手違い夢主の彼女たち   作:空下眼子

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あと1日待ってくれればこのシリーズの一番やりてぇ展開に到達します。


『二十九』 その3

 

 

 一晩経って頭も冷えた。

 

 メゾン虎杖については誠実にご説明させて頂いた後、交換条件の縛りを結んで忘れてもらった。

 あぶねぇ。縛りの効果で物事を忘れるという法則が存在していない世界だったら本当に全てが終わっていた。

 

 ただし、今後もしメタ知識が必要な敵が現れたりした時には私の合図で思い出せるように保険もかけている。ある意味かなりの自爆技だが、恥で安全が買えるならお安いものと思ってしまった。元の顔も名前もなくした私だったが、いつの間にか羞恥心もなくしたか……。

 

「悠仁が取り込んだ両面宿儺っていうのはさ、鬼神、神とさえ呼ばれてたんだよね」

「へぇー、やっぱこいつ有名なの?」

「もちろん」

 

 悠仁くんと五条先生が高専への山道を歩きながら『両面宿儺』の話を始めた。

 別に私の方からちょっかいかける理由もなし。この世界の知識があって困ることもないので大人しく聞いておく。

 

「呪術全盛の時代、術師が総力を挙げて彼に挑み敗れた。強すぎて災害と同じような扱いだったらしい。死後に残った死蝋は僕でさえ消し去ることができないでいるんだから、紛うことなき呪いの王だ……と思ってたんだけどな」

「イメージ崩れるよなぁ」

「そのことについて本人はなんて言ってる?」

 

 馬鹿正直に言えば原作とお変わりないみたいですね、レベルの感想しかない。

 だが用意しておいた回答があるので、悠仁くんの頬に口だけ作ってそれを述べておく。

 

「千年前の記憶などない。おじいちゃんだからな。おおよそのことは忘れたわ」

「お、おじいちゃん!」

「両面宿儺、オマエにはがっかりだよ」

「勝手に期待しておいて失望するな」

 

 両面宿儺としての準備期間は十何年もあったが、その間、当然ながら原作を確認することも何らかの資料を見ることも叶わなかった。

 そこで私は一周回って適当な言い訳を採用。下手に過去を捏造したりはせず、分かることだけ書き起こして頭に叩き込み、分からないことは全て分からないで通すことにしたのだ。真偽はともかく協力する気ゼロなんだな、くらいに認識してくれればよし。

 

「言い伝えと本人、だいぶかけ離れてない?」

「でも、僕としてはだからこそ『呪い』な気もしてきたかな」

「どゆこと?」

「キョーミないんでしょ、人間ひとりひとりのことなんか」

 

 いや、訳も分からず強制的に引き篭もり生活をさせられただけの私が両面宿儺の何を語れるというのか。

 とはいえ今の状況を正直に伝えても千年封印されて気が狂ったのかとか思われそうだし、六眼で見えないなら話は終わり。解散である。もし見えていたならお札の部屋なんて絶好の問答場所だった筈なのに、それがないのだから。

 

「ところで悠仁」

 

 ふいに、五条先生が悠仁くんの方を見て真面目な態度で立ち止まった。

 

「きみ、何か両面宿儺と約束してない?」

 

 なぜ縛りの有無まで見えるのに、中に知らん人がいることは見えないのか。

 本来の術式も結局使い方が分からず手動で再現した脳筋だというのに、そんなにも私は両面宿儺か。

 

「約束……? そーいえば、なんかを忘れる代わりに、ちょこちょこ呪術のこと教えてくれるっていう縛り? ってのを約束したな」

 

 そして素直代表、悠仁くん。

 私があれだけ瀕死の重体になりながら交わした約束をあっさり五条先生に告げてしまった。ちょっと待て悠仁くん、ちょっと。ほんと待て。

 

「何を忘れさせられたのかは分かる?」

「……うーん」

「なんで悠仁が嫌そうな顔するの?」

「宿儺が恥ずかしいって言うから……」

「ええ? すっごく気になっちゃう、教えて?」

 

 楽しそうに質問する五条先生。

 悠仁くん! ちょっとマジで頼む黙っといてくれ、新しい縛りおかわりして良いから!!

 

「うっかり恥ずかしいところ見ちゃった? のを、忘れさせられた」

「それが何なのかは分からないんだね?」

「うん、ごめん」

「謝ることないさ」

「でもめっちゃ切実な感じで約束したことは覚えてる」

「なぜ! 言う!!」

「うわ出てきた。言った方がオマエもいらない疑われ方しなくて良いじゃん。あの時、なんかマジでこの世の終わりみたいなテンションだったろ」

「め~っちゃくちゃ気になるな~!」

 

 はー、もう引き篭もるか……。

 食事の時だけ出てきて、悠仁くんのご飯、勝手に食べてやろう。今から日暮れまでブブゼラ演奏してやるのも良いなぁ。ブブゼラってどういう構造してるんだ? 太鼓で良いか。私、今から太鼓の達人になる。

 

「宿儺何してんの、太鼓? ……ちょ、ごめんて! うるさっ!! 悪かったって!」

『夕餉』

「ゆーげ? あぁ、夕飯のことだっけか? 分けて欲しいって?」

『全部だ、私に代われ。私が食う』

「今日だけなら」

『許す』

 

 謝ったので良しとしよう。

 ご飯も食べられるしな。ずーっと生得領域にいたのでピザとか食べたかった。面倒くさいムーブをかました甲斐があるというものだ。

 

「両面宿儺、夕飯で許してくれたんだ?」

「うん。なぁ先生、コイツのことどういう気持ちで見てればいい?」

「僕もまだ分かんないかなー。取り合えずペットの珍獣だと思ってて良いんじゃない? 急に噛んでくるかもしれないから気を付けてね」

「噛んでくるって……そっか」

 

 五条先生はあまり深く考えてないかもしれないが、さては悠仁くん、私の昨日の言葉があるから『噛んでくるかも』を『裏切るかも』って解釈して『誰も信じられねぇな』みたいなこと思ってるな。意外と考えていて驚きだ。……私が晒した醜態のせいで自分がしっかりしなきゃとなったのかもしれないが、それは僥倖ということで前向きに行こう。

 

 ここからなんとかして渋谷までに悠仁くんの好感度をマックスにしなければ。

 なにしろ私には渋谷以降の知識がほとんどない。

 

 分かっているのは何が起きたのかというネタバレ知識だけだ。一般人が沢山閉じ込められてなんだかんだ死ぬ、昔馴染みという名の知らない人が出てくる、俺はお兄ちゃんだぞ、禪院直哉、死す、デュエルスタンバイ。などは把握しているが、ストーリーの流れは追えていない。特に、両面宿儺過激派の元お抱え料理人、裏梅との関係性の情報が不足しまくっているのがかなり痛い。

 

 私も一応、呪霊的な思惑は抱えているが、その為としても千年前のことを本気で知らんコトとして扱うのも違和感があるし、なにより根本から性格が違うため、呪霊サイドに私の中身を疑問に思われてしまうこと必至。最悪呪術師側にすら『じゃあ、マジで誰?』という空気が流れるまであり得る。そこから『世界 VS 私』に陥る可能性がないと言い切れない以上、悠仁プラスの攻略は絶対。

 

 まあ、生前の私はゲームですら恋愛をしたことがないわけだが。なんとかしよう。

 

 

 




次回!
ヒロイン回!!
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