手違い夢主の彼女たち   作:空下眼子

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ナクスが夏油をキレさせている頃の朱紅赤の様子。
前話で話していた朱紅赤のお友達のオリキャラ投入があります。
「裏梅くんちゃんの脳、壊れちゃ~う!」と思って考え直そうとして代替案が思いつかなかったのでそのまま走ることにしました。
その場の勢いで書いたのではなく必要なお話なのですが、具体的にどう必要なのかは超絶ネタバレなので、後で裏梅くんちゃんの脳が破壊されるだろうこと以外は何も説明できません。

また、宇佐美(2018年の方)について全然なんにも分からないので、ここぞとばかりに書きやすい性格に捏造しています。宇佐美の話も一応、自分としては必要なことのつもりではあります。


『自由なオタクたち』

----五条視点----

 

 拝啓傑へ。

 僕は今、地面に落ちた人間の顔を拾って元の顔に被せています。写真を撮る為です。

 

「今って戦国時代とかだっけ?」

「パズル合わせが嫌なら丸ごと持って帰って裏方に任せれば良いだろう」

「もっと嫌だよ車のトランクに死体詰めて帰るの」

 

 処理班が派遣できないから、人間の死体とかいう質量の大きい証拠は時分で片付けてから帰って来いとかいう倫理の葬式みたいな条件の任務。

 人間を丸ごと消し飛ばせる術式を持っていると、こういうのは偶にある。

 

「ていうかなんで斬り刻んじゃったかな~」

「俺の面の良さが分からんらしかったので、手前の顔と見比べさせてやろうと思った」

「自信無限湧きかよ、朱紅赤そういうとこあるよね」

 

 朱紅赤の顔の右側には額から目の下までを覆う痣があって、左右で眉毛の色も違う。

 ただ、本人は気に入ってるらしいし、呪術師自体、基本的に生傷絶えない職業だし、術式の都合で痣どころか身体が変形するヤツもいる世界なのに、今更その程度でとやかく言ってくるなんてのは界隈を知らない独自団体の呪詛師か、現場に出たことがない引き篭もりか、もしくは頭が十九世紀くらいで止まってる旧家の人間くらいなもんだ。

 

「猫の模様は愛らしく人間の模様は可哀想だとは、全く理解に苦しむ連中よ」

「そりゃバイアス掛かってる本人は自覚ないって」

 

 朱紅赤は数匹の猫の首を引っ掴んで来て、僕が顔を貼り付け直したばかりの死体の横に投げる。

 まぁ勿論、猫も死体だ。

 

「……脚、足りなくない?」

「何処かへ行った」

「探して」

「人間ならともかく、猫の脚の一本や二本、警察沙汰にはならん」

「噂になって猫の呪霊生まれるくらいのことはあるって」

「金になって丁度いい」

「え~、仕事はウンザリするほどあるからこれ以上増やさないで欲しいんだけど」

「はぁー、分かった分かった」

 

 朱紅赤は面倒くさそうに残穢塗れの周囲を見回し始める。

 人間は全員分揃ったから、後は猫の脚を二本だけ。

 

 猫使いの呪詛師。

 人によっては可愛くて攻撃しづらいとかありそうな相手だ。でも朱紅赤には案の定そんなことは全く関係なく、合流した時にはもうズッタズタにして全員漏れなく死んでいた。

 彼女は頼れる呪術師である反面、合法と見れば躊躇なく生き物を殺すから気が抜けない。恵と一緒に置いといたらあわよくばこういうとこ緩和されないかなと思ってたけど、いつの間にか恵の方がやり過ぎの判定をガバガバにされてたからマジで気が抜けない。

 

「しっかしまぁ、動物愛護団体に訴えられそうな惨殺っぷりだ」

 

 単純な切り傷じゃなく、断面が焼き切れてるおかげで出血だとか内臓が零れたりが少ないのが唯一の救いか。

 

