その頃の真希真依。
タイトル混線事故回避の為に話数を分けてみたけどあんまり効果なかったかも。
----真依視点----
隠蔽の結界を施した空き教室。
特別製の札を剥がして、眼球の浮いたガラス瓶を机に並べる。
深追いし過ぎた反動で昼間倒れた甲斐あって、ようやく内側に結界が保てるまでになった。
それを青い瞳が覗き込む。
「うーん、内側に場を区切るだけの結界。以上か。百点中、二点てトコかな」
二点。
最初の一つから半年かかって、五十分の一。
「課題以前の問題。やっとやりたい内容に手が付けられたって感じ? ま、この調子でもっと煮詰めて来てよ」
「無茶言わないで。眼球創るのに視力が1.0保証できるまでにどれだけかかったと思ってんのよ。毎日必死に顕微鏡覗いて、自分の視力が下がりそうだわ」
「一年。それまで散々自分の術式から逃げてたにしては才能あるんじゃない?」
「別にやりたくもなかったのに、指差して大声でコイツ才能ありますよって言いふらした人でなしはアンタなんだけどね」
「じゃあこんな
失敗作の呪物は新しい札で改めてきっちり封印された。
後で任務の時にどさくさに紛れて消し飛ばされる。
「デリカシーのない男は嫌われるわよ」
「は~? 誰に?」
「まず私よね」
「それから?」
「歌姫先生」
「適当言うね~」
「は?」
「高専時代からなかよぴだもんっ」
きゃぴ。
眩しいくらいに痛々しいぶりっ子を披露された。
嘘でしょ。
この男、本気で言ってるのかしら。言ってそうね。顔の造形がバカの免罪符になるのは十代までよ。
歌姫先生のお土産はちょっとイイヤツ買って帰ろう。
「でも良い時代になったよ、まさかご家庭で肉が培養できるなんて」
「……」
今のをマジで冗談だと思ったらしい五条悟は、目隠しを戻しながら飲みかけのポカリスエットをちゃぷちゃぷさせた。
この無自覚のアホの言う通り、私は人の細胞を培養している。
外向きに創ってるのと別のことをするには呪力を節約しないといけないから、基礎練習の為の基盤を科学で捻り出す。
といっても、培養方法は別に自分で研究したものじゃなくて、家入硝子に渡されたマニュアルに沿ってやってるだけだし、元になった情報は牛肉とか豚肉を培養する為のものだったけど。
「良い時代かしら……?」
「練習し放題でしょ」
「どこにも許可取らないで肉の膜が張ったシャーレ並べてるの、すっごい違法っぽいんだけど」
「呪術界にも一般社会にもまだ『人肉の培養は違法』みたいなルールないよ」
「まだなだけで今後三十年以内に違法になりそうじゃない」
「大丈夫! 悪いことはしてないし、法律は時をさかのぼって適用されないから。今のうちにガンガン増やしてガンガン練習しよ!」
口ぶりが完全に脱法業者のそれ。
「頭が痛くなってきたわ。……言うことないなら私もう行くから」
ていうかこの目隠しの不審者に法律の知識があるの、マジで『嫌』なんだけど。
鞄の底板の下に新しい札をしまい込んで教室を出る。
「真希に会ってかないの」
「……顔も見たくない、分かるでしょ」
* * *
----真希視点----
「真希~、真依来てたよ~」
「来たな。ノンデリの天与呪縛を持つ男が」
「こんぶ」
「パンダでももっと気遣うぞ」
「……」
一年をパシったタイミングで、妹が制服の襟首を掴まれて子猫みたいに持ってこられた。
ムリヤリ病院に連れてこられた猫の表情をしてる。
「だから、別に話すことなんかないわよ。呪力すらない万年四級と人体錬成の呪術師とじゃ、レベルが違い過ぎて会話が成り立たないもの」
「ツンデレ語を翻訳すると、術式の調子はまぁボチボチって感じで元気によろしくやってるってトコかな」
「ほんとかよ、こないだ鼻血が止まらなくてぶっ倒れたって聞いたぞ」
「なんで情報筒抜けなのよ!!」
「えっ、僕それ聞いてない」
直哉が硝子に拉致られて飲まされて吐かされてる(ダブルミーニング)からな。
アル中の息子の癖に、安酒ちゃんぽん喰らうと一瞬でペース分かんなくなって簡単に屍になるらしい。度数覚えりゃ良いのに意地でも安い酒のことは覚えないから、毎回グループLINEに潰れた写真が上げられてる。
「さぁ?」
「……情報漏洩で始末されても知らないわよ」
「漏洩した上が怒られるんじゃなくて知った側の下っ端が殺されんの、いかにも
「理解できたかしら、もうアンタとは立場が違うんだから弁えてよね」
「おかかしゃけ」
「おかかしゃけじゃん」
「おかかしゃけだよな」
「おかかしゃけだねぇ」
「なに通じ合ってんのよ!!」
「ツナマヨ! “ 真依、素直になれ ”、ン゙、ゲホッ……!」
