手違い夢主の彼女たち   作:空下眼子

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夏休み期間にちょっと原作にないことをします。
因みに今回の食レポのために実際に酢味噌を作ってキュウリを食べた。

・タイトルの『』が抜けてたのでそこだけ追加しました。(2025.10.28)
※ちなみに『』は本編とそれ以外を分ける意味しかないです。忘れて番外編にも付けてたら「そう言ってなかった?」って突っ込んでやれば直すと思います。


『なつやすみのおもいで』

 

 夏休み。

 とかいうものは夏が繁忙期の呪術界隈では実質存在しないに等しいが、一年生達は頻繁に友情崩壊ゲームを仲良くやっている。基本的にリアルファイトへ発展することもなく平和だ。良い子過ぎる。

 

 途中、朱紅赤の呪力を受け止めるクマちゃんの中がどうなっているのか気になって聞いてみたら、クマちゃんの中でエッグい呪具が作られていることが発覚したり、しかもそれを夏油先生が呪霊に飲み込ませて取り込んだり(恐らく未申請)、悠仁くんの代打で私が参戦したら、いつ親の仇になったのかというレベルで集中攻撃を喰らったりしたが、まぁ平和だ。

 それ以降、私はスマブラの時は練り飴みたいにした粉珈琲をティースプーンで少しずつ食べて大人しく観戦している。

 

 本日はそこに浮かれた大人が乱入。

 

「キュウリ食べる人〜!」

 

 保冷バッグを抱えた五条先生。

 既に冷えているのですぐに食べられる。気が遣えて偉い。

 原作の五条先生だったら収穫したものを直に持って来そうな雰囲気がある。

 だがそれを知る者は私しかいないので例の如く誰も褒めてあげない。

 

「あのねぇ、イマドキ高校生相手に差し入れがキュウリって……」

「実家の畑で取れたキュウリだから一本千円くらいすると思うけど」

「ありがたく頂こうじゃない」

 

 釘崎くんの手首が綺麗に返ったところで伏黒くんがキュウリを受け取り、朱紅赤と台所に直行した。

 良く分からないが『いつもの』らしい。

 

「朱紅赤何作んの?」

 

 伏黒くんがピーラーとまな板包丁を揃えた横で、調味料を並べ出す朱紅赤。

 悠仁くんが朱紅赤を後ろから覗き込む。

 

「酢味噌とかいう気の狂った調味料」

「???」

 

 味噌:砂糖:酢

 2 :2 :1

 

「……砂糖多くね?」

「五条家のレシピと同じ分量だ」

「先生に騙されてるって! 俺ん家のと違う! 爺ちゃんキレるわそんな砂糖入れたら!!」

 

 悠仁くん、原作より先生のテキトーさへの理解度が高いな。

 

「黙れ。味は良い、何度も作っている」

「待って待っ、あっ、ウワ!! ブチ込んだ!!」

 

 景気よく味噌に砂糖が溶け込んでいく。

 これは平安的に言えば、ダイヤモンドに金粉を塗すが如しの欲望詰め込み贅沢調味料だ。大量生産の調味料を愛してしまったらもう呪いの王には戻れないと思う。お姉様も人のこと言えませんわよ。

 

 出来た酢味噌を少しだけ小皿に取り分けて貰って、悠仁くんが味見。

 

「やっぱちょっとあま過ぎん?」

「ハァ? これが美味いんだろうが!」

「ダメじゃないけど〜! 俺これお砂糖半分でマヨと七味混ぜたい!!」

「作れ」

「任せろ」

 

 続いて虎杖家のお爺ちゃんレシピが炸裂。

 姉弟の仲が良くてほっこりする。

 ここで私が表に出ようものなら一瞬で『両面宿儺のキャラ崩壊地雷です』みたいな空気になるので、黙って見守っておこう。

 

 伏黒くんが縞模様に皮をむいて適当な大きさに切ったキュウリを大皿に盛る。

 酢味噌も二種類ついて飽きの来ない贅沢な仕上がり。

 

「ねぇ、ていうか五条家って農業もやってんの?」

「まーね。僕らお命頂戴案件が多いじゃん? 毒殺とか嫌だからね」

「血の味とかしないでしょうね」

「努力の味さ」

 

 五条先生と釘崎くんが机の上を片付けて取り皿を並べていく。

 

 一通り準備が終わって、お行儀よく全員揃ってから手を合わせた。教育が行き届いている。

 尤も、大画面テレビにはスマブラの地獄みたいなサドンデス試合が一時停止で映っているが。

 

『ナクスも食う?』

『食う』

 

 私の分も悠仁くんが取り分けてくれた。

 紙皿に割りばし。食べ終わったらお返しせずに消し炭で良いので不便がない。

 

「アハハ、あーあ……」

 

 悠仁くんの腕から紙皿が吸い込まれるのを見た五条先生が乾いた笑いを溢す。

 

「どういう感情の笑いだ……?」

「ナクス、もうなんか考えるほど意味わかんなくって」

「え? コレってもしかしてそんな高等技術なん?」

「知らん」

「良く分かんないままやらないでくれる?」

「失礼な、理論はある」

 

 領域から体表までは出てこれる + 物は問題なく飲み込める = 体表から領域に物を取り込める

 という説明をしたが、五条先生は納得してくれない。下の歯を歯茎まで剥き出しにされた。

 