「生死問わずの討伐もしくは殲滅任務では、呪詛師をどうしようと呪術師としては合法。猫も人を殺す為に良く躾られた立派な呪詛師だった。とやかく言われる筋合いはない」

「ホント強かに育ったよねオマエ」

「現代社会では罪を犯した者だけが犯罪者だ、夏油もそう言っている」

「言ってるけどさぁ」

 

 ──どんなに性根が腐っていようが、罪を犯していなければ犯罪者じゃない。だから罪『は』犯すな。

 

 汚れた大人の狡い言い分。

 昔はあんなに正しさを謳っていた傑はいつの間にか全てが完全にぶっ壊れていて、僕の知らないところで汚れた大人筆頭になっていた。ただ、おかげで朱紅赤は今日も元気に人間をやってる。複雑。

 

「ひとつ、ふたつ。これで良いだろうさっさとしろ」

「オッケー」

 

 朱紅赤が欠けていた白い脚と黒い脚をそれぞれ放り投げる。

 

「そんじゃ、元気に死んでるとこハイチーズ、と」

「ケヒッ」

 

 適当なことを言ってスマホでシャッターを切ったら笑われた。

 

「今の、面白かった?」

「少々愉快だった」

「邪悪~」

「今の台詞を自然に言ってのけた男に言われても説得力がないな」

「言い返せないのが悔しい」

 

 こんがり焼き上がってる部位もあるものの、ひとまずパーツに不足がないことをパシャパシャと角度を変えて証明した後、蒼で圧縮して茈で消し飛ばす。

 

「お掃除完了。じゃ、行こっか」

「ん。スタバ」

「限定?」

「チャンキークッキーフラペチーノ」

「え、美味しそうじゃん僕も頼も」

 

 差し向けられた朱紅赤のスマホを覗き込みながら寄り道のルートを考える。そんなに遠回りでもなく行けそうだ。

 車に戻って、補助監督に店の場所を伝える。

 

「わ、分かりました。お時間余裕あるので大丈夫です」

曽我部(そがべ)サンはなんか飲む?」

「あ、ご、ごめんなさい、お腹弱くて、スタバの限定とか、おっきくて飲み切れないんです……」

「ならホットのショートで適当に買って来るね」

「ありがとうございます」

 

 彼女の態度は決して『五条悟』にビビって委縮したものじゃない。

 曽我部サンは十年以上付き合いがあるけどずっとこの調子で、単純にそういう性格だし、この自信のなさそうな喋り方に反してブレーキが壊れている節がある。タダじゃ死なないって意味で結構信用できるタイプだ。

 

 店の近くに着いたものの、駐車場がないから車から降りて少し歩く。

 朱紅赤も当たり前の顔してついてきたので話を振った。

 

「曽我部サンてさぁ、いつまで経っても如何にも気弱なおばちゃんて風体だよね」

「そうだな」

「モラハラ野郎の脚ベキベキに轢き潰して無罪になってんだから、もっと自信もって良くない?」

「知らん」

「黒幕でしょ責任もって」

「俺としてもあの気質ではやれまいと思って殆ど冗談のつもりだったのを、あの女が本当に実行してしまっただけだ」

「事情聴取の時のセリフ覚えてる? 「ハイ、殺しちゃっても良いつもりでやりました。だって、過労死させられるくらい、なら、さ、殺人犯になった方が、マシだと思って……」」

「ケヒヒッ」

「性格はものすごく呪術師向いてるのに戦えないの勿体ない」

「人を呪うことに躊躇がなくとも、呪力の錬成効率が悪いのはどうにもならん」

「そぉねぇ」

 

 列に並んで待っていると滅茶苦茶視線が集まる。

 目隠しを下ろして少し微笑んだら大半が満足して通り過ぎて行った。ハイハイいつもの。

 

「とはいえ、己の非力を良く理解しているからこそ五条が俺を拾ったのを上に黙っていたワケだ。非力なりの『呪い方』が上手い。元々そういう女なのだろうあれは」

「情報戦?」

「いや、勤務先に爆弾が転がっていくのを放っておくのに近い」

「……ああ、黙()ってこと」

「そうだな」

「こわーい!」

 

