手違い夢主の彼女たち   作:空下眼子

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真冬に真夏の話をしている?
どうせやってる間に現実の季節が巡るからでぇじょぶだ!!


『赤い女』 その2

----釘崎視点----

 

 津美紀さんに、女同士の話がある、と切り出されて、弟の方の伏黒は先に真希さん達に合流させられた。

 

「話って?」

「その、初対面でこんなこと聞くのもアレなんだけど、恵と朱紅赤のことで……」

「あー……、それって、どこまで行ったかって話で合ってます?」

 

 津美紀さんは無言で小さく頷く。

 

「両想いだろうなぁ~~、で止まってますね。少なくとも付き合ってる感じはないです」

「うーーん、そっかぁ……」

 

 お姉さんヤキモキしてたんだ。そうよね。あの距離感の割りに何も始まってないから私も凄い気になってた。ふざけるでもない無言のボディタッチがある。で、なんか空気が重い。あの絶妙な感じ。

 二人してそういうこと話さないから絶好の機会。

 

「……因みに、いつから?」

「たしか、一昨年の六月かな。土曜日に二人が任務に行って」

 

 中二で任務行ってんのはこの際スルーで。

 

「土砂崩れに巻き込まれたって言われて、凄く心配したんだけど、二人共無事に帰って来てケガはなくて……。でも、朱紅赤が恵の方見てぼんやりしてたの。朱紅赤、それからしばらくそっけなくなって……、元に戻った後は、髪、伸ばすようになったりとか……」

「え、じゃあ、それまで」

「うん、釘崎さんより短かった」

「……めっちゃ応援したいんですけど」

「そう? 良かった~、二人とも『好きです付き合って下さい』とか言う感じじゃないから、距離は詰まっても全然何も始まらなくて」

 

 津美紀さんが知る由もないけど、たぶん、朱紅赤が死ぬ予定だったからずっと保留にしてたんだとは思う。

 でも、簡単に死ぬハズがないあのハエトリグモが参戦してきた今となっちゃ、死刑とか関係ないわね。ぶっちゃけ虎杖も死ぬ気なさそうだし。

 

「実際もうどっちかが告ればそれで解決な雰囲気ありますよね」

「ある」

 

 力強い合意。

 

「お姉さん公認なら遠慮なく背中押します!」

「ふふ、ありがとう、お願いね」

 

 そう笑って、帰り際にスタバのカードをくれた。お洒落。イカす。

 虎杖には悪いけど、あの間に割って入るのは何かしらの罪に問われるヤツよ。実の姉だし大人しく諦めときなさい。

 

 

 

 

 

 

 まずは依頼者の住民に挨拶。

 実際に姿を見たワケじゃないけど話通りの状況で怖すぎるから、早くなんとか解決して欲しいと号泣。

 

 元々マンションの治安も良くないし、他の住人は真面目に受け止めてないどころか手紙の内容すら見てなかったりで、依頼者だけがだいぶ神経すり減らしてる感じ。

 幸い、管理人が窓だったからそこ経由でなんとか今回の依頼に繋がったらしい。

 

 もう引っ越したら……?

 と思ったものの、まぁシンプルにお金がないとか色々事情ありそうだし、世知辛いわね。

 

 話もそこそこに、依頼者本人は数日親戚の家に泊まるから終わったら連絡してくれと言い残して、さっさといなくなった。

 

 

 そんなマンションの二階。

 

 

「げ」

 

 外廊下なのに、まるで家の中みたいに段ボールが積まれてる。

 それも箱の痛み方からして、一気に届いた大量の荷物じゃなく、住人が家の中に入れないから後から後から積まれたって感じ。

 

「呪霊案件じゃなくてもシンプルに治安ヤバいわね」

 

 T字になった廊下の左右を見れば、左奥の部屋のドアポストに尋常じゃない量の紙束が詰まって、風に煽られて揺れている。

 なんなら数枚は床に落ちてるし、一人暮らししかあり得ない狭さのマンションなのに、突き当りの手すりにビニール傘が何本もかかってる有様。

 

