手違い夢主の彼女たち   作:空下眼子

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ヒロインは悪ければ悪いほど可愛い。異論は認める。


『二十九』 その4

 生得領域から悠仁くんの様子を眺める。

 男子高校生、本当に部屋にグラビアのポスターを貼るものなんだな。オタクが好きなキャラのポスター貼るのと同じような感覚だろうか。

 

「きみは器であると同時にレーダーでもあるわけだ。現場にいないと始まらない」

「へー、宿儺、そんなことできんの?」

「近くへ寄ればなんとか」

「何メートルくらい?」

「知らん、場合による」

「はぁ、オマエマジで頼りになんないね、呪いの王もっと頑張ってくんない?」

 

 寮のお部屋案内も済んだところで早速呪いの王としての性能を疑われているが、実際、探ろうにも今の時点では良く分からない。火葬場で先生が指を持っているのは分かったが、あれは『持っている』と知っていたので意識を向けていたのもある。

 だがそれはそれとして五条先生の発言は普通にムカつくので言われっぱなしにはできない。

 

「呪術界では未だにパワハラが横行しているのか? しばらく前に、人類にはついぞ『基本的人権』なるものが確立されたはずだが?」

「パワハラとか知ってるんだ。そういえば最初から現代の言葉遣いだったけど、常識までアップデートされてんの、ウケる」

 

 先生はお土産分の手提げを指に引っかけて軽く回して笑った。

 呪術界、人権を無視した采配のせいで結構な人死にが出ているのでウケてる場合じゃないと思うが、強がりだとか威圧ではなく、普通に笑ったように見える。私に弱味を見せないためだろうか。

 

「げ、隣かよ」

 

 二人が廊下へ出ると少し離れたところからもドアの開く音がして、伏黒くんと鉢合わせになる。

 

「伏黒! 今度こそ元気そうだな!」

「丁度良かった。悠仁に恵の幼馴染紹介したいから一緒に来てよ」

 

 はしゃぐ悠仁くんの隣で、五条先生から聞き捨てならない単語が飛び出す。

 おさななじみ、とは。

 

「幼馴染?」

「……それ、俺いる必要あります?」

「必要必要。てなワケで今から女子寮ね」

 

 はぁ? 女子寮? ちょっと恵、誰よその女! え? この世界、まさか、夢主ちゃんが、いる……?

 原作過激派、もしくは宿儺過激派以外なら現地主人公でも良いが、欲張って言えば救済派の転生ちゃんが望ましい。なんとかして今後の展開の相談をする仲になりたい。知識はあるほど良い。

 

「あ、ご対面の前に聞いときたいんだけど、そういえば悠仁って金髪美女が好みなの?」

「え? いや、うーん? 先生、もしかして恋バナ好き?」

 

 唐突に、五条先生が東堂みたいな話題を提供してきた。

 

「キライじゃないけど、僕も別に積極的にするほどじゃないかな」

「じゃあなんで今?」

 

 悠仁くんは困惑気味だ。それはそう。彼の『尻と身長のデカい女の子』っていうのは雄としてお世話になりがちなタイプであって、恋愛的なことはあんまり考えたことなさそうな印象だった。

 

「ちょっときみの今後に影響してくることだからさ」

「俺の好きなタイプが?」

「まあね。で、話戻すけど、ジェニファー・ローレンスのどの辺が好みなの?」

「強いて言うなら、尻と身長のデカいところ、かなぁ……」

「マジ? 良かったね。割と合ってると思うよ」

「合ってるたって、俺そんな急にクラスメイト相手にお見合いみたいなこと言われても困るんだけど。どういう意味があんの? だいたい、そんなことされても他のクラスメイトとも気まずくね?」

 

 会話が進むほどに、黙って聞いている伏黒くんの目が死んでいく。

 

「あれ? 言ってなかったっけ、新入生は悠仁含めて四人だけだよ」

「少なっ!」

「だからまあ、できれば仲良くして欲しいんだ」

「仲良くも何も先生、アイツ」

「恵~、会ってみてのお楽しみでしょ。ダメならダメなりに僕からもフォローするから」

 

 伏黒くんは五条先生に対し、ついぞ「このヒト正気か」みたいな顔を向けた。

 会ったこともないのに悠仁くんと夢主ちゃんはそんなに仲良くできる見込みが薄いのか。現地主人公、特に伏黒くんの幼馴染なら悠仁くんを嫌う理由はあまりないだろう。かといって転生で悠仁くんアンチだなんて、悠仁くんの死=人類滅亡RTAが始まるだろうし前途多難だ。となれば極度のコミュ障、もしくはパンダ先輩みたいに人間ではないパターンも考えられる。

