないが、嫌だな……。

 

「はいよ、取り合えずミネラルウォーター」

「神よ!!」

 

 家入先生からペットボトルを受け取り、その場でがぶ飲みする釘崎くん。

 そして帰ってこない伏黒くん。植物トリオの友情大丈夫かこれ。

 

「よし、じゃあ釘崎さんは恵と追いかけっこでもしておいで」

「アレ食わせたのアンタでしょーが!!」

「でも私には絶対勝てないだろ?」

「性格が悪い!! 分かったわよ絶対伏黒とっちめてやっから!!」

 

 釘崎くんは叩きつけるように扉を閉めて退室した。

 

「で、虎杖くんは私と少し話そうか。おいで」

「あ、ハイ」

 

 まるで嵐のようだったが、その元凶は穏やかなものだ。性格が悪い。

 

「夏油。ナクスはともかく、虎杖にあんま陰険なことすんなよ」

「え゙っ、夏油先生……? ……せめてなんか言って?」

 

 促されるまま素直に立ち上がった悠仁くんの後ろから家入先生の声が飛ぶ。夏油先生はそれに胡散臭くにこやかな笑顔で無言で返した。

 家入先生、私にも味方して。

 

『……なぁナクス、陰険なことされたらどうする?』

『後で五条先生にチクろう』

『他力本願』

『私から一つアドバイスだ、勝てない相手に真っ向から戦おうとするな。ジョセフ・ジョースターを見習え』

『う~ん、俺ジョジョそんな詳しくない』

『読め、ちょっとした古典だぞあれは』

 

 部屋を出て通路を右へ左へ。

 不穏なセリフを聞いたために悠仁くんは表向き完全に無言で夏油先生について行っているが、先生もまた無言で前を歩いている。沈黙が重い。

 

「虎杖くん」

「はい!」

「両面宿儺と何か話してるね」

「はい……」

「内容を聞いても?」

 

 夏油先生IQ五億あるな。

 カマかけたにしても確信があったにしてもそこを突いてくるとは、やりよる……、油断ならねぇ。もっとも、基本私は悪い話をしないので突かれて痛いことはそうないが。

 

「あーっと、その、陰険なことされたら五条先生にチクろうって」

「両面宿儺、本当にプライドとか欠片も持ち合わせていないな」

「賢いと言ってくれ。私には幼児がプロボクサーに挑むレベルの無謀を冒す趣味はない」

「かしこい……?」

「かし……???」

「二人して賢いという概念を見失うな」

 

 私は理知的な振る舞いと実際の賢さは別のものだと思っているが、凡人にはそれが理解できないらしい。天才はいつだって孤独だ。

 

 取り留めの無い話をしつつ、地下室へ到達する。

 石壁はなんとなく記憶にあるが、ここでやるのは映画鑑賞ではなかっただろうか。

 何故か上下左右に開けた何もない部屋に通された。

 

「おーすげー、秘密の特訓場って感じする」

「実際そんなところさ、多少元気よく暴れても大丈夫なようにしっかり作ってる」

 

 床や壁、天井にも、凹みや切り傷、煤けた跡が見える。

 0巻で五条先生が転送術に使っていた様な書き込み、結界的なものは見えないが、まぁ内側の見えるところに書いてもすぐに掻き消されて無効になるだろうし、そんなものか。

 