「そうか? 家賃と面積ギリギリ攻めてる賃貸なら大抵一人くらいはああいうタイプいるだろ」

「なんか実体験でもあんの?」

「まぁ、そういうとこに住んでたからな」

「なんで今になって初耳情報出てくんのよ」

「……オマエこそ、楽しくやってる時に実家のクソ田舎の話したいかよ」

「したくね~、分かった聞かないでおくわ」

 

 知り合いの呪術師、大抵実家に問題がある。

 呪術師だからって家庭環境が悪いのとはイコールじゃない筈なんだけど、虎杖の家でさえ、本人のあずかり知らない所で陰謀が渦巻いてた気配がある。クソね。

 

「待て」

「真希さん?」

「それ、『手書き』だろ」

 

 真希さんが床に落ちた三つ折りの白い紙を一枚拾う。

 覗き込めば、良くあるチラシじゃなくて、文房具屋で買えるような『手紙』用の便箋で、歪な文字が透けて見えた。

 

「残穢あるか?」

「全然」

「俺も何も感じません」

 

 真希さんはそのまま紙を広げる。

 

 ”赤い女に気をつけてくださいいんたほんをシツヨウにおして来たりのっくをシツヨウにしてくる全身まっ赤な女せいにチュウイしてくださいその女はつきあっていたカレシにむごたらしく殺された女で犯人のカレシをさがしていますどあをあけてしまったらかくしもっていた刃もので殺されますたいしょ法はレイカンのある友だちに来てとたのんで来てもらうしかありません赤い女に気をつけてください”

 

「資料のと似たようなヤツだな」

「手書きの実物エグ」

 

 横線が引かれただけのシンプルな便箋で、その横線を無視してボールペンでびっしり書かれてる。

 こんなに拙い文字なのに、不思議と修正ペンだとかで書き直した跡はない。裏は普通に丸っと白紙だった。

 

「寧ろ呪霊じゃない方が問題があるぞ」

「悟が見て残穢がないって言い切ってんだから、その可能性はあるっちゃある」

「ヒトコワ極めすぎでしょ」

 

 その他は何件かのドアポスに手紙が似たような刺さってるくらいで大した進展もなく。

 屋上は鍵がかかってて、柵を乗り越えて入ってみたけど、残穢もビラもない。

 

 途中、住人が家から出て来てビビったけど、今のところビラ以外の被害は何もないし、今回の任務のこともふんわり説明はされた上で普通に生活してるらしい。

 まぁベッド置いたらそれで部屋半分埋まるみたいな物件に住んでる人間はそうかもしれないわね。

 

「……ねぇ、残穢は『残ってない』んじゃなくて『感じられない』だけって線、ない? 犯人に『釘』を刺してみたいんですけど」

「やめとけ野薔薇、今ここでやっても祓えたか確認できねぇ」

「チッ、もどかしいわね」

「俺も今日のところは先輩に任せて、標的が釣れるのを待つしかねぇと思う」

「おー、任せとけ」

 

 怪談の方の情報だけど監視カメラには映ったってことだから、真希さんだけ道路側からは見えない位置で待機してもらって、私と伏黒、曽我部(そがべ)さんは少し離れた管理人の住宅でカメラを眺めてひたすら待つ。

 

 

 で、十分が過ぎて、一時間が過ぎて、お昼になった。

 

 

「一旦やめないこれ? やることないバイトが辛いってのが良く分かったわ」

「確かに出くわした話は夜だけだしな……」

「曽我部さん、真希さん呼んでご飯行って良い?」

「あ、はい。えーと……、そのまま、ホテル近辺で夜まで、待ちますか……? 霊感がなくても、夜でなければ出現しない可能性が……、高そうなので……」

 

 ノートPCで黙々と別の仕事をしてた曽我部さんに確認すれば、二言返事でOKが出た。

 

