手違い夢主の彼女たち   作:空下眼子

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【宿痾】
 長くなおらない病気。持病。


『宿痾』 その2

----伏黒視点----

 

 朱紅赤は原宿まで来てマックシェイクのストロベリーを啜っていた。

 たしかに最近はめっきりジャンクフードと遠い生活をしていたが、言ってくれりゃ買ってくるのに。

 

「あ、そういえば先生、みんなが宿儺のこと毎回『両面宿儺』って呼んでんの、朱紅赤と呼び分けしにくいからだろ?」

「そうだよ。というか、今までは『指』とかで会話してて全然名前で呼んでなかったかな」

 

 前を行く五条先生の横を虎杖が並んで歩き、すっかり2-2の形で落ち着いている。朱紅赤が虎杖を無視する上、五条先生としては素直な虎杖の反応が新鮮で嬉しいらしいので、この並びは必然と言えた。

 ただ、ポップコーン片手に恥ずかしげもなく浮かれたサングラスをかける虎杖の姿を『器だな』と思ってしまう自分が嫌だ。

 

「やっぱそっか。実は俺、昨日の夜『宿儺』の方に『ナクス』ってあだ名つけたから。よろしく!」

「ハァ?」

「なフェッ、変な声出た! なんて?」

「オマエなぁ……」

 

 朱紅赤は一気に機嫌が悪くなったし、五条先生は噴き出した。

 虎杖には『両面宿儺』が一体何なのかをしっかり説明したつもりだったが、さてはコイツ、速攻で絆されてやがるな。

 

「それ、本人は納得してるの?」

「してるよ。良い名前だって言ってくれたくらいだし。なぁ?」

「うん」

 

 虎杖の頬の傷が目になり、人目を気にしてか、パーカーで見えづらい首に口が現れた。

 相変わらず身体が大変なことになっているのに、本人に危機感が全くなさそうで心配になる。

 

「あーおもしろ。ナクスかぁ。お返事も「うん」だって。可愛いねぇ、ナクスちゃん!」

「可愛いだろう」

「んぶッ……! フ、フフ……かわいくて良いんだ?」

「先生、コイツ結構かわい子ぶるよ」

「別にぶっているわけではないぞ」

「やめて! 僕こんなの耐えられない! の、呪いの王! なに!? アハ、フッ、マジでこんな……面白すぎる……!」

 

 ナクスが話せば話すほど、朱紅赤が死ぬほど嫌そうな顔になっていく。

 もっとも、これと人格が混ざるか、虎杖と同じような二重人格になる可能性があったと思えば妥当な反応だ。朱紅赤なら問答無用で人格を雁字搦めにして完封するかもしれない。俺も呪いの王に威厳がなさ過ぎて勘弁して欲しい。理想と現実の差が激しい。朱紅赤と過ごした時間が、俺たちに両面宿儺という存在をもっと高尚なものだと思わせていた。

 

「貴様、プライドというものがないのか?」

「ないが?」

「何故偉そうなんだ」

「偉いからだが?」

「二言目で矛盾するな死んで詫びろ」

「嫌だが?」

「その馬鹿の一つ覚えのような物言いはなんだ……!」

 

 煽り耐性が低くてキレがちな朱紅赤と、能天気で攻守共に煽りに強いナクス。口調は似ているのに性格が真逆過ぎる。

 もちろん虎杖への罪悪感はあるが、朱紅赤がこれと一つにならなくて済みそうで良かったと思わずにはいられない。

 

「ねぇ僕お腹イタイ、もうナクス黙って!」

「先生、アンタこそ笑ってないで仕事してください」

 

 ガルガルして今にも虎杖を殴りそうな朱紅赤を引き剥がして朱紅赤と二人の間に入り、五条先生の背中を押して先を促した。

 だが、なんとかして集合場所まで辿り着いてみれば、今度は高専の制服を着た女がスカウトマンを脅迫している。余りにも前途多難。どいつもこいつも普通に生きられねぇのか。

 

「俺たち今からアレに話しかけんの? ちょっと恥ずかしいなぁ……」

「鏡を見てから言え阿呆が」

「おーい、こっちこっち~」

 

 恥ずかしいと言う虎杖本人も、任務でもないのに目隠しをしたまま平然と街中を出歩く五条先生も相当に恥ずかしい。

 思わず朱紅赤と顔を見合わせて一歩下がる。外見に関しての感性はなんだかんだ朱紅赤の方がまともだ。かつての常識勉強会にファッションの項目がなかったことがこうも差をつけるとは思ってもみなかった。

 

 荷物の多い四人目のために駅付近のコインロッカーに向かい、そこでリュックと紙袋を片付ける。

 

「そんじゃ、改めて自己紹介しよっか」

「釘崎野薔薇、喜べ男子、紅一点よ。って、言ってやろうと思ってたけど、女子いるじゃない」

「まあ、不本意ながらな……」

 