 爆弾をアッサリ見送り、時には自分が大爆発を起こす。

 そんな怖い女にはカフェオレのホットをお持ちして差し上げる。彼女は嬉しそうに、如何にもその辺の一般の会社の普通の事務員さんみたいな顔をして丁寧にお礼を言ってそれを受け取った。

 

「お送りは、駅、までで大丈夫ですか……?」

「うん、そのまま映画行くから」

「お昼は」

「要らん、映画館で適当に食う」

「承知しました」

 

 チープなホットドック、帰った頃にはしなしなのポップコーン、砂糖たっぷりのチュロス、緑のメロンソーダ。

 映画を見る時にこそ食べたいジャンキーな味。

 

「曾我部サンはまっすぐ高専帰るの?」

「あ、いえ、宇佐美術師の迎えがあるので……」

「あー、宇佐美ね。相変わらずマジで無言?」

「え? それは……、ご、ご本人が、そうご希望されましたので……」

「本当に必要なこと()()しない男に理解のある補助監督」

沙良(さら)に気まずいなどという感情はない、無敵だ」

 

 宇佐美は……持ち前の無関心さで人の心を轢き殺しても心を痛めないし、そもそも傷ついたかを感知できる程度の関心もないっていうか。

 曾我部サンは何の後ろ盾もパワーもないから「あっ人間を傷つけてしまった、放置してたら魔女裁判で火炙りになる……!」みたいな危機感があるのに対して、宇佐美にはそういう心配をしなくて良い程度の家柄がある。

 っていうのを、曾我部サンに解説してもらって初めて理解できた。

 決して極悪人じゃないけど、友達にはなれない、そういう男。

 

 前に曾我部サンの運転する車に盗聴器が仕込まれてたことがあったけど、宇佐美の送迎で片道二時間、往復四時間、環境音だけでマジで何の会話もなくて、宇佐美の心配までされた。

 外から見てると地獄のような無言。

 ヒアリングした結果、二人とも内心は全然ゴキゲンで、その日の夕飯のこととか読みかけの本のことを考えてて、二人ともそれを誰かと共有したいと思ってないからああなったことが分かっている。

 

 逆に言って、宇佐美もやろうと思えば曾我部サン程度の愛想は習得できるっぽいのが何とも言えない。やろうと思う日はたぶん永遠に来ないし。

 

「宇佐美って実家遠いんだっけ」

「静岡だろう」

「遠いじゃん」

「基本的には、ご実家には帰らず……、ほぼ、ホテルを転々とされてますね……」

「あの身なり性格でホテル暮らしなのマジで宇佐美って感じ」

「効率的だが傍から見て何をしている人間なのか全く分からんな」

「宇佐美の土地は、コアな噂や、近辺での、妖怪の伝承などはありますが……、一般目線では、結構、良いところでしたので……、ご実家周辺は、あまり、呪霊のたまり場にはならない、と言いますか……」

「家の方は家の人間で事足りるから外で稼ぐか~ってこと?」

「……と、特に稼ぎたいだとか、そういうわけでも……」

「だから冥さんからもなんだコイツになるんだってば」

 

 そんなとりとめのない話をしながら駅に着いて、別れ際に改めてカフェオレのお礼を言ってくれた。

 

 よく考えたら曾我部サン、宇佐美の実家の方まで行ったことあるんだ。

 確かにその辺の用事を引き受けてくれる人、他にいなさそう。

 

「曾我部サンいなかったらどうしてたんだろ」

「どうもしなかっただろう」

「確かに」

 

 上層部の息がかかった補助監督が担当するんだろうけど、そことも別に仲良くはならない気がする。

 上も現状、宇佐美を便利に使いつつ、人間的に好感度高いかって言われたらそれも違うし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 某映画館から少し歩いた某所。

 

「鼻の穴しか記憶にない」

「お嬢もそう思います〜!? 素人意見で恐縮なのですが、あの煽り構図の連発は、制作側の意図としては威厳のある感じを強調したかったんでしょうけれども同じ構図を擦り過ぎてシリアスな笑いになって来てましたし、キャラ的にも役者さん的にも、下からのアングルで『威圧感』より、上からのアングルで『冷徹味』を前に出した方が映えるタイプでは〜!? 予算とか熱量とかよりもシンプルに映画としての見直しの時間が足りなかったのかなと思ってしまうんですけど〜!!」