 呪術師に見えないだけじゃなくて、ある程度条件が揃わないと非術師の前にも出てこないのかも。

 立ってるだけの真希さんにLINEを送る。

 

【全然来ないんで夜改めて張りません?】

【わかった】

 

 光の速さで返事が来た。

 撤収。

 

 

 

 

 

 バカ熱い中、その辺のカフェでお昼ご飯を食べて、ホテルで休憩がてら作戦会議。それ用に借りた部屋で、机を囲う。

 こういうのはちょっと特別感があってテンション上がる。高専に来て良かった。

 

「で、夜出直すとして、それで来んのか? 三日三晩、ただ突っ立ってるだけで何の収穫もなしでした。じゃ、お話にならねーぞ」

「依頼者も出くわしたワケじゃありませんし、そもそも赤い女自体、毎日出る話じゃないのがキツいですね」

「いつもの任務なら現場行けば隠れててもいるにはいるのに、その辺にいるかどうかすら確証ないって、どうしろっつーのよ」

 

 ソファに腰掛けて、曽我部さんが自動販売機で買って来てくれたカフェオレを飲む

 曽我部さん本人はそのまま鞄に財布をねじ込んで、代わりに任務の資料とスマホを取り出した。

 

「ひとまず……条件の洗い出し、ですかね……」

 

【出た話】

 ・深夜

 ・霊感のない人間

 ・直接遭遇は1人きり

 ・マンションの外からは大人数でも確認済

 →その中の1人が確かめに行くと消えた

 ・家(マンションの1室)に帰ると遭遇?

 

【その他】

 ・同時進行で複数の建物を跨った話は見つからない

 →出てない間に他の物件がターゲットになっている可能性は低い

 ・監視カメラに映ることもある

 →意図的に姿を現すこともできる?

 ・霊感がある場合、直接遭遇ではなくドア越しに接触のケース有り

 ・赤い女に「成った」話がある

 →その間の記憶は失われている

 

 白紙部分に書き出してくれたは良いけど、あんまり見えてこない。

 遭遇条件はかなりぼんやりしてる。

 

「これって実際、どういう背景、なんですかね……」

 

 ペンを置いた曾我部さんが両手でコーヒー缶を揺らしながら呟く。

 

「どうって?」

「付き合っていた彼氏に、裏切られて惨たらしく殺された……。SNSなんかを見ても、こう……、そこに至るまでの経緯が全く語られていないので……不思議だな、と」

「確かに、ストーリーないですね」

 

 伏黒は頷くけど、口裂け女、ベッドの下の男、トンカラトン。

 こういうのって派生は色々あっても、具体的な事件と結びついた噂話でもなければ適当に穴埋めされてるイメージ。

 

「そう? 都市伝説って、バックストーリーは雑なのが普通じゃない?」

「その雑なバックストーリー自体が殆どないだろ。凶器描写も少ない」

「言われてみれば……」

 

 改めて資料を見る。

 赤い女の『隠し持っている刃物』は果物ナイフのパターンもあるけど、怖い話で果物ナイフ?

 包丁とかアイスピックとかじゃないのが嫌に生々しいのに、その描写はあったりなかったり。ってことは、凶器はあんまり重要じゃない。

 

「例えば鮫島事件みたいな曖昧な話は有名でも中々呪霊に成らないが、先に話があってすぐ仮想怨霊化して、そこから爆発的に広まったのが口裂け女だ。名前のある怪談の仮想怨霊にとって、分かりやすさってのはかなり重要で、如何に単純な話で恐怖を煽るかが強さに繋がる」

「……伏黒、なんか、イヤに詳しいけど」

「夏油さんが俺の中学で呪霊作って収穫してた」

「呪詛師?」

「上にバレてないからセーフだ」

「アウトよ」

 

 あの人マジで倫理死んでるわね。

 特級じゃなかったら上層部のジジイ達も処刑以前にグーで殴りに来てるレベルの所業。

 