「まず虎杖くんは呪力や術式についてどの程度習ったかな」

「呪力は魔力、術式は生まれつき備わってる魔法陣。呪力でも直接殴ったりできるけど、普通は術式があればそれで発動する魔法みたいな特殊攻撃を鍛える」

「合格、だけど悟はよく電気と家電に例える。それ、誰に教わった?」

「ナクス」

「悟からは?」

「特に聞いたことない」

「きみにはあとで悟に殴り込みする時に一緒に参加できる権利をあげよう」

「えぇ……」

「話を戻すと、術式は基本的に先天性のもので、新しく習得することはできない。ここまでは良いね?」

「うす」

「でもきみには他人の呪いを身に宿せる体質がある。私の作った呪塊を取り込めば、単発にはなるが術式を使用できる見込みがあるってことだ」

「じゃあやっぱ俺も必殺技みたいなのできる!?」

「今のきみじゃまたどこかしらが爆発して終わりだよ」

「なら今の前振りなに!?」

「くくく、虎杖くんは素直で良い子だね。簡単に死にそうだ。なのでそうならない為、きみには呪力コントロールの訓練をしてもらう」

「ふ、不穏過ぎる……!!」

 

 夏油先生、何かにつけて性格が悪いな。

 離反ルートは外れたが綺麗な大人になれなかったか。いや寧ろ逆で、綺麗な大人になれなかったから離反ルートを外れた。が正しそうだ。世知辛い。

 

「今ちょうど悟が訓練に必要な道具を買いに行ってるから、来るまでちょっと私と遊ぼうか」

 

 おそらくLINEで少しやりとりをした後、先生はケータイを内ポケットにしまった。

 今までに見せつけられた悪い大人ぶりからして嫌な予感しかしない。

 

「手、出して」

「手……?」

 

 握手をするような形で差し出された夏油先生の右手に、悠仁くんは躊躇いがちに自分の右手を合わせる。

 ぎゅっと握り込まれた瞬間、左の抜き手に心臓を貫かれた。

 

『悠仁くんチェンジッ!!』

『任した!! なに!? めっちゃイ゙ッテェ!!!』

 

 代わった途端、胸から毒が回る様な重たくドロついた感覚があった。呪霊操術。

 

 先生の腕を、いや切断できる自信はないし、ここで斬ろうとしては本気で来られそうだ。呪力をドーム状に放出して弾き飛ばす。しかしそれすら辛うじて抜け出せただけ。穴を塞ぎつつ回避に全力を注ぐことでなんとか二手三手をかわすも、戦う者としての練度に差があり過ぎる。パワーでゴリ押せない以上、長くは持ちそうにない。

 扉。入ってきたばかりのドアに向かいたいが、それも当たり前のように阻まれて辿り着けない。

 

 ちょっと思惑が理解できないが命を、いやこれは『私』を狙われているのか。やはり術式(笑)は使おう。

 二回目の呪力の放出に合わせて斬る用の手動術式(笑)を展開する。

 

「円、火車かな……?」

 

 私にはそれ自体が一撃必殺みたいな原作宿儺の綺麗な術式はどう唸っても使えなかった。

 原作宿儺とのキャラデザの差異を自覚した後にも、自信を持って、私という存在の全てを浚って洗って確かめたと言い切れるほど探ってみたが、そんな術式は持っていなかった。なので、切断の攻撃には安直に呪力を薄く鋭利に固めたマルノコを沢山用意する。そしてそれを猛烈に回して廻しまくる。以上。

 操作の練習は飽きるほどしたが、なにせ相手がいなかったので実戦においては拙いことこの上ない。本気で当てるつもりでも夏油先生には全く当たらない。右に左に上に下に、後ろに目でもついてるのかというレベルで簡単に避けられる。ので、とにかく数を増やして空間を埋めていく。

 

「多数同時操作、思ったより頭脳派だね」

「先ほども私は賢いと申告した筈だが?」

 

 性質上、円の動きが基本なため、相手にとっても機動は予想しやすいが、私は多少被弾しても良いので自分が走り回るよりは数段やりやすい。それに完全手動で『術式』ではない。取られても再現されない。量にものを言わせて壁を作ってしまえば夏油先生にも相性で多少は持つ。

 などと思っていた時期が私にもあった。

 

「 渦 」

「はあ!?」

 

 一切の躊躇なく私、ひいては悠仁くんに向けて呪霊ビームを構えやがる夏油先生。

 壁状に並べたマルノコの隙間から、渦巻き状の呪霊の塊が此方を見ている。半瞬出遅れたが、発動までのタイムラグのおかげで辛うじてひよっこボンバーでの相殺が間に合った。直撃していれば流石に消し飛んでいたかもしれない。