「正直ウチ的にも題材としての原作は何でも良かったのかなって後味がしてる」

「何故実写映画というものは同じ轍を転がり続けるのか、理解できん」

「似てないとかの段階ではなくて、髪型とか、簡単に寄せられたはずの部分すらを一人だけ究極に放棄してるのがいっちゃんモヤつくんですよね~~。じゃあオリキャラで良かったんでは? 作中で髪を切って完成するとかかと思ったらそれもないし、完全に何? で終わっちゃったのがもう、何?」

「流石にとどまるところを知らないお気持ち文過ぎ」

「エコーチェンバー学級会になる前に残したポップコーンで口を塞げ」

「『ぼくのかんがえたさいきょうのしなりお』でピーターラビットくらい全力でイカレてれば文句なかったんですけど、オリジナル展開が控えめなのが却って中途半端に原作ファンをチラチラ見てくる感で、色々と無理に詰めるなら流れの自然さを優先してぼもッ」

 

 女の子三人集まってTwitterみたいな会話。

 全然華やかじゃない。ボロカスに言うじゃん。

 

 任務後に現地集合で実写BLEACHを観た結果がこれ。

 若葉(わかば)はノールックで津由(つゆ)の口にポップコーンを詰め込んだ。

 

 若葉と津由。

 朱紅赤の中学のクラスメイトと、その姉。

 

 若葉は『オマエ、女だったのか!』をナチュラルにやったタイプ。中学に入った途端に男子グループと距離ができて不貞腐れてたところに朱紅赤が来たらしくてめちゃくちゃ仲良くなってた。年の離れたオタクの姉のせいでフロムゲー経験者。呪術師的倫理に適性がある。

 

 津由は大きな声では言えないサイトや掲示板を一生見てるような、もはや『ネットに住んでる』タイプの別段愛すべきじゃないコテコテのオタク。信じて友達の家に送り出した朱紅赤が良くないインターネットをガッツリ覚えて帰って来た諸悪の根源。インターネットやめろ。

 

「私が商業・公式に一番気にして欲しいのは出来事(イベント)じゃなくて、キャラのらしさなんですよ!」

「どうどう」

「なら五条氏は大門大の兄貴がデジモンに守られるキャラになったリメイクお出しされて許せるんです?」

「……僕がお金出して作り直してもらうかな」

 

 ハイタッチ。

 和解。

 

 僕と津由の熱い絆を前に、朱紅赤は映画終わりに追加購入したチュロスをもひもひ食べながら、食べこぼし狙いの鳩を足で退けていた。

 

「ねぇお嬢、明日夜イカする予定なんだけど来れそ?」

 

 因みに二人は朱紅赤を『お嬢(おじょう)』って呼ぶ。

 僕が迎えに行ったらなんかそういうことになってたし、ゴスロリも貰って帰って来た。

 本人より曽我部サンのテンションが上がってた。

 

「十一時で落ちて良いか」

「良いよ~、夜お仕事あったりするもんね。寝れるとき寝な~」

「若も寝た方が良い」

「寝てる寝てる」

「夏休みに生活サイクルを一周させた女が何か言っている」

 

 朱紅赤の方も若葉を『(わか)』って呼ぶ。

 マジでいつの間にそんななかよぴっぴになったのか分からないけど、朱紅赤が青春してて何より。

 

「僕も徹夜で桃鉄とかやってたし、そういうのも青春の一幕だと思っちゃうな~」

「青春じゃなくても締め切りに追われて生活サイクルが崩壊することはありますけどね」

「津由も寝た方が良いよ、寝てる?」

「入稿できたら限界まで眠ることでチャラにしています」

「チャラになってないからねそれ」

「かく言う五条氏も、毎日五時間しか寝てないのでは?」

「僕はこれで足りてるんだって!」

「俺の周りは不健康しかいない様だな」

 