「今の、お話を踏まえて……、赤い女って、核心部分はありつつ、絶妙にまとめにくい、ですよね……」

 

 ・赤い女に注意してください云々のビラがポストに入れられる

 ・その手紙を入れてる本人が赤い女

 ・忘れたころにマンションの廊下で待ち伏せされている

 ・隠し持っていた刃物で襲われる

 ・霊感のある友達を呼ぶと助かる

 

「これ、怪我をしただの攫われただのって直の体験談はないよな。赤い女本人が危険だ注意しろ殺されるって言ってる割に、呪術師側にも刺されたって被害報告は来てねぇし」

「そうですね、どれも結局助かった、なんだったのか? って段階で話は終わってるんですよ。だからこれまで仮想怨霊化しなかった、ここまでは合ってると思います」

「赤い女のビラの話は……、主に、怪談好きな人たちの間で共有、されています。ですので正直……、これを好んでいる人間は、怖がってはいても、それほど、負の感情がある様には、見えません……」

「じゃ、そもそもなんで今更出て来たのかを考える必要があるってワケね」

「悟はなんか言ってなかったか?」

「俺達にパスすることになった時点で丸投げです」

「あいつマジでそーいうとこあるよな……」

 

 よく言えば自主性を重んじる。

 悪く言えばテキトー。

 教師らしさと言えば、ひたすらフィジカルの基礎を積ませてくる印象しかないのよね、あの目隠し。

 

「ナクスの指……」

 

 伏黒の呟きで、少年院のミノムシみたいな呪霊のことを思い出す。

 

「二人は少年院で両面宿儺の指を取り込んでいた呪霊の様子が可笑しかったって話、聞きました?」

「傑からざっくり聞いた」

「伊地知さんから、報告書を頂いたので……把握はしています。知能が低い、というより、恐慌状態の様で……、自分の領域から、出られないような言動があった……ですよね?」

 

 前提は真希さんも曽我部さんも承知の上。なら話は早い。

 確かにあの時、呪霊も領域も異様な感じだった。

 

「そうです。あれはまだ呪霊として孵ったばっかりで、何かと不完全だったから外から簡単に入れたし、すぐに祓われたからその性質も大して分析できてない。でも今回の呪霊は成立してだいぶ時間が経ってます。領域が完成したことで、天与呪縛的に自分の意志と反して閉じ込められてる可能性がある」

「でしたら……、誰にも見つからないという状態が、成立するのに、無理はないように、思えますね……」

「つまりナクスの指自体が、呪霊を外界から隔離する性質があるってこと? 意味不明じゃない」

「ナクスも自分の指を良く分からないもの、とか言ってたしな」

「アイツ絶対記憶あるでしょ」

 

 ナクス、隠し事は百パーある。

 でもどう問い詰めても、虎杖を盾に真正面から『言えない』とかで済ませてきそうな図太さもある。

 

「そういや朱紅赤はまだ指取り込まねーのか?」

「あのバカと一つになったらショック死しそうなんでまだ粘らせてください」

「ああ、私も動画見たけど、如何にもアイツがキレそうなバカだったな……」

 

 あぶな、そういえば虎杖って死んだことになってたんだっけ。

 全然昨日も元気にスマブラしてて忘れかけてたわ。

 

 ……うわ、食わされた呪霊の味思い出した、最低。

 真希さんなら巻き込んでも何ってこともないけど、言わない方が無難かしら。

 

 

 

 

 

 * その頃の虎杖とナクス *

 

 ピンクに黒のメッシュが入った柔らかな髪。

 天まで届く長い睫毛。

 深い赤の瞳。

 尻と身長のでかい女。

 

 悠仁くんは鏡を見て、ぎこちなく身体を動かした後、自分の足を見降ろす。

 

「着てみて思ったけど、この服、足、出し過ぎじゃない?」

「悠仁、それ本人の前で言わないでね。死ぬよ」

 

 悠仁くんは五条先生からの注文で朱紅赤になっていた。

 