 朱紅赤の顔が少し引きつった。

 大人しく学校へ通っていることを突かれる度に嫌でも思い出すんだろう。

 いつぞやに出張任務から帰ってくる五条先生が果たしてお土産を持ってくるかを縛り付きで賭けにした結果、ゴミ捨て場から拾ったとかいう実写デビルマンのDVDを『オミヤゲ』と宣言して手渡されて学校に行くことになった、あの大事故を。

 正直あれは時間が経つほど笑い話になっていくが、言えば三日は不貞腐れるので黙っておく。

 

「俺、虎杖悠仁。仙台から」

「伏黒恵」

「朱紅赤だ。『(しゅ)』に『(くれない)』に『(あか)』と書く。上の名はない。入学前に聞いているだろうが、両面宿儺の器だ」

「ちょっと待って、両面宿儺の器って女の子だったの?」

「女では何か不都合でもあるのか?」

「全然。むしろ良いわ、アンタ相当『強い』わね。仲良くなれそう」

「ほう、オマエ見る目があるな」

 

 今、二人の中で『強い』の意味が綺麗にすれ違ったな。

 釘崎が言ったのは絶対『強い女』の意味だ。まあ、朱紅赤が友好的にやってくれそうだからこれも黙っとくのが正解だな。

 

「でも、じゃあ虎杖はどこの誰なの? 聞いてた話じゃ器はどっかの怪しい施設から保護されたっていうけど、仙台……? 明らかに血のつながりあるでしょ」

「悠仁は偶然見つかった天然物の器。たしかに髪色とか、僕もかなり思うところあるけど、詳しいことはまだ調査中」

「はぁ? 見つかったって、どういうことよ」

「あ~~、実は、ちょっと状況的に追い詰められてて、指、俺が食べちゃって……」

「食べたぁ!? 指、特級呪物を!?」

 

 釘崎から虎杖に対する態度が興味から拒絶にひっくり返る瞬間が見て分かった。

 確かに、虎杖の行いは危険性を理解していない状態だったからこそ、そんな良く分からんものを食うなと言える。会う人会う人全員に突かれるのは大変だろうが、それだけのことをした自覚を持って欲しい。なにせ『ナクス』があのザマだから、とにかく緊張感が足りない。

 

 その後、五条先生の適当な発言を無邪気に信じた二人を連れて到着したのは廃ビル。この人、遅刻はともかく、なんでこういう意味のない嘘吐くクセ治んねぇんだか。

 二人が荒れるのも分かっていたので、やりとりを半分聞き流して釘崎と虎杖が廃ビルに入るのを見送った。

 することもないのでその辺に腰掛けて待つ。

 

「おい五条、今日の用事がこれだけなら、俺が出てくる必要があったか?」

「せっかく新入生が揃うんだから、朱紅赤も連れて行きたいのが先生心ってもんだよ。それに朱紅赤はこういう任務の関係ない外出、久しぶりでしょ」

「……はー、うざ」

 

 朱紅赤はいつものウザがらみをあしらう態度を見せたものの、五条先生の言う通りだ。

 中学は馬鹿みたいな縛りのせいというかおかげというか、アレがあったから、五条先生が朱紅赤用に買ったマンションから学校までの通学路はそれなりに自由に歩けていた。それも高専に進学してからは解消されて、今の朱紅赤には『ちょっと外へ出かける』ということができない。

 

「じゃ、僕ちょっと飲み物買ってくるから」

「おい不良教師、監督不行き届きだぞ」

「悠仁たちなら一級の朱紅赤がいるんだから一瞬僕が席外しても大丈夫だって」

「俺を見張るのがオマエの仕事だろう」

「ン~~見てる見てる、心の目で」

「六眼で見ろ」

「五条悟が良いって言ってんだから良いんだよ。五分くらいで戻るから、ちょっと待ってて」

 

 経験上、十分は戻らないと確信する。

 五条先生は時々こうして適当なことを言っていなくなるが、大抵、子供だけの時間を作ったり、朱紅赤にその辺を好きに歩かせたりするための言い訳だ。傍にいると構い過ぎて不満を買う五条先生が散々文句を言われてようやく身に着けた『その場からいなくなる』という最大の気遣いである。

 

「……朱紅赤」

「なんだ」

「アレ見てまだ、指、取り込みたいか」

「……」

 

 先生が見えなくなった後で投げやりに質問をしてみれば、朱紅赤は顎に梅干しを作って目を逸らした。

 

「両面宿儺、思ってたのと違ったな」

「もはやそういう次元じゃない」

「オマエ自分でも虎杖が来てくれて良かったって思っただろ」

「……」

「無言やめろ」

「言葉が見つからんのだ、許せ」

「正直、朱紅赤の態度だとかは両面宿儺がそうだからだと思ってた。だから、ナクスの何もかもに違和感しかねぇ」

「……そうだな、俺も生まれてすぐ自我があったのでそうだと思っていた……」

 

 朱紅赤はそう言いながら正面に向き直ったが、その視線は何を見るでもなく地面を適当に這うだけ。

 なら、朱紅赤の性格はどこから来たのか。

 昔聞いた話じゃ、両面宿儺の器を人為的につくろうという試み自体があまりに禁忌だとかなんとかで、研究施設は五条先生が文字通りに潰してしまい、今はキレイな更地になっているらしいので確かめる術はない。「流石に任務内容が性急だったと思うんだよね~」なんて言ってた記憶もあるが、これまでに命を狙われすぎて何がどの策略に紐づいていたのか把握しきれていない。