 朱紅赤は反転術式があっても寝ることを『もったいない』と思わないタイプらしくて、いつも素直にスヤスヤ寝てる気がする。

 

「眠るのが惜しいと感じるということは、そもそも寝具をケチってるんじゃないのか?」

「おおっと、一理ある気がしてきました。お高いお布団を買い揃えれば気分もアガりそうですし」

「そう? 確か僕の使ってるベッド、五十万くらいのだけど、別にそんなことないよ?」

「あー出た出た出た! 五十万のベッドをトランポリンにして破壊しても、買い替えれば良いや、みたいな人間には一生分かんないから」

「財力無限大の五条氏はもうそれが当たり前になっているので分からないだけです」

「一度むき出しの土の上で夜を明かして来い」

「エッ、露骨に三対一になるじゃん……」

 

 そのまま話の流れで富豪(ぼく)の財布でクレープを食べることになった。

 

 朱紅赤はチュロスを食べたその口で、アイスとケーキの入ったクレープを頼んだ。

 どの角度から見ても幸せそうに味わって食べてる。

 

 ……これで呪いの王は無理でしょ。

 ネット通販して、動画の再生リスト作って、友達とオンライン対戦。

 今もクレープ食べながら新作のシャンプーの成分の話で盛り上がってる。

 やっぱこういう成分を語れる様な、興味あるもの全部にディープで面倒臭いオタクって、術式オタクみたいなタイプの術師からすると意外と会話盛り上がって相性良かったりするよね。僕も津由とはお互いどこまでノリに耐え得るか探り探りだったけど、打ち解けてきたら意外と大丈夫だった。

 

 にしたって、髪の毛しゃらふわで羨ましいとか、短くてもボリュームが出せるのは長所だとか、お互いならどのバージョンが良いとか。

 

 マジでどの口で自分は呪いだとか言ってんだ。

 やっぱり津由と若葉に根回しして約束取り付けさせて良かった。

 N日ぶりの外出で陽光に焼かれて死ぬとか言ってた津由もなんだかんだ元気だし。

 

 力を使うための力も嫌いじゃないけど、やっぱ最強を自称するならこういう光景を守らないとね。

 

「ところでアネキが作ったウニアプリ順調?」

「ああ、昨日三十センチを超えた」

「お嬢がやっててそのペースか~、結構時間かかるな~」

「極力課金なしで地球防衛軍に勝ちたいからな。大きさはまだ抑えている」

「ガチ勢やん」

 

 急に肖像権に触れてそうな方向に会話の舵切るじゃん。

 そのウニ絶対メグミって名前付けてるでしょ。

 

「若は何体目の電子ペットが死んだ?」

「死亡システムなくなったから家出で済んでる」

「オマエはマメに世話をするゲームより、QWOPのRTAをしている方が向いている」

「まぁ金魚がひと夏超えたことないのは認めるけど」

「最後に買ったのはそれなりのペットショップだったと思ったが」

「カルキ抜きも餌やりも説明書通りにやってんのに、なんか死んじゃうんだよね……」

「二度と生き物を飼うな」

「ほんとそう、だから電子ペットにしてる」

「悪いことは言わん、起動中にしか時間が流れんタイプにしておけ」

 

 若葉、生命をはぐくむ才能がなさ過ぎる。

 最悪な方向に名前負けしてる。

 

「妹が死神過ぎる件について」

「姉妹逆じゃなくて良かったね」

「マジでそう思います」

「人間は殺したことないし!」

「あったら大事件だよ」

 

 僕らは数時間前に殺してきたけど。

 おくびにも出さない。

 

 高専で過ごして勉強会もして、それで常識はバッチリ身に付いたつもりだったのが、恵と朱紅赤の付き合いで普通の学校に顔出すようになって、本気でパンピーとは住む世界が違うってのが身に染みたな。

 

 そもそも僕の思ってた『弱い』連中も、呪術のない世界から見たら寧ろ強いくらいだ。伊地知だって三メートルくらいの段差なら無傷で飛び降りれるし、曾我部サンも意識のない成人男性を一人で持ち上げて車に押し込める。