 

 

 などと考えながらいざ蓋を開けて見れば。

 

「じゃーん! この、悠仁を親の仇を見るみたいな顔して睨んでるのが恵の幼馴染、シュクア。漢字は朱色、紅色、赤色で『朱紅赤』ね!」

 

 悠仁くんに似たピンクの髪をカチューシャで後ろに流した、赤い吊り目の女の子。制服姿を見るに、彼女は任務帰りらしい。因みにシルエットはドン・ギュッ・ドンの爆裂ボディ。腰とかギュってしたら、指の間にいい感じにお肉がギュってなりそう。太くねぇって!

 

「…………」

 

 しかし無言。

 すっげぇ夢主ちゃんらしい名前に反して、殺意五億パーセントの視線。

 

「よ、宜しく。……。先生、俺、なんかした?」

「強いて言えば、指を取り込んだかな」

 

 悠仁くんは不安そうに朱紅赤ちゃんを見て、そっと五条先生に視線を移す。

 主人公に対してこんなに殺意が高い夢主ちゃん、初めて見たかも。逆嫌われじゃん。

 

「虎杖悠仁、といったか。何故貴様のようなぽっと出がそんなにも馴染んでいる」

「朱紅赤は両面宿儺の器を作ろうっていうマッドサイエンティストの研究施設から保護したんだけど、その時すでに思考回路が呪霊寄りに仕上がってて一般常識教えるの大変だったんだよ」

 

 あ~~、現地主人公ちゃんの方でしたか。

 しかも脳味噌野郎のひろし(正式な名前は忘れた)謹製、悠仁くんとは別の器。これは関係の複雑骨折待ったなし。

 

「貴様に教わった記憶はないが?」

「常識お勉強会たくさん開いたでしょ」

「あれは五条も生徒だっただろう」

 

 彼女は目が赤かったり爪が黒かったりダイナマイツボディだったりと、だいぶ本来の宿儺寄りの見た目だ。

 どう対応しようか。可愛がりたい気持ちもあるが、そこにたどり着くまで時間がかかるぞこれは。

 

「ていうか、元々悠仁の死刑の内容って、まんま朱紅赤が成人してから担うはずだった内容なんだけど、そうなる前に悠仁が割り込んじゃったってワケ」

「その男はまだ祓うのにそう苦労もないだろう。今からでも残りの指を全て俺が取り込む方に舵を切れと散々申し立てたが、これは全く聞かん」

 

 今、気のせいでなければ一人称「俺」だった?

 待て? 呪力は私と違うけど、態度といい口調といい、中身ご本家様だったりしないか?

 

「僕も散々説明したけど、残念ながら悠仁の方に受肉が確認されてる以上、お上は悠仁の死刑を覆したりはしてくれない。対して朱紅赤は危険視されてるとはいえ、きみ個人の死刑は今の時点では必須じゃない。ここで朱紅赤が指を取り込みだすと、無駄に二人死ぬことになる。だからダメ」

 

 二人はかなり気心知れた様子で言い合っている。

 話を聞く分に朱紅赤ちゃんは六眼で見てもあくまで『器』であって『人間』なのか? 暴力に訴えずきちんと異議申し立てをするにょた宿儺は違和感の塊だし、生い立ちが夢主ちゃん過ぎて中身の判断がしにくい。

 とはいえ、彼女がご本家様であれば小指の件もどことなく腑に落ちるのも確かなのだ。

 

「さて悠仁、ここで問題です!」

 

 朱紅赤ちゃんはまだ何か言いたそうだったが、五条先生は朱紅赤ちゃんにお土産の喜久福を押し付けながら、ビッ、と指を立てて無理やり話を切り替えた。

 

「きみが両面宿儺に乗っ取られる、もしくは指をニ十本集めない内に死んだらどうなるでしょうか?」

「死刑だろ? ん? いや、死んだら……?」

「正解は、その時点で自動的に朱紅赤の死刑も確定する、だよ。朱紅赤の死刑は『予備』の扱いとして一時的に保留になってるだけ。だから朱紅赤を死なせたくなかったら、意地でも二十本コンプリートしなくちゃいけない」