 

 ……会話が途切れてしまったので、少しだけ話題を変えてみる。

 

「虎杖のこと、殺すなよ」

「今問題なのはそこじゃなくてだな……。あるだろうが、色々と。呪いらしさだとか、風格だとかが。アレはどこでなくしてきたのだ」

「現実見ろ。元々あんな調子だったにしても、千年のうちに色々なくしたにしても、アレが現代の両面宿儺だ」

「認めん」

「朱紅赤」

「 嫌 だ 」

「駄々っ子か」

「なんなら赤子の様に駄々を捏ねてやろうか、今ここで」

「落ち着け、五条先生と同じ脅し文句はやめろ」

「……」

 

 聞き覚えのある言い回しを指摘すると、無意識だったらしく、ピタと口を閉じた後、額に手をついて深いため息を吐いた。

 実写デビルマン事件に並ぶか、それ以上にメンタルにキてるらしい。朱紅赤は存在自体が呪いに片足突っ込んでるだけあって、緊張感が台無しになるようなくだらない悪戯の被害に遭ったりすると、かなり弱る。単純にプライドが高いだけの可能性もあるが。

 これがあるから『人間』になっちまえば楽なのにといつも思う。夏油先生相手には何もかも開き直っちまえとか説教かましたらしいクセして、自分自身はいずれ呪いになるからと、人間になり切れない。俺の知ってる呪霊はゲーセンのカードを財布に入れてたりUFOキャッチャーに金を払って遊んだりしないのに、本人はまだ、人間じゃないつもりでいる。

 

「……恵」

「ん」

 

 朱紅赤は一瞬腰を浮かせて、俺の方へ距離を詰めて座り直した。

 

「俺がこの十数年で一番よく身に付けたことは『何も考えないこと』だ」

「どういう、──」

「どうなるにせよ時間があまりないのは理解しているが、……もう少しだけ先延ばしにさせろ」

 

 体を傾けて体重を預けてくる。

 あまり身長差がないから朱紅赤の頭がガッツリ肩に乗り上げて、二年前にその辺で適当に買ってやったきりのカチューシャが目についた。貰っている給料を思えばもっと良いものに買い直せるはずなのに、よくよく見れば修繕の跡まで見つけてしまった。

 

「……ああ」

 

 それきり、話しかける空気にもならなくて、お互い無言で五条先生が帰ってくるのを待った。

 

 




【実写デビルマンの馬鹿みたいな縛り】
悟「エ~~。❛ 特級呪術師、五条悟並びに夏油傑の監視下にあります両面宿儺の器、通称、朱紅赤は、△△年○月×日、出張任務より帰還予定であったワタクシ、五条悟がお土産を持ってくるか否かについて、持ってくれば大人しく学校へ通う、持ってこなければ夏油傑の呪霊操術により作られる呪塊の摂取を自らの意思で拒否可能とする。との内容で縛りを結び、結果、ワタクシ五条悟は帰還中に□□区▽丁目のゴミステーションにて発見した、『映画、実写デビルマンのDVD』を拾って帰り『オミヤゲ』と宣言して朱紅赤に手渡したため、彼女は学業のため学校へ通うこととなりました。 ❜」
朱「しねばか」
悟「ん゙っ……。だ、だから、❛ 以上のことに嘘偽りがあればワタクシ五条悟はたった今この場で命を失うものとします。❜ ……ハイ、どお? 僕無事でしょ? 満足? 細かい縛りは追々決めてくけど、これでマジだってみんな分かったね。はいヨロシク~~。朱紅赤、帰ろ」
朱「……」
悟「あ~もう、恥ずかしくて死にそうなのは分かるけどおじいちゃんたちが現実を受け入れられてない内に帰った方が良いって。ほら、担ぐけど後々セクハラとか言うなよ」



【実デビ観賞会】
悟「これ気になってたんだよね、一回くらい観てやろうと思って」
朱「しねばか」
傑「朱紅赤まだ溶けちゃってるけど」
悟「これからツマンネー映画観るんだから溶けてるくらいでいいっしょ」

 ~ 二時間後 ~

傑「二度と観ない」
朱「時空が歪んでいる……二時間しか経っていないだと……? 六時間はあったろう……?」
悟「え~? 馬鹿馬鹿しくて結構面白かったじゃん?」
硝「ハッピーバースデー、デビルマン」
悟「あははは! 僕あのデブが出てくるところが好き! そこで人襲うの悪魔じゃねーのかよ!!」
傑「はぁ……、マジで特級術師の貴重な二時間をドブに捨てたな」
硝「素面で一人だったら耐えられなかった」
悟「めっちゃ不評! でも観た人同士で一生ネタにできるし悪くないと思うけどなぁ?」
朱「伏黒恵、静かだがどうした?」
硝「途中で寝たよ」
悟「今度灰原達にも観せよっと」
傑「やめろそんなムゴいことは」
 
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