 それすらできないのが当たり前の、暴力の遠い世界。知識はあったのに分かってなかった。

 

 傑が大事にしたいって言ってたのは、俺の世界にはないもんだった。

 天内が死んだ時だって、俺はたぶん、傑の半分も傷ついてなかった。

 

 なにが『悟』だ。

 名前負けしてる。バカ。キレそう。過去に飛べたら自分をボコボコにしたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「津由」

 

 別れ際に封筒を渡す。

 

「ありゃす。今回もしっかりと」

 

 中身はもちろん、バージョンアップしたお(ふだ)のセットだ。

 もし彼女らに呪いをかけようもんなら相手は死ぬ。

 旧いのは半分ずつに千切ったのを別個に着払いで送って貰ってて、今のところ枚数が合わなかったり不自然に日数が空いたことはない。

 

「ぴっちり貼り直しておきますね」

 

 津由は呪霊を見たこともないし、呪詛師に遭遇したこともないし、刺客を送り込まれたこともないけど、一ミリの疑いもなく手順通りにやってくれる。

 ダークファンタジーな世界観への適応が早い。

 でも刺客がどうのとか上層部が腐ってるとかの話で、呪術師の世界は和ものファンタジーっていうより任侠世界寄りだと思われてる。実際そうと言っても過言じゃないけど。

 

「あ、五条氏に渡したいものがあったんでした」

「なに? 連絡先? 面倒臭いオタクには目の前で紙吹雪にしてあげた方がウケるやつ?」

「LINE交換済でしょ。それに、最後の砦Privaterを教えるとSAN値どころかPOWが減りそうなのでそれはやめた方が良いです」

「この五条悟のPOWが!?」

「あー、これこれ」

 

 本物の見たら死ぬ絵よりヤバイんじゃないのそれは。

 でも津由は『そんなことより』みたいな顔で、鞄から目当てのものを取り出してきた。

 

 丁度、人間の指くらいの……。

 くらいのっていうか、両面宿儺の(エンコ)だ。

 

「先に言えって!! 出会い頭一番にくれない!? こういうのは!!」

「五条氏のお札、サイキョーだから安心して、と自分で言ったのに?」

「そうなんだけどぉ!」

 

 目の前に出されるまで気づけないくらい、ぴっちりと、キレ~に包まれてる。

 

「え、逆にキモ、完璧すぎる。そんなに練習してたの?」

「当り前じゃないですか。してなかったら死んでたでしょ」

「ごもっとも」

 

 何があるか分からないから、津由と若葉にも『両面宿儺の指』って呪物がどういう見た目でどのくらいヤバいのかは説明してある。

 なのに信頼が裏目に出てて怖い。

 

「これどこで見つけた?」

「自宅です」

「自宅ぅ!??」

「あーそれね。アネキが見つけた瞬間、本職の人もかくやって勢いで丁寧にお札で包んだ」

 

 交通費をチャージし終わった若葉が後ろから顔を出す。

 若葉も全然緊張感がない。

 

 呪いの脅威に実感がないから、じゃないと思う。

 だったらこんなビッタビタの真空パックみたいな完成度の密封はない。

 どこで披露するのか分からない技術を一人で突き詰めてるオタクはいるけど、津由は物理的な工作は趣味じゃないし。

 

「割とマジで死ぬかも知れなかったじゃん……」

「五条氏のお札、サイキョーだから安心して、と自分で言ったのに?」

「信頼の天丼、嬉しいけどおかわりはいらないからぁ!! 次からもっと至急最優先で連絡入れて!!」

「りょ」

「り」

「でもまあ我々、少年ジャンプ育ちなので、友情に命をかけることに特に疑問がないと言いますか」

「それ~~」

 

 絆に殉じれる覚悟、まぶし……。

 性格的には絶対呪術師向いてるけど、二人とも戦力的には曽我部サンより弱い。

 呪具を渡しても大前提の身体強化が出来ないから、普通に四級相手に泥試合レベル。木製バットで楽勝でも、ちゃんと当てられなきゃ意味がない。

 