「ヤバいじゃん」

「俺としては今すぐ死んでくれて構わんぞ」

「朱紅赤ってばこの通り、天邪鬼で意地っ張りで暴力系ヒロインだけど案外可愛いヤツだから宜しく。ね、恵」

 

 つまり朱紅赤ちゃんは、主人公のタイプの見た目で、命がけで守らなきゃいけない立場で、そしてピンク髪ツンギレ属性であると。なるほど。ヒロインパワーが強すぎて眩暈がするわ。

 

「俺に話題振らないで下さい」

「壁のシミ決め込んでたトコ悪いけど、僕はこの話、ちゃんと恵にも立ち会ってもらわなきゃいけないと思って連れて来たんだから、そこんとこ考えて欲しいな」

 

 しかも改めて見ると、制服の上は右前だし、ボタンがリボンにカスタマイズされている。高専のボタンはリボンの中央の飾りで付いているだけだ。ボタンなるものに慣れなかったからだろうが、シンプルに可愛い。しかも下はこれキュロットか? ヤバい。これで本当に中身がご本家様だったら限界オタクを抑えられる自信がない。このヒロイン、推せる。

 

「……まあ、そうですね。虎杖。朱紅赤は性格は悪いが頼りにはなる。一級だし、実力も確かだ」

「恵ってば淡白すぎ! 可愛いところも紹介して!」

「朱紅赤は、どっちかって言えば『カッコいい』じゃないすかね」

「ケヒッ」

 

 あっ、この笑いは完全にご本家。

 

 でもそんな伏黒くんに褒められたタイミングで嬉しそうな顔をしないでくれ。限界オタクになりそう。なるわ。貴方、この世界でも恵活していらして? 伏宿ですわね(限界オタクの極論)。いや、伏朱と呼んだ方が良いか? は~~? すこ。男の子サイドにライバルがいるタイプの少年誌、読みたいが過ぎる。これから毎日この虎朱/伏朱が拝めるだなんて、ありがとう世界。呪いなのに神に感謝したわ。

 

「でも先生、朱紅赤のこともっと早く言ってくれれば良かったのに」

「そこはあえてさ」

 

 人命がかかってると分かり不満そうな声を上げる悠仁くんだったが、五条先生はケータイを弄りながら軽く諭す。

 

「さっきの面接でもやったでしょ。呪術師になる理由は自分の中で完結していた方が良い。特定の誰かの為っていうのじゃ、死に際にその人を呪いかねない」

「そっか……。たしかにそうだな。朱紅赤、あっ、もし俺に名前で呼ばれるの嫌だったら苗字でも良いけど」

「朱紅赤で良い。上の名はない」

「じゃあ、朱紅赤。宜しくな!」

「チッ……」

 

 朱紅赤ちゃんは悠仁くんの「宜しく」に対し、分かり易く舌打ちしてそっぽを向いた。

 なんというあからさまな態度。可愛いやんけ。とはいえ原因の何割かが私である可能性もあるので、仲良くなるのが当分先になるのに違いはなさそうだ。

 

 それにしても朱紅赤ちゃん、赤系のカラーだし小エビちゃん的な気持ちを込めて小指ちゃんと呼びたいが、そんなことをしたら即刻死刑になりそうだからやめておこう。どっちかといえば伊勢海老ちゃんて見た目だし。

 

「なに? 両面宿儺、さっきから朱紅赤のこと見過ぎじゃない?」

「伊勢海老」

「はぁ???」

 

 先生が急に話しかけるから口が滑った。

 これには五条先生もセルフ無量空処。すまんて。朱紅赤ちゃんが気になるあまり目が出ていたらしい。気づかなかった。しかも私、長らく一人で過ごしたせいか思ったことがストレートに口から出がちだな。マジでやべぇ。冗談抜きにカスみてぇな詰み方やらかしかねんわ。ちょっと意識して黙っとく努力しよ。

 

「宿儺? 伊勢海老がなに?」

 

 空気が死んでる中、陽キャの悠仁くんが先陣を切って私に話しかけた。流石だが掘り返さないで欲しかった。

 

「……朱紅赤が伊勢海老みたい……ってこと……?」

 

 そして余計なことを言う五条先生。常識お勉強会とは何だったのか。まだお勉強が足りないらしい。

 

「五条、それを抑えておけ。俺が今この場で殺してやる」

「え!? 俺ごと!?」

 

 朱紅赤ちゃん!