 

「──な゙」

 

 首が折れた。

 上下左右がめちゃくちゃになって硬いものに叩きつけられる。

 

 ……冷たい。

 

『ナクスそれ壁!!』

『あ? あー、……?』

 

 悠仁くんに言われてから自分がどうなったか思考が追い付いてきた。大技をしのいで気が緩んだところで首を蹴られたのだ。そうだ、これは『死』ではない。ただの石壁だ。

 『両面宿儺』になってから痛覚と感情の接続が甘いのが幸いしてさほどメンタルに響いてはいないが、私では当然のように普通に撃たれ弱いな。頭に強めのダメージが入ると思考が明後日の方向に吹っ飛ぶ。

 

「さて」

「さてじゃないが!?」

 

 首を治すも、意識が表層に戻った時点で既に首が完全に抑えられていた。

 壁を背に押し付けられて逃れられそうもない。呪力の放出で距離を取っても振り出しに戻るだけ。寧ろ、私の拙さが原因で、振り出しに戻るまでのサイクルが短くなるばかりだろう。

 ならば仕方がない。『降りる』『降りない』はこちらの土俵だ。先生の目的が呪霊操術での私の捕獲であるなら正面からやってやる。

 

「私の『呪霊操術』は文字通り呪霊を操る力とされてるけど、これは私が付けた名前じゃない」

 

 術式の開示。

 そうと分かった瞬間、脳死でノイズを走らせる。

 

「前にして見せたように、呪霊に限らず術式だけでも能力の対象だ。だから私はこれを『呪操術式(じゅそうじゅつしき)』と呼んでいる。それが呪いであるならば従えられない道理は存在しないつもりさ」

 

 この世界の呪術とは別の理屈を持ち出して、私を(クラック)せんと勢いを増した不正アクセスを完全に受け流す。

 

「……へぇ、面白いな。明らかに私が勝ってるのに凌ぐなんて。そもそも『術式自体が空ぶっている』みたいな感覚は初めてだ」

 

 そう言いながら、私の喉を抑える手の力が少し増す。

 CVに違わぬいかがわしさ。0巻よりも邪悪な笑顔。寧ろどうしてこれで先生をしているのか。

 

 透明な膜の上を大量の情報が滑っていく。

 現実世界のことも気にかけなければならないので、あまり深く精神を傾けてしまうと不味い。台風の日に窓の外を眺めているようだ。ガラスが割れないか不安になる。

 

「……ンフッ、ふ、っあは……!」

「何故笑っている?」

 

 術式を回すのは止めないままに、何故か突然夏油先生が噴き出した。

 理屈が分からなくて怖い。

 

「両面宿儺、虎杖くんに代わらないんだ?」

「心臓を貫いておいてどういう思考回路だ」

「虎杖くんがいなくなっても、まだ朱紅赤が残ってるだろう」

「???」

「朱紅赤が大事に育てられてきてるのも察してると思うけど、オマエとしては虎杖くんが特別大事な理由がある?」

「うん……?」

『どういう意味?』

「……あーと? ここで悠仁くんを見殺して、朱紅赤に鞍替えしないのかという話か?」

「そうそう」

『え゙!? 見捨てんといて!!』

「私とて、居候の身で家主を置いて助かろうなどという恥知らずではないつもりだ」

「ふーん、悟が言ってた『同居』って本当にそんな感覚なんだ? 普通の受肉だともっと混ざった感じになるらしいけど、ちょっと違うね」

 

 原作と違い、私が悠仁くんのことを『自分の身体』だと思っておらず、メゾン虎杖に部屋を借りているだけのつもりだからそうなったのだろうが、教えてはやらない。それに私の野望の都合上、混ざってしまっては不都合がある。お互いに『降りる』『降りない』はしても良いが、悠仁くんには極力人間でいてもらわねば。