 私が写真と数値を見て半日こねくり回して漸く再現した朱紅赤ボディ。

 目はコンタクトで、胸はマネキンみたいな状態だし、下半身は私とお揃いでイルカの様に収納式にしただけだが、顔や手足の出来栄えには自信がある。細かい部分はまだ模索中とはいえ、可愛いくできたのでひとまず良しとしよう。

 

「パンツ見えそうで不安になる」

『私もそう思う。この丈で跳んで撥ねては不安になる』

 

 先生から服を下着まで一式揃えたと言われた時にはマジで通報した方が良いのかと緊張が走った。全て未開封の新品だという弁明があと五秒遅れていたら、遠慮なく夏油ママ召喚を決行していた。

 それでも女物の下着を入手して持ってきたというのはちょっと、心の距離が遠のいたが。

 

 因みにお着替えの時には家入先生がゲストで来てくれた。

 来なかったら私が一人でやっていたが、女子の服を迷いなく着ていく呪いの王もどうなんだって話なので来てくれて助かった。

 ……朱紅赤自身は女の子十六年生(推定)なので何も問題はない。

 

「キュロットだし、黒パン渡したでしょ」

「そうなんだけどぉ……、しょーじき、本当に見せて良いヤツ? 朱紅赤の姿で自分で着たら、なんか急に疑わしく思える」

「役割的には防弾チョッキみたいなもんで、ホントなら機能しないのが望ましいもんだとは僕も思うよ」

 

 見えてなければ全裸でも恥ずかしくない姉。見えてなくても黒パンを疑う弟。

 タイツ姿は分厚くて下着が見えなくても恥ずかしいが、スパッツはOK、みたいな曖昧な恥じらいの線引き。突き詰めれば本人の気持ち次第である。

 

「ま、とりあえずなんか朱紅赤っぽいこと言ってみて」

「ぽいこと?」

 

 悠仁くんは少し考えて、キメ顔で口を開いた。

 

「キャラメルマキアート・ディカフェ・キャラメルソース多め」

「言うけどそうじゃなくて」

 

 朱紅赤は何気にカフェインをいつも控えている。

 私が領域の中で粉コーヒーを練り飴みたいにして食べているのがバレた時には、不満そうに口を尖らせて日常生活が破綻する劇薬を食うなと言われた。マジで日ごろ自分が可愛いことを分かった上で楽しんでいるだろう仕草で可愛いかった。

 かなりカフェインが苦手らしいので、朱紅赤レジデンスにお邪魔したい気持ちは全く湧いて来ない。

 

「口調としては私の真似をすればだいぶ近くなる筈だ」

「ナクス先生!!」

「泥棒猫ちゃんなんだからもう」

 

 何にせよ、私の口調はその内悠仁くんに伝授する気だったが、都合が良いので波に乗ろう。

 やってもらうかは分からないとはいえ、演出的に必要になるかもしれないし、出来る状態に仕上がっていた方が嬉しい。

 

「練習がてら、自分の髪長いのどんな感じか説明してよ」

「えーと、待って。変換する時間ちょうだい。……頭の後ろに薄い布がかかっている感覚だが、実際に手をやると、滑らかで、質の良い絹糸のような手触りがある。女の長い髪に触れることなど、今まで、なかった、から……、……」

 

 自分の手で髪を梳いていた悠仁くん。

 それらしい口調がぷっつりと途絶えて、手の動きも止まった。

 

「悠仁?」

「も゙ぉ゙~~~!! 好きになっちゃうからぁッ!!!! こんなん頭おかしくなるって!!!!!」

 

 顔を真っ赤にして両手で床を殴って嘆く。

 朱紅赤なら絶対にしない行動だがそんな姿も可愛い。

 この見た目で悠仁くんの性格なのはファン層は変わるが人気は落ちなさそうだ。

 