 そうだけどそうじゃない、華奢で可愛い小エビちゃんっていう前提があってのセクシーダイナマイツ伊勢海老ちゃんであって、馬鹿にしたつもりはなかった。

 

「も〜、朱紅赤ってば煽り耐性が低いんだから〜」

「まぁまぁまぁ、まだどういう意味か分かんないだろ、宿儺説明してくんない!?」

「まぁ正直、伊勢海老みたいだという意味だったが」

 

 特に言い訳も思いつかないので、ヤケクソになって正直に答えてみる。

 

「殺そう」

「宿儺〜〜〜〜!!!?!??」

 

 私の言葉を受けた朱紅赤ちゃんは青筋を立てて喜久福の紙袋を床に置き、悠仁くんに向かって術式を放とうと指を構えた。それはそう。

 しかも術式が完全に炎の矢のアレだったので、これはもう疑う余地なくご本人様だと思う。私は喜びのあまり変な声が出そうになったが、これまでの反省を踏まえて表情を殺しながら頭の中でだけ大はしゃぎしておく。この世界、ありがたすぎて怖い。メッキ剥がれそうで怖い。

 

「宿儺ァ! オマエまじでテキトーなこと言うのやめろよな!!」

『普通にすまんかった、気をつける』

「素直に謝られると逆にやりづれぇんだけど!?」

 

 人間とぶつかったら相手が死ぬ速度で駆ける悠仁くんと生得領域越しに会話しながら、私はようやく思い至ったことがある。

 

 

 これ、本来なら私が朱紅赤ちゃんとして育つはずだったのを、マッドサイエンティストの儀式失敗だかなんらかの要らない奇跡が起きて、運命に深刻な手違いが生じたのでは?

 

 

 因みに五条先生はおろか伏黒くんも朱紅赤ちゃんを真剣に止めようという気概は全く見えない。

 かたや私の発言に爆笑しており、かたや朱紅赤がキレてるのなんていつものことだ、みたいな顔をして喜久福を保護している。つまり朱紅赤ちゃんもこれまで何かとあって多少丸くなったのだと思っておきたいが、彼女はマジで術式を放ったのか、逃げる悠仁くんの後方から無情にも炎が風を切る音が聞こえる。

 

「おや。案の定、朱紅赤と上手くいかなかったか」

 

 悠仁くんが逃げる先に突然降って湧いて出てきた声。

 あろうことか、その人は燃え盛る矢を素手で掴んでしまった。

 

 一瞬だけ登場人物の計算が合わずに混乱したが、姿を認めてテンションが爆上がりした。すまない、名も知らぬマッドサイエンティストよ。要らない奇跡なんかじゃない、必要な奇跡だった。こんなん掌がドリルになる。

 

「うお!」

「はいはい回収」

 

 更に車と同レベルの速度で駆ける悠仁くんをひょいと確保。

 悠仁くんは担がれた状態でみんなと再び合流、地面に下ろされた。

 朱紅赤ちゃんも許してはいないが手出しはしてこない様子だ。たしかに原作を思えば丸くなっていないこともない。かわいいね(脳死)。

 

「傑、報告終わったの」

「さっきね」

 

 特級、夏油傑。離反していないので『夏油先生』だろうか。

 術式を掴んだその掌には黒い塊が残っている。呪霊と同じように取り込めるのだろう。ただ、呪霊操術ってそんなことできたっけか。

 

「悠仁、こっちも紹介しとくね。僕の同期で同じく特級の夏油先生で~す!」

「虎杖悠仁くん、だったね。悟と恵からことの次第は聞いてるよ。基本的に私と悟が交代で朱紅赤についてるから、会う頻度は高めかな。よろしく」

「よろしくおなしゃす!」

 

 人権問題を持ち出したときの五条先生の余裕はこれかと思ったが、それよりも「朱紅赤についてる」という言葉が気になった。

 

「ついている、とは?」

「ああもう宿儺、オマエ急に出てくるなよ」

 

 悠仁くんが特に気に留めずに流してしまいそうだったので自分で質問する。

 

「──朱紅赤は、基本的に私か悟が監視の名目で傍にいないと高専の外に出る許可が下りないんだ」

「え!? じゃあ俺も?」

 

 瞬き一回分、夏油先生は私を見て動きを止めた。

 両面宿儺だから、という以上に意味ありげだったが、何事もなかったかのように話を続けられたので追求はできなかった。読者としては呪術師サイドにいるのは喜ばしいが、両面宿儺としては厄介そうな相手で複雑な気持ちだ。