 

「……」

 

 いい加減、私には術式が通らないと諦めてくれることを期待して、改めて夏油先生のお顔を伺い見る。悪い顔だ。現状、客観的に考えても夏油先生の方が圧倒的に悪役。ナクスちゃんは何も悪いことをしていないのに問答無用でいじめないで欲しい。

 

「……そのつぶらな瞳、面白くなっちゃうからやめて欲しいんだけど」

「は? これは自前だ。やめるやめないの話ではないし、四つのキュートな瞳がハエトリグモみたいで可愛いだろうが」

「アハッ、くっ……! じ、自覚あったんだね、フフッ……!」

「この世に可愛いものは幾らあっても良い。お得だ。ありがたく思え」

 

 この綺麗な目は貴重な『私』の持ち物だ。これをなくすだなんてとんでもない。

 

「……ふー、いや、仕切り直そう。それで、随分と律儀だけど、見捨てないことに縛りとか関係ある?」

「そんなに悠仁くんを殺したいのか? 夏油先生は寧ろ朱紅赤が器となることを歓迎していない方だと思っていたが」

「質問してるのは私だよ」

「ぐ」

 

 また胸に風穴があいた。

 いくら呪いに人権がないとはいえ悠仁くんの血肉だというのに。

 彼は躊躇という概念をお持ちでない様だ。

 

『悠仁くん大変だ、こいつイカレてるぞ』

『見りゃ分かる! ナクスなんとかならん!?』

『どうにもならんからこうなっている。私が助けて欲しいくらいだ』

『無理!!』

 

 この陰険な尋問、もとい拷問は五条先生が来るまで終わりそうにない。

 既に死んでいる私が表に出ている間はこれ以上死ぬことはないが、こうも呪いである前提で食ってかかられると流石に参る。私は本質的には『死者』であって、『呪い』の看板は建前でしかないつもりなので、積極的に人を害する気は全くない。とはいえ、呪術廻戦の世界ではそう主張してみたところで到底納得してもらえるとも思えない。

 

『……そうだな。最悪ここへ『降ろす』か』

『降ろす?』

『生得領域に夏油先生の精神を受け入れ、そのまま『死』の向こう側、幽世へ追いやる』

『それ先生死なない?』

『魂の欠損はさせん。先生の肉体は死亡判定(アカウント停止)されんよう私が維持する。五条先生が来たら蘇らす』

「で、両面宿儺、返答は?」

「ぅ、ゎ、……」

 

 夏油先生の催促に答えてやろうとしたが声が出なかった。気管に穴が開いて息が吸えていない。

 治すのも面倒になってきたが、その辺の理屈を無視して喋れることは伏せておきたいので律儀に傷を癒す。

 

「はぁ。別に器は必ずしも悠仁くんでなくても良いし、守ることに縛りは関係ない」

「なら何故?」

「ただ、私は子供を矢面に立たせるからにはそれなりに尽くすべきだと考えている」

「自分が積極的に矢面に立つ気はないのか」

「完全に盲点だった、一理ある」

『ナクスさん?』

 

 原作に囚われ過ぎていたかもしれない。

 渋谷までの流れを思い返すに、戦闘時にはナクス無双で敵を千切っては投げで行ってもダメな要素は特にない気がする。

 

「悠仁くん的にはどうだ?」

『……いや、ちょっと、人間性とかじゃなくて、オマエに任すのは心配って言うか……』

「お問い合わせをしてみたが悠仁ママの許可が下りなかったので、やはり私は基本的に奥の手扱いでいたいと思う」

「ふーん……? ❛「器は必ずしも」から「奥の手扱いでいたいと思う」までの発言、嘘はないって自分の存在を懸けて証明できるか? ❜」

「……? ❛ 是 ❜ ではあるが、縛りを乱用するなと教えておいて、何故ここで縛りを……?」

「 あ  は は  は は  は !! 」

 