名指し。棘が吐血した。
無防備だったし呪力差めちゃくちゃあるハズだろ、どんだけ力いっぱい言ったんだよ。
「うっ、ア゙、お゙ッ……! お゙ね゙ぇ゙ぢゃ゙ぁ゙ん゙!!」
真依が号泣し始めた。
悟がスマホを構えた。
棘は血まみれの手でサムズアップした。
パンダは体から取り出したポケットティッシュとビニール袋を真依と棘に無言で渡した。
バカしかいねぇ。
最高だな。
「もう実家帰りたいんだけど!! いつ呪術師やめるのよ!! エンドレス人体錬成でしょっちゅう鼻血出してぶっ倒れてるくらいなら出戻りで一生下っ端で良いのよ私は!! おかげですっかり鼻炎持ちよ!!!」
「もう私がどうなろうとオマエに影響ねぇだろ」
「イ゙ヤ゙!! こんなことになるならあの
「傑のこと素直に呼ぶと
構築術式。
無から物体を産み出せるが、術式に必要な呪力が膨大すぎて、真依じゃ丸一年丁寧に鍛えられても片手で握り込める程度のモノしか創れない。呪力量は鍛えても上がるもんじゃない以上、この先サイズが上がる見込みもほとんどない。
だから悟が傑と強めの喧嘩をして傑の前歯をどっかになくすまでハズレ扱いの術式だったし、真依自身、自分に術式があること自体、ずっと言わないでいた。
でも前歯を調達したかった悟が真依の術式を言い当てて、『人体錬成』の可能性を京都の学長の目の前で話した。そっからはもうあれよあれよと出世して籠の鳥よろしくだ。
硝子にすらパーツがなければ他人の部位欠損を治したりはできない。
指一本、眼球一つ。一日に一人分が限度でも、あるのとないのじゃ段違いだ。
「お陰で傑の顔面が無事に修復できたって悟にも感謝されたろ」
「だから権力者からの注目とか要らないのよそういうの!!!!!! 今まで散々、役立たず扱いしといて急に掌返されでも゙、行きつくのがこれなら寧ろ状況悪くなってん゙の゙よ゙!!!!!!!!」
真依はギャンギャン吠えた後、律儀に鼻をかんでビニール袋に捨てた。
「はぁっ、もう!! バカみたい!! 最悪!! クソ呪言師!!!!」
「じゃげ!」
硝子の愚痴によると、ぶっちゃけ『ちょっとくらい欠損しても真依に創って貰えば良い』の気持ちで、術師の怪我人の割合は寧ろ増えたらしい。で、硝子の京都出張で直哉が屍になるサイクルが完成した。
真依からしたら『治るならOK』みたいな捨て身の考えもムリ過ぎてめちゃくちゃに怒るが、皮肉と罵倒も要約すると『怪我をするな』の
「オマエもう保健室で寝て来いよ」
「……東京まで寝て来たからそれは良いの。観光して帰るし……」
「散々文句言っといて適応してんじゃねーか」
「適応せざるを得なかったのよ! こうでもしないと折角実家から出てるのに貴重な青春が蒸発するわ」
「帰りたいのか帰りたくないのかどっちだよ」
「だ・か・ら! 私はずっと雑用で良かったって言ってるじゃない! 姉が術師やるなら妹も前線出て当然だ、とかで引っ張り出されたと思ったら、今度は命狙われるから護衛付ける、身の振り方考えろとか、マジで本当にあり得ないんだけど!! 姉妹、だから、おいてかないって言ったのに、なんでっ、私と、落ちぶれてくれなかったのよ、……バカ!! 嘘つき!!!!」
真依はポケットティッシュとビニール袋を握りしめたまま走り出した。
……ここで追いかけたらマジで嫌われそうだから放っておく。
「私としちゃ、あの家で雑用で良いって言ってんのがもう良くねーんだけどな」
「禪院、家事の扱いで給料出さないよね」
「何時代よ、今時パンダでも働いたら給料貰えるのに」
「戦国とかだろ。直哉が高専から話持って帰るまで、XY染色体の知識も男性不妊の概念もなかったくらいだぞ」
「ずじご」
「棘は早く保健室行け」
「じゃげ」
本人が乗り気じゃないのが一番でかい問題だが、禪院とかいう蠱毒の檻がなくても、もう真依が路頭に迷う様なことはない。
これで私も心置きなく自分の為だけに猿山ぶっ壊せるってもんだ。
「おい悟、動画」
「今送った」
「助かる」
後で真依から悟がスマホを構えてたことについて大量LINEと鬼電が来たけど、全部しらばっくれといた。
* その頃の応接室 *
夏「 (圧) 」
楽「 (汗) 」
三「(生夏油傑、こわ……)」
※夏油先生は朱紅赤だけ応援に行かせて夜蛾先生が来るまで無言で二時間居座った。
猿山:
東京校では超次元マウンティングモンキーどもの巣窟のことを指す。
早く直哉にXY染色体の知識と男性不妊の概念を持って帰られた時の禪院家の話が読みたい。書かないと読めねぇ。
一体何年後になるんや、テノジョシリーズがそこに到達すんのは。