「じゃ、これ追加のお(ふだ)ね」

「いやマジでお(さつ)じゃなくてお(ふだ)ですよね? 脱税的なアレで税務署とか警察が来るみたいなのは勘弁して欲しいんですけど」

「うんフダフダ、全然フダだから倍の量貼り倒して高専より万全の結界にしといて」

「いえ五条氏、警告も出ずにセキュリティを突破されているのでレベルを上げるより根本的に見直した方が良いですよ」

「帰ったらすぐ(ウィルス)の現物見て練り直して家まで行って渡すから」

 

 マジで裏方の才能ある。

 

「……津由、やっぱ僕のお仕事興味ない?」

「お嬢レベルのパワーは稀としても、マッスル霊能力的な物が標準装備のジョブですよね? バフも詰めないオワタ式では、裏方でも界隈に踏み込むと死亡リスクがダンチな気がするので遠慮しておきます。なんなら現実では()()()()()()時のリスクの方が重いまでありますし」

「その手のジョブの才能はこんなにあるのに……!」

 

 真依のやってる目と鼓膜の実現ができたら絶対腰据えて勧誘しよ。

 とか思ってたら朱紅赤がめちゃくちゃ物言いたげに僕を見る。

 

「身の丈に合った暮らしをさせてやるつもりはないのか」

「……?」

「おい! 倫理!! 悪い意味で骨の髄までだな!!」

 

 何とは言わない情報リテラシーの高さ。

 

「僕としては下手に遠ざけるより近くに呼んじゃう方が安心なんだけど。津由はリスクとリターンが見合えば全然やるでしょ?」

「まぁはい」

「ほら~~! 朱紅赤こそ意外と積極的に誘わないよね?」

「他の道が良いなら無理にやらせることはない」

 

 だからそれでオマエのどの辺が呪いだってんだよ。

 結局新作のシャンプーセット、バージョン違いのお揃いで買いやがって。

 

 

 

 

 

 *  その頃の曾我部サン  *

 

「う、宇佐美術師……。やはり、外向けの言い訳、くらいは用意された方が……宜しいのでは……」

「見せられるものが何もないので無理です」

「津由さんすら、五条さんと、仲、宜しいのですが……」

「pixivすら憚られるのに、生身の人間となんの会話が成り立つんですか」

「わ、私も、他の方を差し置いて、宇佐美術師の遺品整理の場に、駆けつけることは……難しいですし……」

「心配ご無用です。僕が本当に死ぬとき、あらゆるアカウントはログアウト、スマホは初期化され、HDDもトびます」

 

「良い認識阻害アイテムがあればまた是非紹介してください」

「だから、ええと、夏油さんよりも、全方位に怪しいですよ、貴方……。な、何してる人なのか、説明、不能じゃないですか……」

「言えることは何もないです」

 

 

 




別段愛すべきじゃないオタクが一番書きやすい(鏡を見ながら)。

性癖で人を傷つけると界隈全体に響き多くの人間(当社比)が不幸になりますが、
現実世界だけで「なんだァ? てめェ……」と思われている分には悲劇は最小で済む。
この世界の宇佐美は性癖を守るために後者を取った。選んだ感覚すらなく自然とそうなった、みたいなヤツとします。
「実家ァ!? 帰るわけねーだろ!! ホテル暮らし最高!!」なので本人は幸せです。

※交友関係
 津由・若葉 ー 朱紅赤・五条
  │   \   │
 宇佐美 ー 曽我部サン

朱紅赤経由で津由・若葉と曾我部サンが繋がり、
曾我部サン経由で津由と宇佐美が繋がり今に至る。
尚、津由と宇佐美がお友達なことはやっぱり何ひとつ説明できないので、呪術師のみんなはそんなことは全然誰も知らない。

※このお話を読んでる人間には大体通じてると思いますが、一応語彙解説。これらは誤字とかではありませんのよ…。
 QWOP     :たぶん5mも走れれば大記録のマラソンゲーム
 ありゃす    :ありがとうございます
 ダンチ     :段違い
 りょ、り    :了解
 
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