「アラ~、悠仁ってば初心でカワイイね」

「ほぼ先生のせいなんだけど!? なんであんな風に紹介したの!? 実の姉だし!! 俺こっから伏黒のことそういう意味で巻き返せないと思うんだけど!!?」

「マジでLOVEになっちゃうとは思ってなかったし、お姉ちゃんなのは僕も知らなかったし。後で叙々苑奢るから許して」

「流石に先生から悠仁くんに一言くらい謝罪があって然るべきでは?」

「今、謝ったじゃん……?」

 

 先生は本気で何を言われているのか分からない、という見事なキョトン顔をかました。

 うーん、人間の情緒の理解が浅い。

 私の場合は若干感性が呪いになっているせいだと思うが、先生は天然でこれなので流石である。

 

「どう思いますか悠仁くん」

「……正直、誠意込めてちゃんとは謝れてないと思う」

「え!? ごめん! あっ、そーいうことね!! ごめんなさい(・・・・・・)!!」

「先生、二十八歳児過ぎるな」

「ナクスの方が素直に謝れる」

「ごめんて!! マジで!!!」

 

 真面目に突かれて初めて両手を合わせての謝罪が出た。

 

「一人の少年の純情を拗らさせてしまい申し訳ありませんでした」

「……まぁ、もうしょうがないし、良くないけど良いよ」

「悠仁やさしいね、傑なら拳で返答からの戦争開始だった」

 

 夏油先生が元気に闇落ちをしている前提のせいで、割と原作通りな関係の筈なのに何か安心できない。

 

「じゃあ、許しも貰えたし、仕切り直して術式撃ちホーダイプラン行ってみよっか」

 

 そうして「ジャーン」と目の前に置かれたのは寸胴鍋いっぱいの黒い塊。

 ゴキブリではない。呪塊だ。

 

「……コレ、俺が食べなきゃダメ……?」

 

 見た目的にはゴキブリを食べるよりはマシだが、味的にはゴキブリより悪いと思う。

 

「悠仁くん、ひとつ作戦がある」

「なに?」

「舌から味蕾を全て削ぎ落して、味を感じない状態にして食べる」

「わぁー、倫理ィ」

「傑もそうしてるし良いんじゃない?」

 

 なんて?

 

「夏油先生何してんの!?」

「話してなかったっけ。傑、この味と生涯付き合ってくなんてできない、死ぬまで何の味もしない方が心穏やかに生きられるって、味蕾全摘済の滑らかなベロになってんの」

「……テレビで観たけど、舌って場所によって感じる味違うんじゃなかった? しょっぱさだけとか、ちょっとくらいは残しても良かったんでない?」

「それじゃ気持ちにお釣りが出るから術式が弱まる気がする、プラマイゼロにしたい~、とか言ってさ。ストイック過ぎだよね」

『ストイックで済ましていいヤツ?』

『知らん』

 

 夏油先生、マジで全てが壊れている上で行く当てがないので高専で先生をやっている……?

 何一つ大丈夫ではない予感しかしないが、敵対しないことを祈るくらいしか出来ることもないので一旦諦める。

 

「ま、とにかく先人もいることだし、それでちゃちゃっと食べちゃって」

「とはいえコレでっかくて全部丸飲みは無味でもキツイよなぁ~」

「そ~れイッキ! イッキ! 悠仁のいいとこ見てみたい!!」

 

 尚、現状、悠仁くんのガワは朱紅赤である。

 上級者向け読者サービス回か?

 




虎「金玉って体内に入れたら熱でダメになるんでない?」
亡「呪物にそんな理屈は関係ない」
虎「なんか知らない内にめっちゃ人間じゃなくなってる、ショックかも」
亡「ショック? 内臓が外に出ているとかいうクソデカリスクがなくなるのは良いことでは……?」
虎「……ナクスのちんこって」
亡「常にスリットだが」

虎杖は性癖がどうにかなりそうだったが、鏡に映る自分(朱紅赤の姿)の視覚的インパクトで踏みとどまった。
とはいえ、右に事故りそうになったのをハンドルを切って左に事故った程度の差かもしれない。
 
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