 理屈は全く分からないが夏油先生はひとりで大ウケし始めた。

 私の首を掴み胸に腕を突き刺した状態で大口を開けて歯を覗かせて喉を逸らして、いきなり悪役三段笑いの最上位。怖い。

 

「良いねぇ! 合格だよナクス!!」 

『なに? なんの話?』

「情緒が全く分からん……」

「私はきみを人間として扱ってあげようじゃないか!」

 

 

    タ イ ム 。

 

 

 この発言が『夏油傑』から出たということが大変に問題だ。

 やはりこの人、『離反はしていないが闇落ちはしている』状態では……?

 

「❛ 私と真面目な理由で敵対しない限り、私は虎杖悠仁またはナクスに対し、私個人の都合でそちらにとって理不尽な形で術を仕掛けない ❜。これでこの場は良いだろう、尋問は終わりだ」

「蹴ったり殴ったりもするなよ」

「その時は悟にチクってもらって構わない」

「……」

 

 怖すぎるが、手を放して貰った後で身構えるのをやめる。

 一応そこに腕や脚が撃ち込まれることはなくて一安心だ。心臓がなくても死にはしないが、心臓に悪い。胸の穴を治して血の巡りと呼吸を入念に確かめる。詰まりのある状態で悠仁くんに返そうものなら血栓だとかでうっかり死にかねんからな……。

 

「あれ、もしかしてチクるのもう確定?」

「当たり前だろうが。随分と好き勝手ボコしてくれたが結局のところ冤罪だぞ。正面から質問すれば済んだ筈のことに対して手段がえげつなさ過ぎる。人間性のサービスが終了しているな」

「あっはっは! 用意された返答だと抜け道があるかもしれないからね、できるだけ咄嗟の言葉が聞きたかった。それに私の人間性は十年前にサ終したよ。ここにいる私はその時に壊れてしまった夏油少年の名残り、亡者みたいなものさ」

 

 やっぱ闇落ちしてるやんけ!!

 

『ナクス、もう代わって平気だよな?』

『ん』

「用が済んだなら私は戻るが、構わんな」

「良いよ」

 

 悠仁くんとバトンタッチ。

 

『はぁ~~~~~~……』

 

 ようやっと緊張を解いてお座敷で横になって、へっちょりと溶ける。メゾン虎杖に引っ越してから一番緊張感があった。

 というか、夏油先生は済んだ話だからと雰囲気で誤魔化そうとしているが、呪霊操術で私を掴まえられていたら絶対に取り込む気だっただろう。マジで油断ならねぇ。心、許さず接していこう。

 

「さて虎杖くん」

「……うん」

「怒ってるね」

「そりゃそうだろ」

「気持ちは察するよ。でもきみ、本当なら私や悟、特に恵に対して、その為の場を設けるくらいの心構えで伝えるべきことがあるんじゃないのか」

 

 はた。

 

 音が聞こえそうなくらいの精度で、悠仁くんの動きが完全に停止する。

 

「ほら、謝罪とか、感謝とか、色々とねぇ?」

「……あ、いや……ウン、ソウカモ……」

「いやぁ、色々とあったからさ、最初はちょっと待ってあげようと思ってたんだけど。一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、これは完全にその気がないなと判断して今に至るワケだよ。反省したかい?」

「はい……」

 

 悠仁くん……、先生はそれらしいことを言ってみてはいるが、だからといってアレは明らかにやり過ぎだからそこまで落ち込まなくて良いぞ。厚かましく生きていけ。

 

 

 




夏「ナクスが助けに出て来なくても硝子緊急コールで助けるつもりはあったし、大体、私がもっと本気だったら態々手なんか握らないで初手で領域展開してるよ」
悠「ひぇ」

全てが完全に破壊された夏油傑からしか摂取できねぇ栄養素がある。

それにしてもナクス、書けば書くほど諏訪部さんの声ではないなと思う。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。