「生得領域は物理的な異空間じゃなくて、心象風景みたいなもんだよね? 心の中に質量のある物体を取り込めたらおかしくない?」

「だが私は実際生得領域に『いる』し、適当に作った口で物が食えるぞ」

「それって即興で悠仁の肉体を作り変えてるだけで、食べた物は悠仁の身体に流れてると思うんだけど」

「??? 頬や腕に口を作っても、私の口腔が悠仁くんの口腔に繋がったり腕の筋肉を圧迫することはないだろ」

「……そうかも……?」

「先生の理屈では悠仁くんが腕で飯を食える体質ということになってしまう。腕から胃に食べ物が謎ワープするよりは、私の領域に落ちてくる方が自然な流れではないか?」

「なんかナクスの言ってることが正しい気がして来た」

「だろ」

 

 うん、やはり私は天才だった。キュウリうま。

 甘いのも良いが、私的には虎杖家のレシピの方が好みかもしれない。『すみ「マヨネーズです!」そ』みたいな味わいが一粒で二度おいしい。

 外野は先生が丸め込まれただの、自分ルールでこの世の理を踏み潰しているだのなんだの言っているが、実際に今目の前にキュウリがある以上、間違ってはいないと証明されている。

 

「そも、伏黒くんの影収納も半分くらい領域とイコールではないのか?」

「アレは窓口って言うか、あの中に直で式神が入ってるワケじゃないじゃん」

「私としては、BLEACHで言う断界(だんがい)的な空間なら、そのまま奥に向かえば領域に到達すると解釈できるが」

「……恵」

「やるにしても万全の準備をしてからじゃないと、最悪領域に到達した瞬間に初手魔虚羅で死にますよね」

「一理あるかも」

「百理くらいあってください」

「……ん~、ていうか、展開してない領域に入るって、どうなるかな。術式は脳にある。領域もまぁ脳にあると言って良い。自分の脳内に自分が物理的に移動するって何? ナクスの言ってることがまかり通るなら可能な気はするけど、下手したら帰って来れなくなる……?」

 

 ヒューッ! バトルジャンキー!

 先生、最強の癖に更に強くなることに余念がないな。まぁ常に呪力とか術式が目に見えてるから、呪術オタクみたいな感で紐解くのが癖に成っているのかも知れない。

 

「おっと、ごめんごめん、この辺は後で消化するよ。それより実はお土産ついでに悠仁に渡すものがあったんだよね」

「なになに、何くれんの?」

「はいコレ」

 

 数学Ⅰ・A入門

 化学基礎

 物理基礎

 

「あ……ぇ……、な……夏休み期間なのに……?」

「夏休みだからやるんじゃん??? 夏の間に苦手科目追い付くくらいはしとかないと。悠仁、流石に成績が原因で留年はマズいよ」

「へぁ……」

 

 悠仁くんはこの世の終わりみたいな顔でテキストを見つめている。

 だが安心して欲しい。私は理数系には自信がある。遂に悠仁くんに私が頭脳派であることを分からせる時が来た。

 

「あと、恵と野薔薇に任務概要」

「普通こっちメインじゃないですか?」

 

 二人に渡されたのはA4のクリアファイル。

 重めの任務らしい。

 

「埼玉~? 連泊なら横浜とかが良かった」

「平日の昼間にうろついてると大人が付いてても怪しまれる。長期休みの時期はフィールドワーク系の任務がやりやすくて良い」

 

 埼玉。

 ……それってもしかしてぇ、八十八橋じゃあ……ないですかぁ……?

 

 まだ八月になったばかり。

 何もしていないのに原作が盛大に壊れている。

 

 そっと朱紅赤(ようぎしゃ)を伺い見る。

 お砂糖たっぷり版とマヨ版の酢味噌を両端に付けたキュウリを幸せそうに口へ運んでいた。可愛い。一生そのままの感覚で幸せに過ごしておいて欲しい。

 

「あっ、真希さんも来るのね」

「それ僕が行って結局なんも見つからなかったヤツ。どうにも呪力がある相手には姿を見せないらしくて」

「伊地知さん泣いてたヤツですか」

「そうそう!」

 

 違った。

 知らん任務だ。

 

「はぁ!? 待ってこれ明日から!?」

「そーだよ? 野薔薇なんか予定あった?」

「乙女にはスキンケアとか色々間に合わせじゃどうにもなんないものがあんのよ!!」

「小分け用のボトルなら部屋にあるぞ」

「恩に着るわ」

 

 朱紅赤、反転術式とか呪術的な手段じゃなくて地道にスキンケアしてるのか。

 

 私のことをとやかく言えないのでは?

 JK生活を満喫してるご身分で呪いの王が何かを語るとは……、可愛い。推せる。推す。

 

 代わりに私も安心して呪いの王を満喫しよう。

 勿論、悪戯に一般人を傷つけたり殺したりしないし、悪意を持って人類と対立する気もないし、何なら人類には末永く繁栄しておいて欲しいくらいだ。インターネットのない世界とか退屈で生きていけない。

 

 呪い(まじない)の王に、私はなる。

 

 その手始めに悠仁くんに数学を教えねば。

 

 




この後めちゃくちゃ勉強が捗って二人でキャッキャした。
虎『わ、分かる……! 俺、天才だったかも……!』
亡『そうだ。テストの点数ではなく、その喜びを大切にしろ』
 
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