 

「虎杖くんにはそこまで厳しくないよ。上としては道半ばで倒れてくれた方が嬉しいワケだし」

「げ、闇じゃん」

「上層部は老害ばかりだからね。基本的にいつでも謀殺を狙われていると思った方が良い」

「そんなサスペンスみてーなことになってんの!?」

 

 驚愕する悠仁くんとは対照的に、朱紅赤ちゃんと伏黒くんは分かりみが深そうに無言で頷く。

 まあ~、呪霊操術の特級に加えて両面宿儺の器候補(それも女の子でメタクソ強い)まで東京に揃って五条悟にベッタリとくりゃあ、原作以上の謀略が掃いて捨てるほどあっただろう。それらも全部叩き潰して今に至るようだが。

 

「おかげで正義を信じるピュアな高校生だった私も、すっかり汚れた大人になってしまったよ……」

「きゃ♡ 傑、心強~い♡」

「そりゃどうも。それより悟は自分の任務の報告書は出したんだろうね?」

「出してないけど色々大変だったし明日くらいまで大丈夫っしょ!」

「まあ、事務方から死にそうな催促が来る前に出してやれよ」

 

 五条先生のぶりっ子を軽くいなしつつ黒い塊を弄んでいた夏油先生だったが、ふいに朱紅赤ちゃんの方へ向き直る。

 

「ということで、はい朱紅赤、あ~ん」

「……ッ!?」

 

 何がということでなのか。

 なんの脈絡もなく術式の塊を出たところへ戻そうとし始めた。自分で放った術式とはいえ、黒い塊を口に迫られた朱紅赤ちゃんは音がしそうな勢いで首を横に振っている。可愛いね……なに、食べたことあるの? すごい、可愛いね……。私もう、朱紅赤ちゃん見てるだけで限界化がとまらんのだけど。

 嫌がる朱紅赤ちゃんに対して夏油先生が尚も押し進めると、それはガブ、と勢いよく口に入った。悠仁くんの。

 

「ウェ、まっず……! 宿儺の指とどっこいどっこいだな」

「虎杖! オマエそうホイホイ呪いを口に入れるな!!」

「だって食べて良いヤツだと思ったから」

「犬じゃねーんだぞ!」

 

 悠仁くんはせっかく火傷もなく無傷だったのに、伏黒くんに思いっきり背中を叩かれて噎せ返る。

 しかし黒い塊を吐き出したりはしなかった。生得領域にも落ちてこない。アレは悠仁くん個人のものになってしまったらしい。

 

「あはは、ちゃんとイカれてるね」

「夏油先生、その確認の為に呪塊喰うよう仕向けたんですか」

「まあね」

 

 ジュコン、呪いの黒い塊のことか。

 伏黒くんの顔を見るに、彼もあれを食べさせられたことがありそうだ。夏油先生、まさか味の共有とかいう最悪の方法でみんなと和解したのか。悪い大人だ。

 

「朱紅赤、宿儺の指、さっきのと同じくらい不味いし、やっぱ俺が全部喰うよ」

「……、それとこれとは話が別だろうが!」

「今ちょっと考えたじゃん!」

「ほら悠仁、朱紅赤かわいいトコあるでしょ」

「うるさい黙れそして死ね」

 

 ご本家様はどうやら人間の食生活に馴染みすぎて戻れないところまで来ているらしい。なんかの情報で食べるのが好きってあったしな。

 無限に阻まれながらも蹴りを入れようとしていたり、出てくる言葉が「殺す」じゃなくて「死ね」なあたり五条先生との関係を感じるのも可愛い。

 

「あとそのお土産もね~、朱紅赤の為にわざわざ買ってきてあげてんの。ないとめっちゃ機嫌悪くなるから」

「経緯が抜けているぞ! そもそも貴様が最初の最初に土産なんぞ拾ってこなければ俺は大人しくこんなところに……ッ!!」

「僕だって偶には自発的にお土産くらい持ってきますぅ~! それをバッカみたいな縛りで賭けにしてたの朱紅赤なんだから、もう諦めなって!」

 

 なんもわからんが尊いということだけは把握した。

 私、朱紅赤ちゃんのこと一生推すわ。

 

 




タイトル回収。
このタイプの『成り代わり』と『女体化』の話、五千兆件増えて❤
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